大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

REオフステージ(惣堀高校演劇部)130・福引・3

2024-08-24 07:00:54 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
130・福引・3 






 ニイチャン、換えたろかあ( ̄ω ̄)

 アメチャンのオバチャンが肩を叩く。

「え、換える?」

「温泉は、まえに当たったさかいなあ、テーブルゲームやったら孫とでもできるよってに」

「え? いいんですか!?」

「うん、有馬とか白浜やったら行くねんけどな、南河内は自分らで、なんべんも行ってるさかいなあ」

「せやせや、惣堀高校は商店街のお得意さんやしなあ」

 肉よしのオバチャンも薬局のオッチャンも賛同してくれる。

「「「ありがとうございます!」」」

 演劇部の三人娘もそろってお礼を言って、温泉ご優待券をゲットした。


 部室に戻ってパソコンを開く。現実に行けることになったので下調べをするんや。


須磨:「ホームページで11800円だから、実際は10000円というとこでしょうねえ」

ミリー:「これで、二食付きで温泉入り放題!?」

千歳:「お部屋も悪くないです!」

啓介:「こんなとこに行き慣れてるって、リッチなんやなあ惣堀のオバチャンらは!」

千歳:「ちょっと、いいですかあ」

 お部屋に感激した千歳が車いすを乗り出す。

千歳:「ああ、バリアフリー! 洋室もあるから、介助なしでもいけそう!」

 なんだかんだで半年になるけど、千歳はやっぱり気にしてるんや。もう、俺たちは自然に千歳の介助は出来るようになってる。でも、口に出しておくことでエクスキューズを表明しておきたいんや。

ミリー:「ハハ、シスコの温泉プールはイマイチやったしね」

 うん、出会ったアメリカの高校生はええ奴らやったけどな。

須磨:「じゃ、いつにする?」

ミリー:「啓介、パンフ見て」

啓介:「うん、ええと……来週から一か月」

ミリー:「そかそか、じゃ、テスト期間を外して……候補は三つやね」

 ミリーが、カレンダーの三つの土日をチェックする。

千歳:「いつがいいですかねえ(*^^)」

須磨:「ま、慌てて決めてもなんだから……この週末一杯考えて決めよっか!」

 須磨先輩の一声で決まった。せいてはことを仕損じるというやつや。


 いちおう顧問や担任にも話しておこうということで、オレ一人先に帰ることにした。やっぱ、千歳の事や女生徒の宿泊とかがあるので、あとで苦情が出ないようにという須磨先輩の知恵。


 再び商店街を谷町筋に向かって歩く、自然と福引会場に目が行ってしまう。

 一等賞品獲得者様ご芳名!

 大売出しのポップみたいなのが張り出してある……ということは、残る一本を引き当てた人がいてるのか?

 知らん苗字(プライバシーがあるから苗字だけなんやろう)と並んで、似たようなのが二つ……一つは俺たち空堀高校演劇部。もう一つは……船場女学院高校演劇部……!?

 船場女学院!?

 東横堀川を挟んで立ってる、うちの惣堀高校とは対照的なお嬢様高校や!

 ドキドキドキ……

 自分でも気恥ずかしいほど胸が高鳴った。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
 
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やくもあやかし物語2・068『オリビアとお風呂に入る』

2024-08-23 14:55:25 | カントリーロード
くもやかし物語 2
068『オリビアとお風呂に入る』 




「……ということは、今のわたしたちはお酒のとっくりということね(^▽^)」

 お風呂のお湯が沸くのを待ちながら燗風呂の説明をしてあげると、子どものようにおもしろがるオリビア。燗風呂は元々はお酒をお燗するものだからね。
 
 お風呂の湯は「わらわの風呂だからわらわが沸かす」と御息所がいっしゅんで水をお湯にした。日本に居たころから好きな時にお風呂に入るため、自然に覚えた魔法らしい。

 で、お風呂が沸くと、三人でいっせいにお風呂に入る。

 女同士だけど、すっ裸は恥ずかしがるかと思ったんだけど、オリビアはこだわりはないようで、わたしより先にスッポンポンになる。

「ああ、木の香りがとてもいいですね。なんだか、森林浴とお風呂を同時にやってるみたいですぅ」

「プリンスエドワード島は木のお風呂だったの?」

「ううん、FRPというのかしら、プラスチックの一種だと思うわ。学校の『福の湯』もいいけれど、こういうお風呂も素敵よ。日本はいろんなお風呂があって羨ましいわ。ね、御息所さん……あら?」

 御息所は、わたしの肩に乗っかり首に寄りかかって居眠っている。

「まあ、かわいい。恋人たちの小道で出くわす妖精みたい」

 恋人たちの小道で思い出した!

「プリンスエドワード島って『赤毛のアン』の島じゃない?」

「え、ええそうよ。そうか、やくもは『赤毛のアン』を知ってる人なんだ!」

「うん、愛読書だったからね(^_^;)」

 他に『怪談奇談』とか『ゲゲゲの鬼太郎』とかあるんだけど、それは言わない。

「ということは孤児院から……」

 言いかけて失礼だと思って口をつぐんでしまう。

「アハハ、アン・シャーリーじゃないわ。でも……ちょっと似てるかなあ」

「どういうこと?」

 不躾だとは思いながら、つい身を乗り出してしまう。

「元々はトロント。でも、賑やかでごちゃごちゃしてるんで、お父さまが『大学に行くまでは静かで環境のいいところに住むべきだ』とおっしゃって、12歳の秋からプリンスエドワード島で暮らしているの」

「ひとりで?」

「ううん、家庭教師を兼ねたメイドさんがいっしょに、他にも交代で、島には、わたしの家の他にも会社の保養所があって。あ、もともと保養所があるんで、こっちの方がついでなのかもしれないわ」

「オリビアのお家って、会社を経営してるの?」

「あ、うん……」

 あんまり家の事には触れない方がいいみたい。

「あ、そんなことない」

「え?」

「あ……」

「オリビアって、人の心が読めたり……?」

「え、あ、いや、そ、それはね(#'∀'#)」

 あ、地雷を踏んでしまった?



☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女
 
 

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REオフステージ(惣堀高校演劇部)129・福引・2

2024-08-23 07:00:58 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
129・福引・2 





 校門を出て、ちょっと歩いて左に曲がると商店街。

 谷町筋に向かって上り坂になっていて、そこを高校生らしく駆け足で上がっていく。

 タタタタタタタタタタ

 中学では野球部に居たのは知ってるよな。

 いちおうピッチャーやったんやけど、攻守換わってマウンドに上がる時は駆けていく。ベンチからの短い距離を歩こうが走ろうが大して変わりはないんやけど、ノタクラしていては勝てる気がせえへん。

 監督は嫌いやったけど『試合中は走れ!』というコンセプトは正しいと思う。

 レトロな商店街のテーマ曲が流れ、そこを曲がったら『ふれあい広場』という角に福引のコーナーがある。まずまずの人気で、すでに五人のオッチャンやオバチャンが並んでる。

 赤いハッピと鉢巻のオッチャンがニコニコと番をしている……と思ったら先輩でもあるハイス薬局のオッチャン。

「お、惣堀演劇部、四等はフライドチキンのビッグバレルやで!」

 高校生には食い気のフライドチキンが有難いやろという気持ちなんやろうけど、こっちは一等狙いや。

「一等狙いです!」

 高らかに宣言する。

「欲かいたら、早死にするでえ」

「ええがなええがな、志は高い方がええ」

「アメチャンあげよ」

「ありがとう、いただきます」

「惚れ薬入りやでえ」

「え!?」

「ほら、いまドキっとしたやろ」

「てんごいいな(^▽^)/」

 先客のオバチャンたちがいじってくる。カラカラと福引のガラガラが回る。次の次がオレの番や、オレも口の中でアメチャン回して予行演習。

 ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ……。

「どんだけ回すねんな」

「いや、念を籠めんとなあ……えい!」

「おめでとう、四等ビッグバレル!」

「え、これが賞品?」

 アメチャンのオバチャンが四等を引き当てた。でも、渡されたバレルは空っぽ。

「これ持って、『肉よし』(商店街の精肉屋)に行ったら一杯入れてくれるさかい」

 なるほど、食品やから揚げたての新鮮さを大事にしてる……というか、思いっきり地元商店街の商品やないかい!……五等フライパン……六等食用油……七等ティッシュペーパー……上がって三等は洗剤一年分……二等テーブルゲームセット……そして一等南河内温泉宿泊券……これや! でも、南河内? なんかショボイ。

「ショボイ思たらあかんで、近場やけど、一等は三本もあるねんでえ!」

 三本!?

