大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・36「姫騎士ブスの危機一髪!」

2018-02-14 16:45:47 | ノベル

イスカ 真説邪気眼電波伝・36

『姫騎士ブスの危機一髪!』

 

 

 ウギャーーーーーーーーーーーーーーーーー!!

 

 赤ん坊みたいな悲鳴をデクレッシェンドさせながら、ブスは崖から落ちた。

 落ちる瞬間――なんで助けないのよおおおお!――という目をしたが放っておく。

 だって、ブスを崖っぷちに追い詰めたピーボスはオレに狙いを定めたからだ。

 カッカッカと前足で地面を掻くと、日ごろは可愛いと言っていいまん丸の目を三角にし、ブヒヒイイイ! と跳びかかって来た。

 セイ!

 瞬時にコマンドバーBを選択、右手のソードを振り上げるとともに跳躍し、突進してくるピーボスを躱すと同時に急所の首の付け根に突き立てる!

 プギーーーー!

 一声鳴くと、首にソードが付き立ったままピーボスは薮の中に消えて行った。

「お、オレのソード!」

 ジャンピングアタックはクリティカルになればピーボスレベルならば一撃で倒せる。しかし『幻想神殿』をやり始めた、ほんの一週間ほどしか狩をやったことがないオレは、むざむざとソードを持っていかれてしまった。

 手負いのピーボスなので、すぐに追いかければHPが尽き果てたところを発見できるのだが、崖下に落ちたブスを放っておくわけにもいかない。実際、こう逡巡している瞬間にも崖下から消え入りそうなブスのうめき声が聞こえている。

 し、仕方ねえなあ……!

 持っていきようのないいら立ちを、ガシっと地面をけることで紛らわせ、腹這いになって崖下を覗いた。

 え……?

 四階建ての校舎の高さほどはあろうかと思った崖は五十センチほどしかなかった。

 でもって、腹ばいで突き出したオレの顔とひっくり返っているブスの顔が三十センチちょっとの近さで重なった。

 涙目になってむくれているブスを、不覚にも可愛いと思ってしまった。い、いかんいかん。

「ちょっと、早く助けなさいよ!」

「これくらい、自分で起きられるだろ」

「お、乙女のピンチを救うのはナイトの務めでしょうが!」

「へいへい」

 手を伸ばして引き上げようとするが、ブスはフルフルと首を横に振る。

「ち、ちがうでしょ、降りてきて抱っこしなさいよ! グズ!」

 たった今「可愛い」と思った気持ちが掻き消える。しかし、事を荒立てないことをモットーにしているオレは舌打ち一つせずに下りて、ブスをお姫様ダッコにして助けてやる。そのグニャリとした手応えに――こいつ、腰を抜かしたな――と思いつつ、余計なことは言わない。

 

「ピーボアが、あんなに強いなら言ってよね!」

「あれはピーボスって言って、別のモンスター……」

「だって、あいつのお尻を発見した時に『ピーボア!』って叫んだでしょ!」

「『ピーボス!』って言ったんだ」

「うそ、ピーボアだったわよ。ピーボスだったらバトルなんかしないもん!」

「いや、ピーボスにしたってレベルはたったの3だから。スライムに毛の生えたようなもんだ、躱しながら切りかかれば三回ぐらいで倒せるから」

 かっこよく一撃で倒そうとしてソードを持っていかれたことは言わない。

「そ、そんなの知らないもん。だいいち、ザコ見つけたらチュートリアル代わりにやっておこうって言ったのはナンシーでしょ」

「そんなにヘタクソだとは思わねえよ! そのシルバーアーマーの赤マントは、どこの姫騎士だってナリだもんな!」

「もう、そんなにポンポン言わなくってもいいでしょ! もう、今日は野営にするわよ」

「あ、わりい、オレ、もう落ちなきゃ、朝起きれなくなっちまう」

「ええ、もう?」

「リアルじゃ、もう午前一時だ。ネトゲのやり過ぎで休むわけにもいかねえからな」

 ほんとは、もう一時間くらいはやっていてもいい時間なんだけど、リアルでも大変な一日だった、さすがに限界……。

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高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・35「ブスのクラブサンドイッチ・2」

2018-02-13 14:50:57 | ノベル

イスカ 真説邪気眼電波伝・35

『ブスのクラブサンドイッチ・2』

 

 

 お、おいしい……かな? から始まった。

 

 一個目を食べて二個目に手を出すまでに、ブスは十回くらい感想をせがんだ。

 オレはグルメでもなきゃ、料理評論家でもない。美味しいものは美味しいとしか言いようがないんだけど、そんなもんじゃ許さない気迫があった。

「端っこまで具が入ってるぜ、グー!」「洒落てないで」「マヨネーズの酸味がいい」「ワインビネガーが入ってるの」「んなもん入れたらビチャビチャになるだろ?」「かき回して水分飛ばしてるの」「そうなんだ」「ハムの味がしっかりしてる」「それはボローニャソーセージ」「ボ、ボロ?」「豚肉を細かくひき肉にしたものに塩・コショウなどの調味料やピスタチオやパプリカなどと脂身が入っていて、柔らかくて美味しいのよ」「レタスがシャッキリ」「氷水で締めたから」「玉子焼きの味が……」「焼き加減と溶かしバターね」「パセリが……」「叩いて香りを出してるの!」「パンが……」「焼きたて!」

 

 これだけの会話をしながら食べてるオレも偉いと思うぜ。

 

「ブスは料理が好きなのか?」

「これだけのもの作って嫌いなわけないでしょ」

「サンドイッチの店が開けるぜ、これだけ美味しんだから」

「う……うん」

 ブスは少し言いよどんだ。あれ? と思ったけど聞けなかった。

 

 なぜって……とんでもないことに気づいたからだ。

 

「え……なんで味がしたんだ?」

「そりゃ食べたからじゃん」

「だって、これってゲームだぜ。食べる真似はできても味なんかするはずないだろ……?」

「フフ、味だけ?」

「……え? あ、あ? あ?」

 首を巡らせて驚いた。360度全てが見渡せて、景色もブスの姿も立体の3Dだ!

 オレは32インチのモニターを一メートルくらいの距離で使っているので、没入感はすごいけど、VRではない。

 そういや、風のそよぎも肌で感じるし、傍に寄ったブスの温もりも感じる。よくできたゲームは時々五感を錯覚させるが、あれは錯覚であって、こんなに生々しいものではない。

 オレの脳みそは混乱しながら思い出していた。

 ブスと出会ったころは普通のオンラインゲームだった。コーヒー飲みながらキーボド叩いていても、コーヒーもキーボードもディスプレイのこっち側のものだと認識していた……そうだ、今夜ログインしてルベルの街に来て……ブスに振り回されっぱなしだったから気が付かなかったけど、すでにVR以上のリアリティーと没入感だった。

「それはね……わたしのせいなんだけど、ま、いいじゃん。リアリティーある方がいいでしょ。さ、食べ終わったら、さっさと48層の攻略に行くわよ、迷子にならないように付いてきなさい!」

 ブスは立ち上がるとランチセットを消してスタスタと歩きはじめる。

 ここで置いてけぼりを食ったら、二度とログオフできないような気がして、我ながら情けなくもアタフタしながら赤いマントを追いかけるオレ様だった。

 

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高校ライトノベル・ライトノベルベスト〝そして 誰かいなくなった〟

