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ルイーズ・ブルジョワ展:地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ に行ってきた。
会期:2024年9月25日(水)~2025年1月19日(日)
会場:森美術館
ルイーズ・ブルジョワ(1911年パリ生まれ、2010年ニューヨークにて没)は、20世紀を代表する最も重要なアーティストの一人です。70年にわたるキャリアの中で、インスタレーション、彫刻、ドローイング、絵画など、さまざまなメディアを用いながら、男性と女性、受動と能動、具象と抽象、意識と無意識といった二項対立に潜む緊張関係を探求しました。そして、対極にあるこれらの概念を比類なき造形力によって作品の中に共存させてきました。
ブルジョワの芸術は、主に自身が幼少期に経験した、複雑で、ときにトラウマ的な出来事をインスピレーションの源としています。彼女は記憶や感情を呼び起こすことで普遍的なモチーフへと昇華させ、希望と恐怖、不安と安らぎ、罪悪感と償い、緊張と解放といった相反する感情や心理状態を表現しました。また、セクシュアリティやジェンダー、身体をモチーフにしたパフォーマンスや彫刻は、フェミニズムの文脈でも高く評価されてきました。
かまえる蜘蛛
良い母
動画以外は撮影可でした。
さまざまなアーティストに多大な影響を与えているブルジョワの芸術は、現在も世界の主要美術館で展示され続けています。日本では27年ぶり、また国内最大規模の個展となる本展では、100点を超える作品群を、3章構成で紹介し、その活動の全貌に迫ります。
本展の副題「地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ」はハンカチに刺繍で言葉を綴った晩年の作品からの引用です。この言葉は、ブルジョワの感情のゆらぎや両義性を暗示しつつ、ブラックユーモアのセンスをも感じさせます。自らを逆境を生き抜いた「サバイバー」だと考えていたルイーズ・ブルジョワ。生きることへの強い意志を表現するその作品群は、戦争や自然災害、病気など、人類が直面する、ときに「地獄」のような苦しみを克服するヒントを与えてくれることでしょう。
自然研究
頭部の無い獣の姿をしたこの彫刻作品は、ブルジョワ自身の自画像でもあります。胴体には豊饒さを表現する乳房を複数持ち、股には攻撃性を象徴する陰茎を備え、まるで伏せて威嚇する番犬のような姿勢をとっています。作品タイトルとは裏腹に、自然の摂理を越えた雌雄同体の守護神をつくることで、家族を守り育むためには、他者を威嚇することも躊躇わない、二面性な母性を表現しています。
カップル
「カップル」はブルジョワにとって重要な主題のひとつです。愛情や性的関心、誘惑、わだかまり、依存することの恐れと大切な人を失う事への恐怖など、二者間の感情を表現した作品が数多く制作されました。本作では、アルミニウムで鋳造された螺旋状の2つの身体が、天井から不安定な様子でぶら下がりながら抱き合い、ひとつになります。「螺旋は混乱を制御する試みである」とブルジョワが語るように、お互いが作り出す渦に引き込まれながらも支え合うことで、様々な感情で揺れ動く心を落ち着かせようとしているのかもしれません。
自然研究
胸と刃
自身の家族を象徴する5つの乳房が風名のように連なるフォルムと、ナイフを仕込んだ背面。この象徴化された女性像は、豊潤な大地を想起させると同時に、危害から身を守ろうとする心理がファルスのような刃から伝わります。ブルジョワは、「ナイフの女」のモチーフを繰り返し描くことで、男らしさと女らしさの境界線を曖昧にすることを試みました。養い育てる力だけでなく、他者に害を与えてでも無防備な我が子を守ろうとする、母性愛の暴力的側面がほのめかされています。
つづく
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