大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・トモコパラドクス・6『友子のスペック』

2018-09-24 06:49:35 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・6
 『友子のスペック』  
    


 友子は紀香から、とんでもないことを聞かされた……。

「トモちゃんの娘が極東戦争を引き起こすの」


「え、ええ?」
「いまから五十年後の未来。トモちゃんの娘は極東戦争で、極東地域のリ-ダーになって戦い、最終的には極東地域の指導者になる。それをこころよく思わない人たちが、三十年前に大挙タイムリープして、首都高で、助けようとした国防軍のケインと共にトモちゃんを消そうとした。トモちゃんを消せば、娘は生まれてこないものね」
「ちょ、ちょっと待って。それなら、その子の父親を殺しても同じじゃないの」
「その子の父親は分からないの」
「え、わたしって、そんなふしだらな……」
「ううん、情報が欠落してるの。はっきりしてるのは、トモちゃんが母親だってこと。また、スーパーコンピューターのナユタで計算したらね、父親がだれでも、その子は生まれるの」
「そんな、父親が変われば、当然生まれてくる子も違うでしょ?」
「それが、トモちゃんの遺伝子は強力で、父親が変わっても、生まれてくる女の子は、ほとんど同じなの。トモちゃんの遺伝形質を八十パーセント以上受け継いで、同じ行動をとるの」
「でも……アハハハ、紀香さん、わたしって義体だから子供なんてできないでしょ?」

「それが、できるの」

「え…………!?」
 友子は、思わずズッコケて、椅子からずり落ちそうになった。
「トモちゃんの義体は、義体と生命テクノロジーの結晶なの。あなたには生殖能力があるのよ……」
「うそ!?」
 紀香は、じっと友子の下腹を見つめた。
「そ、そんなマジマジ見ないでくださいよ。なんだか恥ずかしい(#^0^#)」
「トモちゃんの遺伝子情報は、トモちゃんが三十年前に息を引き取る前にCPUに取り込んである。それに合わせて生体組織ができてるから、そういうことも可能なの」
 友子は、思わず自分の下腹に手を当てて、頬を染めた。
「で、わたしの時代では、トモちゃんの娘は生まれてるんだけどね……」
「え、生まれてるの。いやだ、どうしよう。で、どんな子なんですか?」
「それは言えないわ。ただ、そんな世界的な指導者になる兆候は、まるでなし。アジアの情勢も落ち着いてるしね。なゆたで演算しても、可能性は、限りなくゼロ!」

「じゃ、なんでわたしは……」

「そりゃ、国家的な事業計画だもの。義体産業やら生命工学産業のメンツや利権が絡んでるから、今さら中止はできないの」
「地球温暖化と同じ……」
「そう、アジアで将来危機的な国際環境になるって、アンケートに選択肢は三つだけ。『ある』『ない』『どちらとも言えない』があって、『どちらとも言えない』は『ある』に集計されてるの。まったく温暖化のアンケートといっしょ。で、予算執行上止められない計画だから、一応カタキ役として、この白井紀香が派遣されてるって分け……どうかした?」
「なんだか、虚しくなってきちゃった……」
「まあ、一兆円もかけたプロジェクトだから、簡単に中止にはならないでしょ。それまで、どうなるか分からないけど、お互い仲良くやりましょう。はい、ここにサイン」
「え……?」
「入部届!」
 友子は、しぶしぶ入部届にサインした。
「それから、トモちゃんの筋力は十万馬力。多分空も飛べる」
「わたしは、鉄腕アトムか……」
「あとのスペックは、目力は強力」
「おとこ殺し?」
「スペシウム光線出るからね。両手首からはジュニア波動砲、発射の時は手首が百八十度曲がって発射されるから、手首の皮に切れ込みが入って、しばらくはリストカットしたような跡がつくけど、ナノリペアーが三十分ほどで修復してくれる。あとは、わたしにも分からないブラックボックスがいくつか。まあ、自分で、少しずつ覚えることね。はい、ちょうだい」
 紀香は、入部届をふんだくると、保護者欄のところにサラサラと母親の春奈そっくりの筆跡でサイン。ハーっと親指に息を吹きかけると、書類に捺印。拇印かと思ったら、きれいに『鈴木』の三文判の跡。
「すごい、手品みたい!」
「一応これでも、トモちゃんのカタキ役。この書類今日中に出したら、目出度く部員三人で、同好会から正規のクラブになれるの。じゃ、連休明けからよろしく!」

 同窓会館を出ると、街はたそがれていた。

 乃木坂を、ため息つきながら駅へ向かっていくと、紀香が電柱の陰から出てきた。

「え、どこから?」
「わたしだって義体よ。これくらいは夕飯前」
「プ、朝飯前じゃないの?」
「だって、夕飯前の時間でしょ。ちょっと待っててね」
 紀香は、道を渡って、タイ焼き屋に向かった。
「はい、入部祝い!」
 小倉あんのタイ焼きをくれた。ふとタイ焼きの紙袋に目がいった。
「閉店特価……あのお店、閉店なんだ」
「うん、『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』からの名物だったんだけどね……」
「そうだよね、理事長先生が、まどかたちのためにたくさん買ってきてくれたんだよね」
「そう、演劇部再出発の日にね。ヘヘ、縁起担ぎ」
「おいしい……」
「それから、連休明けたら、いちおう先輩だから。言葉遣い、気を付けて!」
「はい!」

 乃木坂に、とてもアクションSFラノベとは思えない、緩くて長い影が二つ長く伸びていった……。

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・29『里中ミッション・1』

2018-09-24 06:41:15 | ボクの妹

が憎たらしいのにはがある・29
『里中ミッション・1』
    


 俺はねねちゃんになってしまった……。

 つまり義体であるねねちゃんのCPにボクの心がインストールされたということで、ボクの体は、今はねねちゃんである。
「インスト-ルは90%に押さえてある。完全にインスト-ルすると、太一は、自分の体も動かせなくなるからな。今日は一日、オレの家で休んでいてくれ」
「で、ミッションは?」
「ねねの行動プログラムに従って、学校に行ってくれ。問題は直ぐに分かる。じゃ、よろしくな」
 そこでボクは車を降ろされた。
 角を曲がって五十メートルも行けば、フェリペの正門だ。視界の右下に小さく俺の視界が写っている。まだ、しばらくは車の中なんだろう。

 五メートルも歩くと違和感を感じた。スカートの中で、自分の内股が擦れ合うのって、とても妙な感覚だ。
――女の子って、こんなふうに自分を感じながら生きてるんだなあ……大したことじゃないけど、男女の感受性の根本に触れたような気がした。

「里中さん、ちょっと」

 担任の声で、わたしは……ねねちゃんになっているんで一人称まで、女の子だ。わたしは職員室に入った。
「失礼します」
「こちら、今日からうちのクラスに入る、佐伯千草子さん。慣れるまで大変だろうから、よろしくね」
「チサって呼んでください。よろしく」
 チサちゃんは、立ち上がってペコリと頭を下げた。
「わたし、里中ねね、よろしくね」
 ほとんど自動的に、笑顔が言葉と手といっしょに出た。チサちゃんがつられて笑顔になる。
 で、握手。
「やっと笑顔になった」
 担任の山田先生が、ホッとした顔をした。ねねちゃんは、単に可愛いだけじゃなく、人間関係を円滑にするようにプログラムされているようだ。

 教室に着いた頃、本来の俺は、里中さんの家にいた。
 車の中からここまではブラックアウトしている。セキュリティーがかかっているんだろう。たとえ一割とは言え、自我が二重になっているのは、ややこしいので、本来の俺は直ぐにベッドに寝かしつけた。

 朝礼まで時間があるので、わたしはチサちゃんに校内の案内をした。

「ザッと見て回ってるんだろうけど、頭に入ってないでしょ」
「うん……」
「こういうことって、コツがあるのよね」

 わたしは、教室、おトイレ、保健室。そして、今日の授業で使う体育館と美術室を案内した。そして、そこで出会った知り合いやら、先生に必ず声をかける。そうすると、場所が人間の記憶といっしょにインプットされるので、ただ場所だけを案内するよりも確かなものになる。
 しかし、行く先々で声を掛ける相手がいるというのは、わたし……ねねちゃんもかなりの人気者なんだ。

「佐伯千草子って言います。父が亡くなったので、伯父さんの家に引き取られて、このフェリペに来ることになりました。大阪には不慣れです。よろしくお願いします」
 短い言葉だったけど、チサちゃんは、要点を外さずに自己紹介できた。最後にペコリと頭を下げて、大きなため息ついて、ハンカチで額の汗を拭った。それが、とてもブキッチョだけども素直な人柄を感じさせ、クラスは暖かい笑いに包まれた。
「がんばったね」
「うん、どうだろ……」
「最初に、自分の境遇をサラリと言えたのは良かったと思うよ」