2018-02-13 06:57:26 | ライトノベルベスト

ライトノベルベスト
〝そして 誰かいなくなった〟
 


「へへ、どの面下げてやって来ちゃった!」

「キャー、恭子!」
「来てくれたのね!」
「嬉しいわ!」
 などなど、予想に反して歓待の声があがったので、あたしはホッとした。

 正直、今朝まで同窓会に行くつもりは無かった。
 あたしは、高校時代、みんなに顔向けできないようなことをしている。

 校外学習の朝、あたしは集合場所には行かずに、そのまま家出した。
 FBで知り合った男の子と、メルアドの交換をやって、話がトントン拍子に進んで家出の実行にいたるのに二か月ほどだった。

 校外学習の朝に家出するのは彼のアイデアだった。

「なに来ていこうかな~♪」
 てな感じで服を探したり、バッグに詰め込んでも親は不審には思わない。
「帰りにお茶するの」
 そう言うと、お父さんは樋口一葉を一枚くれた。同じことを兄貴に言うと一葉が二葉になった。
「行ってきまーす!」
 そして担任の新井先生には「体調が悪いので休みます」とメールを打つ。

 これで、あたしの行動は、10時間ぐらいは自由だ。

 彼は品川まで迎えに来てくれていた。それまでに、たった二回しか会ったことはなかったけど、ホームで彼の顔を見たときは涙が流れて、思わず彼の胸に飛び込んだ。携帯は、その場で捨てて、彼が用意してくれた別の携帯に替えた。

 二人揃って山梨のペンションで働くことは決めていた。でも、一日だけ彼と二人でいたくって、甲府のホテルに泊まった。ホテルのフロントで二人共通の偽の苗字。下の名前はお互いに付け合った。あたしは美保。彼は進一。なんだか、とっても前からの恋人のような気になった。部屋に入ったときは、新婚旅行のような気分だった。

 そして、その夜は新婚旅行のようにして一晩をすごした……。

 彼の正体は一カ月で分かった。

 同じペンションで働いている女の子と親しくなり、お給料が振り込まれた夜に二人はペンションから姿を消した。
 あたしはペンションのオーナーに諭されて、一カ月ぶりに家に帰った。

  捜索願は出されていたが、学校の籍は残っていた。

 学校に戻ると、細部はともかく男と駆け落ちした噂は広がっていた。表面はともかく学校の名前に泥を塗ったから、駆け落ちの憧れも含めた好奇や非難の目で見られるのは辛かったが、年が変わり三学期になると、みんな、当たり前に対応してくれるようになった。

 そして、卒業して五年ぶりに同窓会の通知が来た。

 家出の件があったので、正直ためらわれたが、夕べの彼……むろん五年前のあいつとは違うけど、ちょっとこじれて「おまえみたいなヤツ存在自体ウザイんだよ!」と言われ、急に高校の同窓生たちが懐かしくなり、飛び込みでやってきた。

 来て正解だった。昔のことは、みんな懐かしい思い出として記憶にとどめていてくれた。

「みんな、心の底じゃ恭子のこと羨ましかったのよ」
「あんな冒険、十代じゃなきゃできないもんね」
「もう、冷やかさないでよ」

 そのうち、幹事の内野さんがクビをひねっているのに気づいた。

「ウッチー、どうかした?」
 委員長をやっていた杉野さんが聞いた。
「うちのクラスって、34人だったじゃない。欠席連絡が4人、出席の子が29人。で、連絡無しの恭子が来て、30人いなきゃ勘定があわないでしょ?」
「そうね……」
「会費は恭子ももらって30人分あるんだけどね」
「だったら、いいじゃない」
「でも、ここ29人しかいないのよ」
「だれか、トイレか、タバコじゃないの?」
「だれも出入りしてないわ」
「じゃ、名前呼んで確認しようか?」
「うん、気持ち悪いから、そうしてくれる」

 で、浅野さんから始まって出席表を読み上げられた。あたしを含んで全員が返事した。

「ちゃんと全員いるじゃない」
「でも、数えて。この部屋29人しかいないから」
「え……」
「名簿、きちんと見た?」
「見たわよ、きっかり30人。集めた会費も30人分あるし」
「……もっかい、名前呼ぼう。あたし人数数えるから」

 杉野さんの提案で、もう一度名前が呼ばれた。

「うん、30人返事したわよ」
「でも、頭数は29人しかいないわよ」
「そんな……」

 今度は全員が部屋の隅に寄り、名前を呼ばれた者から、部屋の反対側に移った。

「で、あたしが入って……29人」
 内野さんが入って29人。名簿は30人。同姓の者もいないし、二度呼ばれた者もいない。

「だれか一人居なくなってる……」
 一瞬シンとなったが、すぐに明るく笑い出した。
「酔ってるのよ。あとで数え直せばいいじゃん」
 で、宴会は再び盛り上がった。

「ちょっと用足しに行ってくるわ」

 あたしは、そう言ってトイレにいった。

 で、帰ってみると、宴会場には誰もいなかった。

「あの、ここで同窓会してるN学院なんですけど……」
 係の人に聞くと、意外な答えがかえってきた。
「N学院さまのご宴会は承っておりませんが」
「ええ!?」

 ホテルの玄関まで行って「本日のご宴会」と書かれたボードを見て回った。N学院の名前は、どこにもなかった。

 それどころか、自分のワンルームマンションに戻ると、マンションごと、あたしの部屋が無くなっていた。
 スマホを出して、連絡先を出すと、出した尻から、アドレスも名前も消えていく。そして連絡先のフォルダーは空になってしまった。

「そんなばかな……」

 すると、自分の手足が透け始め、下半身と手足が無くなり、やがて体全体が消えてしまった。

 こうやって、今夜も、そして誰かいなくなった……。

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高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・34「ブスのクラブサンドイッチ・1」

2018-02-12 16:29:27 | ノベル

イスカ 真説邪気眼電波伝・34

『ブスのクラブサンドイッチ・1』

 

 

 目が覚めると、お日様は真上に来ていた。

 

 川辺の広葉樹の下で寝っ転がっていたので、日差しが半分も無く目が覚めなかったようだ。

「あ、あち!」

 起き上がる時にレガースに手を当てると、火傷しそうなくらいに熱い。

 膝から下が木陰から出ていて、金属製のレガースが焼けていたのだ。

 お日様が南中して、木陰が動いて、脚が日向に飛び出してしまったようだ。

 期せずして頭寒足熱になったようで、我ながら健康的な昼寝をになった。

 

「オーーーイ!」

 

 橋の上から声が掛かる。首を巡らせるとブスが左手を振っている。右手は石の欄干に隠れて見えないが、どうやら何かを持っているようだ。

 石段を下りる時も器用にマントで隠しているので、なにを持っているのかよく分からないけど、ひどく楽しそうなので、姿を消していたのは、そいつのためだったと思える。

「ウフフフ」

「変なやつ、なに持ってきたんだよ?」

「な~んだ?」

「ハハ、なんだよ?」

「当ててみそ(^^♪」

 ブスは目をへの字にしてピョンピョン撥ねる。すると、かすかにいい匂いが立ち込める。

 ビネガー混じりのドレッシング……揚げ物……それにスパイシーななにか……要はおいしそうな匂いだ!

