大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・213『前畑がんばれ! 飛脚に似てる!』

2021-06-21 13:53:06 | ノベル

・213

『前畑がんばれ! 飛脚に似てる!』   さくら    

 

 

 ほお、前畑がんばれやなあ。

 

 洗い直した水着を取り込もうとしたら、後ろでお祖父ちゃんの声。

「え、なにそれ?」

 たとえ身内でもテイ兄ちゃんとかやったらハズイねんけど、お祖父ちゃんぐらいに枯れてると、ふつう。

「戦前のオリンピックで、前畑いう女の水泳選手がクロールで優勝したんやけどな、その時の実況中継のアナウンサーも熱狂してしもて、ゴールするまで、ひたすら「前畑がんばれ!前畑がんばれ!」て声援したんや」

「なんや、未熟なアナウンサー」

「いや、それまで、日本人がオリンピックで優勝なんてほとんど無かったし、まして女子の水泳やさかい、もう感極まったっちゅうやっちゃ!」

「なるほど……で、なんで、うちの水着?」

「いや、形がそっくりや。胸ぐりが浅うて、太もものとこも隠れてるしなあ」

「そうなん?」

「そうや……」

 言いながら、お祖父ちゃんはスマホでググって画像を探し当てる。

「ほら、これや!」

「これぇ?」

「あれぇ?」

 ウィキペディアで見た記録は、お祖父ちゃんの記憶とは、ちょっと違た。

 前畑秀子いう、ごっついおねえちゃんが、1932年のロサンゼルスオリンピックに出た。

 せやけど、優勝したんとちごて、二位の銀メダル。

 クロールと違て、平泳ぎ。

 

 で、肝心の水着。

 

 これが、ショック!

 うちらの水着よりも派手……言うたら、ちょっと違うねんけど。

 胸繰りも深いし、両足の裾も浅い。

 うちらのんは、股下8センチくらいやねんけど、前畑選手のんは0センチ!

「いやあ、お祖父ちゃんも、前畑選手のんは地味な印象やったんやけどなあ……」

 そう言うて行ってしまう。

 

「アハハ、つまりは不満なんだ」

 留美ちゃんは明るく笑う。

「うん、しょうじきダサいよなあ」

「そだね……」

 留美ちゃんもググり出した。

「これに似てるかも……」

「え、これ?」

 それは、江戸時代の飛脚のイラストやった。

 なるほど、うちのスク水に、鉢巻締めて、足もとに草鞋と脚絆履いて、棒に括り付けた手紙の箱を肩にかけたら飛脚にソックリ!?

 おもしろそうなんで、あくる日、準備体操の前にモップ担いで「飛脚や、飛脚!」て遊んだらウケた。

 けど、体育の先生に怒られた(^_^;)。

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かの世界この世界:192『的にも運にも』

2021-06-21 09:54:34 | 小説5

かの世界この世界:192

『的にも運にも』語り手:テル   

 

 

 与一に会ってみたい!

 

 ツボにはまったヒルデが虫を起こす。

「時間は大丈夫でしょうか?」

 あるじの我がままに、タングニョーストが気を遣う。

「大丈夫ですよ(⌒∇⌒)」

 イザナギは穏やかに応える。

 一刻も早く黄泉の国に向かって、イザナミを取り返したいはずなのに。

 日本人というのは、もう、神代の昔から、こうなんだ。

「では、さっそく!」

「わたしから連絡しましょうか?」

 ペギーがスマホをヒラヒラさせる。

「スマホ、使えるの?」

「アハハ、業務用ですから」

 どうやら、源氏の陣地にスタッフを派遣しているようで、すぐに話がついた。

 

「こんなに端っこなのか?」

 

 与一の陣屋は、源氏の本陣の端っこの端っこ。学校で言えば、校舎裏の学級菜園でもありそうなところだ。

「わざわざ来てくださってありがとうございます。幔幕だけの狭い陣屋ですが、どうぞ奥に……」

 ツギハギだらけの幔幕は、わたしが見てもみすぼらしいんだけど、ヒルデは感心している。

「うん、パッチワークのようで、なんだかオシャレだ!」

 シャイな与一はお茶の用意をしながら微笑むばかりだ。

 なんだか、潰れる寸前の喫茶店の気弱なマスターという感じで、とても華々しく扇の的を射落とした英雄には見えない。

「あれは、狙ってやったことなのか?」

 ヒルデがドストレートな質問をする。

「狙わなきゃ当たらないよ」

 なにをバカな質問という感じで、ケイトが茶々を入れる。

「ハハ、ほぐしてくれてありがとう。慣れないことをやって、ちょっと緊張していましたから」

 アハハハ

 与一の正直で穏やかな態度に、微笑みが湧いてくる。

「地元での呼ばれ方は『与太郎なのです』」

「与太郎?」

 日本語の機微が分からないヒルデは、自然な疑問を呈する。

「ゲゲゲの与太郎!」

 ケイトのスカタンが続く。

「日本では、長男を『太郎』と呼びます」

「そうね、次男は『二郎』で三男は『三郎』という感じね」

 わたしが続ける。

「そうか、義経の九郎義経っていうのは九男という意味になるんだ」

「まあ、そんな感じですね」

「与一の与は?」

「はい、十番目以下という意味です。十一郎というのは語呂が悪いですから」

「上に、十人も兄が居るのか?」

「はい、家を絶やさないために、どこの武士も大勢子供を作ります。でも、普通は五六人。八人も居れば多い方で、十人以上というのは珍しいですね」

「与というのは『余りもの』という響きがありますね」

「はい、だから、普通は与太郎という呼び方が多いようです」

「与一と与太郎、どう違う?」

「それは……」

 答えにくそうに俯くので、わたしが後を続ける。

「与太郎と云うのは落語なんかに出てくる、憎めないが、どこか抜けている三枚目に付ける名前だよ」

「お恥ずかしい(^_^;)、まあ、それで戦に出る時などは『与一』と、ちょっとオシャレな名乗りにしております」

「そうか……しかし、あれは見事だった。単に命中させたというだけではなくて、殺伐とした戦場を戦士の美学で飾った。奇襲に負けた平家にも一掬の華が残った。ブァルキリアの戦士としても、教えられるところが多かったよ」

「は、恐縮です」

「どのくらいの自信があったのですか?」

 タングニョーストが身を乗り出した。

「半々というところです。元来が与太郎ですから、外したら笑われておしまいです。もう、これ以上落ちることもありますまいから」

 なんか、自虐的だ。

「わたしは十一男ですし、母は、兄たちの母と違って低い身分の出なので、父の遺産の相続は見込めません。行く末は、兄たちの郎党になって戦働きをするするか、百姓をするしかありませんが、母が病弱なもので……」

「そうか、名を上げて収入を増やすしかないのだな」

「はい、実は、今度の事で兄たちとは別に領地がいただけそうで、ちょっと嬉しんです」

「そうか、それは何よりだったな」

「与一どの、あなたの弓を見せていただけませんか」

 タングニョーストが戦士らしい申し出をする。

「あ、はい。遠目には綺麗な弓に見えていますが……」

 与一が差し出した弓は、あちこち塗が剝げているが、手入れはきちんとされていて好感が持てるものだ。

「これは……なかなかの強弓ですね」

「はい、五人張りです」

「五人張り?」

 ケイトがスカタンな質問。

「弦を張るのに五人の力が要るという意味です」

「す、すごいんだ!」

「強い弓でないと、的にも運にも届きませんから」

「的にも運にもな……」

 ヒルデが、しみじみと嚙み締めた。

 

☆ 主な登場人物

―― この世界 ――

  •  寺井光子  二年生   この長い物語の主人公
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
  •  ペギー         荒れ地の万屋
  •  イザナギ        始まりの男神
  •  イザナミ        始まりの女神 
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ライトノベルベスト『魔法か高校の劣等生』

2021-06-21 06:53:41 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『魔法か高校の劣等生』 




