どうぶつ番外物語

手垢のつかないコトバと切り口で展開する短編小説、ポエム、コラム等を中心にブログ開設20年目を疾走中。

むかしの詩集とフォト日記(16) 「負の序列」

2011-02-09 00:00:00 | ポエム

     尺取り虫



     「負の序列」



  ちぢみのステテコから

  植物的な発芽をしました

  蒸し暑いので

  ひょろりと顔を出しました

  でも誰ひとりぼくに気づいてくれません

  ジャワ帰りの元小隊長がいます

  満州引揚者がとなりに坐っています

  学徒兵だった男もいます

  そして

  うら若いわがご主人がいます



   四つの世代の使者は

   和平交渉のように卓を囲み

   ビールで乾杯すると

   牌に手を突っ込みました

   かきまわします

   積み上げます

   主人は遅いです

   生まれたのも遅かったです



  <おまえよく知らねえんだなあ>

  主人がいじめられました

  いえ戦争のことではありません

  麻雀です

  いじめたのは学徒兵です

  その口でポンと言いました

  引揚者が渋い顔をしました

  チーを言い損ねたのです

  

  主人がリーチをかけました

  うれしそうな声です

  とたんに小隊長がヤミテンであがりました



   甘すぎます

   主人も見習うべきです

   みんな

   相手の顔や捨て牌を

   探照灯のようにさぐっているのですから



  夜が更けていきます

  主人は膨大な賠償を背負ってしまいました

  しらじらと夜が明けていきます

  男たちが一斉にひっくり返りました

  まるで荒野に転がる肉塊です

  主人は眠れないようです

  戦車のような鼾に聞き入っています

  何を考えているのでしょうか

  薄目をあけています



  <こんなところに毛がとび出してら>

  さすが主人です

  ぼくを見つけてくれました

  <・・・・一万円あったら女が抱けたのになあ>



   なんと情けない主人なんでしょう

   ぼくは恥かしくて

   思わず顔をひっ込めてしまいました



  主人、引揚者、学徒兵、小隊長

  きょうの結果です

  もちろん負けた順位です

  しかも主人は独り負けだったんです








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2 コメント

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過ぎてみればみんな夢 (窪庭忠男)
2011-02-09 21:35:46
(丑の戯言)様、ありがとうございます。
ひとつの時代が過ぎて、しばらくするとみんな夢の中の出来事のように感じられます。
     
尺取り虫は後付けですが、どちらが先でも似たようなもの。
テーブルの上で一生懸命屈伸を続ける虫の動きも、端から端まで渡りきったところで途方に暮れるという顛末。
     
実際ヤツは、空をつかんで転落したのでした。
返信する
真夏の夜の夢 (丑の戯言)
2011-02-09 16:58:11
詩想(?)の拡がりと言いましょうか。

尺取り虫の忙しそうで、それでいてのんびりした歩行をぼんやりと眺めていると、そんな空想が湧いてくるのかもしれません。

しかも、時代が逆行したような登場人物が現れてきたり。
誰が強いか弱いか分からないうち、座卓やパイは静かに閉じていくみたいに終わったり。

あれは真夏の夜の夢だったのでしょうか?
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