 近ごろのゲームのグラフィックは驚異的で、視覚を通していろんな疑似感覚を覚える。

 日差しの温かさや頬を撫でる風、ご馳走を観たら、なんとなく匂いを感じることもある。VRで女の子の家庭教師をするゲームがあるが、女の子が落としたシャーペンを拾おうとして、そのうなじが迫ってくると、吐息や女の子の匂いを感じたりするそうで。それは、視覚が他の五感に影響して錯覚させるらしい。こういう錯覚には積極的に没入したした方がいい。

「なにか食べ物だな!」

「さすがナンシー、ジャーーン!」

 差し出したのは乙女チックなランチバスケットだ。

 手際よくランチシートを広げ、腰を下ろすと、自分の横をポムポム叩く。座れということだ。

「え、え、ま、いいけど」

 こういうシチュには慣れていないので、どうも不貞腐れた物言いになる。そんなことは気にせずにバスケットを開帳するブス。

「はい、召し上がれ🎵」

「ウワ~~~~~」

 クラブサンドイッチというのか、三枚の食パンの間にレタスやチーズやベーコンやタマゴやハムやフライなどが挟んであって、その隙間には手作りらしいソースが頃合いにはみ出ていて、見るからに美味しそうなのだ! それが、バスケットいっぱいにギッチリと詰まっている。

「いっただきまーす!」

 さっそく一つ掴んでハムハムと頬張るオレ様だった!

 

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高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・33「第48層 始まりの街ルベル」

2018-02-11 16:04:56 | ノベル

イスカ 真説邪気眼電波伝・33

『第48層 始まりの街ルベル』

 

 

 赤マントが恥ずかしい……。

 

 オンラインゲームというのは、そのモチーフのほとんどが中世ヨーロッパにある。

 中世ヨーロッパは、魔法とか妖精とか錬金術とかが普通に存在している。種族も人間だけでなく、ドアーフやエルフ、ニンフ、トロルやゴーレムなんぞが多種多様に存在している。

 ゲームを始める前に、そういう世界観の基礎というかデフォルトがプレイヤーの知識と憧れの中にある。だから誰でも違和感なく没入できる仕掛になっている。

 当然、風俗も中世ヨーロッパ風で、刃物もダガーとかレイピアとかソードとかヨーロッパ風。鎧も粗末なレザーアーマーから、錬金術師が鍛えたメタルアーマーまで、一見すればコストやスペックの見当が付く。

 目に見えて違うところと言えば女性キャラのコスの露出度が高いこと。トーガやスカートは膝上というよりは股下表記の方が早いミニばっか。アーマーも胸が強調されて、体のラインもヒョウタンか! と言いたくなるほどの凹凸だ。外国にライセンスされる時は、そういう風俗的なところは変えてあるという話だ。

 それで、赤マント。

 中世ヨーロッパというのはロクな染色技術がなかったので、原色の衣類というのはめったにない。赤・黄・青の原色でも、どこかくすんでいる。原色を気楽に使えるのは王侯貴族の一部だった。そういうことを、なんとなく常識として知っているので、コスに原色を使う奴はめったにいない。せいぜいチュニックやアーマーの一部にワンポイントとして使うのが常識だ。

 それが、オレとブスは教室のカーテンほどの大きさの赤マントだ!

 通りすがりのプレイヤーたちが一様に目を見張る。いや、NPCのキャラでさえ「ホー」とか「ウワー」とかの声を上げやがる。

 でも、ま、これは愚痴な。

 オレの前をルンルンで闊歩しているブスには言えない。そういう性格なんだから仕方がない。

 48層の始まりはルベルという大きな街だ。

 どうやら名実ともに100層あるゲームの中間にあたり、プレイヤーたちは、まとめて買い物をしたり、足りないスキルに磨きをかけたり、ギルドのメンバーを募ったりしている。

 街の南側には先月のバージョンアップで実装された別荘地があり、それ相応の課金をすれば三十坪ほどのコテージから皇居ぐらいのお城まで手に入り、攻略疲れしたプレイヤーたちが長期滞在している。近々、隣接するヒルにカジノも作られるという噂だ。

 オレもふんだんに課金が出来るものなら、百坪ほど買って住み着いてみたいと思う。

「ねえ、あのヒルで待っててくれる」

「なんだよ?」

 オレは、一刻も早くルベルの街を出たい。さもなければ手ごろな空き家を見つけて寝っ転がりたい。それほどに赤マントは恥ずかしい。

「ちょっとね、やってみたいことがあるの🎵」

 女が🎵マークを出して喜んでいる時に水を差してはいけない。オレの十六年間の人生で会得した教訓だ。

「あ、ああ、じゃ、待ってるよ」

「んじゃね♪」

 赤マントをチョウチョのように翻して駆けていくブスは可愛かった。

 オレに絡んでさえ来なかったら、見ている分には……と思った。

 

 48層、始りの街ルベルは春風が木々をそよがせる午前九時だった……。

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高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・32「やっと我が家に」

2018-02-10 14:16:21 | ノベル

イスカ 真説邪気眼電波伝・32

『やっと我が家に』

 

 

 ハックション!!

 

 唐突にクシャミが出ると、それがスイッチだったかのように景色が元に戻った。

 切通も、その向こうに広がっていた街や海や空やも見慣れたご近所の住宅群になり、巨大な子宮のようなマトリックスも三十坪に満たない我が家に戻っていた。

「ただいま~」

 家族としての最低の仁義である挨拶をするのと、廊下の左っかわのトイレの水が流れるのが同時だった。

 一瞬外に出ようかと思ったけど、すでに「ただいま~」を口にしている。

 怒ったような顔をして優姫がトイレから出てくる、一瞥すると「フン」と鼻を鳴らしてリビングへ。この態度の悪さは紛うかたなき我が妹。なんだかホッとする。

 ホッとしてトイレのドアノブに手をかける。

 この日一日の緊張が解けて、脳みそを経由することなく排尿の衝動に駆られるたのだ。

「入んなああああああああああああああああああ!」

 リビングから飛び出してきて優姫が怒鳴る。

「いや、あ、すまん……」

「さっさと部屋に消えろ!」

「あ、ああ……」

 ナタクソと階段を上がる、その背後でトイレのタンクに水が入る音がまだしている。少し振り返ると、上がり框のところに学校カバンと体操服の袋が行儀よく置かれている。その向こうのローファーも揃っていている。どんなに急いでいても、こいいうところは行儀がいい。ただ、自分の家に帰ったら真っ先に自分の部屋に行く奴なんで、玄関にカバンをオキッパにしていることがイレギュラーだ。

――大であったか……――

 さぞ我慢していたんだろうな……換気扇は回っているようなので、五分ほどあけてから来ようと決める。

 上着だけ脱いでベッドに横たわる。ベッドに癒着することはなさそうだ。

 体内時計で五分カウントして起き上がりパソコンのスイッチを入れ再び階下へ。ドアを閉めるとリビングのドアが開いてパタパタと足音が頭上を上っていく。普段はウザイ妹で、妹は、それ以上にウザく思っていて、その双方のウザさがなんとも心地い。

 いつも通りというのはありがたいもんだな……

 用を足して二階に戻ると、パソコンのスタンバイが完了している。

 オレは、悠然と『幻想神殿』のアイコンをクリックしたのだった。

 

 

 

 

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高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・31「マトリックス」

2018-02-09 14:31:55 | ノベル

イスカ 真説邪気眼電波伝・31

『マトリックス』

 

 

 魔物やモンスターばかりの一日だった。

 