 ボクは悩んでいた。

 魔法か高校か……。

 魔法か高校のどちらかを選ばなければならなかった。

 と、書いたらオヤジギャグのように思われるかもしれないが、ボクは真剣だった。

 ボクが通っているR高校は……ちなみに瑠璃高校とか、蘭高校とか雅やかな高校のイニシャルではない。

 ある高校をもじったR高校(あーる高校)という意味。だから、君の高校かもしれないよ。その時は責任もてないのでヨロシク。

 ボクは衰退化しつつある魔族の末裔だ。

 一族の多くは人間との混血が進み、ほとんど魔力を失っている。

 従兄弟のKなんか、なけなしの魔力をマジックとして見せてマジシャンやってるけど、エンタティナーとしての魅力が無いために、食っていくのがやっとだ。もう一人の従姉は、人相を変える魔力しかないので、メイクによる変身術などと動画サイトに投稿、最近は本なんか出して、ほそぼそとやっている。彼女は、本物ソックリに変身できるんだけど、目立ちすぎるので、顔の下半分マスクで隠し、わざと似せないで、やっている。

 もう、純粋な魔属は、ボクの家系だけだ。

 一般に魔属は長生きで、三百歳なんてのがごろごろ居た。ボクは六十だけど、人間に換算すれば、やっと十七歳ぐらい。もう四十五年も高校生をやっている。

 その割りには、ずっと劣等生だ。

 高校の勉強なんて「答は?」と念ずれば、たちどころに答案用紙に正解が浮かび上がる。

 でも、ボクは、その手は使わない。人間達と一緒になって、頭を捻っている。

 やがて、魔属では無くなるであろう子孫のために、なるべく人間的にやることを心がけているのだ。

 ところが、今度入ったR高校で困ったことになった。

 校舎が老朽化したため、ちょっとしたショックで崩壊することが分かったのだ。

 むろん街の教育施設課は状況を掴んではいるが、立て替えには莫大な予算が必要なため、歴代の課長はずっと先送りにしてきた。

 ボクは、入学三日目で気づき……というより。崩壊に気づいたので、魔力で崩壊を食い止めている。むろん人には言えない。

 夏休みなどの休暇を利用して魔法を解き、崩壊させようと思っているのだ。

 だけど、部活や合宿などで、絶えず何人かの生徒がいる。

 魔法を解いても、その瞬間に崩壊するわけでは無い。何分か、何時間か、数日かのスパンがあるのだ。それが分からないので、うかつには解けない。

 しかし、この春は決意した。

 深夜を狙って魔法を解く。夜明けまでに崩壊すれば、犠牲者を出さずに済む。

 しかし賭のようなものだ。授業中までずれ込めば、ここの能なしな教師たちは、生徒達を誘導しきれずに相当な死傷者が出る。何度シュミレーションをやっても百人以下には犠牲者を押さえ込めない。

 でも、決意した。

 ぼくは、四十五年間劣等生を十五あまりの学校でやってきたが、落第させられたのは初めてだ。学校は、自分達の指導力の無さには、ぜんぜん気づかずに、あるいは気づこうとはしないで、原級留置ということで幕を引いた。だから、今回はやる。断然やる!

 ところが、状況が変わった。

 うちのクラスにスミレという美少女が転校してきたのだ。

 セミロングの髪がフンワリ。日によってはポニーテールや、クラシックなお下げにしたり。スカートも膝上三センチという粋な長さ。太もも露わにするよりも、座ったときに膝小僧がチラッと見えるぐらいがちょうどいい。女子高生としてのたしなみを心得た子だ。

「おまえ、それでいいのか?」

 オヤジは、そう言った。

 今度支え続けるとしたら、二年間は力が抜けない。スミレが卒業するまでだ。

 校舎崩壊を支える魔力はたいていではなく、かなり体力、気力を消耗する。

「では、誓いをたてよ」

 魔王さまの言うままに、ボクは誓をたてた。

 魔法か高校に決着をつける!

 この三年間は学校を護るぞ!

 しかし、スミレは、紫陽花が蕾を付け始めたころに、また転校していってしまった。

 三年間と誓いをたててしまったので、三年間は魔法を解けない!

 

 嗚呼!


 ボクは、最後の、そして間抜けな魔族だ……!

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コッペリア・30『ステップアップ』

2021-06-21 06:32:02 | 小説6

・30

『ステップアップ』 



 休憩室に入ると、特大の蓑虫がいた。

 蓑虫が寝返りをうつと、人間の声で、こう言った。

「ああ、幽体離脱……あたしも、おしまいだ」

「やっぱし……」

 栞は、自分が蓑虫と同じ姿かたちになっていることを自覚した。蓑虫は、さっきまで審査員をやっていた矢頭萌絵だ。

 どうやら、AKPの総監督として頑張りすぎた無理が出たようである。

 栞は颯太が顔を描くときにオシメンの萌絵を頭に浮かべたものだから、ふとした時に萌絵そっくりになってしまう。

 今くたびれて毛布にくるまれ起き上がることもままならない本人を目の前にして、完全に萌絵とシンクロしてしまったから、同時に萌絵が今置かれている状況も分かった。

 本人が悲観するほど重篤ではないけれど、完全な蓄積疲労で体が動かない。

 このままでは救急車を呼ばれ、仕事に穴を開けて、芸能記者に今日一番のニュースを提供することになる。

 元気印の萌絵はひっくり返ってなどはいられない。

「大丈夫、あたしは、あなたの分身だから、代わりに仕事は片づけておく。今は、ゆっくりお休みなさい」

「ありがとう、あたし……」

 そう言うと、萌絵はスーッと眠りにおちてしまった。

 栞は簡易ベッドごと萌絵を休憩室の奥へやって目立たないように、元の蓑虫にしてやった。

「ごめん、ちょっと急用。咲月、自分で帰れるよね」

 栞はいったん自分の姿に戻ると、咲月を先に帰し、再び萌絵になって、オーディションの選考会議に向かった。

「大丈夫か萌絵?」

 さすがはAKPの大仏康ディレクター、萌絵の不調は感じていたようだった。

「ああ、大丈夫です。ちょっと居眠りしたら、この通り!」

 栞の萌絵は、ジャンプしながらスピンし『恋するフォーチュンキャンディー』の決めポーズをとった。

「はは、いつもより一回転多いな。じゃ、選考に入ろうか」

 萌絵の姿になるまでは、なんとしてでも咲月を合格させてやりたかったが、萌絵になってしまうと、公明正大に決めなければならないと思う。我ながら完璧な変身ぶりである。

「……よし、この三十人に絞って、あとはオレに任せてくれ。最終決定は萌絵が仕事終わってから確認。萌絵、今日のスケジュールは?」

「えーと、関東テレビの収録、戻って新曲の振り付けのレッスン。あとは空きです」

 栞は分かっていたが、マネージャーに言わせた。萌絵がそれぞれの職分を全うしてこそのAKPであると考えていること、が直観で分かったからだ。

 関東テレビの仕事はピンだった。

 年内に卒業を予定している萌絵なので、ディレクターの大仏も萌絵にはピンの仕事を増やさせている。

「萌絵ちゃん、ごめん、ゲストの都合で、今日は二本撮りね」

 本当は制作予算の都合だということは分かっていた。

 テレビはネットや録画の機能が発達して、なかなか数字がとれなくて苦労している。でも、そんなことは現場では誰も言わない。言えば、もっと悪くなりそうな気がするからだ。

 でも、『体育部テレビ』の二本撮りはきつかった。ハンデ付とは言え、第一線のアスリートと指しで100メートル走の勝負。

 ストレッチを兼ねたリハを含めて、計400を走る。

 この種の番組は、二線級の芸人さんの仕事と決まっていたが、アイドルを入れると数字が上がる。芸人さんたちの普段の苦労をよく知っているので、萌絵は進んで、このような仕事を引き受けている。

――今日の萌絵ちゃんじゃ、きつかっただろうなあ――

 そう思いながら事務所へ戻る。

 新曲の振り付けのレッスンに丸々二時間。サッサと仕上げて大仏康と研究生の選考に入れたのは夜中の九時を回っていた。

「これでどうだろう、二十人ピッタリにおさめた」

 大仏から渡されたリストの中には咲月の名前も入っていた。

「この水分咲月さん入れたのは……ちょっと研究生としては歳いってますけど」

「うん、誕生日が、うちのオープンと同じ四月八日だから」

「アハハハ」

「なんか、おかしい?」

「あたしも同じこと考えてました!」

 最後の最後の決定は、こんなものである。一見いい加減なようであるが、案外いい選択である場合が多い。

「血色がよくなった、これならだいじょうぶね……」

 ささやくように言うと、本物の萌絵はゆっくりと目を覚ました。

「あ、あたし……」

「そう、今日の萌絵は頑張ったわ。分身のあたしが言うんだから確かよ。今日あたしがこなしたことは、ちゃんと萌絵の記憶と体験になってるから」

「あたしたち……」

「一心同体、また萌絵がピンチになったら、いつでも来るから」

 そう言って休憩室を出て、全速力で走ってアパートに戻った。

「こんな時間まで何してたんだ、ずいぶん心配したんだからな!」

 颯太が始めて見せる真剣な眼差しに、栞は胸がチクリと痛んだ……。

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鳴かぬなら 信長転生記・9『天下布部』

2021-06-20 14:36:42 | ノベル2

ら 信長転生記

9『天下布部』   

 

 

 アハハハハハハハ 

 うっけるぅ!

