真凡プレジデント・86
お姉ちゃんと間違われて誘拐された。
顔以外の背格好が似ているわたしが、お姉ちゃんの服を拝借して出かけたんだから間違えられても仕方ない。
仕方ないというのは、間違えられたことで、誘拐が仕方がないということじゃない。
お姉ちゃんが狙われてるって知ってたら、お姉ちゃんの服を拝借したりしないよ、まったく。
犯人は、お姉ちゃんに恨みがあるテレビ局の関係者。もう掴まったり死んじゃったりしたけどね。
幸運にもあくる日には発見されて、念のため一日だけ入院。
異常なしで、あくる朝には退院した。
「でも、しばらくは通院してね」
異常なしなのに、ドクターが条件を付けたのは、病気とか命に関わるようなものではないけど、常識では考えられない変化があったからだ。
なんせ、戻ってきたら、体重が13キロしかなかったのだ。
「ごめん、まだ警報も出てないけど休むね」
沖縄南方の海上で進路を変えた台風が、速度を上げてきて、今夜にも影響が出そうなんだ。
――うん、わかった。飛ばされないように柱にでも括りつけとくのよ――
なつきに電話すると、真面目に言われた。
一つ前の先月の台風で、表に出た女の人の腕からペットの犬が風で吹き飛ばされる動画を観た。
犬は、あっという間に舞い上げられ、飼い主さんたちの悲鳴がした。一か月近くたった今でも犬は行方不明のままだ。
13キロの体重じゃ、ほんとうに吹き飛ばされかねない。
だから、台風の当たり年みたいな、この秋。警報が出るまえに学校を休むようになった。
いいことって言うか、面白いこともある。
体育でバレーボールをやると、ブロックの名人になった。
軽い分だけ高く、それも素早くジャンプができるので、相手チームのボールを易々とブロックできるのだ。
ただ、踏ん張りどころを、きちんと意識していないと、簡単にぶっ飛ばされてしまう。
二三度、派手にひっくり返ったけど、隣や後衛の人がキャッチしてくれて事なきを得た。
フライング真凡!
そんなタッグネームを頂いたころ、体重が戻り始めた。
今朝、朝シャンのあとに計ったら、五十パーセントまで戻ってきた。
ゆうべ、秀吉さんの侍女になった夢をみた。妹のあさひさんの婚礼から始まって、後に家康さんの後添えになる為に離縁されるところまで……ご亭主の茂吉さん、一言も文句も言わないで疾走してしまった。
茂吉さんの顔、思い出せない……思っているうちに目が覚めたんだ。
わたしに限ったことではないけど、ティーンの女の子というのは見かけよりは重たい。
だから、ティーンの体重と言うのは、ほとんど国家機密(^_^;)
その五十パーセントなんだから、本人的には大いに満足!
この分なら、来週には八十パーセントくらいには戻るだろう。
満足すると、なにか人の為になることをやってみたくなる。あまりグダグダしていたらリバウンドするかもしれないしね。
調子に乗ったわたしは、生徒会役員のみんなといっしょに○○県水害被害地のボランティアに行くことにしました!
次回からは、そのお話をしたいと思います。
☆ 主な登場人物
- 田中 真凡 ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
- 田中 美樹 真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、いまは家でゴロゴロ
- 橘 なつき 中学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
- 藤田先生 定年間近の生徒会顧問
- 中谷先生 若い生徒会顧問
- 柳沢 琢磨 天才・秀才・イケメン・スポーツ万能・ちょっとサイコパス
- 北白川綾乃 真凡のクラスメート、とびきりの美人、なぜか琢磨とは犬猿の仲
- 福島 みずき 真凡とならんで立候補で当選した副会長
- 伊達 利宗 二の丸高校の生徒会長
- ビッチェ 赤い少女
- コウブン スクープされて使われなかった大正と平成の間の年号