どうぶつ番外物語

手垢のつかないコトバと切り口で展開する短編小説、ポエム、コラム等を中心にブログ開設20年目を疾走中。

松谷みよ子の『現代民話考』から④

2022-05-07 02:06:00 | 名作いいとこ取り

<天狗による神隠し>から

前回は秋田県の阿仁町で採集された話だったが、今回の話もユニークで面白い。

〇福島県南会津。星盛氏という人の親類の人が神隠しにあったので山々を捜し歩いたが見つからない。四、五日して親類の者が一人古峯神社へ詣って許される事を願った。ちょうど代参の者が古峯山へ着いたと思われる頃、村近くの山に蒼ざめて立っているのを発見された。その人の後の話に、夜は村の山にいたが夜明けごろになると小鳥のようなものが現れて、おれと一緒に来いというのでこれについて行くと隣村の山へ入った。その小鳥のようなものは尻ベタだけ見えて他は分からなかったが、発見された日に天狗様が現れ汝はここにいては悪いから村へ帰れと掴まれて投げられ、しばらく飛ぶうちに人々に見つけられた所に落ちたという。(文・野口長義「南会津の民俗」)

〇群馬県利根郡水上町湯原。明治三十九年八月の話。湯原の須藤長松さんが寝ていた。ところが突然消えてしまい、家の人をはじめ近所から村中の騒ぎとなり、手分けして川、沢、山から橋の下までも捜した。五日間見てまわったが見つからずついにあきらめた。ところが近所の人が翌朝早く起き、水汲みに出て、長松さんの家の屋根を見ると一番高いところに長松さんが立っておった。早速近所の人を呼び集めて降ろそうとしたが、くず屋(かやでふいてあり急こうばい)で足場がなく助けられず、はしごをつなぎやっとのことで降ろすことができた。全然のぼったことがなく、又のぼろうとしても不可能だった。その後本人に聞いてみると茶の間に寝ており、起き出して家と倉の間までは覚えているが、その後の記憶は全然ないといっており、夏の暑い日に五日間も飲まず食べずにいることは考えられない。よく問いただすと食べた覚えはないが、おもゆのようなものを飲まされ谷をとべとべといわれたようだったと言っており、体には見たことのない毛が何本もついていた。そこで人々は、長松さんは天狗にさらわれたんだろうということになった。その後一か月ぐらいで死んでしまったが、死んだその晩は非常に大きな雷鳴があり、村人は天狗の仕業だと恐れたという。(出典『水上町の民俗』)

  (つづく)

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