新潮文庫9月の新刊、星新一著『つぎはぎプラネット』は、発売以来既に3刷。順調に売り上げを伸ばしているようです。
この本に収録された作品のひとつ、「被害」の発掘記(というほど大げさなものではありませんが)です。
ある日、ネットオークションの出品を見ていたら、「星新一」のカテゴリに見慣れない画像がありました。神崎製紙のPR誌とあり、執筆者数人の名前の中に星さんのお名前がありました。それ以外には何の情報もなく……。
企業のPR誌というと、ふつうは著名人のインタビュー記事やその会社の社長との対談というのがよくあるパターンなので、これもその類かとも思ったのですが、ちょっと気になる……。
出品価格も安く、他に入札者もいないので、対談でも、エッセイでもいいので、とりあえず入札しておきました。
オークションの場合、終了間際に入札が相次いで、高値になることもあるのですが、この場合、ほかには誰も入札せず、出品価格のままで「終了」になりました。
届いてみれば、中綴じの小冊子で、企業のPRも兼ねているもので、製紙会社だけあって、表3には使った用紙の名称、斤量、印刷方法など事細かな説明があり、表紙、見返し、カラー写真ページはオフセット6度刷り、犬養道子さん、寿岳文章さんなど豪華執筆陣が顔を並べていました。ご丁寧に、前号の正誤表まで入っていました。
かんじんの星さんはというと……インタビューでも、対談でもなく、ショートショートの作品でした。目次。
その時点で使っていた「未収録作品リスト」に照らすと、同じタイトルの作品データは、『ボッコちゃん』に収録されている北海道拓殖銀行が発行したPR誌「すずらん」1963年1月号となっていました。
入手した「ぱぴえ」は1961年12月ですから、とりあえず未収録作品調査の舵取り役の高井信さんに、「初出がリストより古いのが見つかった」とお知らせしました。
裏表紙です。
裏表紙の書誌的事項記載部分の拡大。
企業PR誌や学年誌には、二度使われるケースがあるのです。ややこしいことに、その間で改題されていることがあるため、「未収録!」が ”ぬか喜び”になることが多かったのです。
この時すぐに『ボッコちゃん』に載っている作品と比べればよかったのですが、調べるのを後回しにしている間に、素早く対応した高井さんから「別作品」とのお知らせが届いたのでした。
星さんが遺したスクラップブックや、最相葉月さんが評伝をお書きになった時に整理した資料の中から抽出して、現物に当たってリスト化するのが主な作業でしたが、この作品のように偶然発見できたものもありました。
ということは、未発表作品が見つかる可能性は、まだあるということです。
作品の冒頭部分です。
つづきは、『つぎはぎプラネット』でどうぞお読みください。
のんびりやっていたのでは、漏れてしまうところでした。
>未発表作品が見つかる可能性は、まだまだあるということです。
その通りです。データとしてわかっているものはすべてチェックしましたが、私たちの知らない作品がどこかに埋もれている可能性は残っています。もはや偶然に頼るしかないと思いますが。