 福引券は十回分ある。野球だって九回の裏までやらなければ結果は分からない。それが、もう一回多い十回分、可能性はあるかもな!

 カランカランカラン! 一等賞!

 いや、まだ早いって(n*´ω`*n)、まだガラガラ回してないし。

 え? なんちゅうこっちゃ、アメチャンくれたオバチャンが当てちまった!

 い、いや、まだ二本ある。勝負は勢いやからな! オバチャンにあやかって……エイ!

「七等ティッシュペーパー!」

 まあ、一等が出た直後やからな……ガラガラガラ……エイ!

「七等ティッシュペーパー!」

 くそ、つぎこそは!

 ガラガラガラ……エイ!

「七等ティッシュペーパー!」

 く、くそ、もう一回(;'∀')!

 こんな調子で九回連続のティッシュペーパー。


 いよいよ最後の一球。


 オレは、福引台の前で、九回の裏同点の試合を思った。攻守どっちや? ピッチャーでは苦杯をなめ続け、あげくに肩を痛めて引退の憂き目にあったので、バッターのフルスィングのモーションをとってからガラガラに向かう。

 期せずして「かっ飛ばせー、ソーォホリッ!」のコールが湧きおこる、オバチャンたち、意外に若い声!

 ツーストライク、スリーボール! あとはねえ! エーーーーーイ!!

「おめでとう! 二等、テーブルゲームセットオオオオオオオオオオオ!!」

 え……二等賞?

 しまったあ、オレはピッチャーやったんやから、とことんピッチャーで行くべきやったんや。ピッチャーが打撃で勝負してどーーすんねん!

 それでも地元の商店街。オレは薬局のオッチャンから恭しく賞品を授与される。

「おめでとさん、ほら、お仲間も応援に来てくれてたんやし。またがんばろ」

 え、お仲間……?

 え(''◇'')ゞ

 振り返ると、演劇部の三人が残念な笑顔で並んでた……。


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
 
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銀河太平記・242『ハルハ川沿いの戦い』

2024-08-22 10:56:55 | 小説4
・242

『ハルハ川沿いの戦い』孫大人 




 敵の騎兵部隊は横に広がった。広がっても、その厚みはさして薄くなったとも思えず、その数五千ほど、背後には後詰がおるかもしれず、一個師団は優にいるだろう。

 先頭の千余の騎兵が差し渡し二キロほどの横隊になるのに三十秒もかかっていない。

 横に広がった分、進撃速度は落ちるが、テムジンの部隊も突撃しているので自分たちの進撃速度は重要ではない。

「包み込まれて殲滅されるよ(''◇'')」

 ハンベで鳥観図に変換した戦場の映像は数分後のテムジン隊の全滅を予測させた。

 テムジンが左手を上げ、グルッと回して左を指した。

 すると、左翼の二騎が俄然速度を上げて敵の右翼に周る。

 一騎は敵の右翼の外へ。もう一騎は人馬共々背を低くして敵の右翼中央に突撃していく。

「え、殺されるわよ!」

 春鈴が叫ぶ。右翼の外に周った一騎はともかく中央の一騎は接触と同時に倒されるだろう。

「中央のをズームしてくれ」

「う、うん」

 春鈴がタッチすると、画面は中央に迫る一騎をアップにした。

 戦場をくまなく観察するために、複数の蜂型のカメラロボットを飛ばしてある。そのうちの一つが中央に迫る一騎を大写しにした。

 とたんに消えた!

「違う、後ろに飛んだ!」

「え?」

「馬の腹にブースターを付けてんの、それを逆噴射して後ろに飛んだ!」

 とたんに、敵右翼の三割ほどがなにかに躓いてもんどりうって倒れる。

「ワイヤーかなにかを張ったんだ!」

 そうか、二騎でワイヤーを張って敵右翼の馬たちの脚を絡めとったんだ!

 飛び退る瞬間にワイヤーの端を地面に打ち込んで固定したんだ。跳び退るという意外な動きで、敵はワイヤーもワイヤーが打ち込まれたことも気づいていない。

 倒れた馬は百に近いだろう。すかさず、テムジンは自分の左翼を引き連れて突進、混乱する敵右翼の残敵に飛びかかっていく。

 ズドド ズドドド パパン ズドン パパパン ズドン パパン

 彼我の銃声が響く。

 テムジンは敵の混乱に乗じて部隊を突撃させる。

 前方の数百は壊滅して残りも混乱させたが、この突撃は少し無謀だ。多勢に無勢、各個に包まれて摺りつぶされてしまう……と思ったが、テムジンは全部の馬にブースターを取り付けさせていて、リアル馬とは思えない挙動と敏捷さで馬を操り、正確に銃撃を加える。

 ズドドド パパン ズドン パパパン ズドン パパン ズドド 

「あれ?」

 春鈴が声を上げると、敵の後方で混乱が起きている。

「おお、ゴルジン!?」

 敵右翼の外側を周っていたのはゴルジンだったのだ。そのゴルジンが反対側の敵左翼の後ろから出てくると、敵後尾の数十騎がバタバタと倒れて土煙が上がっている。

「そうか、ゴルジンは後ろからワイヤーを引き回してるんだぁ(^▽^)!」

 春鈴が喜ぶが、敵も馬鹿ではない、さっさと足元のワイヤーを切って無力化する。

 敵は十分足らずで三割の騎兵を打ち倒され、テムジンの損害は十騎余りに止まっている。

 敵は進撃を停めた。

「もう一度立て直して向かって来るでしょうねえ(^へ^)。」

 ここでポップコーンを渡してやったら、ムシャムシャ食べてサッカーの観戦でもするような感じの春鈴。

 儂も、これから戦の本番と腰を落ち着けるが、ちょっと様子がおかしい。

 シュポポーーーン シュポポーーーン

 敵は、そこいらじゅうに対人地雷を撒くと、馬を下りて塹壕を掘りだした。

「持久戦に持ち込むつもりかしらね」

「増援があるのかもしれん、健康な兵は半分ちょっとだろうしなあ」

 ようやく敵も持ち直し、うかつには手出しできなくなって二時間近くが経過した。

 その間、いつの間に出したのか、斥候たちが一騎二騎と戻って来る。

 都合四騎ほどから報告を聞いて、テムジンは回覧板を回すような気楽さで、こちらに寄ってきた。

「これは陽動だ、敵の主力は西に集中している」

 それだけ言うと自分の配置に戻り、さっと手を挙げるとたちまち千騎余りの騎馬部隊が一斉に西に走った。全馬ブーストをかけているので、あり得な速度になる。儂と春鈴の馬にはブーストの機能が無いので、ポックリポックリ普通の速度で移動。

 そのコントラストがなにかオチョクッテいるように見えるのか、目の前には自分たちが撒いた地雷も残っていて、敵は直には追撃には移ってこなかった。

 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

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REオフステージ(惣堀高校演劇部)128・福引・1

2024-08-22 06:54:01 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
128・福引・1 





 旧校舎の解体がストップしてる。

 なんでも非常に珍しい工法で作られていて調査に時間がかかるのと、旧校舎の下に秀吉時代の大坂城の遺構が発見されたためらしい。

 こんなとこに大坂城!?