 学校に着くなり時間が停まっていてドラゴンと戦うハメに、昼には三宅先生に取りついた魔物と命のやり取り。気のいい佐伯さんまで巻き込んでしまった。パラレルから飛ばされてきた三宅先生は、ここがパラレルだとも気づかず、海水に入れられた淡水魚のように死んでしまった。やっと落ち着いた帰り道、危うく愚妹の優姫に化けた土くれに化かされるところだったが、イスカの機転で大事に至る前に退治することができた。

「なによ、人懐っこい顔して」

 脱いだ靴を揃えているイスカをシミジミ見てしまった。

「え、あ、いや、ごめん」

「気持ちは分かるわ、大変な一日だったものね。我が家の温もりに、思わずシミジミしたのよね……その安堵感の何割かがわたしだったら嬉しい」

「めがね……」

「え?」

 イスカが眼鏡をかけていないことに気づき、イスカも、いま初めて気づいた様子だ。

「あ、バトルが続いたんで無くしちゃったかな……」

 言いながらマジシャンのように手を回すと眼鏡が現れた。

「眼鏡無いのもいいよ……」

「ハハ、そんな惜しそうに言われたら掛けられないわね」

 他愛のないことを言いながら部屋のドアを開ける。

 玄関に入ってきた時以上の温もりを感じてベッドに直進して横になってしまう。

「ごめん、すぐに起きるから……」

「いいわよ、わたしもなんだか……」

 イスカもオレの横に並んでしまう。オヤオヤとは思うんだけど、こんなにリラックスできるんだ、当然か。

「しばらく起きれないかも……」

「いいわよ、わたしが起こしてあげる……」

 そう言いながら、イスカは気持ちよさそうに目を閉じてしまう。

――ま、いいか――

 いろんなことがあり過ぎた一日だ、少しくらい自分を甘やかしてもいい……。

 

 目を閉じると、ごく小さいころにお袋の膝で眠ってしまったような懐かしさになる……いや、まるで子宮の中にいるような安心感だ。

「お茶が入りました……」

 優姫がお盆にお茶を載せて入って来た。優姫も、いっそう優し気だ。

 その優しさは、家の優しさと結びついて……オレも家と同化してもいいという気持ちになる。

 机にお茶を置く優姫は、羨ましくも同化が始まっていて、部屋のあちこちから伸びてきた菌糸がくっ付き始めている……ああ、出来かけの繭の中の蚕って……こんな感じだったよな……小学校でみた学習映画を思い出した。

 

 ビチ ビチビチビチビチビチビチ!

 

 ガムテープを剥がすような音をさせてイスカが起き上がった!

 髪や制服はベッドと一体化し始めていて、何百本かの髪と制服の破れが持っていかれたが、半裸になったまま優姫に跳びかかった。

「油断していたああああああああああああああああああ!」

 ネバネバのまま優姫に跳びかかると、ネチャネチャ音をさせながら取っ組み合いになり、やがて右こぶしを千枚通しのようにして優姫の頭を刺し貫き、溶けかけのゴム人形のように頭を引き抜こうとした。

 ネチョーーーーーーブチュ!

 名状しがたい音をさせてくびが抜けた。

「逃げるわよ、掴まって!」

 ごきぶりホイホイに掴まった仲間を助けるようにオレを引き剥がしにかかるイスカ。

「い、い、痛い! いててて! 痛えーーーーーー!」

 

 ブチョ! ズブズブズブズブブブブブブーーーーージュポ!

 

 イスカの頑張りで、抜け出したのは、ついさっき夕焼けを愛でていた切通だ。

 家の方を振り返ると、そこには巨大な、それこそ家ほどの大きさの肉塊、それが断末魔に身を捩っている。

「マトリックス……」

 イスカが、ちょっと昔の映画のタイトルを呟いた。

「え?」

「子宮って名のモンスターよ……多分、今日一日のことはあいつが仕組んだことよ……何度も痛めつけて、最後は得物が安息を求めるところまで疲弊させて、最後には自分の中に取り込んで生まれ変わらせる……あのままいっていたら、ルシファーの下僕にされていたわ……危ないところだった、ほんとうに……」

 そう言うと、イスカはオレにしなだれかかって来た。

 エネルギーが不足してきたんだ。もう分かっていたから、イスカのするに任せてやる。いや、オレの方からも腕を回して抱きしめてやる。もう、何度もやったエネルギーのチャージだ……と思っていたら、イスカの体がめり込んできた。

 出来の悪いCGがポリゴン抜けをするのに似ている。

「ちょっと間に合わなかった……」

 残念そうに言うと、まるでHPを完全に失って、最終セーブポイントまで転送されて行くプレイヤーのように儚くなっていった。

 

「イスカ……」

 

 イスカの姿もマトリックスも切通も消えて行ってしまった。

 そうだよ、オレの近所に見晴らしのいい切通なんかねえもんな……。

 

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高校ライトノベル・ライトノベルベスト・ボクとボクの妹

2018-02-09 07:20:13 | ライトノベルベスト

ボクとボクの        


 ボクの妹は、自分のことを「あたし」という。気持ちの悪い奴だ。

 といって、ボクは男ではない。れっきとした十八歳に成り立ての女子高生だ。
 世間ではボクのようなのを『ボク少女』などとカテゴライズされていて、ネットで検索すると以下のようである。

 ボク少女(ボクしょうじょ)、またはボクっ子(ボクっこ)、ボクっ娘(ボクっこ)、僕女(ぼくおんな)は、男性用一人称の「ボク」などを使う少女のこと。 Wikipediaより

 生まれて気づいたら、自分のことを「ボク」と呼んでいた。
 ボクは、いわゆる「女の子」というのを拒絶している。悔しいことにWikipediaでも同じように書いてある。あれとは、ちょっとニュアンスが違うんだけど、文字にすると同じようになる。

「お姉ちゃんは否定形でなければ、自己規定ができないんだ。そんなの太宰治みたいに若死にするよ」
 とニベもない。
 ボクだって、社会常識はある。「ボク」と言っていけないシュチエーションでは「私」という中性的な一人称を使う。そう、例えば職員室とか、面接の練習とか、お巡りさんに道を聞くとき(まだ聞いたことはないけど)とか。

「春奈なに編んでんのさ?」
「見りゃわかるでしょ」
「分からないから聞いている」
「ミサンガよ」
「やっぱし……」
 風呂上がりの髪を乾かしながらため息が出た。
「なによ、ため息つくことないでしょ」
「なんで、ニサンガぐらいの名称にしないんだ……」
「ニサンガ……なに、それ?」
「六だ、二三が六。九九も知らないの?」
「じゃ、ミサンガは?」
 そう言いながら、赤糸と金糸を器用に編み込みにしていく。
「六にならん。ロクでもない。しいて言えば九だ。苦を編み出しているようなもんだ」
「お姉ちゃん、シャレになんないよ。これ、吉野先輩にあげるんだからね!」
「ああ、あの野球部のタソガレエースか」
「タソガレは侮辱だよ」
「事実だ。今年も三回戦で敗退。プロはおろか実業団とか大学の野球部からも引きがない。あいつの野球人生も、今度の引退試合が花道だろ……それも勝ってこそだけどな」
「怒るよ、お姉ちゃん!」
「勝手に怒れ。ボクは真実を言ってるんだ」
「いいもん。あたしは、こういう女の子らしい道を選ぶんだから。行かず後家まっしぐらのボク少女とはちがうのよ!」
「行かず後家ってのは、ちょっち差別だぞ。一生シングルで生きても立派な女の人生だ」
「田嶋陽子みたくなっちゃうぞ!」
「田嶋さんをバカにするな。尊敬する必要もないけどな」
「なによ、十八にもなって、彼氏もいないくせして!」
「春奈は、ボクのことを、そんなに浅い認識でしか見ていなかったのか?」
「だって、吉野先輩のこととか、メチャクチャに言うから」

 ボクは、無言のまま押入から紙袋を出してぶちまけた。

「なに、これ……?」
「こないだの誕生日に男どもが、ボクに寄こしたプレゼント。よーく見なさい!」
 妹は、プレゼントの一つから目が離せなかった。
「こ、これは……」
「そう、春奈のタソガレエースからの」
「くそ……よりにもよって、お姉ちゃんに!」

 妹は、発作的にハサミを持ち出して、編みかけのミサンガを切ろうとした。

 パシーン!