 三時間目が困った、チサちゃんじゃなくてわたし。

 体育の時間で、みんなが着替える。女子校なもんで、みんな恥じらいもなく平気で着替えている。わたしは、プログラムされているので、一見平気そうにやれるけど、この情報は、寝ている「ボク」の方にも伝わる。案の定、「ボク」は、真っ赤な顔をして目を覚ましたようだ。

 美術の時間、チサちゃんは注目の的だった。

 静物画の油絵だけど、チサちゃんはさっさとデッサンを済ませると、ペィンティングナイフで大胆に色を載せていく。そして五十分で一枚仕上げてしまった。

「まるで、佐伯祐三……佐伯さん、ひょっとして!?」
「あ、その佐伯さんとは関係ありません……」
 それまで、絵に集中していたんだろう、先生やみんなの目が集まっていることに恥じらって、俯いてしまった。
 一枚目は習作のつもりだたのだろう、与えられた二枚目のボードを当然の如く受け取った。
「そこ、場所開けて」
「は、はい……」
 チサちゃんは堂々と自分の場所を確保。だれもが、それに従順に従った。
「先生、この作品は、まだまだ時間が要ります。放課後も描いていいですか?」
「う、うん、いいわよ」

 チサちゃんは、たった一日で、自分の場所を作ってしまった。まあ、それについては、わたしも少しは寄与している。
――これでいいんでしょ、里中さん?
 連絡すると意外な答えが返ってきた。
――これからが、本当のミッションなんだ。

 ターゲットは、帰りの地下鉄の駅前の横断歩道にいた……。

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高校ライトノベル・大阪ガールズコレクション:5『今年は違う 中央区 谷四あたり』

2018-09-23 17:08:23 | 小説7

大阪ガールズコレクション:5

『今年は違う 中央区 谷四あたり

 

 

 お茶していこうよ

 

 予想通りノンコが言う。

 いつも通りなら「お茶していこうや」になる。語尾の「よ」と「や」の違いなんだけど、大阪弁ではニュアンスが違う。

「いこうよ」というのは、たとえ大阪弁のアクセントでもよそ行きです。部活の仲間同士だったら「いこうや」になる。

 予想してたから、伏線を張るために二回も腕時計を見ておいた。

――今日はあかんねん――

 今日日腕時計で時間みるようなもんはいてない。みんなスマホで済ますよね。

 佐川実乃里は「かわいい時計ですねえ!」と食いついてきた。

 これは想定外やったけど――よし!――と思った!

 

 だって、その佐川実乃里と、ここで分かれるためやねんから……。

 

 わたしらは真田山高校の演劇部。

 部員数五人という絵に描いたような零細演劇部。

 ノンコとわたしが三年生。ノッチが二年、タクと佐川実乃里が一年生。

 タクは唯一の男子、ちょっとオネエが入ってて女子ばっかりの演劇部でも平気。TPOをわきまえた子で、今日もBKホールを出る時に「家の者と約束があるんで、これで失礼します」と、自然に消えて行った。

 あとはノンコが「じゃ、解散しよっか」と言えば終わる話。

 

 それが、お茶していこうよ。

 

 今日は、この春卒業した百花(ももか)先輩の新人公演の舞台を観ての帰りなのだ。

 百花先輩は、広瀬すず似の清楚系美人。

 先輩が現役のころ、放課後とかお芝居観ての帰りにお茶にした。

 お店に入ると、ほぼ例外なく視線が集まる。むろん百花先輩に。

 わたしら後輩は先輩の引き立て役なんだけど、けっして不快じゃなかった。

 百花先輩は、最初っから、そういう存在だったし、そう言う先輩に憧れて入部したんだ。

 先輩の侍女って感じで大満足!

 

 今年は違う。

 

 一年の佐川実乃里は百花先輩とは違うタイプのベッピンさん。

 言い方は悪いけど男好きのするタイプ。

 わずかに褐色がかった髪は毛先の方で軽くカールしていて、伸ばしたままでもポニテにしていても、先っぽの方が可愛くクルリンとしている。お母さんが秋田生まれというのが――やっぱりね――と頷ける。右の目が微妙にブルーが入ったオッドアイ。

 ほかにも色々の美点がある子なんだ。

 と、言っても本人の自覚は薄い。

「実乃里ちゃん、モテるでしょ」

 入部した時にかました。実乃里ちゃんは、ワイパーみたいに手を振って否定した。

「いえいえ、弄りやすいんですよわたしって。わたしも合わせちゃうから、みなさんテキトーに女の子とのコミニケーションの稽古台に使っていくんですよ」

「うそうそ!」

「ほんとですってば! 一度もコクられたことないし!」

 

 スタイルとか、処世術で、そう装ってるんじゃなくて、本当に思ってる。

 

 ノンコが「お茶していこうよ」と言い終わった一秒足らずで、そういうことを思った。

 一秒以上間を開けると変に思われる。所帯の小さい演劇部、気まずいのはダメだ。

 覚悟を決めて「そうだね!」と返事しようと空気を吸い込んだ。

 

「ちょっと、みんなーー(^▽^)/」

 

 後ろから明るい声が追いかけてきた。

「「百花先輩!」」

「ダブルキャストだから午後は空いてんの、ね、お茶しよーよ!」

 

 ハーーイ!

 

 元気よく返事するわたしでした。

 

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高校ライトノベル・トモコパラドクス・5『我が敵 白井紀香!』

2018-09-23 06:27:02 | 小説4

トモコパラドクス・5
『我が敵 白井紀香!』 
    


 最初は雑電を拾ったのかと思った……。 
 
 わたしの義体はかなり高性能で、自分でも、そのスペックの全ては分からないくらい。だから、聴覚の点でも、ボンヤリしていると、携帯電話やテレビの電波を拾ってしまい、少し混乱する。人の感情も微弱な電波になるので拾ってしまう。一応フィルターがかかっていて、重要性のないものや、無害な物はカットしている。しかし、この義体が稼動して、まだ一カ月あまり、車で言えば仮免状態。

『雑電じゃないわよ』

 フィルターをかけ直した後、はっきりした意思として伝わってきた。
「だれ……?」
『言葉にしない。思うだけでいい』
『だれ!?』
『あなたの敵……』
 反射的に、友子は十メートル以上ジャンプして、講堂二階の外回廊に着地した。

『過剰反応よ』

 その女生徒は、中庭のベンチに背を向けたまま思念だけを送ってきた。
『今のは、誰にも見られていないわ。降りてらっしゃいよ……人間らしく階段を使ってね』
 その女生徒に害意がないことは、直ぐに分かったので、友子も緊張を解いて、階段を降りて背中合わせのベンチに座った。すると、その女生徒は、親しげに反対側から、こちら側にやってきて、すぐ横に座った。
「鈴木友子さんね、よろしく」
『そんな、敵が親しげにして!』
「この近さでいたら、声に出さない方が不自然でしょ。それにトモちゃん、朝から敵を探そうって……ちょっとやりすぎ」

 親しげに、トモちゃんときた。

「あなたは?」
「あ、ごめん。二年B組の白井紀香。演劇部の部長で、一応トモちゃんが探している敵」
「敵が、どうして、こんなに穏やかなの?」
「わたしたちの上部組織、休戦状態なの。知らなかったでしょ」
「休戦状態……わたしのCPにはプログラムされてないわよ?」
「トモちゃんを送った組織は、わたしの時代以前のホットな時代の人たち。だから敵愾心が強いの」
「白井さんは、もっと新しい時代から来たの?」
「うん。もう、トモちゃんを抹殺しなきゃならないという仮説が崩れた時代」
「じゃ、もう敵なんかじゃないの?」
「それが、ややこしくてね。鈴木友子脅威説は、もう利権化してるの。この時代の地球温暖化説みたいに」
「ああ、あれって二酸化炭素の排出権が利権化したんですよね」
「そ、二十一世紀末には、世紀の大ペテンだって分かるんだけどね。トモちゃん脅威説は、まだ正式には生きてるの。だから予算がつけられ、わたしみたいなのが送られてくるわけよ」
「え~(*o*)!」
「こっち来て」

 わたしは、同窓会館の二階に連れていかれた。そこには古い字で「談話室」と看板が掛けられていた。

「ここって……あの談話室ですよね!?」
「そう、『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』で乃木坂さんが、仰げば尊しの歌の中で消えていった記念の場所」
 白井さんが指を動かすと、部屋の壁が素通しになって、一面満開の桜が透けて見え、ハラハラと桜の花びらが舞い散った。
「ウワー、小説通りだ!」
「ね、トモちゃん。演劇部入らない?」