 いまの大阪城の外堀から二キロ以上離れているが、校名にもある通り、秀吉の時代には惣堀と呼ばれた空堀があったのだ。当然空堀に沿って、屋敷や陣地などがあったわけで、場所によっては文化財級の発見になるらしい。

 二階の角部屋に部室が移ったのが文化祭の前、当初はタコ部屋の部室よりも広々したことと、眺めがよくなったことにワクワクしたが、ちょっと冷めてきた。
 タコ部屋の部室ではミリーが両足首ねん座で半月ほど車いすやった。元々車いすの千歳と二台の車いすになって、そのうえ交換留学生のミッキーまで入部してきたんで鬼狭かった。

 ま、その不自由さもあって角部屋に引っ越しできたわけなんやけどな……ちょっとアンニュイや。

 かさばるミッキーがアメリカに帰っちまって、ミリーも捻挫が直って車いすを止めてる。

 思えば、あの不自由さが楽しかったんかもしれない。

 ちょっとお茶を淹れるにしても、ゴミを捨てるにしても、お互いの前や後ろや、時には跨いでいかなければならんかった。車いすの方向転換でスカートが引っかかって千歳の太ももが露わになったり、後を通る時に須磨先輩の胸の谷間が覗いたり……あ、いやいや、その、なんだぁ……お互い肌感覚で……いや、胸襟を開いてというか、ひざを突き合わせてというか、そういう近さで部活やるのがな、いまの高校教育に欠けて……。


「なに、赤い顔してんのよ、啓介」

「ゲ、先輩」


 ヤマシイわけやないけど、虚を突かれてアタフタする(^_^;)。松井先輩は、なぜかテーブルの斜め向かいに腰掛ける。揃えた膝の上に鞄載せるし。

「たまたまね、こっちに座ってみたい気分なのよ」

「あ、そすか……あ、なんで、こんなに早いんすか」

「図書室にもタコ部屋にも飽きたしね……ていうか、みんな揃うまでに、これ行ってきて」

 先輩は、やおら制服の胸に手を突っ込んで茶封筒を取り出した。

「な、なんなんですか、それ?」

「まあ、中を見て」

 手に取った茶封筒は、ほのかに熱を帯びていて、なんかやらしい。

「温もりを楽しんでるんじゃないわよ、さっさと中を見る」

「ひゃ、ひゃい!」

 焦りながら中のものを引き出した。それは、五十枚はあろうかと思われる惣堀商店街の福引券や。

「五枚で一回くじが引けるの、十回ひけるから、一等賞を当ててきなさい」

「え、一等賞!?」

「近場だけど、温泉ご優待。四人いけるわ」

「四人?」

「うちのクラブにピッタリでしょ、さ、商店街にひとっ走り!」

「あ、でも当たるかどうか……」

「胸に抱いて願いを込めといたから当たるにちがいないわ」

 なんか、先輩の目、マヂすぎるんですけど……。

「万一、当たらなかったら」

「その時は、わたしの下僕になりなさい……わたしが卒業するまでね」

「え、先輩の卒業て……」

 高校八年生の先輩が、いまさら卒業なんて……俺の卒業の方が絶対早い。

「フフフ、そうよ、啓介は卒業してもわたしに尽くすのよ(ᐢ⩌ ̫ ⩌ᐢ )」


 そ、そんなご無体な……。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
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馬鹿に付ける薬 009・広場を抜けてギルドに向かう

2024-08-21 12:07:28 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》

009:広場を抜けてギルドに向かう 




 活気が無いわけではない。


 伝説の英雄神に胸板を貫かれた魔王の口からは五メートルあまりの水が噴き出て、周囲の魔族や英雄神の弟子たちも互いに刃を交わしながら、それぞれの主神を見上げて水を噴き上げる。
 その噴水のブロンズたちが噴き上げる水は、たちまちのうちにミストになって、広場に集う者たちを潤す。
 集う者たちは、そのミストにびしょ濡れになる前には噴水の周囲を離れ、それぞれの目標の場所に移っていく。

 移っていく者たちは、両手にストックを持ったウォーキング、あるいは散歩の者たち。あるいはマイカートを押した買い物の者たち。
 ミストの届かない木陰では杖に顎をのせたり、大方の体重をベンチの背に預け、UVカットの帽子やサングラス、日焼け防止の腕カバーに身を固めた元冒険者たち。
 彼らは、バザールの安売りや健康法や、かつての話半分の冒険譚に花を咲かせる。元は現役であった彼らは声だけは大きい。

 だから、広場はけっこうな活気ではある。

 活気はあるが、それは沈みゆく夕陽の輝きに過ぎない。若い現役の冒険者たちは待ち受ける初めての、あるいはせいぜい二度目か三度目の冒険の障りになってはかなわぬと足早に通過するか、広場そのものを回避して目的のギルドや素材屋、武器屋、保険の代理店に向かっている。

「夏場の午後五時と言ったところですわねえ」

「え、まだ二時を回ったところだぞ」

「ふふふ、アルテミスは元気いっぱいですね」

「ここは、ざっと見ただけで十分だ。さっさとギルドに行こう、保険ならギルドでも受け付けてくれるだろう」

「すこし、お年寄りの方々とお話してもいいかと思うベロナなんですけど」

『おお、そこのお若いのぉ』

「あ、わたしたちですかぁ?」

『初々しいなあ、初めての冒険かい?』

「はい、これからギルドに向かうところです」

「ち(-_-;)」

 木陰の年寄りたちが一斉にベロナとアルテミスに顔を向ける。

『そうかい、そりゃあいいなあ』

『今からなら、曙の谷ぐらいには行けそうだなあ』

『ダメよ、吊り橋でこじれたら谷底で野営しなきゃならなくなるわよ』

『それも風流なもんじゃないか』

『なに言っとる、最初の野営でションベンちびったのはだれだ』

『それは剣士のなんとかいうやつだ』

『そうよぉ、ヤコブは狼の遠吠えで卒倒しちゃってぇ』

『う、うるせえ』

『あはは、お爺ちゃんたちに付き合ってたらきりが無いわ。行ってちょうだい(^_^;)』

「ありがとうございます。みなさんもお元気で」

『あんたら、ひょっとして馬鹿に……』

 馬鹿の次に来る言葉が気になる二人だったが、老魔法使いの婆さんの注意に従ってギルドを目指すことにした。

 
 ギルドはドイツ風の質実な三階建で、角を曲がって姿が見えた時から特別な感じがする。
 黒ずんだ柱は太々と地面に根を張っているようだし、頑丈そうな窓からは冒険者たちの気炎が溢れるよう、屋根の風見竜は――風向きなど見ていられるか!――と、いまにも戒めを解いて空に舞い上がっていきそうな気配だ。

 建物の前面いっぱいに据えられたポーチには、現役冒険者たちのオーラを浴び、話しかけたり冷やかしたりしようとする年寄りたちがいたが、さすがの二人も、その視線に応えようとはせずに厳めしい金具付きのドアを開けた。


