先月、客人が突風のように祝島へやってきた。
おおいそぎで宿の手配。
幸い、はまや旅館さんに滞在することができた。
せっかくだからと平さんの石垣棚田へあがる。
好天にめぐまれ、片道約1時間の散策コース。
このあたりは日当たりがよく、春たけなわだった。
汗をかきかき、到着。
いつ来ても気持ちがのびやかになる。
毎日こういう景色を眺めながら暮らすと
世界はどんなふうに見えるだろうか。
ある晩、客人と一緒にわたしも、はまやさんの夕餉に与った。
祝島で「サエル」と呼ばれるサヨリの刺身にはじまり、
「奇跡の海」にはぐくまれた海の幸オンパレード。
もずくの酢の物や、野菜も。
かなり豪勢な量だったけれど、
島のなかを闊歩しまわっていた客人と
祝島の滋味あふれる食材に養われ増殖中だったわたしは
2人とも、もりもり完食。ごちそうさまでした。
隣りの食卓をみると、とても食べきれないご様子。
東京スケールと祝島スケールの差かな? とも思ったけれど
わたしの客人はまだ祝島3日目だったから、ちと違うかも。
あとから聞くと、
お忍び旅行中だった歌い手さんご一行だったらしい。
豆柴づれで、和やかな空気のグループだった。
ところで今回、
我が客人は妙に強運な人だということを確信することになった。
たとえば、
みじかい滞在中に天気にも恵まれ、
天然の鯛・メバル・岩ガキなどいただき物もつづき、
祝島を五感でそうとう満喫させていただいている。
下の写真は、祝島の岩ガキ。
ポン酢をかけ、一味をふって食す。
親指の先ほどの大きさで、食べやすい。
たとえば、
客人が祝島を発つ日にわたしも柳井へ出かけることになり
一緒に定期船にのってみたら、先の歌い手さんご一行ものっていた。
実は、世知に聡いとはいえないわたしは
お名前は聞き覚えがあるのだけれど歌は思いだせず、
客人に至っては、どちらも知らない。
同行していたNちゃんがあきれ顔でサビの部分を歌ってくれたけれど、
全然ピンときていない。なのに、その場の流れで、
いつのまにか一緒に写真を撮ってもらっている。
たとえば、
祝島から中国・近畿地方へ寄り、
友人たちに会ってから帰路についたという客人は、
無事帰宅を知らせるメールで
「気がついたらリュックが背中になかった」とおおいに嘆いていた。
貴重品などははいってなかったというし、
なにより本人が無事なのだから、不幸中の幸いと慰めるしかなかった。
ところが
最近になって、なくしたリュックが見つかったという。
旅疲れがとれ、日常生活がすこし落ち着いてから、
旅の帰途での自分の行動を、もういちど冷静に振り返ってみたそうだ。
そして
「あそこに問い合わせたら見つかるかもしれない」とあたりをつけ
電話してみたところ、
かれこれ1か月ちかくも前の落し物が、見つかったのだ。
ただ、貴重品類が入っていなかったということは、
そのリュックが自分のものだと証明することが難しいということでもある。
そもそも大したものは入っていないし、
時間もたっているから中身についての記憶も定かでない。
いったい何が決め手になったか?
それは、祝島小学校の卒業式の式次第だった。
客人のわずかな滞在中に、
児童4人の祝島小学校でひとりの卒業生を送りだす式が
たまたまあった。
棚田へいく前にお弁当を買いによったえべす商店で
「午後から卒業式だから、よかったら出てね」と
声をかけていただいたので、せっかくだからと
棚田からの帰り道は山を転がるように走って卒業式に駆けこんだ。
会場の体育館には、
児童の保護者の方だけでなく
島の子どもの門出を祝福しようと集まったたくさんの人の姿があった。
卒業生の歌が胸を打ち、わたしまで少し泣けた。
哀しみや怒りの涙でないのは久しぶりで、こういうのは嬉しい。
卒業生はひとりだから、卒業生の歌は当然ソロだ。
逃げも隠れもできない環境。
教師から生徒への質問には
「誰か」でなく「自分」が応える以外にない。
「これは貴族の教育ね」と客人はいった。
わたしには貴族の教育のことはわからないけれど、
この環境は人を育てるだろう、ということは分かる。
祝島小学校を卒業した先に
さまざまなことが待ち受けているだろうし
いろんな時があるかもしれないけれど、
この子ならきっと大丈夫。
居あわせた者にそう思わせる充実が「場」に漂っていた。
これも祝島パワーの源のひとつだろうか。
いい卒業式に出られたおかげで
その日はさわやかな記憶しかない。
とはいえ、まさかその余波が、こんなのちまで続くとは。
その式次第のおかげで、
たくさんある遺失物のなかのひとつのリュックが
客人のものだと確認された。
いい「気」はめぐるようにみえる。
めぐる「気」に乗ることができた客人はやはり強運というほかない。
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