 それって、あんたのキャッチコピーじゃん!

 てか、ヘ-キなわけ? そんな部活に入ってさ!?

 アーハハハハ アハハハハ お腹よじれるウウウウウ……

 

 天下布部に入部したと言うと、市は腹を抱えて笑う。

 

 ツボにはまったのだろうが、こんなに腹を抱え、大口開けて笑う市をみるのは初めてだ。

 こいつのノドチンコを見るのは初めてだ。

 美人の誉れ高い女だが、ノドチンコは平凡だ。

 美人であることの自覚はあるんだろうが、ノドチンコの平凡さは気が付いていないだろう。

 急いでスマホを出して、写真に撮る。

 パシャ

「ちょ、なにとってんのよ!」

「まあ、見てみろ」

「ノ、ノドチンコのアップ(#'∀'#)!?」

「左右対称というだけの詰まらんノドチンコだ」

「あ、あたりまえでしょ! こんなの普通でいいのよ、普通で!」

「サルのノドチンコはおもしろいぞ。笑いに比例して、喉もノドチンコも振動する。振動するだけではなく、縮んだり膨らんだり、時には左右に振れて、喉の内壁を打って、えも言えん倍音になる。サルの明るさの秘密は、こういうところにも表れるんだ」

「そんなことはどーでもいいのよ! 天下布武をパクられて、なんにも言えない信長ってゆーのが、メッチャ情けないんですけど!?」

「字が違う。天下布部と書くのだ」

 スマホに文字を出してやる。

「え? 武が部になってんの?」

「天下布武は天下に武を布く。この信長の武力によって天下に平和をもたらすという俺の意気込みを現すものだ。しかし、こちらのは部分の『部』だ」

「どういうこと? 言葉遊びにパロってるだけに見えるんですけど」

「部分を布くということだ」

「部分?」

「個性と云うことだ。この世界では、自分の個性を伸ばすことが一番ということを現している。信玄、謙信のいずれかは分からんが、うまいことを言う」

「そ、そーなんだ」

 負けと思ったのか、興味を失ったのか、市はミシンを持ち出してリビングのテーブルに据える。

「何を始めるんだ?」

「スカート短くすんの」

「一日穿いただけだろ」

「だって、みんな短くしてんだもん」

「みんながやってるからというのは、志が低い。ミニスカは私服だけにしろ」

「いいじゃん、元々、あたしは美脚なんだから、見せていいなら、見せなきゃ損っしょ」

「ほう……」

「な、なによ」

「いや、なんでもない」

「ふん」

 ジョキジョキ

 惜しげもなく、スカートの裾を切り落とすと、ガガガーーとミシンをかけ始めた

 プツン

「どうした、頭の線が切れたか」

「糸が切れたのよ……よし」

 ガガガ ガガガ……プツン

「また切れた!」

 ガガガ ガガガ……プツン

「ま、また」

 ガガガ ガガガ……プツン

「ま、また……!!」

「糸のかけ方が間違っている」

「え、そうなの?」

「ここと、こことが逆だ」

「え、違いが分からないんですけど」

「どけ、俺がやってやる」

 ガガガガガガガガガガガガ

「ほら、できた。あとは、きれいに折ってまつり縫いしておけ」

「あ、ありがと」

「フン」

「フンって言わなくていいでしょ、フンて」

「市」

「なによ!?」

「おまえの美しさは脚だけではない」

「そ、そう?」

「ああ、胸の形もいいし、尻の姿もいい」

「あ、まあ、それなりにね」

「だったら、それも見えるようにしてはどうだ?」

 ボキ!

 こんどは、針を折ってしまった。

 

 下手に妹をおちょくるものではない。

 日付が変わるまでかかって、手縫いでまつり縫いをする羽目になってしまったぞ。

 庭で熱田大神の笑う声がした。

 

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で打ち取られて転生してきた
  •  熱田大神        信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生

 

 

 

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せやさかい・212『水着の準備』

2021-06-20 09:04:53 | ノベル

・212

『水着の準備』さくら    

 

 

 水着の準備した?

 

 明日の用意をしてたら、留美ちゃんが言うてくれた。

「あ、せやね!」

 元気に思い出して、衣装ケースの中からスク水を取り出す。

 

 留美ちゃんが一緒に暮らすようになって、主な衣類にはイニシャルを入れてる。

 なんせ、同じ中三で、学校関係の衣類や持ち物は、名前とかイニシャル付けとかんと分からんようになる。

 詩(ことは)ちゃんのもあるんで、洗濯機を使うものは完ぺきを期してる。

 パンツとか穿き間違えたら、メッチャ恥ずかしいしね(^_^;)。

 

 留美ちゃんが越してきた時に、当面のものは終わってたんやけど、夏物は後回しにしてた。

 

 それで、来週から水泳の授業が始まる……のを忘れてた。

 留美ちゃんは、しっかり覚えてて注意をしてくれたというわけ。

「……なんか臭う(;'∀')」

 水着を出してビックリ。

「あ、いっしょにしてたんだ……」

 留美ちゃんが気の毒そうに言う。

 無精者のあたしは、普段は使えへん衣類といっしょのとこに水着をしもてた。

 小学校の頃の制服とか、古い縫いぐるみとか、サイズが合わへんようになった思い出の服とかの衣装ケースに。

 なんでか言うと、普段使いの衣装ケースが一杯になって収まらんようになって、邪魔くさいので、余裕があった衣装ケースに放り込んでたというわけ。

 憶えてただけマシやねんけど、その衣装ケースは、めったに開けへん非常持ち出しみたいなもんやから、大量の防虫剤が入ってる。

 で、その臭いが、完璧にスク水に移ってしもたというわけ……。

「水に入ったら分からなくなるよ(^_^;)」

 留美ちゃんは優しくフォローしてくれる。

 せやけど、これは出しただけで臭う。

 想像してみる。 

 更衣室で着替えよと思たら「なんかニオウね」と言われそう。

 特に普段からニオイに敏感な女子。先週、エアコンが点いたときも「クッサー!」と遠慮のなかったA子なんかもおる。

 プールサイドで準備運動してる間も臭いっぱなしやろし……。

「いっかい洗うわ!」

「あ、でも、明日プールだよ。ゼッケンの付け替えも……」

 せや、来週と思てたら、今日は日曜日。で、月曜日には体育の授業がある(;'∀')。

 用意のええ留美ちゃんは、ゼッケンも今年のにしてるけど、うちは、まだ二年生のときのまま。

 ガラ!

 窓を開けて天気を確認。

「おし、今日は日本晴れや!」

「そ、そだね(^_^;)」

 階段を一段飛ばしで駆け下りて、洗濯機に放り込んでスイッチオン!

 ゴーーー

 洗濯機が「了解、ご主人様!」という感じで任務開始!

 洗濯機の番してるのもアホみたいなんで、部屋に戻って、ついでに衣装ケースを整理する。

 ついでに、ベッドの下を整理したり、掃除機かけたりと我ながら時間を無駄にせえへん。

 留美ちゃんは、ええ子で、いっしょに付き合ってくれる。

 お喋りしてるうちに、詩ちゃんが、ダミアの散歩に失敗したことを思いだす。

「よし、うちらでやろか!」

 お片付けハイになったうちは、留美ちゃんとブタネコダミアの散歩に出かける。

 今日のダミアは機嫌がええのんか、素直に言うことをききよる。

 学校の向こうから公園に回って、お喋りして帰る。

 

 で、洗濯してるのを忘れてしもた。

 

 あ!?

