「……さん」
わたしたちには語尾しか聞こえなかったけど、マリ先生には全部聞こえたようだ。
「だれ……関根さんて?」
「あ……それは」
マリ先生に聞かれてとぼけるのはむつかしい。潤香先輩も例外じゃない。
「……姉の元カレです。夢の中に出てきた人が……顔は見えないけど、そんな感じだったんです。わたしにも実の妹のように接してくださって……姉には内緒にしておいてください。姉には、大きなトラウマなんです」
「分かったわ……そういうことだったんだ」
「え……」
潤香先輩をシカトして、先生は命じた。
「いまのことは口外無用。潤香も含めて……いいわね」
「はい……」
四人が声をそろえて返事をした。
稽古は暗礁に乗り上げていた。
わたしたちには語尾しか聞こえなかったけど、マリ先生には全部聞こえたようだ。
「だれ……関根さんて?」
「あ……それは」
マリ先生に聞かれてとぼけるのはむつかしい。潤香先輩も例外じゃない。
「……姉の元カレです。夢の中に出てきた人が……顔は見えないけど、そんな感じだったんです。わたしにも実の妹のように接してくださって……姉には内緒にしておいてください。姉には、大きなトラウマなんです」
「分かったわ……そういうことだったんだ」
「え……」
潤香先輩をシカトして、先生は命じた。
「いまのことは口外無用。潤香も含めて……いいわね」
「はい……」
四人が声をそろえて返事をした。
稽古は暗礁に乗り上げていた。
最初の口上もそうだけど、歌舞伎や狂言的な表現には苦労ばっか。
無対象の演技も、縄跳びなんかのレベルじゃない。見えないちゃぶ台に見えない食器、それも見えないお盆に載せて運ばなきゃならない。
バケツに水を入れるのも一苦労。空と水が入ってるんじゃ重さが違う。
ちゃぶ台を拭くのも、また一苦労。雑巾を水平に拭くのってムズイ!
お茶を飲んだら、里沙と夏鈴はともかく乃木坂さんにまで笑われちゃった。
――それじゃ、お茶を被っちゃうよ。
「だって、ムツカシイんだもん!」
「まどか、誰に言ってんのよ?」
「え、あ……自分に言ってんの。自分に」
「ヒスおこしたって、前に進まないよ」
そりゃあ、幽霊役の夏鈴はお気楽でいい。壁でもなんでも素通りだし、幽霊のノブちゃんだけ無対象の演技が無いんだから。
無対象の演技も、縄跳びなんかのレベルじゃない。見えないちゃぶ台に見えない食器、それも見えないお盆に載せて運ばなきゃならない。
バケツに水を入れるのも一苦労。空と水が入ってるんじゃ重さが違う。
ちゃぶ台を拭くのも、また一苦労。雑巾を水平に拭くのってムズイ!
お茶を飲んだら、里沙と夏鈴はともかく乃木坂さんにまで笑われちゃった。
――それじゃ、お茶を被っちゃうよ。
「だって、ムツカシイんだもん!」
「まどか、誰に言ってんのよ?」
「え、あ……自分に言ってんの。自分に」
「ヒスおこしたって、前に進まないよ」
そりゃあ、幽霊役の夏鈴はお気楽でいい。壁でもなんでも素通りだし、幽霊のノブちゃんだけ無対象の演技が無いんだから。
で、稽古場の奥じゃ本物の幽霊さんがお腹抱えて笑ってるしい~(プンプン!)
乃木坂さんは、ときどき上手に見本を見せてくれる。無対象でお茶を飲んだり、お婆さんの歩き方を見せてくれたり。
でも稽古中にそっちを見ていると、こうなっちゃう。
「モーーー、どこ見てんのよ!?」
「いや、その……考えてんのよ。で、遠くを見てるような顔になんの!」
乃木坂さんは、メモも残してくれる。
乃木坂さんは、ときどき上手に見本を見せてくれる。無対象でお茶を飲んだり、お婆さんの歩き方を見せてくれたり。
でも稽古中にそっちを見ていると、こうなっちゃう。
「モーーー、どこ見てんのよ!?」
「いや、その……考えてんのよ。で、遠くを見てるような顔になんの!」
乃木坂さんは、メモも残してくれる。
ありがたいんだけど、古いのよね……「体」は「體」だし「すること」は「す可」だし、まるで古文。むろん理沙や夏鈴に見せるわけにはいかないし。
はるかちゃんにも聞いてみた。説明はしてくれるんだけど、やっぱ、チャットじゃ限界。
いっそ、乃木坂さんが理沙や夏鈴にも見えたらなって思ってしまう。
はるかちゃんにも聞いてみた。説明はしてくれるんだけど、やっぱ、チャットじゃ限界。
いっそ、乃木坂さんが理沙や夏鈴にも見えたらなって思ってしまう。