 派手な音をさせて、妹を張り倒した。加減はしている。鼓膜を破ることも口の中をきるようなタイミングでもない。春奈が歯を食いしばったのを狙って張り倒している。

「バカ、春奈は、そういうアプローチの道を選んだんだろう。だったら、そのやり方でやりきってみろ。意地でも、あの野球バカを自分に振り向かせてみろ。運良く、ボクはあんな男には興味ないからな」
「く、悔しい……!」
「いったん休憩して、風呂入ってこい。そいで続き編んで、明日野球バカに渡せ」
「試合は、今度の日曜……」
「だからバカなの!」
「なによ!」
「あげるんなら、早い方がいい。あの野球バカは、ボクにプレゼントするのに一カ月かけて欲しいモノ調べやがったんだよ。赤のシープスキンの手袋……やってくれたね。あやうくウルってくるとこだったよ。がんばれ妹!」
「でも、これじゃ勝負になんないよ」
「バカ春奈。戦う前に負けてどーすんだよ。さ、風呂だ。こうやってる間にも給湯器クンは懸命に風呂の追い炊きやってくれてるんだ……じれったいなあ!」

 あたしは、タンスからパジャマとパンツを出して妹の胸に押しつけ、部屋から追い出した。

 妹は、ほとんど忘れているけど、ボクたちには兄がいた。ボクが四つのとき亡くなった。ボクは、ボクの記憶の中でもおぼろになりかけている兄のためにも生きていかなければと思っている。

 だから「ボク」……バカ言っちゃいけない。ボクたちに、ちゃんとしたアイデンティティーを示してくれなかった大人が……学校が、国が……よそう、これもグチだ。

 あの震災で、パッシブなアイデンティティーと忍耐は学んだ。でも、人間って、もっとアクティブでなきゃいけないと思う。
 あのとき、そのアクティブを見せてくれた兄。うまく言えないけど、自衛隊の人たちにも、それを感じた。
 だから、ボクは自衛隊の曹候補生の試験をうけて合格した。

 入学式は、お父さんと妹と、妹のカレになった野球バカも来てくれた。それから妹は神楽坂48の研究生のオーディションに受かった。妹は、慰問に来てくれたAKBのファンだったけど、完成されたAKBよりも、可能性の神楽坂に可能性を見出した。ひょっとしたらボク以上に先を見る目ができたのかもしれない。

 神さまは、いつか「ボク」に変わる一人称……言えるようにしてくれると信じて。

 2025年  三島春香 

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高校ライトノベル・ライトノベルベスト・『車上狙いとエルメスのブーツ』

2018-02-08 06:39:10 | ライトノベルベスト

ライトノベルセレクト・144
『車上狙いエルメスのブーツ』



 大阪は三年連続で、ひったくり、車上狙いが、全国で一位である。

「この悪しき記録を書き換えるために、各所轄におかれては、粉骨砕身されたい!」

 年頭に当たり、府警本部長は六十人あまりの府内の署長を集めて訓辞した。そして、座る直前に、府内ワーストワンのN署長の顔を見てしまった。

「こんなとこで、見るやつあるか……ほれ見てみい、マスコミが、みんなワシの顔撮りよるがな」

 N署長は苦り切った顔になった。

 ケタクソ悪いことに、暇なテレビ局が署まで付いてきそうな気配である。いずれ署に着くまでの路上でインタビューされることになるだろう。
 それなら、いっそ見場の良いところでと、近場の神社に駆け込んだ。

 むろん、ひったくり車上狙い全国一の大阪の中のベストワンの汚名返上祈願のポーズである。
 案の定、付けてきたマスコミへの対策であり、マスコミも目論見通り、N署長に同情的な記事をかいてくれた。

 だが、署長は気づいていなかった。そこが護国神社であったことに……。

 ヒロヤンは、車上狙いの実力では、大阪のベストスリーに入る。今年こそ、大阪でベストワン。つまり全国一のツワモノになってやろうと、近所の神社にお願いに行った。
 ヒロヤンも、それが護国神社であることには気づかなかった。なんせ神社の名前は「護國」と旧字を使ってあり、ヒロヤンは正確には読めなかった。

 ヒロヤンの手口は、もう芸の域である。

 あらかじめ監視カメラの有無、また監視カメラがあったとしてもダミーか本物かの区別は一発でついた。狙う車も、ちょっとの間だと油断して、ロックもしないでアイドリング中のを狙う。たとえ電子ロックしてあっても、自分で開発した電子キーを使えば二三秒で解錠できる。マニュアルキーであれば、ほとんど触れただけで鍵が開けられる。
 用心は車載カメラであるが、強烈な電磁波でカメラの機能を停止させてしまう。従って、彼の姿は警察も、業界の中でも知るものがいなかった。

 その日も、カメラがダミーであることを確認して、一台のセダンを狙った。
 まるで、持ち主が忘れ物を取りにもどったような気楽さで座席の茶色い革鞄を取った。

 仕事を終えて車から出ると……世界が一変していた。

「広崎、獲物はあったようだな」

 かがんだ姿勢で、エルメスのブーツを履いた男がニコニコしていた。
「は……」
 ヒロヤンはあっけにとられた。エルメスのオッサンは警察とは違うカーキ色の制服を着てヘルメットを被っている。出された手に、ヒロヤンは素直にカバンを渡してしまった。
「やったぞ、広崎。敵の戦車中隊が、この丘の向こうにいる。もう一働きだ」
 気づくと側にエルメス以外はオッサンと同じナリの男が二人。そして驚いた事に自分も同じナリをしていることであった。

「じ、自分は……」

 そう言いかけて、別の人格になっていくのに抵抗できなかった。
「自分は、最後列のM4が最適だと思います。輪形陣ではありますが、ここが一番気が抜けています。むろん鹵獲防止のロックはされているでしょうが、二秒もあれば解錠できます。問題は……」
「いかに、敵の注意をそらしておくかだな」
 エルメスは、そう言うとアメリカ兵のヘルメットをみんなに配った。

「丘の向こうで、敵の動きがある」

 エルメスは、流ちょうな英語でアメリカ兵に語りかけた。日本人離れした高い身長の者が二人、ヘルメットのシルエットで、見張りの米兵二人は丘の方に視線を向け、その隙に二人の日本兵が米兵に足払いをかけ、転倒したところで、首の骨を折って即死させた。