「え?」

「あの小説のあと、演劇部はガタガタでね、部員はわたしと、トモちゃんのクラスの妙子しかいないのよ」
「ああ、蛸ウィンナーの?」
「うん。役所のアリバイみたいなことで、わたし、この時代にいるけど。目的がないとやってらんないの。今のわたしの目的は演劇部の再建。おねがーい!」
 紀香は、大げさに手を合わせた。
「う~ん、急な話だから、ちょっと考えさせてください」
「ちっ、まどかは、進んで入部したんだよ」
「それ、小説の話でしょ」
「これだって、小説じゃん」
「そんな身もフタもないことを」
「とりあえず、わたしは帰ります」
 友子は、カバンを掴んで、出口に向かった。とたんに桜吹雪は消えて、元の談話室にもどった。

「その前に、トモちゃん。あんた、自分のスペックやら、そもそもの事件の背景、どこまで知ってんの?」
「ん~、敵を見つけて、自分の身と家族を守ること」
「で……?」
「て……それだけ」
「雑だなあ、ちょっと座んなさいよ。レクチャーしてあげるから」
「う、うん……」

 そして、友子は紀香から、とんでもないことを聞かされた……。

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・28『バーチャルな履歴』

2018-09-23 06:20:42 | ボクの妹

妹が憎たらしいのには訳がある・28
『バーチャルな履歴』
    

 

 

 向こうの世界の幸子は、千草子、通称チサと名乗り俺の家に同居することになった。

 髪をショートにして、眉を少し変えたチサちゃんは幸子によく似た従姉妹ということで十分通った。
うちと同姓の佐伯という画家が、この時期に亡くなったので、役所の方で戸籍を改ざんし、チサちゃんは、その遺児ということになっている。甲殻機動隊はチサちゃんの履歴をつくり、パソコンを使って亡くなった佐伯さんの関係者や、チサちゃんが通っていたことになっている人間の記憶にインストールした。むろんチサちゃん自身の記憶もそうなっている。
 これでチサちゃんのグノーシス対策は万全だ。学校は、うちの真田山ではなく、大阪フェリペへの編入ということになった。ねねちゃんといっしょにすることで、セキュリティーにも万全を期したようだ。

「チサちゃん、どうかした?」

 明日から学校という前の日に、チサちゃんは手紙を投函して、帰ってきたとき目が潤んでいた。
「……ううん、なんでも」
 そう言って、チサちゃんは幸子と共用の部屋に駆け込んだ。親父もお袋も心配顔。

 しばらくして、幸子が部屋から出てきた。

「残してきた彼に手紙を書いていたら悲しくなってきたんだって。むろんバーチャルな記憶だけど、ちょっと手が込みすぎ」
「込みすぎって?」
「彼との馴れ初めは、中三の文化祭でクラス優勝して賞状をもらうとき。風で賞状が舞い上がって、クラス代表だった二人が慌てて取ったら、偶然二人がハグしあって……まあ、映像で見て」
 幸子が、テレビをモニターにして映しだした。ハグした二人の唇が一瞬重なった。他にも、二人の恋のエピソードがいくつもあったが、まるでラブコメのワンシーンのようだ。

『あの、ご不満かもしれませんが……』

 高機動車ハナちゃんの声が割り込んできた。ちなみにハナちゃんは、うちの狭い駐車場に割り込んで、二十四時間、ボクたち家族のガードに当たってくれている。
「なんだよ、ハナちゃん」
『チサちゃんの履歴を作ったのは、甲殻機動隊のバーチャル情報の専門機関なんですが、チーフがゲーム会社の出身で……』
「恋愛シュミレーションの専門家……なるほど」
『今でも、細部に手を加えて、更新してます……』
 まあ、それぐらい徹することができる人間でなければ、完ぺきにバーチャルな履歴など作れないのだろう。チサちゃんは、ドラマチックな青春を迎えることになりそうだ……。

 その数日後、俺は甲殻機動隊の里中さんに呼び出された。

 めずらしく高機動車ではなく、普通の自動車であった。
「実は、プライベートで、頼みがあるんだ……」
「いいんですか、グノーシスとか……?」
「あっちは、いま極東戦争で手一杯だ。こっちに干渉している気配もない」
「で、なんですか用件というのは?」
「実は……」

「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」

 というわけで、ボクはねねちゃんになってしまった……。

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高校ライトノベル・トモコパラドクス・4『友子の初登校』

2018-09-22 06:44:32 | 小説4

トモコパラドクス・4
『友子の初登校』  
     


「今日から、このクラスに新しい仲間が増えます。みんなよろしくね。じゃ、鈴木さん、どうぞ!」

 柚木先生の紹介で、友子は教室のドアを開けた。


 それまでに廊下に人の気配を感じていた生徒達は、拍手と共に好奇心むき出しの目で友子を見た。
 友子は、ほどよく頬を染め、うつむき加減で教壇の隅に立った。
「こんど、お家の事情で、この乃木坂学院に転校してきた鈴木友子さんです。鈴木さん、一言どうぞ」
 友子は、緊張した顔で、教壇中央をめざしたが、教壇の端のリノリウムの出っ張りに足を取られて、前につんのめり、こともあろうに柚木先生の胸を両手で掴んでしまった。
「キャ!」
「ウワ!」
「アア~!」
 という声が、順に、友子、柚木先生、生徒(主に男子)からあがった。

 二三秒、そのままの後、友子は急いで手を離した。

 柚木先生も、同性とは言え胸を鷲づかみにされたのは初めてなので、かなり動揺した。
「おもさげねことしてまっで、もうすわげねっす!」
 初めて見る担任の動揺、可憐な見かけとは裏腹な友子の方言に、教室は湧いた。
「あ……ども。鈴木友子です。今の言葉でバレテしまいましたけど、東北の出身です。隠しておこうと思ったんだけど、柚木先生の胸デッケーんでつい方言が出てしまいました。まんず……まず、これから、よろしくお願いします!」

 ゴーーーン


 ペコリと頭を下げると、小柄な友子は、教卓に思い切り頭をぶつけてしまった。
「いでー……」
 切れてはいなかったが、オデコの真ん中が赤く腫れてきた。
「鈴木さん、よかったら、これ使って」
 イケメンの保健委員徳永亮介が、サビオを二枚くれた。
「ありがとう……」
 指定された席に着くと。友子は鏡を見ながらサビオを貼った。しかし、その貼り方がフルっているので、柚木先生が吹きだし、それで注目した生徒達が、また笑い出した。
「その貼り方……」
「だって、カットバン貼るのオデコだから、少しはメンコクと思って……」
 友子のサビオは、見事な×印に貼られていた。
「友子ちゃんの古里じゃ、カットバンて言うの?」
 隣の席の浅田麻衣が、小さな声で聞いた。
「え、東京じゃ、そう言わないの!?」
「声大きいよ。サビオって言うのよ」
「ああ、サビオ。書いとこ……」
 友子が、真面目に生徒手帳に書き出したので、またみんなが笑った。で、また友子の顔が赤くなった。

 友子の噂は、昼には学校中に広まった。なんせ初手からズッコケ、柚木先生の胸を鷲づかみにし、オデコに×印のサビオである。職員室でも「柚木さん、あなた着やせするタイプ?」と同僚の女の先生から言われた。
「どうして?」
「だって、鈴木友子が、そう言ってるって。Dはあるって」
 そこに運悪く、朝礼で出し忘れた書類を友子自身が持ってきた。
「鈴木さん!」
「はい?」
「人の胸のこと話の種にしないでくれる!」
「いいえ、わたしはなんも……」
「だってね……!」
「あ……男子が、先生の胸でっかかったかって聞くもんだから、わたしよりは大きいって、それだけ」
 柚木先生は友子の胸に目を落とした。たしかに友子の胸は小さい。
「話に尾ひれが付いたのよ。友子ちゃん責めるのは可愛そうよ」
「でも、先生のむねは大きくて、わたし感動したんです!」
 友子は地声が大きいので、職員室のみんなが笑った。バーコードの教頭などは、洗面台の鏡に映る柚木先生の胸を、しっかり観察していた。

 お昼は、仲良くなった麻子の仲間といっしょにお弁当を食べた。

「わあ、友子ちゃんて、ちゃんとお弁当作るのね」
「あーー、ただ冷凍庫にあるものチンして詰め込むだけ。お母さん血圧低いから、お弁当は自分」
「でも、ちゃんと玉子焼きなんて焼くんだ」
「チンしてる間に作れるから」
「一個交換していい?」
「うん、どうぞ?」
「あ、プレーンで美味しい」
「液体のお出汁ちょこっと入れるだけ……麻子ちゃんの、甘みと出汁加減が、とってもいい!」
 そこで、五人ほどのグループで玉子焼きの品評会になった。麻子の玉子焼きに人気があった。
「お、懐かしの蛸ウインナー!」
 友子の遠慮のない賞賛に、池田妙子は、惜しげもなく蛸ウインナーを半分にしてくれた。
「お、お醤油の隠し味!」
「うん、焼き上げる直前に垂らすの」
 賑やかにお昼も終わり、放課後になると、柚木先生が遅れてきたこともあり、教室の前は友子見物の、主に男子生徒が集まっていた。