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          月の女神
  • ベロナ            火星の女神 生徒会長
  • カグヤ            アルテミスの姉
  • マルス            ベロナの兄 軍神 農耕神
  • アマテラス          理事長
  • 宮沢賢治           昴学院校長
  • ジョバンニ          教頭
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)127・ミッキーのカミングアウト

2024-08-21 09:43:03 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
127・ミッキーのカミングアウト 





 姫ちゃん先生(姫田先生)の授業はよう脱線する。

 四時間目の授業で、誰かのお腹が鳴ったりすると、先生の高校時代の学食に話しが飛んで、高校時代の思い出なんかを語り出すと止まらんようになる。
 この物語も啓介が先生の学食の話しで、うちの髪の毛から冷やし中華を連想して涎を垂らしたとこから始まった(001・ただ今四時間目)。

 今日の姫ちゃんは「うちの両親って、従姉妹同士なんだよ」という話をした。

 今朝は寒かったせいか、いつもはヒッツメかポニテにしてる先生が髪を下ろしてた。これが、けっこうイケてて、ちょっと清楚系のベッピンさん。

 それをセーヤンが「姫ちゃんて美人やってんなあ……」と呟いたところから話が脱線して「あ、じつはうちの両親は従兄妹婚でねえ」という話になった。

「従兄妹同士って、血が濃いから、遺伝子の組み合わせで時々特徴のある子が生まれるのよ。3+3は6だけど、3×3は9みたいな。で、うちの両親が少しだけ持ってた美人とイケメンの遺伝子が掛け合わさってぇ……(n*´ω`*n)」

 他の人が言ったらイヤミになる話でも、姫ちゃんが言うと、なんかホノボノ系の話になる。姫ちゃんは自分が美人やということよりも、ボンヤリした性格なことに悩みがある。人の容姿にあんまり重きを置かへん人なんで、そのボンヤリコンプレックスの枕の話しとして従兄妹婚の話をしたんよ。

 で、昼休のミッキーはお弁当食べながらボンヤリしてる。ボンヤリの机の上にはお弁当と並んで書きかけの航空郵便の便せん。

 サンフランシスコ出身のミッキーの手紙は言うまでも無く英語。

 日本語に慣れ親しんだうちやけど、やっぱり英語の文章はパッと見ただけで大よそのところが分かってしまう。

「へえ、今どき手紙でお便りいうのんは珍しいねえ」

 うちの言葉は、もう半分は手紙の趣旨を理解した上での好奇心の響きがある。うちのハンナリした大阪弁(このごろのミッキーは大阪弁でも話ができる)も功を奏したのか、ちょっと仲間の感覚で返してきた。

「あ、ああ……従妹のキャシーにね……」

「ほう」

 子どもの頃にカンザスから越してきたミッキーは、従妹のキャシーと仲がよくて手紙のやりとりをよくやっているらしい。こまめに書いているんで、ミッキーが手紙を書いているところはよく目にする。

 オハコの歌詞を書くようにリラックスしてサラサラ書く手紙は英語ということもあって、わたしを含めクラスのもんは気にも留めへん。せやけど、今日は数行書いたとこで停まって、それも思い詰めたような顔してるんで目についた。

「従兄妹同士の結婚があるなんて考えもしなかった……」

 うちは、留学四年目やし、日本のことはシカゴの隣のお婆ちゃんからもよう聞いてたんで従兄妹同士の結婚言われても、それほどの驚きはない。

 せやけど、一般のアメリカ人。特に法律で従兄妹同士の結婚を認めてない州の者にとってはビックリする話。

 LGBTQとか流行のアメリカでは、同性婚なんかも普通になってきてる。

 せやけど、血族の結婚は普通やない。州によっては法律で禁止してる。禁止してなくても、その数は日本よりもうんと少ない。

 クレオパトラとかは弟と結婚した言われてるけど、遠い昔の歴史上の話しやし、普通は思わへん。

 めちゃ子どもの頃に「大きなったらパパ(or お兄ちゃん)のお嫁さんになる!」言う子はおるけど、学校行く年頃になったら言わへん。せやから、従兄妹同士は最初から考えの外。

「姫ちゃん先生の話を聞いて、自覚したんだ……」

「ひょっとして……」

「うん、ぼくはキャシーのことが好きだったんだぁ(◎‐◎)!」

 遠い目になってカミングアウトしてしまいよった!

 そして、ホストファミリーの美晴に「明日帰る」と一言言うただけで、今朝の飛行機で帰ってしまいよった。

 美晴は、もともとミッキーを持て余してたとこもあって「あ、そ」の一言でしまいやったらしい(^_^;)。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)



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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・121『お祖母ちゃんは時々お香をたく』

2024-08-20 12:11:01 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
121『お祖母ちゃんは時々お香をたく』   




 お祖母ちゃんは時々お香をたく。


 お香は、線香とかもぐさみたいに焚くものから、アロマっていうんだろうか、香水っていうか油っていうかみたいな時もある。

 それが、今朝はお線香だよ。

「いい男が二人も逝っちゃったんでねぇ……」

 そう言って、ソファーに浅く座ってお線香の煙を見ている。

「え、だれが亡くなったの?」

 お祖母ちゃんの視線を追うと、線香の煙が『アランドロン』と『高石ともや』という名前を描いた。

「えと……だれ?」

「ええ、知らないのぉ……」

「あいにく……」

 そう言うと、お祖母ちゃんはめんどくさそうに指を動かす。

 すると、ラックから朝刊が浮き上がり、テーブルの上でパサリと三面を開いた。

 たしかに、アランドロンという人と高石ともやという人の訃報が大きく載っている。

「ええと……映画俳優とシンガーソングライター?」

 ハーー

 ため息をつくと、もう一度指を動かすお祖母ちゃん。

 すると、映画の一コマなんだろうか、すごいヤサオトコが胸の大きなオネエサンと恋人の距離で見つめ合ってる映像が出てくる。背景は海で、ちょっとやるせないギターの曲が流れてる。

 太陽がおっぱい……いや、太陽がいっぱいか(^_^;)。

 もう一度切り替わると、高石ともやっていう人の若いころの映像が出て、陽気な歌を唄ってる。

 おーいでみなさん聞いとくれぇ♫ ボークは悲しい受験生ぇ……(^^♪

「ああ……」

 そういえば、クリスマスイブの集いとかで歌ってた曲っぽい。


 深入りするとお互いギャップにため息つきそうなので戻り橋を渡って写真館に行く。


 ボスの直美さんが晩夏をテーマに写真を撮りたいというのだ。

 いつもは家業の記念写真のために結婚式場とかだったりするんだけど、直美さんはプロの写真家でもあるんだ。

 それで、気心の知れた助手を連れて秋に応募する写真を撮りまくりたい。

 それを企画を練る段階からわたしを参加させ、テンションを上げたいという目論見。

 まあ、もう半分は、こんなわたしでも慰労してやろうという気持ちでもあるんだと思う。

 あ……ああ(-_-;)ゞ

 橋を渡った1971年は、令和と変わらない暑さ。

 でも、やってきた電車はめったに出くわさない冷房車。冷房の設定温度は令和より5度くらいは低くてラッキーだった。

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
  
 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)126・餃子が焼き上がるまで

2024-08-20 08:59:07 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
126・餃子が焼き上がるまで 






 子ども手当というものがあった。


 十五歳までの子どもを扶養する親に月々13000円支給される。子どもたちの経済環境をよくし、少子化対策の狙いも持たせた国の施策だ。

 受給資格に国籍条項はなく、外国人であっても受給できる。

 申請は地方自治体の窓口だ。

 これに、日本に住む外国人の親が申請に来た。なんと、子どもの数が50人!

