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アノコの仕事はかぐや姫だった。
……では分かりにくい。
この宇宙には、二つの連合組織がある。
分かり易く、片方を銀河連邦。もう一方を銀河帝国と言っておく……念のため、これはアノコの説明のまんま。
アノコもかぐや姫も銀河連邦から派遣された、特殊部隊員なのだ……そうだ。
地球のように遅れた星は、時々コントロールというか、修正を加えてやらないととんでもない方向に進んでしまう。その修正にやってきたのが伝説のかぐや姫なのだ……そうだ。
かぐや姫は、当時の世界の指導者の頭脳に刺激と修正を加え、地球の文明が、あるべき方向に進むようにした。しかし、彼女は、ボクのような協力者が居なかったために、任務半ばで帰還しなければならなくなった。それが美しくファンタジーな童話に昇華され『かぐや姫』の伝説になった。
かぐやが失敗したあと、帝国軍がやってきて、草原の一部族長に力と才能を与えてコントロールした。
それが、あのモンゴル世界帝国だったのだ。
しかし、その帝国軍も恒常的に地球のような辺境の星にかまっていられなくなって、モンゴル世界帝国はチンギスハーン一代で終わってしまった。
その後一千年あまりは、地球は人類の性癖に従って進歩してきた。
しかし、その人類に銀河帝国が干渉しはじめた。21世紀になったというのに、19世紀のような動きをする国が現れてきたのだ。
他国の領土を侵略したり、国内の少数民族を壊滅させたり、借金のカタに港湾や水資源を奪ったり、軍隊で縅を掛けたり……
そこで、アノコが千年ぶりに地球に派遣された。
つまり、アノコの義体は前任者のかぐや姫のもの……。
国家主席の頭脳に二度目の刺激を加えにいったとき、国家主席は帝国軍のアンドロイドに入れ替わっていた。そのために、アノコは義体ごと重傷を負って、で……いろいろあって、今に至っている。
今というのは、あれから10年後である。
分裂する国は分裂し、崩壊する国は崩壊した。どうやら帝国軍の干渉は排除できたようである。
「もう、当分出動する必要はないみたい……」
何千回目かのメンテナンスを終えてアノコが言った。
アノコは、まだ17歳の女の子のままで、今はフェリペ学園に通っている。ボクもあいかわらず17歳のまま。さすがに元の生活は続けられず、二人は兄妹ということにして、アノコの両親をやっていたアンドロイドをそのまま親にして、日本全国を渡り歩いている。
「…………どういう……こと?」
あいかわらず、ボクの反応は遅い。
「義体と本来のあたしが完全に癒着してしまって、あたしは、もう元の姿には戻れない。で、もうほとんど地球人と同じになってしまった。で、任務を解かれたの」
「それって……」
気が付くと、両親のアンドロイドも居なくなっていた。
「いくつまで生きるか分からないけど、お互い当分は歳もとらなきゃ、死にもしないわ。お互い17歳の外見だから、ごまかせば二十代前半ぐらいには通るでしょ。それでもいい?」
「あ、うん、いいよ」
「……辛くなったら『コードβ』って、呟いて。明は、それで解除されるから」
「……今、ひっかけようとしただろう?」
「……明なら、ボンヤリしてるから『コードβってなに?』って聞き直すと思ったんだけど、ひっかからなかったわね」
「一生、その言葉は使わないよ」
「歳もとらないで死ねないのは辛いわよ」
「いいよ、ボクは。さ、それよりメンテナンスしよう」
「まだ三日も早いわよ」
「たまには、目的外のメンテナンスもしようよ」
「……そうね」
アノコが横になって手を伸ばしてきた……。
もし、あなたの隣に若すぎる夫婦が引っ越してきたら、どうぞよろしくお付き合いください。