 思惑通りに進んでいた。いずれは現れる敵。目だった方が早く見つけられる……。
 

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・27『新型ねねちゃん』

2018-09-22 06:36:14 | ボクの妹

妹が憎たらしいのには訳がある・27
『新型ねねちゃん』
    


 一瞬分からなかったが、髪をショートにして眉の形を変えた向こうの世界の幸子だった。

 パーカーのフードを取ったのは……ねねちゃんだ。


「審議会の結論は、サッチャンの力を使わないで極東戦争を戦うことになったけど、こちらのグノーシスみんなが賛成してるわけじゃないの。だからセキュリティーの面からも、こちらのサッチャンといっしょにするほうが安全だということ」
「こちらでは、千草子という名で、従姉妹ということになります。チサって呼んでください」
 チサが緊張した顔で言った。
「こちらは……」
「ねねちゃんの新しい義体?」
「里中副長へのお詫び」
「本当は、現状を変化させないため。ねねちゃんが一人いなくなったことのツジツマ合わせは大変。それよりも交換義体のわたしが来た方が合理的でしょ」
 にっこり言ってのけるねねちゃんは、その言ってる内容があまりにプラグマティックなので面食らう。
「面倒かけるわね。ねねちゃんの引き渡しをお願いしたいの。わたしたちじゃ上手くいかないと思うの」
「ねねちゃんが、自分で行ったら?」
「その時点で、里中副長に破壊されるわ。もうすでに一体破壊された」
「どうして……」
「ハンスの実態は、破壊される寸前に他の義体に転送されたわ。今は行方不明。それに義体だったら、いつ誰がハッキングされるか分からない。里中副長はシビアだから、義体のねねちゃんと分かった時点で破壊するわ。だから、あなたに仲介してもらいたいの」
「このねねちゃんは、大丈夫なの?」
「大丈夫。里中副長がスキャンすれば、すぐに分かる。そこに行くまでに破壊されないように、よろしく」

 その日の内に、里中さんに連絡をとって会うことにした。

 お母さんも幸子も、チサちゃんといっしょに暮らせるようになって嬉しいという反応をした。むろん幸子はプログラムモードの反応だけれど、高機動車のハナちゃんまで喜ぶと、単純なぼくは嬉しくなってきた。

 里中さんは、瞬間鋭い殺気を放った。ねねちゃんの姿を見たからだ。

「とにかく、スキャニングをしてください!」
 美シリのミーに言われたとおりに叫んだ。里中さんの目が緑色になった。
「交通信号じゃないからな。OKサインじゃない。スキャニング中なんだ」
 里中さんも、一部義体化しているようだ。
 一瞬の沈黙のあと、里中さんは爆笑した。
「アハハハ……こりゃ、傑作だ!」
「な、何が可笑しいんですか?」
「太一、ねねの目を三十秒見つめてみろ」
「え、ええ?」
 可愛いねねちゃんにロックオン(見つめられたってことだけど、表現としては、まさにロックオン)され、ドギマギした。ちょうど三十秒たって、ボクはねねちゃんといっしょに目をつぶった。そして目を開けるとたまげた。ボクの視界は二つにダブってしまっていた。ゆっくり視界は左右二つに分かれる。

「「え!?」」

 驚きの声がステレオになった。ボクとねねちゃんが同時に叫び、里中さん以外のみんなが面食らった。
 視界の半分にねねちゃんが、もう半分にはボクが写っていた。両方同じような顔で驚いている。
「ねねの視界に集中して」
 里中さんに、そう言われ、ねねちゃんに集中した……ボクはねねちゃんになっていた。
「こ、これ、どうして……?」
 声がねねちゃんになっていて、さらにびっくり。視界の端にボーっと突っ立っているボクの姿が目に入った。
「お母さん、ボクどうなったの?」
「え、ええ!?」
 お母さんが、一歩引いて驚いている。幸子はなにか理解したように、チサちゃんはお母さん同様。ハルは面白くてたまらないように車体を振動させた。
「もういいだろう」
 里中さんの一言で、ボクの視界はもとに戻った。ニコニコしたねねちゃんが、ボクを見ている。
「いま二十秒ほど、お兄ちゃんは、ねねちゃんになったのよ」
「このねねにインストールできるのは、太一、お前一人だ」
「ええ!?」
「このねねは、アナライザー義体だから、情報に関しては双方向。いろんなブロックをかけても、ハッカーの腕がよければ、ねねの人格を支配できる。成り代われると言ってもいい。そういう危険性のあるものなら、必要はない。だが、今の実験で分かったが、人格をインストル-できるのは、太一に限られている。つまりねねのCPの鍵穴は、太一の形をしていて、他のものは受け付けない仕掛けになっている」
「それって……」
「グノーシスにも、ジョ-クとセキュリティーの両方が分かる奴がいるみたいだな」
「なるほど……」
「でも、太一。言っとくけど、この鍵穴は、オレでなきゃ開かん。勝手にねねになることは許さないからな」
「ぼ、ボクに、そんな趣味ないですよ!」
 幸子は憎たらしく方頬で、みんなは遠慮なく爆笑した。
 

 義体だけど、ねねちゃんは本当に可愛い。幸子だって、プログラムモードなら、これくらいの可愛さは発揮できるのだが、自分で押し殺している。早くニュートラルな自分を取り戻したい一心なんだろう。そう思うと、このニクソサも、なんだか痛々しい。

 そして、ボクがねねちゃんにならなければならない事件が、このあとに待っていた……。


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高校ライトノベル・アンドロイド アン・19『アンとお彼岸・1』

2018-09-21 14:32:13 | ノベル

アンドロイド アン・19

『アンとお彼岸・1』

 

 

 あの花は何ていうの?    「彼岸花」の画像検索結果

 

 路傍の花に目を止めて、アンが聞く。

 揃ってスーパーへの買い物の途中、交差点を曲がったところの空き地にホワっと咲いた赤い花を見つけたんだ。

「彼岸花」

「え、花がひがんでるの?」

「ちがうよ、お彼岸の頃に咲く花で、曼殊沙華(まんじゅしゃげ)ともいう。あれが咲くと秋なんだなあって思うわけよ」

「へえ、新一って詳しいんだ、これからは博士ってよぼうか!」

「ハハ、たまたまだよたまたま」

 

 そう言って、思い出した。

 

 柄にもなく彼岸花を曼殊沙華と言う別名込みで覚えていたのはお祖母ちゃんが教えてくれたからだ。

――新ちゃん、あのお花、知ってる?――

 祖母ちゃんが指差した花を見て、ドキッとしたのは保育所のころだ。

「ううん、知らない」

 正直に答えた。名前どころか、赤い触手がホワっと開いて獲物を待っているような様子に、子ども心にもビビったもんだ。

――お彼岸の頃に咲く花でね、あの花が咲くのはご先祖様が戻って来るってお知らせなんだよ――

 そう教えてくれた祖母ちゃんは、その年の暮れに逝ってしまった。

 俺一人置いて海外で仕事ばっかやってる両親は、いたって不信心で、伯父さんがやった法事にも顔を出さない。

 だから、彼岸花の記憶は祖母ちゃんの思い出もろとも記憶の底に沈んでいた。

 

「わあ、お花が増えてる」

 

 スーパーの入り口付近が小さなフラワーコーナーになっていて、言われてみれば陳列されている花が豊富になっている。

「地味な花束がある」

「ああ」

 それは菊を中心にコンパクトにアレンジされた花束で、親譲りの不信心者にも分かる。

 仏壇にお供えする仏花、いわゆる『仏壇のお花』だ。花束ではあるんだが、どうにも陰気臭い。

 その奥の花のアレンジメントが目に入った。

 バスケットに青や紫、ピンクの花がアレンジしてあって――お水に気をつければ三週間もちます――と書いてある。

 

 そして買ってしまった。

 

 まあ、バアチャンのことを思い出したのも縁だろう。

 仏壇もないことだし、仏花よりは、これだろうと思ったわけだ。

 

 レジを済ませて思った。

 アンのやつ、俺にお彼岸とか祖母ちゃんの思い出させるために、わざと花の名前を聞いた?

 だよな、アンのCPUはネットにリンクしているし、独自のアーカイブを持っているフシもある。

 彼岸花を知らないわけはない。

 そっか、そうやって、俺のことフォローしてくれてるんだ……ちょっとだけ胸が熱くなる。

 

「ね、あの花は何ていうの?」

 

 また、空き地の花を指さしやがる。

「彼岸花、さっきも言ったろーが」

「え、そうだっけ?」

 

 キッチンで感電してから、ときどき具合が悪い。

 アンドロイドの認知症か?