「これは、ちょっと……(^_^;)」

 役所の窓口は困ってしまった。

「どうして困るの? 法律には人数制限は無いし、50人の子どもたちは全員わたしの子どもですよ、これが書類だし」

 なるほど書類は揃っている、法律で定めている子どもとは親権のことで、遺伝子的に親子である必要はないのだ。

 大お祖母ちゃんから聞いた時――とんでもないことだ!――と腹がたった。

「それは外国人の親が正しいよ」

 大お祖母ちゃんに言われた通り話すと、餃子を焼きながら美麗が背中で答えた。

「えーーどうして!?」

 餃子に目が無いわたしはヨダレを垂らしながら驚く。とうぜん美麗は「それはひどい!」と夕べの自分のように憤慨すると思っていたのだ。

「須磨のヨダレといっしょ。美味しいものがあったら、ヨダレ垂らして食べたいと思うのは人情だし、人間が生きていくために必要なバイタリティーだよ」

「だって、書類をよく見たら、親子関係は子ども手当の支給が決まってからのばっかりなんだよ」

「でも、法律には合ってるんだ。でしょ?」

「だけど」

「お皿は大きいのにして、餃子はチマチマ載っけちゃ美味しくないから」

「え、あ、うん……」

 美晴は素直にお皿を片付け、食器棚から白い大皿を出した。

「あ……っと、その奥にある錦手のがいい」

「こっち?」

「おいしく感じるでしょ」

 なるほど牛丼屋の丼のような柄で、食欲がそそられる。

「で、ぼんやりしてないで、お皿にお湯を張る!」

「へ?」

「お皿が冷たいと冷めてしまうでしょ」

「なるほど……」

 美晴はポットのお湯をなみなみとお皿に注いだ。意外なことにポットのお湯の半分が入る。

「子どもを育てるのは大変なんだよ、中国じゃ子どもっていうのは自分が生んだ子どもばかりじゃなくて、一族みんなの子どもが自分の子どもなんだよ……変に思うかもしれないけど、そうでなきゃ中国は、こんなには発展してないよ」

「美麗の言う通りだよ」

 いつのまにか林(りん)さんがテーブルについて餃子の焼き上がりを待っている。餃子はさっき林さんが皮から作ってくれたものなのだ。

「林さん……」

「ぼくの父親は国で役人をやってるんだ。子どもは、ぼくも含めてみんな外国に行かせてる。母親は去年呼び寄せたから、国には父親一人で生活。なぜか分かる須磨ちゃん?」

「たくましいお父さんですね」

「はは、父親は、いざとなったら捕まるつもり……あ、なんかヤバそうなことしてるんじゃないかって顔」

「え、あ、いや……」

「父親は、さっき言ってた家族手当程度の事しかやってないよ」

「え、じゃ、合法的なことしか……」

「いざとなったら、国はどんな罪でも被せてくる。父親は覚悟してるよ。だから、一族の事はボクが世話をするんだ」

「それが胡同なんですね……」

「そう、でも、須磨ちゃんは分かっちゃだめだよ」

「え、なんで?」

「簡単に分かられちゃ……面白くないでしょ。大お祖母ちゃんのように歯ごたえのある人になってよ。人生は面白くなくちゃね」

「焼けたわよ!」

 ジュワーー!!

 盛大な湯気と匂いが満ちた。わたしは、サッとお皿の湯を捨てて、美麗はすかさず餃子鍋をひっくり返してお皿に盛る。

「ナイス日中合作!」

 林さんは、各自の取り皿にタレとラー油を注いでいく。

「中国の餃子は、元来は水餃子なのよ。こうやって焼くのは余って固くなった餃子の食べ方」

「でも、ぼくは日本の焼き餃子が好き。ぼくも美麗も、こういう焼き餃子のように生きていくつもりだよ」

 林さんの幸せそうな笑顔で昼食の準備は整った。


「おや、ちょうど焼けたところだったんだねぇ」


 大祖母ちゃんが瀬奈さんを従えてやってきた。

「地酒のいいのが入ったからね……」

 瀬奈さんが角樽のお酒をテーブルの上に置いて、手際よく人数分の御猪口を並べて注いでいく。

「お嬢さまはニッキ水になさいますか?」

「あ……」

「まだ制服も着てないし、いける口なんだろ?」

「あ、じゃあ、一杯だけ(^_^;)」

 全員の御猪口が満たされて乾杯すると「では、準備をしてまいります」とお辞儀して出て行こうとする。

「あ、準備なら済んでる。着替えるだけだから」

「松井家の跡取りが出かけるんだ、粗略にはできないさ」

「あ、そんな大げさには(^_^;)」

「もう、年の内は帰ってこないんだろ」

「あ、まあ……」

 夕べ、松井の家を継ぐことだけは了承した。

 でも、それは了承だけで、いつ甲府に来るとは言っていない。

 とりあえず、高校生活は八年で終わりにする。そのあと大学に……まだ微妙に先延ばしだけど、そういう約束を大祖母ちゃんとしたんだ。

 庭の前栽の向こう、甲州の山々は癪に障るぐらいに変化が無い。

 でも、一昨日よりも、いっそう紅葉が進んで。その紅葉ぐらいには意地が通せたかと思った。


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)

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やくもあやかし物語2・067『ポンプで水を入れる』

2024-08-19 13:05:47 | カントリーロード
くもやかし物語 2
067『ポンプで水を入れる』 




『あっちに水があるーーー(>〇<)!』


 デラシネの手袋に入れて放り上げると、校舎の屋上ぐらいの高さで御息所が叫んだよ。

「行ってみましょうか(^▽^)!」

 オリビアが元気に前に出て、二人で御息所が指差したところに向かった。

 そこは、草むらが少し高くなっていて、丘というほどじゃないんだけど、遊園地の広場なんかで人工的に作られた山ぐらいの感じ。
 浅間山のカルデラを1/100ぐらいにしたら、こんな具合という感じで、カルデラの中にはきれいな水が漲っている。

「火山みたいだから濁っているかと思ったら」

「けっこうきれいですねぇ」

『ほれ、これを使って水を汲め』

 御息所が、キャンパス地の布バケツを放って寄こす。

「ありがたいけど、これだと何十回も往復して、お風呂入る前にくたびれてしまう」

『わたしも手伝うぞ!』

 えらそうに差し出したのは、デパ地下でジュースの試飲に使うような小さな紙コップ。

「お気持ちは嬉しいのですが(^_^;)」

 オリビアも笑顔のまま困ってるし。

『う~ん……じゃあ、あれはどうだ!』

 御息所の後をついていくと、カルデラの縁の草むらにポンプとホースが置いてある。

「看板になにか書いてありますわよ」

 オリビアが倒れた看板を起こすと――水を使う時は、これを使用してください――と書いてある。

「なかなか行き届いているわね。でも使い方は……」

「ええと……」

 オリビアが操作するとパイロットランプが数回点滅して、その横の赤ランプが緑に変わった。

 ブィーン

 ポンプが動き始めた!

