かざみ 時と風の少女・1
『たった一人の生存者』
それは五十年ぶりの航空機事故だった。
二十一世紀も後半になると、飛行機、特に民間機は墜ちなくなった。
飛行機そのものの性能が良くなっただけではなく、航空路の真下に張り巡らされた重力トラクターによって、たとえエンジンが停止しても最寄りの空港や緊急指定避難地に着地させられるようになっている。空中分解でもしないかぎり飛行機は遭難しない。
それが、今回の羽田発福岡行の151便は、五十年ぶりの例外になった。
「……生命反応ガアリマセン」
アナライザーのスキャニングはトドメにすぎなかった。眼下の151便は、もう飛行機の形をしておらず、救助隊の隊員たちは一見しただけで救助の選択肢を外していた。
「アナライザー、降下地点の候補を出してくれ。装備はバージョンAのまま」
「了解シマシタ」
「隊長、バージョンAでは事故現場をかき回してしまいます。生命反応がないんですから、現状保存を第一に……」
「生存者がいるかいないかは、自分たちの目で確かめる。機械の判断は、あくまでもサポート、全能ではない」
「だからこそ、原因究明のために。全能ではない機械にトラブルがあったんですから」
「生存者の可能性がゼロでない限り最善を尽くすんだ」
「降下地点ノ候補を出シマス」
アナライザーは、モニターに五つの候補地を出した。
「1・2・5の地点に降下する。ブラボー2と3にリンク、降下準備……どうした、アナライザー」
「アナライジングノ結果トハ違ウ命令デス。隊長ノ認証ト命令ノ確認ヲ願イマス」
モニターが認証モードになった。
「東部方面救難大隊長、時任祐之(ときとうすけゆき)中佐、救難命令をママとし、バージョンAで第一級救難体制に入る。2095年9月1日0933時」
「0934時デス」
「もとい、0934時」
「認証シマシタ、降下体制ニ入リマス」
三機のアホウドリ(大型垂直離着陸機)は151便を囲むようにホバリング、150名の救難隊員が一斉に降下した。
「生存者発見を最優先にしろ!」
150名の隊員はニ隊に分かれ、半分は機外に、残り半分は大破した機体にとりつき、一斉に捜索を開始した。
「これは……」
機外組も機内組も同じ声をあげた。C151便に乗っていた人間の大半は人であったものの断片に成り果てており、修羅場に慣れた隊員たちでも一瞬のけぞるほどのものであった。
「捜せ! 三百人も乗っているんだ! たとえ一人でも生存者がいれば救助するんだ!」
機内組は機体の前後に分かれて捜索をしていた。機体の後部は原形を保っており、シートの乗客たちは眠っているように見える者もいたが、サーモセンサーに写る限り体温が無かった。
「隊長、生存者は見当たりません……」
「よく探せ、このシートの三人は33度の体温がある、我々が上空に着いたころはまだ生きていたんだ」
やがて前後に分かれていた畿内捜索組は機体中央部であったところで合流し、互いに生存者の発見にいたらなかったことを確認した。
「前方組は後方へ、後方組は前方へ、捜索を継続!」
時任隊長は後方組を引き連れて前方に移動した。これまでに二時間半を費やし、隊員たちの疲労も目立ち始めた。
「隊長、赤ん坊が生きています!」
前方組のしんがりが、赤ん坊と共に声をあげた。
「怪我は!?」
「いまスキャンしています……異常ありません! 泣き声通りです!」
「赤ん坊の周囲を探せ! 親も生きている可能性が高い!」
――隊長、隊員全員ノ捜索情報ヲマトメマシタ。333人、登録サレタ乗員乗客数ト合イマシタ――
アナライザーの声がヘッドセットに響いた。
「生存者は、この子だけか……どうした、アナライザー?」
――赤ン坊ト犠牲者ノDNAヲ照合シテイマス……――
「亡くなっていてもいい、親を探してやってくれ……」
隊員たちも、ヘッドセットをアナライザーのチャンネルに合わせた。
――隊長、四親等マデ照合、血縁ニアルモノハオリマセン――
「そんな……じゃ、この子は血縁者以外の者が同乗者なのか?」
――分カリマセン。タダ、ソノ子ノ生体反応ハ、発見ノ直前ニ初メテ感知シマシタ――
「発見直前に?」
――解析デキマセン――
151便の遭難場所、G県O山は暮れなずもうとしていた……。
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