大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・61『杉野君の視線の先……』

2021-01-27 15:06:10 | ライトノベルセレクト

物語・61

『杉野君の視線の先……』    

 

 

 小出先生に書庫の整理を頼まれた。

 

 べつに図書の当番じゃなかったんだけど、廊下を歩いていたら、小出先生が事務室から出てくるところで、出てきたところから目が合ってしまって、逸らすことも逃げることもできずに、とうとう目の前まで来ちゃったので、ペコリお化けみたく頭を下げて行こうとしたのよ。

「あ、小泉さん」

 すれ違って油断したところに声をかけられてしまった。

「今日の放課後なんだけど、急用で二時間ほど学校出なきゃならないの……」

 そういう切り出し方で頼まれてしまった。

 蔵書点検というのが学年末にあるんだけど、その準備作業みたいなこと。

 図書当番じゃないので、直接司書室から書庫に向かう。

 あ、見えるんだ。

 書庫と司書室の間にはドアとガラス窓があって、司書室出たところの閲覧室のカウンターとかが見えるのを発見。

 書庫は暗いので、照明の明るい閲覧室からは書庫の様子はうかがえない。今日は暗い側の書庫にいるので、閲覧室がよく見えるのだ。

 コンコン

「え?」

「ええ、なにやってんの?」

 当番でやってきた小桜さんが、なぜか書庫のわたしに気付いてガラス窓を叩いた。

「ええ、そっちから見えるの?」

「いま、そっちで電気点けたでしょ」

「あ、ああ」

 作業のために電気を点けたので、閲覧室からでも見えるようになったんだ。

「入っていい?」

「あ……うん」

 カウンターに杉野君が座っているので、まあ、いいかと入ってもらう。

 バタン

「あ、ちょ……」

「シーー!」

 書庫に入って来ると、わたしの肩を押えて、窓枠の下までしゃがませた。

「杉野の奴、変なのよ」

「え、変?」

「だれも居ないとこを見て、顔赤くして、溜息ついたりして。ちょっと気持ち悪いから、こっち来たの」

「え?」

「だめ、見ちゃ。キモイのが伝染る!」

「見なきゃ、分からないよ」

「でも、ほんとにキモイんだから(^_^;)」

「じゃ、こうして……」

 壁掛けの鏡を外して閲覧室の様子を映してみる。

 鏡には杉野君の背中が映っている。

「なにか見てる……」

 杉野君はドアからすぐのカウンターに座っているので、上半身全部が見えるけど、彼の視線の先は、司書室と閲覧室を遮る窓枠が邪魔で視界に入ってこない。

「見えない……」

 小桜さんは、鏡を持ったまま姿勢を高くして、鏡の向きを変えてみるが、やっぱり見えない様子だ。

「やっぱ、あいつおかしいよ」

「わたしも、やってみる……」

 しゃがんだまま鏡を受け取って、ちょっと苦労して、視線の先らしい閲覧室の奥を映してみる。

「女子がいる……」

 うちの制服着た女子が、本を数冊積んで熱心に読んでいる。

 視線を落としているので顔まではよく分からない。

 待つこと数十秒……ちょっと手がしびれてきたころ、念が届いたのか、その女子が顔をあげる。

 ちょっと斜め前の角度だけども、はっきりと見えた。

 え!?

 それは…………わたしだった。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石

 

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