『オリビア、慣れてるみたいだな』

「ええ、プリンスエドワード島に住んでいたころに、使ったことがあるの」

 プリンスエドワード島、どこかで聞いたことがある。

『あ、ダメだ、ホースに穴が開いていて水がダダモレだぞよ!』

「あらあら」
 
「ちょっと見てみる!」

 ホースを伸ばして、先の方からチョロチョロ出てくる水を確かめてみる。

『どうだぁ?』「どうかしらぁ?」

「うん、勢いは無いけど、いけるみたい。水もきれいなままだし」

「じゃあ、ちょっと時間はかかるけど、このままお風呂に入れてみましょうか」

「うん、そうだね。バケツで汲むよりはウンとましみたい」

 カルデラからホースを伸ばして風呂桶に先っぽを入れる。水の勢いでホースが暴れてはいけないので、しっかりと押さえたよ。

「ヤクモさんも、慣れてらっしゃるみたいですねぇ」

「あ、実家で庭掃除とお風呂掃除は、わたしの仕事だったし。オリビアは?」

「わたしもお風呂を沸かすのはやりましたけど、掃除や片づけは通いのメイドさんがしてくれましたので」

「あ、やっぱりオリビアはお嬢さまなんだぁ」

「いえいえ、父や母が心配性なだけで(^_^;)」

 いや、ぜったいお嬢さまだよ。でも、こういうことを深入りして聞くのは下品だからね。

 わたしも、中学を卒業して、今の学校に入って、ずいぶん賢くなったと思うよ。

『じゃあ、もっかい水を流すぞよぉ』

 御息所がスイッチを入れて、ホースが生き物のようにピクピクして水が流れ始める。

 プシューー

 数秒して水がやってきたけど、あちこち何十か所も水漏れ。

 でも、漏れた水は盛大なミストみたいになってクッキリと虹を映した。

 ウワァ!

 少しの間、三人で見とれてしまったよ。

 
 
☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女
 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)125・大お祖母ちゃんの腰を揉む件 

2024-08-19 09:48:58 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
125・大お祖母ちゃんの腰を揉む件 






 そこが難しんだよ……


「このへん?」

 松井の家の話になりかけていたけど、気づかないふりをして揉むポイントを仙骨の少し下にずらした。

「あーーーそこそこぉ、意外にうまいじゃないの」

「自分が凝るのもこの辺だから……」

 風呂上りに大お祖母ちゃんに呼ばれ、かれこれ十分もマッサージしているのだ。

「凝るところがいっしょだなんて、やっぱり遺伝なのかねえ……」

「あ……うん」

 胸にこみ上げたものを静かに呑み込んだ。

 大お祖母ちゃんの言葉には裏が無い。マッサージの上手さが血族であることの証であることにシミジミしているだけなんだけど、よけいに大お祖母ちゃんの希望に添えない痛みが胸に走る。でも、口に出して言ってしまえばズルズルになりそうなので、黙々とマッサージを続ける。

 三年生を六回もくりかえし、府下でもただ一人という高校八年生をやっているのは、甲府の松井本家の跡を継ぐ決心がつかないからだ。


 鎌倉時代に甲斐の守護になった武田家に付いてこの地にやってきた松井家は、武田家滅亡の後も田畑をほとんど持たない、幕藩体制の基準で云うところの小大名として残った。

 しかし田畑を持たぬ小大名とは言え、その支配する山林は甲斐の国の四半分を超え、その規模と実力は十万石以上だと言われてきた。 

 甲斐の国の山林資源を保全するために信長も秀吉も、幕府を開いた徳川も松井家を残した。山林経営の安定は山林資源の一つである金鉱山の経営のためにも重要であったからだ。
 明治になると子爵に列せられ、終戦まで日本有数の山林地主として残り、その経営は江戸時代以前の秩序のまま受け継がれた。
 戦後の農地改革でも、山林地主は山林資源の保全と効率的な経営のために手を付けられることは無く残されて今日に至っている。

 松井家の他にもいくつかの山林地主は残っていたが、令和の現代になっても昔のままの姿と秩序を維持しているのは岡山の谷坂家と甲府の松井家だけだと言われている。

 祖母の美乃(よしの)も母の美代も、江戸時代がそのまま続いているような松井家を嫌って家を飛び出した。
 大祖母ちゃんは、祖母の美乃と母の美代を名目上の跡継ぎに指名しただけで、家と山林の経営は自分でやってきた。数年に一度、半日だけ帰省し儀式に加わるだけの義務しか娘と孫には負わさない大祖母ちゃんだったので、ひ孫のわたしは本家の風呂にも入ったことが無かった。

 跡継ぎを親類筋から迎えるのが順当であるんだけど、大祖母ちゃんは半世紀の長きにわたって堪えてきた。だが卒寿を目前にして、いよいよ腰を上げ、ひ孫の須磨に、たとえ本人がどうあろうと跡を継がせようと決心してるんだ。

 須磨は、高校生で居続けることで、その決定から逃れてきた。

 生徒であるうちは後嗣に指名してはいけないという不文律が松井の家にはある。跡継ぎの資格を持つ子どもたちが大勢いたころの名残。本人の資質と覚悟を自他ともに確かめ覚悟するには、それほどの時間が必要とされた。単に血筋の問題だけではなく、甲斐の国の四半分を治める資質も見極めなければならないからと言われている。


 さすがに卒寿の大お祖母ちゃんには言葉が出てこない。そうだね……という相槌だけは出てくるのだが、たった四文字の言葉でさえ口にしてしまえば、一気に気持ちが傾斜してしまいそうなのだ。

「さっきの難しいは、美麗ちゃんのことさね」

「美麗が……?」

「というか、美麗ちゃんを取り巻く身内がさ……中国人が日本の山林や水資源を買いあさるのは、正直たいへんな脅威なんだよ。このまんまにしておくと、山林のおいしいところはみんな中国人に持っていかれる。それを防ぐのが、このお婆の仕事なんだがね。買いにくる中国人は身内のためなんだ……林さんたちは国を信じちゃいないからね、一族身内の未来は自分が保障しなきゃならないと思ってる。林さんたちが邪まな気持ちだけなら戦えば済む話なんだけどね……林さんたちにも、きちんと正義があるんだ」

「そんなことって、政府の偉い人の仕事じゃないの」

「そうとばかりは言っていられないところまで来てるんだよ……須磨が美麗ちゃんと仲良くなってくれたことは良かったと思うよ。お互い厄介な一族の跡取り、これからも仲良しでいておくれ」

「うん、仲良くする」

「このお婆は、お父さんの林(りん)さんとガチバトルになるだろうからね……ここだけの話し、美麗ちゃんは須磨よりも一つ年上なんだ」

「え、ええ( ゚Д゚)!?」

「あの子はアメリカの国籍も持っていてね、ほんとうは林の家から逃げ出したい。それで、あちこちの国に何年も留学して逃げていたんだけどね」

「そうなんだ……」

「今は、東京の乃木坂学院の三年生」

「留年はしてないの?」

「武蔵野女学院で二回、アメリカの高校で二回、イギリスで一回」

「おお……」

「須磨は、ずっと惣堀の留年で通してるから偉いって言ってたよ」

「あははは……」

「いくら年齢を誤魔化しても留年は二回が限度だってさ……」

「わたしの場合は……」

 そこまで言って言葉に詰まる。

 校内ではハイパー留年生であることを隠そうともしないわたしだけど、学校を出た商店街などでは悟られないようにしている。制服も三年前に買い替え、表情や歩き方まで普通の現役生に見えるように気を配っている。

「大祖母ちゃん……須磨はね……」

「………………………………」

 意を決して言葉を継ごうとしたら、大祖母ちゃんは気持ちよさそうに寝ていたよ。


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
 






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銀河太平記・241『敵襲・草原に土色の草が萌える』

2024-08-18 11:04:02 | 小説4
・241

『敵襲・草原に土色の草が萌える』孫大人 



 モンゴル平原の一帯はAP(アンチパルス機)の波動によってパルス兵器が使えない。むろん満州戦争のころと違って、APとて絶対的な効力があるわけではない。

 しかし、誇り高いモンゴル人たちがAPを設置している以上、それを無視して近代兵器を使いまくれば、世界中から不信の目で見られる。モンゴル人たちは、たとえ占領されても抗い続けるに違いなく、結局は勝利の実を採りにくくしてしまう。

