大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・144『壺装束』

2020-04-12 13:27:45 | 小説

魔法少女マヂカ・144

『壺装束』語り手:友里     「壺装束」の画像検索結果(壺装束)

 

 

 西郷さんがツンを置いて行ってから風景が落ち着いた。

 

 落ち着いたと言っても安心はできない。

 歩いている周囲は郊外の道をハイキングしているように穏やかで、木々や草叢が化け物みたいに大きくなることはない。でも、その目に入る景色の向こうはデタラメだ。

 ムクムクと山が生えたかと思うと、プシュっと音を立ててしぼんでしまったり、プテラノドンとゼロ戦が空中戦をやっていたり、季節外れの霰(あられ)が降っていると思ったら、地上に着く寸前に自動車に変わって、ビュンビュン走り回ったりしている。

 お城の櫓が幾つも津波に流されているように前から後ろに動いて行って、その向こうからは天守閣が、櫓たちを追いかけて来たり、観覧車が幾つも地響きを立てて転がっていったり、ビルがニョキニョキ生えてきたり、とにかく脈絡が無い。

 でも、脈絡のないのは、あたしたちの周囲の向こう側で、景色の大分類で言うと中景とか遠景に分類されるようなところなんだよ。

 わたしとマヂカには影響がないようで、西郷さんが貸してくれたツンも平気でわたしたちの露払いをしてくれている。

 

 ワン

 

 ツンが小さく吠えた。

 前の方から何かやって来る………………え!?

 思わずマヂカの後ろにしがみ付いてしまった。

 それは、和服姿の女の人。でも、その女の人には首が無いんだよ(;゚Д゚)!

「あれは、壺装束の女性だ」

「つぼ?」

「よく見ろ、打掛を頭からかぶって胴の所で締めてある。ああやって虫やら埃から髪と顔を保護している。平安時代くらいの貴族女性の旅装束だ」

「あ、そか……」

 壺装束は、わたしたちには気づかないのか、すぐ脇を杖を突きながら通り過ぎて行った。

 ほんとうに害はないんだろう、ツンも前を向いたまま、わたし達が歩き出すのを待っている。

「行くよ」

 わたしが落ち着くのを待って、マヂカは声をかけてくれた。

 

 ちょっと、動揺したせいか、遠くの景色が水に浮いた油のようにギラギラ歪みだした。

 

「気分が悪くなるようなら見ないことだ、じきに落ち着くから」

「う、うん」

 ツンが寄り添ってくれる。目が合うと、つぶらな瞳で『だいじょうぶだよ』と無言で言ってくれる。

「ん……何か来る」

 マヂカが身振りで『後ろに回れ』と言う。ツンが前に向かう。

「ツン、平気にしてろ。事を荒立てたくない」

 

 今度は、神主みたいな装束のおっさんがキョロキョロしながらやってくる。男のくせに化粧なんかしていて、ちょっと危ない感じ。

「卒爾(そつじ)ながらお訊ね申す」

 訊ねた口の中は真っ黒だ。歯が無い? いや、黒く染めてるんだ……あ、お歯黒ってやつか。

「なんだ、ひどく焦っているようだが」

「この道を壺装束の女が通りませなんだか?」

「いいや、見てはいないが、これから出会うやも知れん。よければ事情をお教え願えないか」

「これは御親切に。じつは、麿は、このあたりの里に住まいいたします雛人形でおじゃるが」

「あ、お内裏さん」

「さよう、内裏雛でおじゃるが、寄る年波でおじゃろうか、この里にまかり越してより『お前さまは代理であろう、わらわの主は、代理などではない。真の主を探しまするゆえ、けして追ってなどこられませぬよう!』と、申して出奔したのでおじゃりますよ」

「それは難儀なことだな。よし、見かけたら、この犬を駆けさせて知らせよう」

「それは、ご親切に。それでは、麿は、この先を探しまする」

 そう言うと、内裏雛はわたしたちが来た道を急ぎ足でたどり始めた。

「あいつ、わたしが言ったことを信じていない」

「え、どうして?」

「この道は一本道だ。見ていないということを信じるなら、戻って別の道を探すだろ」

「さっすがあ、マヂカかしこい!」

「ツン、行け!」

 ワン!

「え、なんで、ツンを?」

 ツンは、猟犬らしく走っていく。

 しばらくすると、道の向こう、少し曲がっ草叢の隠れたあたりから内裏雛の首が吹き飛ぶのが見えた。

「えーーーーー!?」

「カタが付いたようだな」

「でも、どうして……」

「あいつは、よその女雛をさらってきて自分のにしたんだ」

「どうして分かったの?」

「衣装の紋が違う。それに内裏と代理、オヤジギャグだろうが。ま、一種の妖だ」

 

 しばらく進むと、ツンに先導されて女子高生が駆けてきた。

 

 ある男に監禁されていて、お雛さんにされていたということだった。マヂカがひそかでクロ巫女に連絡すると、ほんの僅かに綻びが出来て、女子高生は何度も頭を下げて綻びの出口から帰って行った。


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