「失礼ね!」

 こういうことは口にしなくても反応しやがる。

「アハハハ……」

 

 二人して笑ったが、俺たちのお彼岸はこれからだったのだ……。

 

☆主な登場人物 

 新一    一人暮らしの高校二年生だったが、アンドロイドのアンがやってきてイレギュラーな生活が始まった

 アン    新一の祖父新之助のところからやってきたアンドロイド、二百年未来からやってきたらしいが詳細は不明

 町田夫人  町内の放送局と異名を持つおばさん

 町田老人  町会長 息子の嫁が町田夫人

 玲奈    アンと同じ三組の女生徒

 小金沢灯里 新一憧れの女生徒

 赤沢    新一の遅刻仲間

 早乙女采女 学校一の美少女

 

 

 

 

 

 

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高校ライトノベル・トモコパラドクス・3『あの日の秘密』

2018-09-21 06:57:02 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・3
 『あの日の秘密』  
     


 あらかわ遊園から帰った夜、一郎は夢を見た。

 三十年前の、あの日の夢だった……。


 首都高某所で、事故が起こった。夜の九時頃だった。
「家で待ってなさい!」
 そう言われたが、迎えに来たパトカーに、無理を言って乗り込んだ。代々木に出たところまでは覚えていたが、そのあと意識がもどったのは、病院の待ち合わせのようなところだった。
「もう目が覚めたのか」
 通りかかった白衣のお医者さんのような人が言った。子供心にも「まずかったかな」という気持ちになった。
「この子は、あの子の弟だ、多少、同じ素因をもっているんだろう」
「かもな、我々を見てしまったのなら、見せておくべきかも知れない」
 その時代には存在しない携帯のようなもので、そのお医者さんのような人は連絡をとった。
「分かりました。連れていきます。あれ飲ませといて」
 もう一人の、見れば若そうなお医者さんみたいな人に指示して行ってしまった。

 さっき飲まされたジュースのようなもののせいかもしれないが、一郎は、すごく落ち着いた気持ちでエレベーターにのせられ、地下何階かで降りて、長い廊下を歩いた。
 扉が二重になった部屋は機材の少ない実験室のようだった。

 そして正面のガラスの向こうに、姉が裸で横たわっていた。

「おねえちゃん……」
 その姉の姿には命を感じなかった。姉の手術台が百八十度回った。見えた姉の左半身は、焼けただれていた。
「おねえちゃん、死んじゃったの?」
「それを今から説明するの」
 いつのまにか、白衣の女の人が立っていた。とてもきれいな人だったけど、地球の人ではないような気もした。
「お姉さんは、首都高を車に乗せられてすごいスピードで走っていたの」
「……誘拐されたの?」
「その逆。誘拐されかけたのを仲間が助けたの。でも間に合わなくて、車ごと吹き飛ばされた」

 女の人が、リモコンみたいなのを押すと、逃げ回る車を追いかけている、ローターの無いヘリコプターみたいなのが三つ見えた。それがSF映画のように逃げる車を追いかけ回し、目に見えない弾のような物を撃っていた。弾と、その周辺の空間が歪むので弾なんだと分かった。路面に落ちたそれは、微かに光って消えてしまうが、巻き添えを食った他の車に当たると、ハンドルを切り損ねたようにスピンしたり、前転したりして、車や側壁に当たって、事故のようになる。
 やがて、トンネルに入る寸前で、その車に命中し、車は三回スピンし、トンネルの入り口に激突。ボンネットから火が噴き出し、またたくうちに、車は火に包まれた。なんだか外国語で命ずるような声がして、カメラは路面に降り立ち、他のヘリからもまわりの空間が歪むことで、それと知れる人間達が降りてきた。

 やがて、車から、煙をまといながら男がおねえちゃんをだっこして出てきた。一瞬身構える男。見えない弾丸が空間を歪ませながら飛んでいく。身軽に男は、それをかわすが、おねえちゃんを庇って背中に二発命中した。男は再び燃え上がり、おねえちゃんは路面に投げ出された。
 その直後、敵の男達が、どこからか飛んでくる弾に当たって、次々と倒れ、画面も横倒しになって消えてしまった。

「これ、オバサンたちが助けたんだね……」
「理解が早いわね。このあとお姉さんだけを救助して、ここに運んだ」
「……男の人は、おねえちゃんを庇って死んだんだね」
「そう、そしてお姉さんも、さっき息を引き取ったの」
「じゃ……」

 映画の出来事のように冷静に喋れるのは、さっき飲んだ薬のせいだろう。

「でもね、こっちを見て……」
 ガラスの向こうでカーテンが開き、金属で出来た骸骨の標本みたいなものが現れた。よく見ると、そいつの骨の間には、部品のようなものが入っていて、見ようによっては作りかけのサイボーグのようにも見えた。
「作りかけのロボット。お姉さんの記憶は、脳が死ぬ前に、こっちのロボットのここに入力した」
 女の人は、自分の頭の当たりを指差した。
「じゃ、おねえちゃんは!?」
 初めて感情のこもった声が出た。
「そう、死んじゃいないわ。体が替わっただけ」
「おねーちゃん!」
 一郎は、ガラスを叩いた。
「ぼく、ガラスを叩いちゃ……」
「いいわよ。感情を抑制しすぎると精神に影響するわ」
「おねえちゃん……生き返るの……?」

 一郎は、聞いてはいけないクイズの、最後の答を催促するようにオズオズと聞いた。

「動力炉、それと生体組織がなんとかなればね」
「なに、それ……?」
「エンジンと、ボディー。エンジン無しじゃ車は走れないでしょ。ロボットもね。それにスケルトンのままじゃ外に出せないでしょう。わたしは、これの専門家じゃないから、そこまでは手が回らないの。都合をつけてもどってくるわ。それが、明日になるか、十年後になるかは、分からないけどね。時間軸の座標を合わせるのは、少し難しいの。それに、これは違法なことだしね」

 親たちには、娘は事故死したと伝えられ、焼けただれた右半身を隠した遺体をみせられ。両親は娘は死んだことで納得した。
 晩婚だった両親の悲しみは深く、葬儀のあと、急に老け込んだ。それでも幼い一郎のためにがんばり、父は去年亡くなり、認知症の母は介護付き老人ホームに入っている。

 事故そのものは、首都高の連続事故として処理され、そして、三十年の歳月が流れた。

『明日、十時、代々木の○○交差点でお待ちしています』
 そのメールがやって来たのが一カ月前だった。

 そして、三十年ぶりに会った姉は、当時の十五歳の姿のまま、羊水の中でまどろんでいた。

「ここまで、歳が離れちゃお姉ちゃんというわけにはいかないなあ」
 当時若かった、初老の医者が、そう言った。
「大伯父の孫娘、親が亡くなって見寄なし……という線でいきましょう。書類やアリバイ工作に時間がかかるから、一カ月後ということにしましょう」
 女の人は、ひとりだけ、三十年前の若さで、そう言った。

 そこで目が覚めた。血圧の低い春奈は、まだ眠っている。

「おーい、友子、もう起きろよ……」
 すると、後ろで声がした。
「どう、さっき来たの。乃木坂学院の制服。似合うでしょ!」

 制服を着て、スピンした女子高生の姿は、とても姉とは思えない可憐さであった。

「二十八年下の姉ちゃんか」

 振り返った友子が、スリッパを投げてきた。見事に命中し、いかにも軽い音がした……。

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・26『高機動車ハナちゃん』

2018-09-21 06:19:44 | ボクの妹

妹が憎たらしいのには訳がある・26
『高機動車ハナちゃん』
    


 平穏な日々が続いた。

 校舎の屋上でのねねちゃん爆殺事件は、里中副長と幸子の手際の良さで、だれも気づかなかった。
 

 情報衛星が一機、爆殺の瞬間の熱をサーモグラフィーで捉えていたが、調子に乗った生徒が、ちょっと多目の花火遊びをやったということでケリが付いた。
 当然甲殻機動隊が手を回したことだけど、ご丁寧に大量の花火の燃えかすまで撒いていった。
 おかげで、全校集会で、生徒全員が絞られ、屋上は当面生徒の立ち入りは禁止された。
 向こうの幸子は姿が消えた。グノーシスの誰かがリープさせたようだ。しばらくして『当方の幸子は、こちらで預かる。義体化はしない。グノーシス評議会』というメールが入った。

 ブログが炎上した。

 と言っても、屋上の事件とは関係ない。

 幸子のモノマネは、マスコミでも頻繁に取り上げられるようになり、話題になった。特にAKRのセンター小野寺潤と、初代オモクロの桃畑律子のモノマネは、前者は過激なファンから。後者は、アジア問題を気にする有象無象から。それぞれ賛否両論のコメントが数万件も来た。
「なんだか昔のわたしみたいね。でも、頑張ってね!」
 と、モノマネの大御所キンタローさんからも応援を頂いた。

