やくもあやかし物語・61
小出先生に書庫の整理を頼まれた。
べつに図書の当番じゃなかったんだけど、廊下を歩いていたら、小出先生が事務室から出てくるところで、出てきたところから目が合ってしまって、逸らすことも逃げることもできずに、とうとう目の前まで来ちゃったので、ペコリお化けみたく頭を下げて行こうとしたのよ。
「あ、小泉さん」
すれ違って油断したところに声をかけられてしまった。
「今日の放課後なんだけど、急用で二時間ほど学校出なきゃならないの……」
そういう切り出し方で頼まれてしまった。
蔵書点検というのが学年末にあるんだけど、その準備作業みたいなこと。
図書当番じゃないので、直接司書室から書庫に向かう。
あ、見えるんだ。
書庫と司書室の間にはドアとガラス窓があって、司書室出たところの閲覧室のカウンターとかが見えるのを発見。
書庫は暗いので、照明の明るい閲覧室からは書庫の様子はうかがえない。今日は暗い側の書庫にいるので、閲覧室がよく見えるのだ。
コンコン
「え?」
「ええ、なにやってんの?」
当番でやってきた小桜さんが、なぜか書庫のわたしに気付いてガラス窓を叩いた。
「ええ、そっちから見えるの?」
「いま、そっちで電気点けたでしょ」
「あ、ああ」
作業のために電気を点けたので、閲覧室からでも見えるようになったんだ。
「入っていい?」
「あ……うん」
カウンターに杉野君が座っているので、まあ、いいかと入ってもらう。
バタン
「あ、ちょ……」
「シーー!」
書庫に入って来ると、わたしの肩を押えて、窓枠の下までしゃがませた。
「杉野の奴、変なのよ」
「え、変?」
「だれも居ないとこを見て、顔赤くして、溜息ついたりして。ちょっと気持ち悪いから、こっち来たの」
「え?」
「だめ、見ちゃ。キモイのが伝染る!」
「見なきゃ、分からないよ」
「でも、ほんとにキモイんだから(^_^;)」
「じゃ、こうして……」
壁掛けの鏡を外して閲覧室の様子を映してみる。
鏡には杉野君の背中が映っている。
「なにか見てる……」
杉野君はドアからすぐのカウンターに座っているので、上半身全部が見えるけど、彼の視線の先は、司書室と閲覧室を遮る窓枠が邪魔で視界に入ってこない。
「見えない……」
小桜さんは、鏡を持ったまま姿勢を高くして、鏡の向きを変えてみるが、やっぱり見えない様子だ。
「やっぱ、あいつおかしいよ」
「わたしも、やってみる……」
しゃがんだまま鏡を受け取って、ちょっと苦労して、視線の先らしい閲覧室の奥を映してみる。
「女子がいる……」
うちの制服着た女子が、本を数冊積んで熱心に読んでいる。
視線を落としているので顔まではよく分からない。
待つこと数十秒……ちょっと手がしびれてきたころ、念が届いたのか、その女子が顔をあげる。
ちょっと斜め前の角度だけども、はっきりと見えた。
え!?
それは…………わたしだった。
☆ 主な登場人物
- やくも 一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生
- お母さん やくもとは血の繋がりは無い 陽子
- お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
- お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
- 小出先生 図書部の先生
- 杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
- 小桜さん 図書委員仲間
- あやかしたち 交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石