 

 思い出した時は夕方。

 で、洗濯機の意地悪か、調子が悪いのか脱水ができてへん。

 うちら女子の洗濯物は本堂脇の目に着かへんとこに干すんやけど、午後は日の当たらん場所。

 しゃあないんで、レギュラーの物干しに。

「えと……裏がえしにしないと乾き悪くなるよ」

 留美ちゃんが、遠慮気味に注意してくれる。

「あ、そか……」

 で、裏返しにすると……ちょっと恥ずかしい。胸のパットのとことかね……。

「表のままでいくわ!」

 今日の洗濯物は、とうにおばちゃんが取り込んでて、物干しにはうちの水着だけ。

 なんや、陳列してるみたい(;'∀')。

 今度は、忘れんように目覚ましかけて部屋で待機。

 

 で、このあとの展開が、我ながら面白いので、あした続きをレポートします!

 乞うご期待!

 

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ライトノベルベスト・『男子高校生とポケティッシュ』

2021-06-20 06:24:20 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『男子高校生とポケティッシュ』 




 街頭で配っているポケティッシュは必ず受け取る。

 正確に言うと、無視ができない。

 ポケティッシュを配っているのは駅の入り口、商店街の入り口、交差点。それも人の流れを掴んだ絶妙な場所に立っている。

 受け取らないようにしようとすると、かなり意図的にコースを外れなければならない。なんだか、それって露骨に避けているようで「あ、避けられた」と思われるのではないかと、つい流れのままに通って受け取ってしまう。

 友達なんかは、すごく自然にスルーする。まるで、そこにティッシュを配っている人間が居ないかのように。

 それも、とても非人間的な行為に思えてできない。

 子どもの頃は、ポケティッシュをもらっても家に帰ってお婆ちゃんにあげると喜んでくれた。

 お婆ちゃんは、家のあちこちに小箱に入れたポケティッシュを置いていて、みんなが使うものだから自然に無くなり、ボクがもらってくるのと、無くなるのが同じペースだった。

 だから、なんの問題もなかった。

 二年前にお婆ちゃんが亡くなってからは、そのサイクルが狂いだした。

 お婆ちゃんが亡くなってからは、ボクはポケティッシュを誰にも渡さなくなった。正確には忘れてしまう。お婆ちゃんのニコニコ顔が、ボクの脳みそに「ポケティッシュを渡せ」という信号を送っていたようだ。

 ボクがもらったポケティッシュは、カバンやポケットの中でグシャグシャになり、使い物にならなくなってしまう。

「もういい加減、この習慣やめたら」

 お母さんは言う。

「だって……」

「だって、あんた、時々ガールズバーとかのもらってくるんだもん」

「しかたないよ、渋谷通ってりゃ、必ずいるもん」

 お婆ちゃんは、こういうことは言わなかった。

 で、この治らない習慣のために『男子高校生とポケティッシュ』なんてモッサリしたショートラノベを書かれるハメになってしまった。

 ラノベと言えば、タイトルの頭に来るのは女子高生という普通名詞か、可愛い固有名詞に決まっている。「ボク」とか「俺の」とかはあるが、むき出しの「男子高校生」というのはあり得ない。

 そんなボクが、いつものように渋谷の駅前でポケティッシュをもらったところから話が始まる。

「おまえ、またそんなものもらってんのかよ」

「なんだか、オバハンみたいでかわいいな」

「てか、それガールズバーじゃんか」

「アハハ」

 そうからかって、友達三人は、ボクの先を歩き出した。

 ボクは、一瞬ポケティッシュをくれた女の子に困惑した顔を向けてしまった。刹那、その子と目があってニコッと彼女が笑った……ような気がした。

 後ろで、衝撃音がした。

 振り返ると、友達三人が、バイクに跳ねられて転がっていた。

 ボクはスマホを取りだして、救急車を呼んだ。もしポケティッシュをもらわずに、三人といっしょに歩いていたら、運動神経の鈍いボクは、真っ先に跳ねられていただろう。

 警察の事情聴取も終わり、病院の廊下で、ボクは友達の治療が終わって、家の人が来るのを待っていた。

 気づくと、ズボンに血が付いていた。

「あ」と思って手を見ると、左手の甲から血が流れている。事故の時、小石かバイクの小さな部品が飛んできて当たったのに気が付かなかったみたいだ。

 リュックからポケティッシュを出して傷を拭おうとした。慌てていたんだろう、ティッシュの袋の反対側を開けてしまい、数枚のティッシュが、中の広告といっしょに出てしまった。我ながらドンクサイ。

 取りあえず血を拭って、廊下に散らばったティッシュと広告を拾った。

――当たり――

 と、広告の裏には書いてあった。

 三人とも入院だったけど、家族の人が来たので、ボクは家に帰ることにした。

 帰ると、お母さんが事情を聞くので、疲れていたけど、細かく説明した。

 ぞんざいな説明だと、必ずあとで山ほど繰り返し説明しなければならないので、お父さんや妹、ご近所に吹聴するには十分な情報を伝えておいた。

 ボクは、何事も、物事が穏やかに済む方向に気を遣う。

 部屋に入ってビックリした。

 女の子が一人ベッドに腰掛けている。

「お帰りなさい」

 百年の付き合いのような気楽さで、その子が言った。

「ただいま……て、君は?」

「当たりって、書いてあったでしょ?」

「え、ああ、うん……」

「あたし、当たりの賞品」

「え……」

「長年ポケティッシュを大事にしていただいてありがとう。ささやかなお礼です」

 そう言うと、彼女は服を脱ぎだした。

「ちょ、ちょっと」

「大丈夫、部屋の外にには聞こえないようになってるわ。時間も止まってるし、気にしなくていいのよ」

 そう言いながら、その子は、ほとんど裸になって、ベッドに潜り込んだ。

「あ……そういうの」

「ダメなの……?」

「あ、ごめん……」

「フフ、君ってかわいい……いい人なんだね」

「どうも……」

「じゃ、三択にしましょう。① 一晩限りの恋人。当然Hつき。② 一年限定のオトモダチ。ときどきいっしょに遊びにいくの。➂ 取りあえず、一生の知り合い。さあ、選んで」

 こういうときは、ボクは、一番消極的なものを選ぶ。

「じゃ、取りあえず知り合いってことで……」

「わかったわ」

 そういうと、脱いだ服をベッドの中で器用に着て、部屋を出て行った。

「じゃ、またね」

 それが最後の言葉だった。

 明くる日、電車の中で気分の悪くなった女子高生を助けた……というか、気分が良くなるまで付き合った。

 それがきっかけで、ボクは彼女と付き合い始め、五年後には結婚することになった。

 誓いの言葉を交わし、エンゲージリングをはめてやって気が付いた。

「ね、一生の知り合いよ。なにもかも知り尽くそうね」

 と、彼女が言った……。

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コッペリア・29『再チャレンジ……』

2021-06-20 05:58:28 | 小説6

・29

『再チャレンジ……』 




 咲月は、オーディションの付き添いに栞を選んだ。

 学校の友人だけでなく、家族からもAKPの再チャレンジに反対されてるんだろう。そう思ったが、栞はなにも言わずに会場まで付いて行ってやった。

 咲月は受験生としては、やや年かさだった。たいて中学生くらいで、中には小学生と思しき子までいた。

「気にすることなんかないよ。要は実力と時の運。実力は……大丈夫。運は、あたしが連れてきたから!」

「え、どこに?」

「咲月の影……ほら、いつもより濃いでしょ。こいつが逃げて行かないように……」

 栞は、目に見えない針と糸を取り出すと、影と咲月を縫い付けてしまった。

「これって……?」

「ヘヘ、ピーターパンの最初。ウェンディーがピーターパンの影を縫い付けちゃうじゃん。あそこからファンタジーが始まるんだ」

「ふふ、ありがとう」

 その妙なパントマイム(栞には真剣なおまじない)に同じ控室の受験者や付添人たちもクスクス笑っている。

「いい、卒業した服部八重はオーディションのときは、二十歳。それも一回落ちて、あとで審査員が、あの子惜しいねって呟いて決まったんだからね。咲月は、絶対いける!」

「ありがとう。栞に言われると、そんな気になってきた」

「ハハ……それに、今日の審査には、総監督の矢頭萌絵が入ってるよ」

「え、どうして分かるの?」

「超能力!」

 栞には、人間になった時(颯太には、相変わらず動く人形だが)少しばかり人間には無い能力が身についていた。

「……うん、水分さん、歌はそこそこだね」

 と、ディレクターの大仏康。

「あと三十秒で自己アピールして」

 と、矢頭萌絵。

「二回目のチャレンジなんですけど、あたしって、二回目の方が力が出るんです。体力測定もそうだし、お料理も憶えて二回目からはバッチリです。それに、何より誕生日が四月八日。AKPのオープンと同じ日。あたしはAKPに幸運をもたらす人間です」

