かの世界この世界:107
ペリスコープを覗く!
二十倍の倍率なのでスコープ収まり切れないが、主砲の砲口が確認できるほどではない。
ググググ……奥歯を噛みしめて倍率をあげる。
ペリスコープの倍率では無くて、わたしの目の倍率だ。
わたしの属性は剣士だが四号の砲手をやっているうちに目の倍率をあげられるようになった。
もう少し攻撃目標の座標を正確につかみたいと思っているうちに付いたアビリティーだ。戦闘後にウィンドウを開くとMPのゲージが減っているので、剣士に似合わぬ魔法の力が付いたようなのだ。
ただ、めちゃくちゃ疲れるので、並の戦闘では使わない。
奥歯が折れるんじゃないかと思った時にピントが合った。
敵巡洋艦の二番砲塔、右砲の砲口の中で――ここを狙え!――ポチが叫んでいる。むろん声が聞こえるわけではないが、目いっぱい開けた口の形で読み取れる。
「どうする、ブリュンヒルデ?」
「テル、照準はできたか」
「1200パーセントだ」
「やめてよ……ポチが死んじゃう」
「敵の主砲は、この貨物デッキに指向しているぞ」
「テーーー!!」
脊髄反射でトリガーを引く、衝撃!
「ポチイイイイイイ!」
ロキが悲鳴を上げる。
弾着まで二秒、砲手の脳内で0.1秒刻みでカウントされる。0・18秒のところでポチが砲口を飛び出す! 砲口の直前で四号の徹甲弾とポチが交差した!
ドドドドドッガーーーーーーーーーンンンン!!!
今まさに発射されようとしていた敵の砲弾とこちらの徹甲弾が砲身の中で激突し瞬時に大爆発した!
砲身は爆竹を仕込まれたマカロニのように爆砕され、爆圧は尾栓を吹き飛ばし砲塔内に揚弾されていた主砲弾を炸裂させ、揚弾機を通じて火薬庫に駆け下り、三百発以上の主砲弾を一気に誘爆させ、隣接する一番砲塔を百メートルの高さに吹き飛ばして、艦体を前から1/3のところで断裂させた。
1/3の艦首部分は瞬時に沈没、後ろ2/3は艦首と二基の主砲が無くなっていったん艦底が海面に露出するほど持ち上がった後、右舷を下にして横倒しになった。数秒後煙突から流入した海水が二基の缶に流入、水蒸気爆発を起こさせた。
ドッゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!
シュネーヴィットヘンの乗員は息をのんだ。
今の今まで、撃沈される側と観念していたところ、逆に敵艦が大爆発を起こして沈んでいったのである。
しばらくは言葉も出なかった。
ポ、ポチ……。
ポチの名を呟いただけで、ロキは言葉も発せられなかった。
常人であるロキには、ポチが敵艦といっしょに沈んでしまったとしか思えなかったのだ。
「やれやれ、またお裁縫だな……」
爆風で着ているものを全部吹き飛ばされた姿でポチは戻ってきた。
「み、見るなあ! 寄るなあ!」
差し伸べたロキの手をパチンと叩き、通信機の上のベッドにもぐりこんでしまった。
安堵と達成感で、ロキには悪いが明るい笑い声が車内に満ちた。
めでたしめでたしではあるのだが……シュネーヴィットヘンの損傷もひどく、このままでは目的地グラズヘイムまではもたなくなってしまった……。
☆ ステータス
HP:9500 MP:90 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
持ち物:ポーション・70 マップ:7 金の針:0 所持金:500ギル(リポ払い残高25000ギル)
装備:剣士の装備レベル15(トールソード) 弓兵の装備レベル15(トールボウ)
技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
白魔法: ケイト(ケアルラ)
オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)
☆ 主な登場人物
―― かの世界 ――
テル(寺井光子) 二年生 今度の世界では小早川照姫
ケイト(小山内健人) 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
ブリュンヒルデ 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
タングリス トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
タングニョースト トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属
ロキ ヴァイゼンハオスの孤児
ポチ ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6の人形に擬態
―― この世界 ――
二宮冴子 二年生 不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
中臣美空 三年生 セミロングで『かの世部』部長
志村時美 三年生 ポニテの『かの世部』副部長