「サッチャン、がんばってね~」

 練習を終えたばかりの演劇部の子達が、ブンブン手を振って送り出してくれた。
「幸子、ほんとにこの調子でやってくつもりか?」
「うん。このお陰で、神経回路がすごく発達してるような気がするの。幸子、ニュートラルの状態でも笑顔になれるようにがんばるわ」
 幸子は、学校とモノマネタレントとしての使い分けを見事にやりこなしていた。学校の授業はもちろんのこと、演劇部とケイオンの部活も休まず。放課後と土日だけを、タレント業にあてている。

 まいったのは俺の方だ。俺は、テイのいい付き人。
 マネージャーはお母さんがやっている。

 放課後と土日だけのスケジュールなので、お母さんはラクチン。車の運転さえしない。車はガードを兼ねて甲殻機動隊が貸してくれた完全オートの高機動車。音声を女の子にして「ハナちゃん」と名付けられた。
『オカアサン、編集のラフできました(^0^)』
「ありがとうハナちゃん。助かるわ」
『いえいえ、ハナも勉強になりま~す』
 ハナちゃんは、目的地まで運転している間に、お母さんのアシスタントまでこなしている。
「ハナちゃんの学習意欲は、よく分かるわ。今のわたしといっしょ」
『そんな、幸子さんとハナとでは機能が二桁違いますからね。ま、励ましのお言葉として受け止めておきます。太一さん起きて下さい。あと一分で到着ですよ~♪』
「☆○×!!……その電気ショックで起こすのは止めてくれないかなあ」
「これが、一番効果的だと学習したの~」
 ハナちゃんと、お母さん・幸子は相性がいいようだが、俺は、もう一つ馬が合わない。

「おはようございます。今日は小野寺さんと、共演になりましたのでよろしく」
「え、やだ。わたし緊張、チョー緊張!」
 プログラムモ-ドの幸子は、憎たらしいほどに可愛い。衣装をかついで控え室へ。お母さんは幸子を連れて、ゲストのみなさんに挨拶回り。

 控え室には先客がいた。寝ぼけ頭の俺は一瞬部屋を間違えたかと思った。

「少しだけ時間を下さい、太一さん……」
 モデルのようにスタイルのいい女の人が、部屋間違いでないことを間接的に。で、次の言葉で直接的な目的を言った。
「この二人を預かっていただきたいんです」
「あ、どうぞ掛けてください……あ、あんたは!?」
 ボクは、ナイスバディーの女の人のヒップラインで気づいた。
「美シリ三姉妹……」
「の……ミーです。でも今は敵じゃありませんから」
「その二人は……」
 二人は、ニット帽とパーカーのフードをとった。
「き、君たちは……!」

 ボクは、しばらくフリーズしてしまった……。


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高校ライトノベル・トモコパラドクス・2『あらかわ遊園』

2018-09-20 07:02:12 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・2
 『あらかわ遊園』  
     


「残念、明日だったら『川の手荒川まつり』があったのに」

 友子が「チッ」と舌を鳴らした。


 結成四日目の家族は、連休の二日目を「あらかわ遊園」で過ごすしている。
 もっと他に有りそうなもんだと一郎は思ったが、妻の春奈と娘の友子の意見が一致したのだからしかたがない。

「荒川の名産品なんかが見られるんだって」
「荒川の名産見てもな……」
「荒川周辺て、再開発が進んで人口も増えてるから、マーケティングリサーチの値打ちあるかもよ」
「仕事の話はよそうぜ、休みなんだから」
「あなたは、新製品開発のプロジェクトチームなんだから、アンテナ張ってなきゃダメじゃん」
「ま、いずれにしろ、『川の手荒川まつり』は明日なんだから、仕方ないだろ」
「そういう態度がね……」
 と、夫婦ゲンカになりそうなところに、友子が戻ってきた。
「明日は、お墓参りだもんね。はい」
 友子は器用に持ったソフトクリームを配給した。とりあえずバニラ味の冷たさで、ヒートアップは収まった。
「ね、こっち、生まれたばっかりのヤギの赤ちゃんがいるよ!」
「走ったら、アイスおちるぞ!」
「そんなドジしませ~ん」

 ふれあい広場にいくと、親のヤギに混じって、生まれて間もない三匹の子ヤギがのんびりしていた。

 ここに来るのは、小さな子連れの親子が多く、鈴木一家は浮いて見えないこともないが、雰囲気は十分周りに馴染んでいた。 
「こんなのはディズニーランドや、スカイツリーじゃ味わえないもんね」
 子ヤギが、なにか楽しいのだろう、ピョンピョン跳ね出した。
「チャンス!」
 友子も、ピョンピョン跳ね出した。
「ねえ、タイミング計ってシャメって!」
 一郎は分からなかったが、春奈がすぐに反応した。シャメを連写モードにしたのだ。
「あは、これかわいい!」
「どれどれ」
 子ヤギ三頭と友子が、同時に空中浮遊しているように見える写真が二枚あった。
「あ~、これいいけど、おパンツ見えてる」
「いいわよこれくらい。健康的なお色気。ウフフ」
 それを聞きつけた女の子たちが遠慮無く覗きに来て「わたしもやる~!」ということで、あちこちで、おパンツ丸出しジャンプ大会になった。

 それを見て無邪気に笑っている友子は、アイドルといってもおかしくないほど明るい少女であった。

「ここだと、スカイツリーがよく見えるんだ!」
 観覧車に乗ったとき、めずらしく一郎が反応した。
「ね、穴場でしょ」
 友子が得意そう。
「ちょっとあなた、手を出して」
「え……」
「はやく、もうちょっと下!」
「ああ、こうね」

 友子の方が理解が早く、いいシャメが撮れた。まるで、友子が手の上に載せているようにスカイツリーが写っていた。

「荒川って、銭湯の数が日本一多いんだよ」
 スカイサイクルに乗っているときに、友子が言った。
「荒川の子って、そういうところで青春してるんだ。ちょっとオシャレじゃない?」
 そう言って、背中を向けると、友子はアリスの広場に向かった。今の友子の言葉に仕事のアイデアとして閃くものがあったが、お日さまのまぶしさでクシャミをしたら、吹っ飛んでしまった。まあ、一郎の職業意識というのは、この程度のものであり、同じ実生堂(みしょうどう)の社員としても、夫としても不足に感じるところだ。

「ここ、こっちに来て」

 セミロングの髪を川風にそよがせながら友子が手を振っている。

「どうしてここなの?」
 春奈が、ランチボックスを広げながら聞いた。
「ここはね、まどかと忠友クンが運命のデートをするとこなの」
「なんだい、それ?」
「これよ」
 友子が、リュックから青雲書房のラノベを出した。
「『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』……これ、ともチャンが行く学校じゃない!?」
「うん、ドジでマヌケだけど、わたし、この話も、登場人物も好き。こんな青春が送れたらいいなって思っちゃった。ね、ここ、なんでアリスの広場っていうか知ってる? 知ってる人!」
 友子が自分で言って、自分一人が手をあげた。
「あのね。荒川リバーサイドの頭文字。ね、ARSでアリス」
「ハハ、オヤジギャグ」
 春奈が笑う。
「オヤジの感覚って、捨てたもんじゃないと思うわよ。その『まどか』の作者も六十歳だけど、青春を見つめる目は、いけてるわよ。忠友クンが、キスのフライングゲットしようとしたとき、そのアリスの広場のギャグが出てくんのよ」
「ラノベか……」
 そう呟きながら、一郎も春奈も、サンドイッチをつまみながら『まどか』を読み始めていた。のめり込んで一章の終わり頃までくると寝息が聞こえた。
 友子が、ベンチで丸くなって居眠っている。

 一郎は、初めて友子に会った時のことを思い出した。

 羊水の中で丸まった友子は、天使のようで、とても三十年ぶりの再会とは思えなかった……。
 

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・25『序曲の終わり』

2018-09-20 06:48:42 | ボクの妹

妹が憎たらしいのには訳がある・25
『序曲の終わり』
    


 甲殻機動隊里中副長の娘のねねちゃんが立っていた……。

「あなたは……」
「この子は……」
「義体ね」
「ああ、中味は、グノーシスのハンス。性別・年齢不明だけど、いちおう味方だよ」
 ボクが安心すると、ねねちゃんは労るように言い添える。
「AGRの連中が、そっちのサッチャンを狙ってる。甲殻機動隊で保護させてもらうわ」
「そりゃありがたい。幸子、この子は、一応ねねちゃんと言って……」
「里中副長さんの娘さん」
「幸子、知ってたのか?」
「お兄ちゃんの記憶を読んだの」
「だったら話は早いや。甲殻機動隊なら安心できるからな」
「そう、じゃ、預かっていくわね……」

 ダメよ

 近寄ったねねちゃんを、幸子はさえぎった。

「そうはさせない。このサッチャンを利用しようとしているのは、あなただもん」

「え?」

 俺は混乱した。駅前で出会って以来、ねねちゃんは中身はハンスでも俺たちの味方だった。

「なにをバカなことを。わたしはハンス。あなたたちの味方よ……」
「違う。このサッチャンを使って、そちらの極東戦争を有利に運ぼうというのが、評議会の決定だものね」
「チ……心が読めるのねっ!」

 バッシャーン!