「きみ、二回目の二年生なんだね」

「はい。あたし、なんでも二度目に力が出ますから」

「でも、この業界、一発で決めなきゃならないことだってあるわよ」

「大丈夫。AKPも二回目のチャレンジですから、AKPに関しては失敗しません。それに、ここに来るまでに宝くじ買ったんです。前も買いました。前は外れでしたけど、今度は宝くじも当たります!」

 前回と違って、間を開けずウィットの効いた受け答えができた。咲月は手ごたえを感じた。

「精一杯やれた!」

 控室に戻ると、咲月は栞に抱き付いた。

「そうみたいね。今度はひい爺ちゃんにも喜んでもらえるよ!」

 二人で喜んで会場をあとにしようとして、栞はかすかな異変を感じた。

「ちょっと先に帰ってて。今度は、あたしの番みたい……」

 そう言って栞は、審査会場に戻って行った。

 正確には審査会場の審査員控室の隣の部屋。スタッフやメンバーが休憩に使う部屋へ……。

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魔法少女マヂカ・218『箕作巡査のお手柄』

2021-06-19 10:20:51 | 小説

魔法少女マヂカ・218

『箕作巡査のお手柄』語り手:マヂカ     

 

 

 明治神宮の参拝客を狙ったかっぱらいだった。

 

 箕作健人巡査は遅れて飛び出したのにもかかわらず、原宿駅前まで犯人を追いかけて逮捕した。

 なんでロシアの軍人に追いかけられるんだ!?

 犯人は、恐怖と驚きで日ごろのかっぱらいプロの力が発揮できなかったと悔しがった。

 追いかけている途中で箕作巡査の制帽は吹っ飛んでしまい、七三分けにしたブロンドの髪が風になびき、巡査の詰襟や、サーベルのカチャカチャなる音は、犯人でなくとも外国の将校のように見える。

 犯人が『ロシアの軍人』と思ったのには理由がある。

 犯人は、日露戦争の帰還兵で、旅順の203高地や奉天の戦いを経験している。

 何度もロシア兵に追いかけまわされ、命の取り合いをやって、本人の勇敢さというよりは運の良さで生き延びて帰還した。

 ロシア兵の恐ろしさは身に染みている。

 だから「窃盗の容疑で緊急逮捕する!」と箕作巡査に言われた時には、さらに混乱した。

 間近に迫った箕作のナリが警察官であると理解はできたが、その顔は戦線で見かけたドイツ系ロシア人そのものだ。

 日露戦争に勝ったというのは夢で、日本はロシアに占領され、ロシア人が警察官になって、俺を掴まえようとしている!

 そう、思い込んだ。

 スダヴァーアーツヤ!

 思わず、ロシア語で「降伏する!」と叫んでしまったというのは、あくる日の新聞に載った笑い話だ。

 

「なにか叫んでおりましたが、ロシア語だったとは思いませんでした」

 

 あくる朝、新任請願巡査の箕作が手柄を立てたというので、高坂家の当主である霧子の父が褒めたたえた時の箕作の感想だ。

 高坂家の門前には、お手柄巡査の姿を見ようと、神宮参拝のついでに寄って来る野次馬や新聞記者が詰めかけている。

「箕作巡査は、報告の為に本署に帰っております。午後には戻ってまいりますので時間を限って皆様には面接いたします。仔細は門前に張り出しておきますので、熟読されますように!」

 田中執事長がメガホンで説明して、やっとわたしたちは学校に行くことができた。

 学校でも、箕作巡査のことをあれこれ聞かれたけど、それは割愛。

 

 帰宅すると、田中執事長が「ブリンダ様がお越しです」とリネン室を指さした。

 

 リネン室は、シーツや洗濯物を回収したり洗濯し終わったものにアイロンをかける部屋だ。仮にもお客さんを(ブリンダは英国大使令嬢なのだ)お通しするような部屋ではない。

 部屋のドアは開いていて、英語の会話が聞こえてくる。

 ブリンダと箕作巡査だ。

「あら、お帰りなさい(o^―^o)」

 ブリンダが日本語で挨拶すると、箕作巡査は目を丸くしている。

「日本語ができるんですか!?」

「あら、できないとは言ってないわよ。英語で話しかけてきたのは箕作さんの方よ」

 ブリンダも人が悪い。

「で、なにしてるの?」

 霧子が面白そうに尋ねる。

「三時半から記者会見」

「そんな大げさなものではありません」

「ううん、新聞記者がやってきて取材をするのだから立派な記者会見よ。だからね、上着ぐらいはアイロンをかけて差し上げようと思って」

 なるほど、カマトトぶってはいるが、一理ある……というか、記者発表の前にいろいろ聞けるのは美味しい。

「上着だけじゃダメよ、おズボンもアイロンしてあげませんと」

 霧子も調子に乗る。

「あ、それは結構であります(#^_^#)!」

「いいえ、高坂家の対面に関わります!」

「むいちゃえ!」

 ノンコが挑みかかって、箕作巡査の運命は決まった。

 

 女子学習院の生徒と米国大使令嬢の微笑ましいおふざけではあるのだけれど、気になることがあった。

 箕作巡査の話では、盗んだものではない犯人の持ち物に、気になるものがあった。

 雑誌『改造』と『資本論』が入っていたのだ。

 もちろん、大正デモクラシーと言われる、戦前でもリベラルな時代、特に違法なものではない。

 ないのだが。

 どちらも、手垢がついて、あちこち線が引かれたり付箋がつけられていたり。

 すごく勉強した形跡が見られることが気になった。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
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ライトノベルベスト・「GIVE ME FIVE!・3」

2021-06-19 06:59:46 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『GIVE ME FIVE!・3』 

 

 

 スーザンの代役で、地区予選は無事に最優秀。我が校としては十五年ぶりの地区優勝だった。

 ささやかに、祝勝会をカラオケでやった。

 女の子ばっかのクラブなので、唄う曲は、KポップやAKB48の曲になり、ボクはタンバリンを叩いたり、ソフトドリンクのオーダー係に徹した。

 スーザンは、この三ヶ月足らずで、新しい日本語によく慣れた。立派な「ら」抜きの言葉になったし、自分のことをときどき「ボク」と言ったりする。もっとも「ボク」の半分は、いまどき一人称に「ボク」を使うボクへの当てこすりではあるけど。スーザンの美意識では、男の一人称は「オレ」または「自分」であった。

 しかし、スーザンの歌のレパートリーも大したものだ。AKB48の曲なんか、ほとんど覚えてしまっていた。

 中央大会でも、出来は上々だった。

 最優秀の枠は三つあるので、地方大会への出場は間違いない!

