『失われたもの』
今日も男は海に出る
魚のいない海に出る
石ころだらけの土を掘る
若い男は島すてた
若い娘も島すてた だあれもいない昼下がり
片手失くした老人が
小枝くわえて沖見てた
※この詩をリクエストした女子高生---ヘミングウエイのファン?
昔、旺文社から受験生用に、英語の参考書を出版した。授業でそのことを話したら、「書店でなく、先生の手から直接買いたい」という生徒が数名出た。「よし、じゃあ、サーヴィスに、裏表紙に詩を書いてやる」---ということで、私の未刊詩集の中から、それぞれ選択させた。
そのとき、一人の生徒が上記の詩をリクエストした。NHK朝の連続テレビ『水色の時』のヒロインになる前だったか、その後か、覚えていない。いずれにせよ、今は大女優と言っても間違いあるまい。
どうして、この詩をリクエストしたのかを訊かなかったし、この詩の解説を求められもしなかった。とにかく、他の生徒と異なり、彼女がこの詩をリクエストしたのは確かだ。
正門の前に、まだ「小岩湖」があった時代だ。昨日紹介した「照月湖*」と同様に、今は埋めたてられて跡形も無い。
※この詩は、私の詩集の題名にした『蝉の死と*』に通じるテーマだ。
*蝉の死と *消された照月湖(北軽井沢)---怒りを込めて