 ねねちゃんは窓ガラスを蹴破って、屋上に飛び出していった。
「サッチャンのこと見てて!」
 そういうと幸子も、破れた窓から屋上に飛び上がっていった。

「残念ながら、ヘリコプターは甲殻機動隊がハッキングしたみたいね。ここには来ないわ」
 かなた上空でヘリコプターが、お尻を振って飛び去るのが見えた。
「デコイの偽像映像もまずかったな」
 屋上で待ち伏せていた里中副長が、アゴを撫でながら言った。
「どうしてデコイと分かったの?」
「こっちのサッチャンは、兄貴と二人のときは絶対に笑わない。ニュートラルな時は、ニクソイまんまだ」
「評議会の結論が変わったのね……」
「ああ、美シリたちが工作してな。そういう情報のネットワーク化ができないのが、そっちの弱みなんだな」
「だから、サッチャンを使ってグロ-バルネットにしようと思ったのに……」
「ご都合主義なんだよ……」
「お父さん……」
「あばよ……」
 里中副長は、背中に隠し持っていたグレネードで、幸子が蹴りを入れる寸前のねねちゃんを始末した。

「殺しちゃったら、何も情報が得られないわ……」

「こいつに余裕を持たせると時間を止められてしまう。サッチャンの蹴りの気迫が、こいつの隙になった。礼を言うよ。ガーディアンがガード対象に救われてちゃ世話ねえけどな」
 そう言いながら、里中副長は、ねねちゃんの残骸をシュラフに詰め始めた。
「洗浄は、わたしがやっとく」
「すまん。ガードは、しばらく部下がやる。いちおう、義体はオレの娘だったから、始末ぐらいは、オレの手でしてやりたいんでな」
「始末なんて言わないで」
「じゃ、なんて……?」
「自分の口から言わなきゃ意味無いわ」
「……じゃ、言わねえ。ただハンスは」
「ハンスは、いま死んだわ。なにか?」
「……いや、なんでもねえ」
 そう言い残すと、里中副長は非常階段を降りていった。幸子は、屋上に残ったねねちゃんの生体組織から飛び散った血液と微細片を高圧ホースで流していった。

 ここまで……ここまでのことは、ここから起こるパラレル世界とグノーシス骨肉の争いに巻き込まれる戦いの序曲に過ぎなかった……。



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高校ライトノベル・栞のセンチメートルジャーニー・5『山高の裏側を周る』

2018-09-19 13:37:41 | ライトノベルベスト

栞のセンチメートルジャーニー・5
『山高の裏側を周る』
    
 八尾市の東を南北に流れる玉櫛川    

 

 川と言うよりは疎水で、川に並行した東側に二車線のアスファルト道が走っているところなど、京都の高瀬川に似ている。

 高瀬川の西は祇園のお茶屋さん街の裏手になって通行はかなわないが、玉櫛川はよく整備された遊歩道が寄り添っている。

 

 高安の住人であるわたしは、ぼんやり散歩していると、たいてい玉櫛川の遊歩道をウカウカと歩いている。

 

 あ、行き過ぎた。

 そう思ったのは、足もとのレンガ舗装がむき出しの土道になっていたからだ。

 玉櫛川遊歩道の整備は近鉄山本を中心に南北二キロずつほどであり、行き過ぎると暗渠や土道になっている。

 兄ちゃんの目は節穴だなあ。

 桜の落ち葉をクルクルもてあそんでいた栞がジト目で言う。

「あ……リープしてしもた?」

「どうやら、昭和四十六年ごろ……もうちょっと行くと山本高校があるはず」

 言われて首を巡らすと、某政党の事務所になりながらも原形をよく保っている風呂屋が現役に戻っていて、煙突からはモクモクと煙を吐いている。

 遊歩道沿いの民家は、戦前からのお屋敷街で、今の時代とほとんど変わっていない。

 

 キ~ンコ~ンカ~コ~ン キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン

 

 山本高校か隣接する山本小学校のか分からないチャイムが聞こえてきた。

「小学校だね、まだ三時まわったとこだし」

 栞が判断すると、それが合図だったみたいに小学生たちがゾロゾロ向かってくる。

 百メートル歩で手前の俺たちのところまで、そのさんざめきが聞こえてくる。

 道幅二メートルほどの遊歩道で小学生の集団と行き違うのは後免こうむりたい。

「脇の道いくぞ」

「栞はこっちがいい」

 向かってくる小学生と同じ無邪気な笑みを浮かべてスタスタ向かって行く。

「ほんなら、グルッと回って、山高前で落ち合うぞ!」

 分かった! 

 後姿で手だけで返事すると玉櫛川を遡行する鯉のように行ってしまった。

 

 一本だけ道を逸れて北上する。

 

 平成三十年の今日では、あちこち今風に建て替わっているが、昭和46年では少年探偵団か月光仮面の舞台になりそうなお屋敷と、意外に田畑が見え隠れする。

 すぐに山高裏のブロック塀。

 右手に今と変わらぬ体育館から、バレーボールをやっているんだろう、体育館シューズのキュッキュと擦れる音や生徒たちの声がこぼれてくる。

 ブロック塀を左に目を向けると、今まさに乗り越えて脱走を図る学生服が見える。

 三人目の学生服にビックリした。

 

 あれはTだ!

 

 先年、還暦を過ぎて二年ほどで逝ってしまった親友だ。

 ロバート・ミッチャムに似た一癖有り気なTは身軽にペッタンコ鞄を受け取ると、お仲間とも手下ともつかぬ二人を引き連れて、こちらに向かってきた。

 大脱走ならバイクに乗ったスティーブ・マックィーンだが、手下を連れたロバート・ミッチャムでもサマになる。

 三十年務めた教師の目で見てしまう。

 たばこ喫われたらかなんなあ……反射的に思ってしまう。

 いやいや、こいつらは喫わへん。

 Tは中坊のころからタバコを嗜んでいたが、学ランを着ている間は学校近辺では喫わない仁義を心得ていたはずだ。

 六時間目ブッチしてどこ行きよるんや……?

 電柱一本分まで来たところで、小柄なやつがポケットからチラシを出して、眼鏡の奴とニヤニヤ。

 すると、Tが二人の頭を叩いた。

 チラリ見えたチラシと三人の様子でピンときた。

 

 こいつら、天満か西九条あたりまで足伸ばしてストリップ観に行くんやなあ。

 

 生前のTからエピソードが蘇る。

 

 あと五メートルほどですれ違うところで三人がわたしに気づいた。

 小柄は怯えたような表情に、ノッポはソッポを向き、Tは目を細めて睨んできた。

 これは意外なところで先敵に出くわした時の反応だ。

 辞めて十年になるが、身に付いたオーラがあるんだろう。こっちも気まずい。

 すれ違う瞬間に互いに目線を避けて事なきを……数秒して振り返ると、Tも一瞬振り返った。

 

 山高をぐるりと回って栞と落ち合う。すでに山高のチャイムも鳴って、下校時間の真っ最中だ。

 

「あーおもしろかった!」

 小学生の群れを遡行した栞は、いつになく生き生きしている。

 そうか、こいつは十七歳のなりはしているが三か月で堕ろされた水子だ。

 きっとランドセル背負って学校にも通ってみたかっただろう。

「あ、おねえさんに出会ったよ」

「おねえさん?」

 栞にとっての姉はわたしにとっても姉で、この秋で六十八の婆さんだ。

「違うわよ、お義姉さん! ほら、あそこ」

 栞が指差した先には二人の友だちと笑いながら駅に向かうセーラー服の後姿があった。

 思い出した。カミさんも山高の卒業生で、昭和四十六年といえば一年生だ。

「まだ間に合うよ、追いかけようか!」

「そ、それだけはやめてくれ!」

 

 山高の裏側を周ってきて正解だった……。

 

 

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高校ライトノベル・トモコパラドクス・1『友子と一郎』

2018-09-19 07:44:01 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・1 
 『友子と一郎』  
          


 切符!
 