 演ったほうも、観ていた観客もそう思っていた。部長のキョンキョンなどは顧問に念を押していた。

「地方大会は日曜にしてくださいね。土曜は、わたし法事があるんで!」

「ああ、法事は大事だよね」

 スーザンが白雪姫の衣装のまま、神妙に言ったので、みんな笑ってしまった。しかし、その笑顔は講評会で凍り付いてしまった。

「芝居の作りが、なんだか悪い意味で高校生離れしてるんですよね。高校生としての思考回路じゃないというか、作品に血が通っていないというか……あ、そうそう。白雪姫をやった、ええと……主水鈴さん(洒落でつけたスーザンの芸名)役としてコミュニケーションはとれていたけど、作りすぎてますね、白雪姫はブロンドじゃないし、外人らしくメイクのしすぎ。動きも無理に外人らしくしすぎて、ボクも時々アメリカには行くけど、いまどきアメリカにもあんな子はいませんね。それに……」

 審査員のこの言葉にスーザンは切れてしまった。

「わたしはアメリカ人です! それも、いまどきの現役バリバリの高校生よ! チャキチャキのシアトルの女子高生よ!」

「まあ、そうムキにならずに」

「ここでムキにならなきゃ、どこでムキになるのよ! それだけのゴタク並べて、アメリカ人の前でヘラヘラしないでほしいわよね!」

「あのね、キミ……」

 そのあと、スーザンは舞台に上がり、審査員に噛みつかんばかりに英語でまくしたてた。アメリカに時々行っている審査員は、一言も返せなかった。史上で一番怖い白雪姫だただろう。


「そんなこともあったわね」

 渡り廊下から降りてきたスーザンがしみじみと言った。

「止めんの大変だったんだから」

「ごめんね」

「もういいよ」

 ボクは、傷の残っている右手を、そっとポケットに突っこんだ。でも、スーザンは目ざとく、それを見つけて、ボクの右手を引っぱり出した。

「傷になっちゃったね」

「ハハ、男の勲章だよ」

「傷にキスしてみようか。カエルだって王子さまにもどれたんだし。ボクがやったら、傷も治って、キミはいい男になれるかもよ」

「その、ボクってのはよせよ。日本語の一人称として間違ってる」

「ボクは、ボク少女。いいじゃん。この半年で見つけた新しい日本だよ。キミも含めてね」

「よく、そういう劇的な台詞が言えるよ。他の奴が聞いたら誤解するぜ」

「だって、ボクはアメリカ人なのよ。普通にこういう表現はするわよ。ただ日本語だってことだけじゃん……あ!」

 スーザンが有らぬ方角を指差した。驚いてその方角を見ているうちに手の甲にキスされてしまった。

「あ、あのなあ……」

「リップクリームしか付けてないから」

「そういうことじゃなくて」

「……じゃなくて?」
 
 気の早いウグイスが鳴いた。少し間が抜けた感じになった。

「シアトルには、いつ帰んの?」

「明日の飛行機」

「早いんだな……」

「見送りになんか来なくっていいからね……ここでの半年は、ちゃんと単位として認められるから。秋までは遊んで暮らせる。もちろん、大学いくまではバイトはやらなきゃならないけどね」

 アメリカの学校は夏に終わって、秋に始まるんだ。

「ねえ、GIVE ME FIVE!(ギブ ミー ファイブ!)OK?」

 ボクは勘違いした。卒業に当たって、女の子が男の子の制服の何番目かのボタンをもらう習慣と。で、ボクたちの学校の制服は、第五ボタンまである。なんか違うなあという気持ちはあったけど、ボクは返事した。

「いいよ」

「じゃ、ワン、ツー、スリーで!」

 で、ボクたちは数を数えた。そして……。

「えい!」

 ブチっという音と、ブチュって音が同時にした。

 ボクは、てっきり第五ボタンだと思って、ボタンを引きちぎった。スーザンは、なぜか右手を挙げてジャンプし、勢い余って、ボクの方に倒れかかってきた。危ないと思ってボクは彼女を受け止めた。でも勢いは止められず、ボクとスーザンの顔はくっついてしまった。クチビルという一点で……。

「キミね、GIVE ME FIVEってのはハイタッチのことなのよ! ああ、こんなシュチュエーションでファーストキスだなんて。もう、サイテー!」

 それから、一年。ボクもスーザンも、お互いの国で大学生になった。

 で、ボクはシアトル行きの飛行機の中にいる。手には彼女からの手紙と写真。写真は少し大人びた彼女のバストアップ。胸にはボクの第五ボタンがついている。スーザンはヘブンのロックを、同じ名前の母校の生活とともにパスしたみたいだった。

 シアトルについたら、スーズって呼べそうな気がする。しかしボクの心って、窓から見える雲のよう。青空の中の雲はヘブン(天国)を連想させるが、実際はそんなもんじゃない。

 前の四列目の座席で乗客が呟いた。

「あれって、積乱雲。外目にはきれいだけど、中は嵐みたいで、飛行機も飛べないんだぜ」

 同席の女性が軽くおののいた。

 ボクの心は、もっとおののいている……。

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コッペリア・28『狐の嫁入り』

2021-06-19 06:48:56 | 小説6

・28

『狐の嫁入り』 





 藤棚のベンチは幾百の藤の花に濾過された日光に包まれて、程よく二人の少女の世界を包み込んでくれる。 


「やって失敗した後悔より、やらずに諦めた後悔の方が大きいっていうよ」

「でも、もうやって失敗したあとなんだよ」

「一回の失敗では完全な失敗とは言えないわよ」

「そっかなあ……」

「そうだよ、咲月ちゃんは、現に二回目の二年生をやってるじゃない!」

「それは……」

「別だって言いたいんだろうけど、あたしから見ればいっしょだよ」

「どういうこと?」

「っていうか……中途半端」

「中途半端?」

「落第までして学校続けようっていうのは、負けたくないっていう気持ちからでしょ。でも、それだけじゃ誰も評価しないし、咲月ちゃんだって、我慢してるだけじゃない。でしょ?」

「………………」

 咲月は応えずにうつむいてしまう。

 次の言葉をためらっていると、藤の花が落ちた……と思ったらひらりと舞い上がる。

 チョウチョだった。

 いつの間にか一匹のチョウチョが藤棚に入っていたのだ。そのチョウチョを目の端に入れながら考えた。

「今は我慢するときだと思うの。少し雨宿りしたら、新しい晴れ間も見えてくるんじゃなかな……って」

「え、雨?」

「あ、例え話(^_^;)」

「……降ったんだよ。藤の花に雨粒が」

「え……あ、ほんとだ。キラキラしてる……気が付かなかった」

「ずっと晴れてたよね」

「日照雨(そばえ)」

「そばえ?」

「えと……狐の嫁入り的な」

「……狐のお嫁さん通ったのかなあ?」

「かもね」

「見たかった」

「どこかで雨宿りしてるかも」

「……卒業まで雨降りだったら、ずっと雨宿りだよ」

「少々の雨だったら、飛び出してみたほうがいいんじゃないかな」

「……どうだろ」

「あれ?」

「え?」

「あそこ……紫陽花の下の方」

「あ」

 紫陽花の花の下を縫うようにして小さな花嫁行列が進んで行く。花嫁も行列の人たちもみんなキツネのお面を被って、お囃子のようなリズムに合わせて進んで、バラの花壇の方に消えて行った。

「ほんとうに見えちゃった……」

「AKPのオーディションて、春と秋にあるんだよね」

 栞は無遠慮に、咲月の顔を覗き込んで言った。

「うん、春と秋……」

「もう一回やってみようよ。このままじゃ、みんな咲月ちゃんのこと、意地を張った負け犬としか見ないよ。言い方悪いけど落ちるとこまで落ちたんだ。もっかいやって失敗しても同じ。リトライしたらチャンスはある……買わない宝くじは、絶対に当たらないから」

「……わたしの合格率って宝くじ並?」

「狐の嫁入りが見えたんだ、きっといいことあるよ」

 もう栞の顔は、咲月の鼻先まで近づいていた。

「分かった分かった。それ以上近づいたらキスされそうだ!」

「あ、ああ、ごめん咲月ちゃん」

「その代り、条件が一個」

「なに、まさか、あたしにいっしょに受けろっていうんじゃないでしょうね?」

「それはないよ。栞ちゃんの目的は、もっと別なところにありそうだから」

「じゃ……?」

「わたしのこと、ちゃん付けで呼ばないでくれる。わたしも栞って呼ぶから」

「あ、なんだ。あたし、ちゃん付けで呼んでたんだ。オーシ、咲月まかしとけ!」


 いつの間にかチョウチョは二匹になっていて、また降り出した日照雨の、藤棚から外へ飛び立っていった……。

 

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鳴かぬなら 信長転生記・8『三人で飯を食う』

2021-06-18 15:13:16 | ノベル2

ら 信長転生記

8『三人で飯を食う』   

 

 

 昼休み、信玄、謙信と連れだって食堂に行く。

 信玄も謙信も意外にまじめで、授業中の無駄話はもちろんのこと、休み時間も次の授業の移動や準備に専念して、無駄話をしない。

「食堂、いっしょに来るか?」

 四限終了のチャイムが鳴ると、信玄に聞かれた。

「ああ」

 返事をすると、信玄と謙信が前を歩きだし、俺は、それについていく。

 