 ロシアは、はるか千年の昔にはチンギス・ハーンとその息子たちに国を取られ、タタールの軛(くびき)と呼ばれる苦難と苦渋の時代を過ごさなけれならなかった。

 その雪辱を晴らすためにも、ロシアは騎兵でやってくる。

 騎兵と言っても20世紀以来、機甲部隊を指す。非パルス戦車、装甲戦闘車、誘導ミサイル、各種誘導弾。無人機にドローン兵器。

 はてさて、どんな展開になるのかと窪地に身を伏せる。

 前方には、同様に窪地に身を伏せたテムジンの兵たちの背中が見える。

「10騎足りない」

 春鈴が呟いた時、地平線の少し手前で仕掛け花火のように連続して火花が散った。

 ピシュピシュ ズドン ズコン ズドド ピシュピシュ ズドン

 遅れて各種携帯兵器が目標を破壊する爆発音や衝撃音が伝わって来る。

「10騎、別動隊になって、敵をブチノメシテるわ……移動しながら次々に……」

「すごい腕だな、戦車やミサイルは屁でもないんだなぁ」

「人も馬も義体化されてるんだろうけど、尋常な能力じゃないわねえ」


「これで、敵も普通の騎兵でやってくる」


 突然の声にビックリしたら、テムジンが儂たちの後ろに来ている。

「( ゚Д゚)!?」

「え、わたしでも気が付かなかった( ゚Д゚)!」

「これで敵は純粋の騎兵で攻めてくる。相当の激戦になるから少し後退してくれ。危ないと思ったら退避してくれ、悟兵の筋斗雲なら逃げ切れる」

 そこまで言うと、返事も聞かずに戻った。

「あら?」

 首を戻すと、前方の窪地に居たテムジンの部下たちの姿が消えている。

 ビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシ

 そこに百を超える弾着の土煙。敵の射撃も見事で、土煙は、あたかも土色の草が一斉に芽吹いたかのようだ。

「少し下がるわよ」

「おお」

 移動した二秒後には、二人でいたところにも土色の草がいっぱい芽吹いたアル。

 春鈴がチラッとジト目になるが、声に出した「アル」ではないのでノーカウント(^_^;)。

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド……

 地平線の向こうから優に千を超える馬蹄の響きが地を揺るがして迫ってきた。



☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)124・美麗とお風呂に入って溺れかけた件

2024-08-18 09:04:02 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
124・美麗とお風呂に入って溺れかけた件 





 林さんと書いて「りん」さんと読む。

 お父さんの方が林評(りんぴょう)、娘さんの方が林美麗(りんびれい)。

 韓国の人みたいに向こうの読み方はしなくていい。

 毛沢東なんて、向こうの読み方だとマオツォートンだけどモウタクトウでOKだ。

 
「ほんとうに日本の音読みでいいのかしら?」

 勢いよく素っ裸になった美麗の背中に声をかけた。

「うん、中国と日本は昔からそうだし」

 素っ裸のまま、こちらを向いて言われるものだから、たじろいでしまう。

「わたし、日本で生まれて、中国には通算で二年ほどしか帰らなかったから、音読みの方が馴染んでるし」

 愛くるしく笑って美麗はカラカラと浴室のドアを開ける。


 
 カッポーーーーーン



 かかり湯の桶を小気味よく響かせて美麗が湯に浸かったころに入っていった。

「須磨って一人っ子でしょ?」

「え、分かるの?」

「そりゃ、脱ぐのゆっくりだし、今だって……」

「ん?」

「ふふ、そろりそろりとお湯に浸かって……」

「だって、美麗ったら……この浴槽は熱い方から二番目だよ。ひょっとして、美麗って兄弟多かったりするでしょ」

「ううん、一人っ子だよ。中国って最近まで一人っ子政策だったしね」

「あ、そうだったわね……グヌヌヌ(熱っついーーーーー)」

「ふふ、一人っ子だけど家族というか、親類が多いからね。それがいっしょに住んでるから、イトコトかハトコとか、日本だけでも五人いっしょに住んでるんだよ」

「え、なにそれ?」

「うちの家は古いから、昔からの習慣が残ってるのよ。お父さんは胡同(フートン)だって喜んでるけどね」

「フトン?」

「フートン」

「なんだかフワフワしたお布団みたいね(^▽^)」

「あ、云えてるかも。お布団の温もりってフートンに通じるよ」

「で、フートンて?」

「下町の道のこと。中国じゃ大通りを大街、その次を小街、もっと狭い通りを胡同て言って下町の意味。で、胡同と言うだけで下町付き合いという感じかな」

「そうなんだ」

「胡同には四合院(スーフーユェン)ていう家があってね。敷地の四方に建物があって……あ、ここのお風呂に似てる。四方に湯船がって、真ん中が共通の洗い場でしょ。湯船を家、洗い場を中庭だと思えば四合院のイメージ」

「あ、裸の付き合いって感じ?」

「あ、そうそう(^▽^)。住んでるのは、みんな親類でさ、うんうん、まさに、このお風呂だよ。ここも、夕方とかになったら近隣の人たちでいっぱいになるんでしょ?」

「うん、まだ、その時間帯に入ったことないんだけどね(^_^;)」

「え、ここ、須磨の実家でしょ?」

「あぁ……お祖母ちゃんの時に家を飛び出して、ずっと別に住んでたからね。ここは、子どもの頃にたまに来るだけだったし。それも、いつも日帰りだったし」

「いろいろ事情があるんだね……うちは、親類ぐるみで何十人も住んでてさ、真ん中に庭があって憩いの場所になってんの。中国人のアイデンテティーはその胡同と四合院の中にあるんだよ」

「なるほど」

「中国って昔から何度も国が替わってるじゃない、大きくなったり小さくなったりしながらさ」

「そうだね……」

 世界史で習った歴代中国王朝の表が頭に浮かんだ。

 夏 殷 周 秦 漢 魏・蜀・呉が三国で、隋 唐 宋 元 明 清……だったっけ?

「ふふ、声に出てるわよ」

「はは、暗唱して覚えたから」

「中国人でも、そんなにきっかり覚えてる人は少ないわよ、お見事でした!」

 拍手されて照れてしまう。

「王朝が替わるたんびに国は乱れるでしょ、だから、中国人は国の事を頼りになんかしてないの……頼りになるのは自分たちしかない。だから、中国人は鬱陶しいほど親類を大事にするのよ」

「聞いたことがある、だから中国の苗字は少ないって……少ないってことは一族の人数が多いってことなのよね」

「うん、林だけでも数百万人いるでしょうね。お父さんが今の会社作った時、二百年前は兄弟だったって人が来たわ」

「信じられない!」

「中国に汚職が多いのは、そういう途方もない身内意識があるから……けして、みんな悪党だってことじゃないのよ」

 ちょっと考えてしまった。

 自分は数少ない親類の大お祖母ちゃんの希望も受け入れていない、もっとも受け入れて松井宗家の家督を継ぐ気なんかない。ないんだけども、美麗の話を聞いていると、ちょっとだけど後ろめたくなってしまう。

 美麗の話しは続く。

「その林一族の未来を守るために、お父さんは必死にやってるの。そうなのよ、お父さんが日本の山林を買うのは中国のためなんかじゃない、林の胡同を守りたいからなのよ。脂ぎった親父は嫌いだけど、そこんとこは理解してるのよ、須磨……須磨? ちょ、須磨ぁーーーー!!」