「西大佐、OKです」

 広崎上等兵が言うと、三人は、ごく自然に戦車に乗り込んだ。エルメスの西大佐は、手榴弾三個を結んだものを輪形陣の真ん中に投げ込んだ。

 手榴弾の爆発音と共に、エンジンをかけ、英語でエルメス西が叫んだ。
「一号車が敵に鹵獲された!」
 そう言うと、いかにも慌てた風に、一号車の横の二号車を撃破。
「間違うな、鹵獲されたのは一号車だ!」
 と、無線で、各車両に呼びかけ、混乱した中隊の中を駆け回り、次々と中隊九両のうち七両を撃破。海岸に向かって夜明けを待ち、弾薬集積所に榴弾をぶち込み米軍を大混乱させ、昼までに敵の戦車や火砲を二十あまりを撃破したのち、敵の集中砲火を受けて戦車ごと吹き飛ばされてしまった。

 これで、歴史が、ほんの少し変わった。

 硫黄島の玉砕は一日遅れ、七十年後の大阪の車上狙いは、全国一から二位にダウンした。

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高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・30「爆発した優姫」

2018-02-07 12:14:21 | ノベル

イスカ 真説邪気眼電波伝・30

『爆発した優姫』

 

 

 ボン!

 

 首のない優姫は二三歩歩いたかと思うと、くぐもった音をさせて爆発した!

「な、なんなんだ!?」

 電柱一本分離れているとはいえ、肉やら内蔵やら血やらの飛沫や破片がビチャビチャと飛んでくる。

 憎ったらしい妹だけど、これはないだろ……う! 血のニオイがたまらん!

 オレは口を押えて後ずさる。

「い、いまの、イスカが……」

 オレの言うことを半分も聞かずに、イスカは優姫の残骸に駆け寄っていく。せめて、避けて行けばいいのに肉片やら血だまりをビチャビチャ踏みながら……で、オイデオイデをする。

「なんてことするんだ……」

「ちゃんと見ておくのよ」

「……………」

「見るのよ、ほら!」

「や、やめろ!」

 イスカは、血みどろの首を掴むとバレーボールかなんぞのように投げてくる。

 

 ベチョ!

 

「ヒエーーーーー!」

 我ながら情けない声を上げて尻餅をつく。

「目を開けて、しっかり見るのよ」

 数秒かかって薄目を開けると、妹の首は半開きになった口から舌をのぞかせ、目は驚愕のまま見開かれて……あれ?

 

 首は、見る見るうちに色彩を失い、土人形のようになったかと思うと、ボロリと崩れて洗面器一杯ほどの土くれになってしまった。恐るおそるイスカの足元に目をやると、グロテスクに飛び散ったとはずの肉片は撒き散らした土に変わっていた。

「な、なんなんだよ、これは!?」

「ルシファーの仕業よ、土くれで優姫を作って安心させて……家に入ったところで……ほら、耳を澄ますと聞こえるでしょ」

 地面の奥底深くで地下鉄が走り去っていくような音がした。

「土属性の魔法ね、油断していたら、この地響きがせり上がってきて山一つ分くらいの土砂で生き埋めにされるところだった」

「本物の優姫は?」

「まだ学校か……」

 

 意に反して、優姫はドアから顔を覗かせた。

 

「……なにかあったの?」

「通りすがりのダンプが土砂をこぼしていってね、危うく土まみれになるところだった」

「あーほんとだ、あ、今日も勉強でしょ、寒いから中に入って」

 日差しは残照だけになり、晩春の寒さが大気に満ち始めていた。

「ち」

「んだよ」

 舌打ちした優姫に条件反射的に反応してしまうが、イスカも居ることもあって、シカトしてイスカに愛想を振りまく。

「バカ相手じゃ人生の無駄になるでしょうけど、よろしくお願いしますね西田さん」

「まかしといて」

 この豹変ぶりはまごうこと無き愚妹である。

「いま、お茶持ってきます、時分時だから虫やしないにブタまんつけますね♪」

「おかまいなく……いい妹さんじゃない」

 感想なのかオチョクリなのか分からないイスカと階段を上がる。まだ暖房などはしていないのだけど、家の中は人肌を思わせる温もりだ。これで優姫がいなければ……と思っても口に出さないオレであった。

 

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高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・29「通学路のパワースポット」

2018-02-06 16:43:58 | ノベル

イスカ 真説邪気眼電波伝・29

『通学路のパワースポット』

 

 

「オレにはかけてくれないの?」

 

 三叉路で佐伯さんを見送ってイスカに聞いた。

「……ごめん、なに?」

「その守護魔法みたいなの……」

「あれ掛けると、キミからエネルギーをチャージできなくなる」

「え、そうなの?」

「魔法攻撃って、いろんなバリエーションがあるけど、結果的には相手の生命エネルギーを奪うこと。だから守護魔法というのは生命エネルギーにロックをかけるようなものなの。ロックした相手から都合のいいエネルギーだけチャージさせてもらうなんてできないわよ」

「そうなんだ」

「大丈夫よ、勇馬がいなけりゃ、わたしもこの世界に留まれないから全力でガードしてあげるわよ」

「今日は近道通らないのか?」

 まだ二日目なんだけど、イスカに勉強をみてもらうのがカスタムになってきている。

「うん、こっちの方が雰囲気だからね」

 そう言うと、イスカは立ち止まった。

 

「オーーーーー」

 

 間の抜けた声を上げてオレも立ち止まる。

 ちょっとした切通になっていて、右側が古い石垣が連なって、その上に民家が並んでいる。石垣だというのも気が付かなかった。けして見えないわけじゃないんだけど、石垣の前に列をなしている自販機やら看板の自己主張ために意識に上らないんだ。

 反対側には家が並んでいたはずなんだけど、それが取り壊され、向こうの見晴らしが良くなっている。

 切通と思っていたのは、そこだけで、実は全体で大きな斜面になっていて、下に広々と街が広がっている。思いのほか大きな景色で、それが、斜面の中腹に佇んでいるオレたちごと夕陽に染め上げられ、ちょっと息をのむほどの景色になっている。

「二年も通っていて気づかなかった」

「家が立ち並んでいたからね、先週から取り壊し始めて、今朝終了したばかりみたい」

「ああ、でもイスカが言ってくれなきゃ気づかないところだった」

「わずかなもんだけど、こういうところじゃエネルギーチャージができるのよ」

「そうなのか?」

「うん、俗に言うパワースポット。昔の人は、こういうところに神さまを感じて神社なんかにしたのよ」

 悪魔が、そんなこと言っていいの……思ったけど、雰囲気壊しそうなので止す。

 

「さ、いこうか」

 

 ホッと一息ついて歩き出す。

 角を曲がると向こうから優姫が歩いてくる。めずらしく下校時間が合ったみたいだ。

「あ、どうも、いつも兄がお世話になってます!」

 元気と愛想のいい挨拶をする。我が妹ながら外面の良さは天下一品だ。

「ごめんなさい、今日もお邪魔するわね。あ、クラスメートの西田佐知子です。こないだからいっしょに勉強するようになって」

「はい、分かってます。出来の悪い兄ですけどよろしくお願いします。わたし、先に戻ってお茶の用意とかしとくね」

「あ、おかまいなく」

「じゃ、二人はゆっくり帰って……あ、勉強だからゆっくりってのも変か? ハハ、じゃ、ほどよく」

 そう言うと、軽い足取りで家に向かう優姫。

 

「優姫さん!」

 

 家の前に差し掛かった優姫をイスカが手を上げて呼び止めた。

「はい、なんでしょう?」

「セイ!」

 勢いよくイスカの手が振り下ろされる。

 

 すると、電柱一本分向こうの優姫の首が吹っ飛び、切り口から噴水のような血しぶきが吹き出した!