 信玄はかっちりした肉おき(ししおき)のいい体格で、胸の大きな女だ。

 胸だけが大きいわけではないが、そこに目が行ってしまうのは、俺自身が女になって間がないせいかもしれない。

 髪は、ボブと云うのだろうか。肩までの髪をフワリとさせて、並の女よりも逞しい肩を荘厳する房飾りのようだ。

 階段に差し掛かり「暑い」と言って上着を脱ぐと、意外なほどに腰は細い。

 腰に差した扇子を開くと、どういう仕掛けか『風林火山』と書かれた軍配になる。

 謙信がクスリと笑ったところを見ると、川中島の一騎打ちで使った軍配なのかもしれない。

 

 謙信は、長い黒髪をポニーテールにしている。

 ポニーテールというのは、チョンマゲを伸ばしたようなものだが、謙信に男くささは無い。

 耳の後ろからうなじにかけて見える肌は、さすが越後生まれ。抜けるような白さで、ゾクリとするような色気がある。

 信玄のようにカッチリした体格ではないが、露出した首筋や、短めのスカートから伸びた脚は小気味よく引き締まり、うっすらと娘らしい肉が載って好ましい。

「ははは、こちらに来て、しばらくは相手の変わりように目を見張るものだ。信長も、しっかり見ておるな」

 信玄の背中が笑う。

「観察は、戦国武将第一の要諦ね」

「今度、いっしょに風呂に入って見せっこしよう」

「いっしょに風呂か?」

「謙信とは、よくいっしょに入っている」

「ふふ、お隣同士だからね」

 こいつら大丈夫か?

 

 食堂に入ると、ちょうど券売機が空いたところだ。

 高校の学食は混雑してあたりまえ、すんなり券売機の前に立てたのは運だろう。

 運も才能の内。

 

 信玄は『ほうとうランチ』 謙信は『越後蕎麦定食』 

 俺は『きしめん定食』だ。

 狙ったわけではない、その三つにしかランプが灯っていなかったのだ。

 

「少しずつ分けっこしよう」

 信玄の提案で、湯呑に小分けする。

「きしめんはペラペラで頼りないなあ」

「ほうとうは太すぎるぞ」

「喉越しは、蕎麦が格別でしょ」

 やっぱり意見は合わない。

 それでも、三人とも健啖家。

 やっぱり、それぞれ美味しいということになり、それぞれのメニューをもう二人前ずつ追加して、越後・甲斐・尾張の味覚を楽しんだ。

 ほぼ同時に完食して、一人三食分ずつの食器を積み上げると、茶をすすりながら信玄が切り出した。

「信長、儂たちの部活に入れ」

「なんだ、藪から棒に」

「儂たちは、並み居る戦国武将の中でも別格だ。互いに研鑽して、来たるべき転生に備えなけらばならんと思う」

「今度は天下をとるつもりか?」

「そのつもりだが、それは今度転生してからの互いの励み次第だ。取りあえずは、ここでの研鑽と切磋琢磨を実り多きものにするために協力しようということだ」

「この学校は、部活を必須にしているわ、必須なら、わたしたち三人で部活にしてしまえばいいと思うのよ」

「三人の部活でなにをする?」

「喋ったり、いっしょに遊んだりだ」

「時々は勉強するかもしれないけどね」

「まあ、前世でやっていた同盟のようなものだ。そう言えば、信忠君は残念なことをしたなあ」

 思い出した。

 息子の信忠と信玄の娘の松姫は結婚させることになっていたのだ。

「儂が死んで、一度は破談になったが、信忠君は、松姫を思い続けてくれていた」

「ああ、本能寺の事が無ければ迎えを出していたはずだ」

「うむ」

「……美しい話ね」

「そういう通じるものを大事にして、お互い伸びて行こうというのだ」

「同盟みたいなものだから、他の部活に入るのも構わないわ。信玄なんか、土木研究部と農業研究部と仏教研究部に入ってる」

「謙信は?」

「毘沙門同好会とか豪雪対策部とか、他にもいろいろ」

「で、二人の部活とは?」

 ドン!

「「天下布部!」」

 両雄がテーブルを叩いて立ち上がった。

 

 なんだと……!?

 

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で打ち取られて転生してきた
  •  熱田大神        信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生

 

 

 

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銀河太平記・051『テルとミクの掃除当番』

2021-06-18 09:07:33 | 小説4

・051

『テルとミクの掃除当番』  ミク   

 

 

 火星に帰ってから一か月。

 ようやく日常が戻ってきたよ。

 

 ホームルームで進路希望調査票が配られ、ヒコは、その場で『扶桑大学』と書いて提出した!

 先生もクラスのみんなも「え?」という顔をした。

 かねてから決めていたらしいけど、ちょっとパフォーマンスめいていている。

 いつものヒコなら、こういうことはしない。

 

 理由は分かってる。

 

 ダッシュが決めかねているからだ。

 ダッシュは、良くも悪くも『今を生きている』というところがあって。先の事を考えるのが苦手だ。

 放っておくと、締め切りを過ぎてしまい、校内放送で三回は呼び出され、適当に書いておしまい。

 担任も姉崎すみれ先生だから、書式さえ整っていれば「よし」って受け取っておしまい。

 中学のときの進路調査と違って、高校のそれは一生を決定する。

 だから、きちんと考えて、チャッチャと出せ。

 そういう気持ちを伝えたかったから、ヒコは、そういう行動に出た。

 

 その日の放課後、テルと二人で階段の掃除当番。

 

「進学するといいのよしゃ」

 

 自分用の短い箒を取りながらテルが言う。

「ムリムリ、あいつ高校の勉強だってついていくのがやっとなのに」

「そう?」

「大学の入試は鉛筆じゃないし」

「え、なにしょれ?」

「あいつ、高校の入試は鉛筆転がして受かったんだから」

「ダッシュはね、やればできる子にゃのよさ」

「ハハ、なんかダメっ子のお母さんみたい」

「あたしって、天才っしょ。天才には天才がわかりゅのよさ」

 他の子が言えば、完全に嫌味なんだけど、テルは自然だし、本気で心配している。

「扶桑は、まだまだいっぱいいっぱいにゃのよしゃ。征夷大将軍自ら魚や野菜(やしゃい)の品種改良とかしてゆのよさ、みんな、ちから出さにゃきゃ……ダッシュは、目標なっとくしたら、それこそ、ダッシュしゅゆのよさ」

「そ、そうだね、ありがとうテル」

「しっかり受け止めて……」

「う、うん」

「チリトリにゃ、ちゃんと受け止めてくれにゃいと掃除終わらないニャ」

「あ、ごめん(#'∀'#)!」

 

 散らばったゴミを集めてゴミ箱へ。

 うちの学校にあんまり文句はないんだけど、ゴミの回収ぐらいパルスシステムでやって欲しい。今日は、三つある踊り場のゴミ箱一杯で、三つとも捨てに行かなきゃならない。

「昨日の掃除当番、サボったのよさ」

 いちいち、校舎裏のゴミ捨て場に持っていくって、三百年前の地球の学校と同じシステム。家庭ゴミは二百年前のシステムで、指定のゴミ袋に分別して、週に二回回収してもらう。

 人は体をうごかさなきゃっていのが初代将軍からの扶桑の方針。

 ま、いいんだけど、ゴミ袋持って校舎を出ると、食堂前のベンチにダッシュとヒコがジュース飲んでる。

「待っててやるから、しっかり働けえ(⌒∇⌒)」

 浅く座ったダッシュが手を振って、ヒコが苦笑い。

「そんな座り方したら、腹出るのよさ」

「短い脚組むなあ!」

「うっせえ!」

「ふん!」

 アハハハ

 爆笑と苦笑いを背に受けて、校舎の裏側に回ろうとした。

 

 ドオオオオオオオオオン!!

 

 突然、2ブロックほど先から爆発音!

「なに!?」

「あの方角は!?」

 ピンとくると、ゴミ袋持ったままテルが走る。

 ゴミ捨て場まで来ると、ゴミを捨てた手でシャッターを開けるテル。

 ガラガラガラ!

 たしかに、音の下方角には、こっちが近道。

 道路に飛び出すと、どこから出て来たのか、ダッシュとヒコが前を駆けている。

「マス漢大使館の方角だ!」

 ダッシュが叫んで、三人があとに続く。

 学校や近所の人たちも出てくる。走ってるのは、あたしたち三人だけだけど(^_^;)。

 

 おお……!!