 わたしは熱い湯に浸かり過ぎ、美麗の横で沈み始めていたのであった……。


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
 


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馬鹿に付ける薬 008・始まりの町は少し変

2024-08-17 09:59:12 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》

008:始まりの町は少し変 




 峠の上から見た時は小さく見えたが、じっさいに近くまで来ると結構大きく、町というよりは街だ。

「お店も家も少し大きいような気がするわ。そうは思わない、アルテミス?」

「ああ、増築した感じの家もあるなあ」

「窓辺やベランダの鉢植えも手入れが行き届いている感じだわ」

「おっと、工事中だ」

 メインストリートが二股に分かれた先にギルドの看板が見えるので曲がろうとしたら道路工事中で、腰の曲がった警備員が指示棒を振って迂回路を示している。

「仕方がない、迂回するか……どうしたベロナ?」

 ベロナは工事の看板を熱心に読んでいる。

「ガス管を耐震仕様のに変えているんですって。行き届いていますねえ」

「へえ、あ、向こうでもやってるぞ」

 ギルド方面の道の向こうでもクレーン車が出て電柱の作業をしている。

「あれは、たぶん光ケーブルの工事ですね」

「始まりの町って、冒険の準備をするところだろ。いわばベースキャンプみたいまもんで、そんなにインフラとかは揃っていないもんだと思ってたけどな」

「キャ!」

 ドタドタドタドタ!

 五六人の子どもたちが、手に剣や杖を持ってベロナの脇をかすめる。

「ゴラあ、気を付けろガキども(ꐦ°᷄д°᷅) !」

「まあまあ、子どもの遊びじゃないですか。そんなに怒らなくても……まあ、可愛い。あの子たち冒険者ごっこをして遊んでいるのね」

「ん、なんだ、先着組になんか言われて……戻ってきやがるぞ」

「謝りに来たのかしら、だったら可哀そう……」

「……でもなさそうだ」

 子どもたちは二人の横をスゴスゴと通り過ぎていく。

「おい、おまえら」

「ちょ、アルテミス!」

「なんでしょぼくれてんだ?」

 年かさの勇者風の子どもが振り返った。

「なんだ、あんたら?」

「あ、ごめんなさい。さっき、ぶつかりかけたんだよ、あたしたち」

 魔法使い風の女の子が済まなさそうに、でも、勇者風の後ろに隠れて呟く。

「んだぁ、んなとこ突っ立てる方が悪いんだろが」

「んだとぉ」

「アルテミス! ううん、いいのよ、ちょっとかすっただけだし。でも、なんで元気なくなったの、あんなにやる気満々だったのに」

「冒険者保険と年金の掛け金払えって。あ、それと遅延金」

「ああ、なんだそれ?」

「ネエチャンたちも冒険者だろ?」

「そうだ」

「常識じゃねえか、冒険には危険が付き物だから保険があるし、引退後の生活のために年金かけるの」

「ああ、でも、二丁目の子たちが言うのは、ただの嫌がらせだし(^_^;)」

「そうだよ、もう三丁目だけで遊ぼうぜ!」

 アーチャー風の男の子が胸を張る。

「おお」

「そうね、午後からは引退ってことでお部屋で遊ぼ。さっきはごめんなさい。おねえちゃんたちもがんばってね」

「はい、ありがとうございます(^▽^)」

「ニイチャンも男なんだから、ネエチャン護ってやれよ!」

 ドタドタドタドタ!

「ニ、ニイチャン……だと?」

「アハハ(´∀`)、じゃ、行きましょうか」

「ああ、ギルドに行く前に、ちょっと町の様子を探ってみるか」

「ええ、わたしも、そう思ったところよ」

 二人は道を変えてバザールの方角に向かった。


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          月の女神
  • ベロナ            火星の女神 生徒会長
  • カグヤ            アルテミスの姉
  • マルス            ベロナの兄 軍神 農耕神
  • アマテラス          理事長
  • 宮沢賢治           昴学院校長
  • ジョバンニ          教頭
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)123・大お祖母ちゃん・3

2024-08-17 05:40:52 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
123・大お祖母ちゃん・3 




 一時間近くかけて山を下りると、登った時とは違う場所に出た。

 山の様子など分からないので、ちょっとキツネにつままれた感じ。

 山の傾斜が途切れて、そこだけが水平で、自然な地形ではないように思われた。

「このあたりの五つの山から切り出した原木が集められるところなのさ。四百年前にご先祖が切り開いて、ずっと使っている。シーズンになればトラックやら重機で賑やかになるよ。ここで枝を払って長さを整えて甲府の駅やら関越自動車道やらに運ばれて行くんだ」

 クレーン車や作業小屋も見えるから、貯木と製材を兼ねた広場なのだろうけど、適当な言葉が浮かばない。それだけ須磨の日常からはかけ離れた所なのだ。甲府の家そのものが子どもの頃に日帰りで来ただけなので、様子が分かっていない。

 広場の下り斜面の方から自動車の音が響いてきた。街なかで見かける半ば電気で動く車と違って音が大きい。四五台はいるのかと思ったら、上って来たのは二台の四輪駆動車だ。

「周りがみんな山だから、木霊して多く感じるんだよ。それにしても猛々しいねえ」

 先頭の車は怒ったカブト虫のようにガチャガチャして、後ろの車は一回り小さくて、カブト虫の子分のように思えた。

「やっと会えたです、松井さん」

 前の車から妙なアクセントの男がダークスーツを従えて降りてきた。後ろの車からは穴山さんと、夕べの宴会で見かけた男が心配顔で下りてきた。

「林(りん)さん、話の続きは明日のはずでしたが」

「申し訳ありません、どうしてもとおっしゃるので……」

 穴山さんが申し訳なさそうに付け加える。林(りん)さんと言うのだから中国の人なんだろう、その林さんが、穴山さんたちがダメだと言うのも無視してやってきたんだろうということが想像できた。

「ごめんなさいね穴山さん、みなさん。チンタオ公司が動き始めてるので先を越されると心配なのです。きのう提示した金額に三億の上乗せします。どうか、この私に売ってください」

「ご心配なく、どこが来ても、この案件には同意しません」

「ん……こんなことを言ってはなんなのですが、あの山の所有者は惟任(これとう)さんです。慣習上松井さんの了解が必要、それは尊重しますが、法的には私と惟任さんだけの取引でもできますよ。でも、わたし日本の人たちと仲良くやっていきたい思うからです。チンタオ公司はもっとビジネスライクにやってきますよ」

「そうはいきませんよ、商取引、特に山林売買に関しては慣習が重視されます。無視すれば、その後の業務で日本の、少なくともここらあたりの協力は得られませんよ。そうなればどこの山道も使えないし、山の木一本運び出せない」

「あーーーでも、山の木は切りださなきゃ、九州豪雨のようなことになるんじゃないですか。100ミリちょっとの雨で山崩れとかありえないでしょ」

「そうなれば、持ち主である林さんの責任になるでしょう。それに、ここいらで太陽光発電に賛同する者は一人もいません」

「んーーーかもしれないけど、林道や入会権は松井さんの裁量、裁判になったら五分五分でしょうが、納得してもらった上でないと、わたしも気持ちが悪いです」

 林さんは、けして無理を言っているのではないと須磨にも分かる。ハキハキものを言うけど、どこかすまなさそうに眉をヘタレさせるところなどクマのプーさん思わせるところがある。

「とにかくチンタオ公司は相手にしません。ここで言いあっても仕方がない、今夜はうちにお泊りなさいな、温泉にでも浸かれば、いい考えが浮かぶかもしれない」

「……ハーー、そうしましょうか。おーい美麗」

 林さんは4WDの後部座席に声をかけた。

「わたし、日本の温泉好きよ」

 そう言いながら4WDから出てきたのは……夕べ見かけた女子高生だ!



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
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