 二枚の切符を指に挟んでヒラヒラさせながら、一郎の後ろで友子が言った。


「ありがとう……」
 通せんぼした自動改札から戻りながら、一郎は友子に礼を言う。

 スイカと切符を手にした見っともなさに気づいて、オロオロとスイカをポケットに。

「いけませんね」
「いや、ついいつもの通勤の感覚になっちゃって」
「520円貸しね」
「あとでな、もう電車来るよ」
「電車は、まだ二駅前を出たとこ。こういうことは、すぐに精算しとかなきゃ、お父さん、すぐ忘れるんだもん」
「はいはい、20円……ないや。500円で辛抱しろ」
「50円玉あるじゃん。はい、おつり30円」
 こういうことには細かい奴である、友子という奴は。
「もう少し離れて立ってろよ」
「いいじゃん、親子なんだから」

 どうもしっくりいかない。制服姿の女子高生と並んで電車を待つなんて、ほとんど二十年ぶりである。

「落ちたらどうする?」
 電車に乗って、一郎はすぐに聞いた。
「落ちないわ。賢いのよわたし」
「しかし、乃木坂って偏差値67もあるんだぞ」
「68よ。それから、乃木坂は都立。わたしが受けるのは乃木坂学院。間違わないでよね」
 そこで、車両がカーブを曲がったので、一郎は反対側のドアまでよろけてしまった。幸い土曜日で、人が少なく、ぶつかって恥をかくようなことはなかった。
「運動不足」
 友子は揺らぎもせずに、横を向いたまま、ニクソげに言う。
「いつも乗ってる電車じゃないからな……」
「わたしだって初めてよ。じゃ、歳のせいだ」
「あのな……」
「さっき、カーブを曲がりますってアナウンスあったよ」
「うそ?」
「あった」

 斜め前の席に座っていたオバサンたちがクスクス笑っている。もう一言言おうと思ったが、友子がアサッテの方を向いてしまったので、やむなく一郎は口をつぐんだ。

「この成績なら問題ありません。合格です」

「ふぁい……どうもありがとうございました」
 転入試験のあと、控え室で居眠ってしまった一郎は、結果を知らせてきた教頭に、しまらない返事をしてしまった。
「どうもありがとうございました。これからは乃木坂学院の生徒として恥じない高校生になりたいと思います。未熟者ですが、よろしくお願い致します」
 年相応に頬を染め、でもハキハキとした返事をする友子。
「しっかりしたお嬢さんだ、期待していますよ。今日書いて頂く書類は、こちらになります。あとは初登校するときに、娘さんに持たせてください」
 その時、ドアがノックされ、ヒッツメ頭の女性が入ってきた。
「あ、こちらが担任になる柚木です。あとの細かいとこや、校内の案内をしてもらってください」
 そう言って教頭は部屋を出て行った。

「制服は9号の方がよくないかしら。まだまだ背は伸びるかもしれないから」

「いいんです。わたしは、これ以上は伸びません……ってか、このくらいが気に入ってるんです」
「そう、まあ、わたしも高一から身長は止まってしまいましたけどね」
「へえ、柚木先生もそうだったんですか!?」
 友子は、担任というより仲間を見つけたような気持ちで、明るく言ってしまった。
「でも、横にはね……大人って大変ですよね、お父さん」
「いやいや、先生みたいな方なら、うちの会社のモデルでも勤まりますよ」
 そう言いながら、一郎は、いま頓挫しているプロジェクトのことが頭をかすめた。
「実生堂の化粧品なんて、縁がないですよ」
「いやいや、ご謙遜を」
「よかったら、このタブレットでご確認いただいて、ここにタッチしていただければ、この連休中にも、必要なものは揃いますわ」
「……はい、友子、これでいいな?」
「はい、もう確認しました」
「じゃ、次は、校内の確認を……」

「おかえり、どうだった、ともチャン?」

 春奈が、エプロンで手を拭きながら玄関まで出迎えてくれた。

 春奈は、最後まで友子を引き取ることに反対した。いくら自分たちに子供ができることを断念したとはいえ、いきなり15歳の女子高生の母親になることには抵抗があった。

 それが、コロっと変わったのは、友子を引き取る条件が破格であったからである。養育費が月に20万円。それも一年分前払い。さらに一千万円ほど残っていた家のロ-ンを払ってくれるという条件だった。

 三日前に現物の友子が現れてからは、さらに態度が変わった。

 裕福な両親を亡くしたとは言え、これだけの好条件で来るのだから、写真や経歴だけでは分からないむつかしさのある子だと覚悟していた。
 それが、会ってみると、春奈は一目で気に入った。会社でも営業部を代表して新入社員の面接をやってきている春奈には、とびきりの女の子に見えた。きちんと躾られた物腰。こちらの気分に合わせてとる距離感。また、家事もいっぺんで要領を覚え、明くる日には冷蔵庫と食器棚の整理を任せた。

「あの……呼んでもいいですか?」
「え、なに?」
「その……お母さん、て」

 夕べ、頬染め、おずおずと言われたときは、思わず涙が浮かび、春奈は友子と泣きながら抱き合っていた。

 食後、春奈が風呂に入ると、リビングでくつろいでいた一郎に友子が視線を向けた。

「一郎、今日のあんたの態度ね……」

 それは、もう可憐な女子高生のそれでは無かった……。
 

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・24『むこうの幸子ちゃんを救出』

2018-09-19 06:42:18 | ボクの妹

妹が憎たらしいのには訳がある・24
『むこうの幸子ちゃんを救出』
    


 満場の拍手だった!

 生徒会主催の新入生歓迎会は例年視聴覚教室で行われる。
 しかし、今回は二つの理由で体育館に移された。
 飛行機突入事件で、視聴覚教室が使えなくなったこと。

 そして、今年は大勢の参加者が見込まれたからだ。

 去年、俺が新入生だったときの歓迎会はショボかった。

 なんと言っても自由参加。ケイオンもまだスニーカーエイジには出場しておらず、それほどの集客力が無かった。
 今年は違う。
 加藤先輩たちが、昨年のスニーカーエイジで準優勝。これだけで、新入生の半分は、確実に見に来る。
 そして、なにより幸子のパフォーマンスがある。
 路上ライブやテレビ出演で、幸子は、ちょっとした時の人だ。二三年生の野次馬もかなり参加して、広い体育館が一杯になった。
「わたしらにも一言喋らせてくれんかね」という校長と教務主任の吉田先生の飛び入りは、丁重にケイオン顧問の蟹江先生が断ってくれた。普段はなにも口出ししない顧問で、みんな軽く見ていたが、ここ一番は頼りになる先生だと見なおした。

 幸子は演劇部の代表だったが、ケイオンが放送部に手を回した。

――それでは、ケイオンと演劇部のプレゼンテーションを兼ねて、佐伯幸子さん!
 

 満場の拍手になった。
 

 最初に、幸子がAKRの小野寺潤と、桃畑律子のソックリをやって、観衆を沸かし、三曲目は、最近ヒットチャートのトップを飾っているツングの曲を、加藤先輩とのディユオでやってのけた。
 もちろんバックバンドはケイオンのベテラン揃い。演劇部の山元と宮本の先輩は、単なる照明係になってしまった。

 結果的には、ケイオンに四十人、演劇部には幸子を含め三人の新入部員。正直演劇部には気の毒だったが、気の良い二人の先輩は「規模に見合うた、部員数や」と喜んでくれたのが救いだった。

――お兄ちゃん、生物準備室まで来て。

 そのメールで、俺は、生物準備室に急いだ。

 用があるなら、幸子は自分でやってくるはずだ。きっと、なにかあったんだ。

「おい、幸子」
「まだ、入っちゃダメ!」
 中で衣擦れの音がする……例によって着替えているんだろうか。それなら進歩と言える。いつもは大概裸同然だったりするから。
「いいわよ」
 やっと声がかかって、準備室に入るとラベンダーの香りがした。昔のSFにこんなシュチュエーションがあったなあと思った。
「ドアを閉めて」
 そこには、二人の幸子が立っていた。
「どっちが……」
「わたしが、こっちの幸子。で、こちらが向こうの幸子ちゃん。やっと呼ぶことができたの」
 二人とも無機質な表情なので、区別がつかない。とりあえず、今喋ったのが、うちの幸子だろう。
「義体化される寸前に、こっちに呼んだの。麻酔がかかってるから、立っているのが精一杯」
「義体化?」
「危険な目にあったら、自動的にタイムリープするように、リープカプセルを幸子ちゃんの体に埋め込んでおいたの。こっちの世界に居ながらの操作で、手間取っちゃったけどね。それが、このラベンダーの香り」
「なんで、この幸子ちゃんが、義体化を……事故かなんかか?」
「ううん。向こうの戦争に使うため。幸子ちゃんを作戦の立案と指令のブレインにしようとしたのよ。わたしとほとんど同じDNAだから狙われたのね」
「おまえは命を狙われてるのに……」
「それが、6・25%の違い。この幸子ちゃんは、わたしより従順なの……」

 その時、準備室のドアが音もなく開いた。

「だれ!?」
 こっちの幸子が一番先に気が付いた。
「……やっぱ、サッチャンは鋭いわね」

 そこには、甲殻機動隊副長の娘のねねちゃんが立っていた……。
 


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