 

 大使館前に着くと、柵の外からでも分かった。

 大使館の玄関先に立っていた、身の丈4メートルもある初代マン漢大統領像の首が吹き飛んでいた。

 

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信

 

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ライトノベルベスト・「GIVE ME FIVE!・2」

2021-06-18 06:11:10 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『GIVE ME FIVE!・2』 

 

 

 スーザンの用事が分かったのは、その帰り道に寄ったマックの二階だった。

「え、じゃあ、卒業まで日本にいるの!?」

「日本人の表情は読みにくいけど、特にケントは、そうね。わたしが卒業まで同じ学校の同じクラスで、同じクラブにいることが、嬉しいの? それとも迷惑なの?」

 スーザンはまともにたたみかけてきた。

「いや、迷惑だなんて……」

 ボクは、平均的な日本人がそうであるように、意味不明な笑顔になった。しかし、彼女は完全な賛意と受け止めた。

「ないんだ! じゃ、わたしの話を聞いて!」

 完全にスーザンのペースだ。

 スーザンは、シアトルで嫌なことがあって、日本への留学を希望したようだった。嫌なことの中身は言わなかったけど、むこうの学校の名前のように「ヘブンがロックされたような事情」らしい。

 一ヶ月の短期留学を、卒業までの半年に延ばしただけでも、ヘブンのロックは取れないような様子だった。

 保護者である母親の了解を得られたのが、昨日で、延長許可が認められる最後の日だったようだ。

 そして、喜び勇んで領事館に行く途中、中古で買った自転車のチェ-ンが外れてしまったところにボクが出くわしたというわけ。

 スーザンが日本人以上に正しい日本語を喋るのは、母方のお婆ちゃんに、幼い頃から育てられたから。だから「ら」抜き言葉なんか喋らなかったし、朝日新聞のことも正確に「アサシシンブン」と発音していた。

 演劇部は文化祭で、「ステルスドラゴンとグリムの森」という芝居をやった。

 ボクは優柔不断で、白雪姫になかなかキスをできない王子さまの役だった。

 言っとくけど、ボク自身が優柔不断で当たり役だというわけでは無い。どうしても男でなければできない役が、これだったから。

 スーザンは中途入りだったので、照明係と道具係を楽しげにやっていた。特に、後半の山場で、ドラゴンが暴れまわって、最後に退治され、本来の姿に戻る。

 これがすごい。

 数千のゲームソフトやマンガやラノベ。これが舞台一面にぶちまけられる。この仕掛けをスーザンは簡単にやってのけた。

 どうやったかって?

 コロンブスの玉子! 彼女はネットで、昨年、この芝居をやった学校を検索し、直接交渉して仕掛けごと借りてきた。で、文化祭では大成功!

「ねえ、どうしてケントは、わたしのことスーズって呼ばないの?」

 紙ナプキンで、口を拭きながら、スーザンが聞いた。

「いや……なんとなく、そう呼び慣れちゃったから」

「ま、いいんだけどね。シアトルで、わたしのことスーザンってキチンと呼ぶのは、教会の神父さんと、遅刻指導するときの校長先生ぐらいだから」

 コンクール前に大事件が起こった。

 

 主役の白雪姫をやる徳永さんが盲腸で入院してしまったのだ。

 今年は、文化祭でも成功したので、コンクールは自信をもって、みんな張り切っていた。

 本番三日前。もう、こりゃ辞退するするしかないと、部員一同覚悟を決め、期せずしてため息をついた。

 その時、スーザンが叫んだ。

「わたしが、アンダスタディやる!」

 ス-ザンの流ちょうな日本語に慣れてしまっていたので、突然の英単語に、みんな戸惑った。

「アンダスタンド?」

 顧問の滝沢先生が、仮にも英語の教師であるのに、中学生並みのトンチンカンを言った。

 これくらいの言葉は通じるだろうと思っていたスーザンも戸惑った。

「Oh it's mean……Daiyaku!」

 この半年で、スーザンが英語を喋ったのは、これが最初だった。

 青い目玉を一回ぐるりと回すと、日本語で、こう言った。

「わたしが、エリカ(徳永さんのこと)の代わりに、白雪姫やるのよ!」

 えええええ!?

 アメリカやヨーロッパの芝居では、主役級の役は、あらかじめ代役が決めてあって、イザというときにはいつでも代役が務まるようにしてあるそうで、それをアンダスタディといって当たり前なのだそうだ。

 スーザンはそのアメリカでの当たり前を口にしたのである。

 別に、ぜひ代役がやりたくて、徳永絵里香の名前を書いたワラ人形に五寸釘を打ったわけではない(^_^;)。

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コッペリア・27『水分咲月の心象風景』

2021-06-18 05:56:11 | 小説6

・27 

『水分咲月の心象風景』  




「そうか、そんな秘密があったんだ……」


 その日の夕飯のときに、栞は颯太に咲月の話をした。

 夕飯と言っても、ス-パーのお惣菜を適当に買ってきて並べたものだ。

「ちょっと塩分多すぎ……」

 メンチカツを齧りながら、独り言のように栞が言う。

「しかたないよ、スーパーのお惣菜なんだから」

 ついこないだまでは、栞が料理していたが、帰り道がアパートの近くというクラスメートができて、うかつに食材を買いに寄れなくなったのだ。

 学校では、大家の孫の鈴木栞ということになっているが、実際は美術の非常勤講師立風颯太の妹(実際は、颯太が命を吹き込んだ人形)である。

 友だちにアパートに帰る姿を見られたら、直ぐに美術の先生と同棲している、いけなくも羨ましいかもしれない存在として噂が広まってしまう。で、栞はスーパーには寄らずにいったん大家の家に帰り、持ち込んだ私服に着替えてアパートに戻る。

「いっそ、額面通りうちで暮らせばいいのに」

 大家の鈴木爺ちゃんは言う。

「でも、あたしたち兄妹だから」

 そう言って、つまらなさそうな顔をする爺ちゃんには気づかないふりをしている。で、ここのところ晩御飯は颯太の担当になっていた。

「実は、初めての授業で、こんなものを書かせたんだ」

 そう言って颯太が見せたのは、八つ切の画用紙に書かせた一本の樹だった。

「みんなの個性を知りたいって言ってな。一本の樹を描かせる。背景に地平線を入れることだけが条件。栞もやってみな」

「……で、なにが分かるの?」

「描きあがってのお楽しみ」

 その間に颯太はお茶を淹れる。何度淹れても、薄すぎたり濃すぎたりだが。

「描けた!」

「標準的な描き方だな。一番重要なのは地平線の位置。真ん中に引くやつは理性と感情のバランスがとれている。まあ、ほどほどに地面に足のついた夢を持っている。栞はそういう気質だ。樹の幹、緑の葉っぱもほどほどだ」

「ふーん、そうなんだ。で、咲月ちゃんのは?」

「これだ」

 咲月のそれは、地平線が低くて空の広がりが大きい。樹の幹は細いが葉っぱの部分は大きい。ただし、葉っぱのほとんどが枯れかけている。

「春なのに秋の風景だ」

「もともとは、夢の大きな子だよ。でも、障害があって挫折しかけている。栞は、言いもしないのに周りに花とか描いてるだろう。協調性と親和性が強い証拠だ。栞については安心した」

「咲月ちゃんは?」

「うーん……孤独で、その割に夢が大きい……大きかった。夢が枯れかけてる」

 そこにノックの音がしてお隣のセラさんが顔を出した。

「ちょっとお客さんといっしょに旅行に行くから、しばらく留守にしますので……あら、お絵描きしてんの?」

 興味を持ったセラさんは、一気に絵を描き上げた。栞と同じくバランスのとれた絵だった。ただ色彩と勢いは、栞の何倍も力強かった。

「ふーん、そうなんだ」

 分析を聞くと、鼻歌と共に出かけていった。気の置けないお隣さんだ。

「あたし、ちょっと咲月ちゃんと話してみる」

「うん、それがいいな。あの子には心を開いて話せる友達が必要だ」

「分かった」

 もう栞には、咲月に何を話すべきか決まっていた。

 そして、この心理分析の絵の意味も初めから知っていた。だから颯太が一番気に入るものを描いたのだ。

 本心から描いたら、もっと別な絵になっていた……。

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