 

 

 

 

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高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・28「三宅先生の突然死」

2018-02-05 14:09:01 | エッセー

イスカ 真説邪気眼電波伝・28

『三宅先生の突然死』

 

 

 本館二階の職員室はこんな具合だ。

 

 独立した準備室を持たない、国語・英語・数学の三教科の先生たちと教務の先生たちの島が四つあり、真ん中に教頭先生のデスク。これが職員室の中核で、それを挟むようにしてパーテーションで区切られた情報処理のコーナーと、作業用の共同の長テーブルがある。

 長テーブルの向こうには隣接して放送室と印刷室と給湯室があって、長テーブルは印刷物の仕分けや小会議に使われるほかは、先生たちの休憩コーナーになっている。

 その長テーブルに突っ伏すようにして三宅先生は亡くなっていた。

 

「寝ていらっしゃるんだと思いました」

 

 第一発見者である数学の野崎先生の弁……て、おかしいだろ!?

 三宅先生は、佐伯さんが様子を見に行った直後に職員室に移動し、発見されるまでの四時間、ずっと職員室に居た。

 印刷室に入ろうとした野崎先生が突っ伏している三宅先生の椅子をひっかけ、先生は、そのまま床に倒れ伏してしまった。「こんなとこで寝てちゃ風邪ひきますよ……」と声をかけて、そのまま印刷室へ。

 いつまでたっても起き上がらない先生をおかしいと思った、わが担任の香奈ちゃんが起こしに行って「キャー!救急車!」ということになったらしい。

 警察が来て、死後四時間と判断された。

「わ、わたしじゃないですよ! わたしは引っかかっただけで、ちゃんと『こんなとこで寝てちゃ風邪ひきますよ』って声もかけたし!」

 野崎先生はブンブン手を振って、厄払いするように否定した。

「それは分かってます。でも、なぜ助け起こさなかったんですか? 居ねむっているのと亡くなっているのとでは違うと思うんですが」

「い、いや、だって、わたしが引っかけた時は、もう死後四時間だったんでしょうが!」

 警察の質問にワタワタするばかりの野崎先生だ。

「すみません、背中合わせだとは言え、すぐ近くに居たのに気付かなくって……」

 香奈ちゃん先生は、大変ショックを受けた様子で、消えてしまいそうに肩を震わせていた。

 

 この学校はおかしい! いかれてる! 

 

 オレと佐伯さんはため息をつきながら職員室を後にして階段を下りる。イスカは無言だ。

 同僚が、すぐ近くで突然死し、死後硬直が始まるまで気づかないって、この学校の先生たちはどんな神経してるんだ?

 こんなんじゃ、普段からの生徒の異変やらシグナルに気づけるわけないよ。イジメとか問題行動がほとんどない学校だけど、なんだか背筋が寒くなる。オレみたいな奴が、とりたてて文句言われたり指導されたりってことがないのは、寛容な学校だと思っていたけど、それは単なる鈍感とか無関心というカテゴリーの問題だったのか?

 いろいろ思いながら校門を出たところでイスカが言う。

「パラレルは三宅先生だったんだ」

「「え?」」

「意地悪な三宅先生はルシファーに浸食されてモンスターになって、わたしたちにやっつけられ、それを埋めるようにしてパラレルワールドから別の三宅先生が、本人も気づかないうちに移動したんだ」

「え? でも、パラレルから移動してきたとしても、なんで死んじゃうの?」

「空気が合わないのよ。こちらの世界では、先生というのは……」

 イスカは言葉を濁したけど、さっきの職員室の様子から察せられる。オレ一人だけだったら口汚く学校やら先生やらの悪口を言うところだろうが、すぐ横を歩いている佐伯さんは、そんな言葉を言わせない雰囲気がある。

「佐伯さん」

 三人が分かれる三叉路まで来たところで、イスカが声をかけた。

「はい?」

「あなたも清い人だから、魔法をかけておくわ」

「魔法?」

「うん、三宅先生みたいに突然死しない魔法……」

 

 イスカは、ごく小さな声で呪文を唱え始めた……。

 

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高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・27「自然の摂理かパラレルワールド」

2018-02-04 16:28:02 | ノベル

イスカ 真説邪気眼電波伝・27

『自然の摂理かパラレルワールド』

 

 

 あんな目に遭いながら、佐伯さんは三宅先生を気遣った。

 

「どうだった?」

 別館から出てきた佐伯さんに小さな声で聞く。

「人が変わってたでしょ?」

 天気を確認するくらいの気楽さでイスカ。三人の足は自然に藤棚に向かう。

「あ……うん」

「なにか引っかかった?」

「それが……見て」

「あ」

 佐伯さんが出した日本史のノートを見て、イスカは小さな声を上げた。バトルしている時とは違って西田佐知子としてのリアクションなので、とても控え目なのだ。ちなみに、オレはノートを見てもなんのことやら分からない。リアルじゃ劣等生だもんな(涙)

「中身が変わってる」

 ?な顔をしていたので、佐伯さんが解説してくれる。

 佐伯さんは、質問を装って様子を見に行ったのだ。

 

――板書に質問があるんですが――

――はい、どこかな?――

――ここです……あれ?――

 佐伯さんが示したページは正しく書かれていた。巣鴨でA級戦犯が処刑されたのは、キチンと十二月二十四日の天皇誕生日になっていて、注釈で『天皇誕生日と重ねたのは占領軍の悪意の繁栄かもしれない』と書かれていた。

――ごめん、先生、話下手だから聞き間違ったのかもしれないね。ま、板書の方が正解だから、こっちの方を信じてください――

 

 三宅先生は丁寧に解説してくれただけでなく、お茶を入れて世間話までしてくれたらしい。あまりの変わりようにオタオタする佐伯さんだったが、三宅先生は冗談なども交えてほぐしてくれたらしい。

「ま、先生は何事もなく……フフ、さま変わりだったけど、お元気な様子で、ホッとしたわ」

 リアルでもバトルでも大変な目の合わせてくれた先生だけど、モンスターとして倒れた後を心配する佐伯さんは、とてもいい人なんだと、オレの心まで温かくなった。

 

「パラレルワールドかも……」

「「え?」」

「並行世界。三宅先生がいい人であるという点だけが違う。三人揃ってパラレルワールドに飛ばされたのかもしれない」

「それって……」

「自然の摂理かルシファーの企みか……とにかく、三宅先生が不在であるというアクシデントは修正された……あ」

「「え?」」

 イスカが驚いた方角を見ると、当の三宅先生が穏やかに別館を出て、飄々と本館に移るところだった。

 姿かたちは三宅先生なんだけど、先生特有な神経質な陰惨さが無く、藤棚のオレタチに気づいて「ヤア」と白い歯を見せながら手を上げてくれる。反射的に笑顔でお辞儀するオレタチも、なんだかいい生徒という気がしてくる。これなら生産的な気持ちで日本史の授業が受けられる。

 

 これが自然の摂理で、このあと何も起こらなければ、パラレルワールド大歓迎……だったんだが……。

 

