大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・261『マーマレードを作る』

2024-12-07 10:12:08 | 小説4
・261

『マーマレードを作る』 胡盛媛中尉 




 三本しか持って来なかった枝だけども、話をすると「もったいないですね」とおっしゃって、大小八個も花瓶を官邸の営繕課から借りてきて剪定したのを全部活けることになった。


「ミカンは日本と中国の懸け橋ですね」

 ミカンを活ける手を休めて殿下がおっしゃる。

「ミカンがですか?」

「はい、徐福という人をご存知ですか?」

「ジョフク……」

「こんな字を書きます」

 メモ用紙にサラサラと書いて示してくださる。

 漢明の有名人を思い浮かべるけど、ちょっと出てこない。

「あ、歴史上の人物です。秦の始皇帝に『不老不死の仙薬を探してまいれ』と命ぜられたお役人です」

「不老不死の薬ですか(^_^;)」

 そんなもの23世紀の現代にも無い、エライものを頼まれたものだ。朱准将の副官を頼まれるよりもキビシイ。

「むろん、そんな薬は無いんですけど、噂を聞いて日本までやって来ましてね。蜜柑を発見して、これが不老不死の仙薬と思ったんです」

「でも、始皇帝は死んじゃいましたね」

「そうですね、始皇帝陵は世界遺産になって三百年ですね」

「漢明の大事な歴史遺産です」

「徐福の墓は日本にあります、蜜柑発見の碑も存在します」

「そうなんですか」

「ミカンの爽やかさや、美味しさ。経験的に風邪の予防になることも知っていたでしょうねえ。蜜柑にはそれだけの魅力があります」

「ですねぇ、鈴なりのミカンをみてるだけで……ああ……ちょっと重たそうですねぇ(^_^;)」

 手当たり次第に活けたので、いくつかは重たそうに枝をしなわせてる。

「そうだ、マーマレードにしましょう!」


 というわけで、官邸の厨房を借りてマーマレードを作ることになった。


 林(りん)さんも他の摘果したミカンをいっぱい持ってきて調理に加わった。

「ジャムは知っていましたが、こいつは知りませんでした」

 大小三つの鍋の火加減を見ながら林さん。

「すみませんねえ、鍋をお任せして」

 わたしは殿下と二人で、ミカンの筋を取っていく。お鍋三つを動員しても一回ではすまないみたい。

「いいえ、船長というのはブリッジに立って、外ばかり見てるのが仕事でしたから」

「ほう、船内を見回ったり、指示を与えたりとか忙しいんじゃないんですか?」

「船長は『よし』と『待て』の二つを知ってればいいんです」

「「ほう」」

 殿下と二人、思わず聞き入ってしまう。

「船には、航海科とか機関科とかセクションがありまして。日ごろの仕事は、そこがやります。うまくいっていれば船長の出る幕はありません。報告を聞いても、たいていは『よし』です。ここいちばん判断をしなければならない時、たまに『待て』と言って指示を与えます。平穏な航海だと、一度も『待て』を言わない時もありますよ」

 そうか、殿下のボートが衝突した時は、とっておきの『待て』だったんだ。

「火加減拙い時は遠慮なく『待て』と言ってください」

「いいえ、林さんの火加減は『よーそろー』です」

「それは光栄です。なんせ、マーマレードを作るのは初めてでして……」

「あ、わたしも作るのは初めてですぅ」

「自分も子供の頃はジャムですよ。マーマレードというのは果肉が残っているでしょ。それが新鮮で自分でも作るようになった……」

 あ、少し記憶が戻ってこられた?

「……あ、だめですねえ……そんな気がする程度で思い出せません」

「あ、いいんですいいんです。いまは、美味しいマーマレードを作ることに専念しましょう。こんなにミカンあるんですから失敗するわけにはいきませんよ」

「そうですね、仕上がったら、いちばんに大統領閣下にお持ちしなければですからね」

「そうですね、がんばりましょう、ゲストさん(^▽^)」

 そう、森之宮茂仁殿下のことはご自分が思い出すまで『ゲスト』さんとお呼びすることになっている。

 わたしたちは『殿下』とお呼びするのが正しく思えるんだけどもね。ご本人の記憶が戻るまでは素性に関わる表現は避けようというのが大統領のお考えでもあるしね。

 あとは冷やすだけというところまでできて、厨房は柑橘に甘さの加わったマーマレードの香りでいっぱいになった。

 

 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 栗 尊宅(りつそんたく)        輸送船の船長  大統領府参与
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 重要事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 

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