大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・193『霧子の横・5・こいつは神か運営か』

2021-01-23 08:53:00 | 小説

魔法少女マヂカ・193

『霧子の横・5・こいつは神か運営か』語り手:マヂカ  

 

 

 

 今次の震災を境に世の中は大きく変わっていくんだ。

 
 新畑は、遠くを見るような目をして切り出した。

「僕は、大正と言う時代の修繕をやっているんだ、君たちの時代の言い回しだとメンテナンスとかアップグレードとかいう仕事だよ」

「新畑さんは、神なのか?」

 長年魔法少女をやっていると、ときどき神のような者に出くわす。

 しかしメンテナンスとかアップグレードとか言い出したのは、こいつが初めてだ。

 ニ十一世紀に生きる者には受け入れやすい言葉で入って来る。ちょっと要注意なのだが、取りあえずは調子を合わせておこう。

 曖昧なアルカイックスマイルを浮かべてやると、ちょっと照れたように頭を掻いたぞ。

「……運営というのがしっくりくるかなあ」

「ゲームか投稿サイトみたいだね」

「かもしれない。時々バグが出るしね。僕は、そのバグのようなものを発見し修正することが仕事なんだ。言わばデバックだね」

「いよいよゲームだな」

「霧子くんは華族のお嬢様だが、物事を公正に見る力がある。見るだけじゃなく、公正でないと分かったら修正しようとする勇気と力が」

「デバックの才能か?」

「ああ、その類の力だよ。だから、礼法室の上に望楼を作って、あちこち見て回れるようにしたんだ。霧子君は、勘がいいしバグを正す意欲も高い。将来は優秀なスクリプターになれるだろう」

「ゲームなら、柱になる仕事だな」

「だが、鋭すぎるところがあって、ここのところは控えていた」

「屋敷に閉じこもっていたことか」

「そうだ、礼法室の望楼も閉めていたからね。それが、今次の震災だ。あちこちでバグが頻出する。僕の手には余る。まして、女学生の霧子くんにはね……」

「そうか……霧子を助けてやれということだな」

「さすが魔法少女、理解が早い」

「待ってくれ、合点(がてん)したわけじゃない。新畑さん、あんたは何をする?」

「バグは日本の中だけには留まらない、僕は、世界中のバグを始末する」

「ほう……いよいよ大文字のGODだな」

 踏み込んで茶化したんだが、臆することなく身を乗り出してきた。

「いかにも。しかし、この混沌のままでいいと言う者も居てね。そいつらは、僕たち運営を矮小化しようとしている。僕は、寸でのところで探偵小説の中に閉じ込められるところだった」

「新畑さん、あんたの目、ちょっと危ないぞ」

「あ……ごめん。だからこそ、魔法少女。ちょいとね、君たちの手を借りたいんだ」

「ちょいと? 気楽な物言いをするんだな」

「Take it easyというやつさ。急いては事を仕損じる……いや、急いては事を子孫に及ぼす」

「なんだと?」

「ハハ、単なる語呂合わせさ。おや、どうやら決まったようだ」

 窓から、道路の向かいを見ると、霧子が『赤い鳥』をキープしながら、他の雑誌の品定めをしているところだ。

 手を振ってやると、ちょっと鼻にしわを寄せて手を振り返してきた。

 よしっと口の形で言うと、五冊ほどの雑誌を書店の主人にまとめてもらい、意気揚々と道路をまたいだ。

 
 ゴトリ


 冷やしコーヒーの氷が溶けて、大きな音を立てる。

 令和の時代と違って、氷はカチワリのを使っていて、氷山のひな形のような姿をしている。

 それがでんぐり返ったので音が大きい。

 で……顔をあげると、もう新畑の姿は無かった。

「あらあ?」

 階段を上がってきた霧子が、つまらなさそうに声をあげる。

「忙しい人なんだから……」

 つまらなさそうに口をとがらせると「お願いします」と、霧子は帳場(レジ)に雑誌を預け、二人で学習院に戻る。

 帰り道は震災が起こる数日前になっているようで、阿鼻叫喚を目にすることも無かった。

 

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男

 

 

 


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