「ちょっと、救急車だ!?」

 掃除当番も終わり、昇降口に下り始めると救急車が学校に入ってくるところに出くわした。放課後の開放的な喧騒を不安な沈黙に変え、救急車は本館のアプローチに停車した。保健室の先生が待ち受けていて救急隊員をストレッチャーごと玄関に誘った。

「病人? 怪我人?」

「…………………………」

「ちょっと遅いわね」

「あ、出てきた」

「え、なんで?」

 出てきたのは救急隊員だけで、ストレッチャーは空のままだ。

 不思議に思っていると、今度は別のサイレンが聞こえてきた。

「パトカーだ!」

 

 お巡りさんたちは、他の野次馬に混じって二階の職員室に向かって行った。

 そこで、オレタチは悲劇を目にすることになった。

 

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高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・26「中庭のバトル・3」

2018-02-03 12:28:59 | ノベル

イスカ 真説邪気眼電波伝・26

『中庭のバトル・3』

 

 

 もう話した方がいい。

 

 佐伯さんの様子にイスカは小さく呟いた。

「あ、えと……」

 リアルが苦手なオレは、おいそれと的確な言葉なんか出てこない。ましてイスカが喘ぎながらくっ付いているところを見られたんだ――あれは、イスカのチャージで、佐伯さんが思ったようなことじゃないんだ――と浮かんでも、言葉は喉の所で絡んで、いっこうに音声にならない。だいたいリアルにおけるオレって、伝える内容よりも伝え方というか、身振り手振りやら表情だけでも不快な印象を人に与える。だからたじろいでしまう。まして、今のチャージの様子なんて18禁のエロエロで――あれはチャージなんだ!――と正直に言って理解してもらうなんて不可能だ。

 ――もういい――

 そんな目つきをして、イスカは一歩踏み出した。

「わたし、西田佐知子ってことになってるけど、それは仮初めの名で、真名……ほんとうは堕天使イスカ、暗黒魔王サタンの娘。この地上に蔓延ろうとしているダーク魔王ルシファーを封じ込めるためにやってきているの。未熟な堕天使だからエネルギーのチャージは、この北斗勇馬に頼っている、つまり、さっきのはバトルで使ったエネルギーの急速チャージをやっている最中だったのよ……」

 イスカは、ゆっくりと横顔を見せながらベンチに座る。正対して話すには荒唐無稽すぎ、素直に佐伯さんに入らないだろうと思ったようだ。

「佐伯さんと接触するのは、これで二度目……トラブルやバトルは時間を止めて亜空間でやるものなんだけど、状況が悪くなってきて、リアルで戦わざるを得なくなってきたの」

「……三宅先生ね」

「ルシファーは……って、今は、その下のマスティマというのが相手なんだけど、人の心を汚染しつつある……リアルの人間相手じゃ亜空間に移る余裕は無いの……」

「つまり……佐伯さんを巻き込むことになってしまったようなんだ、そうだろ?」

「そういうことだから、理解してほしいの」

 いつのまのにかイスカの傍に寄っていた佐伯さんは、しずかにイスカの手をとった。

「おもしろい冬になりそう……これからもよろしく。ね、北斗君も」

「これからも苦労をかけることになるかもしれないけど……その、よろしく。二人のことは全力で護るから」

「えと……オレからもよろしく」

 

 自然に三人で手をとりあった。まるで新しいギルドを結成してボス戦に臨むときのようだ。ネトゲなら、新ギルド結成を祝してファンファーレでも鳴り響くところだ。

 

 キ~ンコンカンコ~ン キンコ~ンカ~コ~ン

 

 鳴り響いたのは下校時間を告げるチャイムの音だ。

 あれだけのバトルがあったというのに中庭以外は平穏な様子……嵐の前の静けさというフレーズが浮かんできた。

 

 

 

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高校ライトノベル・乃木坂学院高校演劇部物語・102『第二十章 嗚呼荒川のロケーション・6』

2018-02-03 05:58:47 | エッセー

まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・102   



『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』姉妹版


 この話に出てくる個人、法人、団体名は全てフィクションです。

『第二十章 嗚呼荒川のロケーション・6』


 それは、ラストシーンの撮影が終わった直後におこった。

 監督さんがOKを出したあと、ディレクターとおぼしき(あとでNOZOMIプロの白羽さんだって分かる)人が、ADさんに軽くうなづくの。

 すると、ロケバスの上から花火があがって、カメラ載っけたクレーンから垂れ幕!

――『春の足音』ロケ開始! 主演坂東はるか!――

「え、ええ……ちょっと、これってCMのロケじゃないんですか!?」
 驚きと、喜びのあまり、はるかちゃんはその場に泣き崩れてしまいました。
「おどかしちゃって申し訳ない。むろんCMのロケだよ。でもカメラテストでもあったんだ。僕はせっかちでね、早くはるかちゃんのことを出したくってね。スポンサーと話して、CMそのものがドラマの冒頭になるようにしてもらったんだ。監督以下、スポンサーの方も文句なしだったんで、で、こういう次第。ほんと、おどかしてごめんね」
 白羽さんの、この言葉の間に高橋さんが、優しく抱き起こしていた。さすが名優、おいしいとこはご存じでありました。
「月に三回ほど東京に通ってもらわなきゃならないけど、学校を休むようなスケジュ-ルはたてないからね。それに相手役は堀西くんだ、きちんとサポートしてくれるよ」
「わたしも、この手で、この世界に入ったの。大丈夫よ。わたしも、きちんとプロになったのは高校出てからだったんだから」
 と、堀西さんから花束。うまいもんです、この業界は……と、思ったら、ほんとうに大した気配り。とてもこの物語には書ききれないけど。

 で、まだ、サプライズがあんの。

「分かりました、ありがとうございました。わたしみたいなハンチクな者を、そこまでかっていただいて。あの……」
「なんですか?」
 このプロデューサーさんは、とことん優しい人なのよね。
「周り中、偉い人だらけで、わたし見かけよりずっと気が小さいんです。人生で一等賞なんかとったことなんかありませんし。よかったら、交代でもいいですから、そこの仲間と先輩に、ロケのときなんか付いててもらっちゃいけませんか……?」
「いいよ……そうだ、そうだよ。ほんとうの仲間なんだからクラスメートの役で出てもらおう。きみたち、かまわないかな?」
「え、わたしたちが……!?」

 というわけで、その場でカメラテスト。

 笑ったり、振り返ったり、反っくり返ったり……はなかったけど。歩いたり、走って振り返ったり。最後は音声さんが持っていたBKB47の音源で盛り上がったり。上野百合さんが――あんたたち、やりすぎ!――って顔してたので、BKB47は一曲の一番だけで終わりました。

「監督、変なものが写ってます!」

 編集のスタッフさんが叫んだ。みんなが小さなモニターに集中した。
 それは、わたしたちがBKB47をやっているところに写りこんでいた。
「兵隊ですかね……」
「兵隊に黒い服はないよ……これは、学生だな……たぶん旧制中学だ」
 と、衣装さん。
「この顔色は、メイクじゃ出ませんよ」
 と、メイクさん。
「今年も、そろそろ大空襲の日が近くなってきたからなあ……」
 と、白羽ディレクター。
「これ、夏の怪奇特集に使えるなあ」
 と、監督。
 わたしたちはカメラの反対方向を向いてゴメンナサイをしている乃木坂さんを睨みつけておりました。
「どうかした?」
 潤香先輩と、堀西さんが同時に聞くので、ごまかすのにアセアセの三人でした。

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