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『コーポレート・トランスフォーメーション』(冨山 和彦著 文芸春秋刊)
- コロナ・ショックは一周遅れの日本経済復興への好機(はじめに)
コロナ後の日本・世界の破壊的危機について著者は次の2点を予測しています。
1.日本の経済・社会の「強み」と「弱み」はさらに際立って鮮明化している。DXの加速、グローバル化の変容(サイバー空間での加速とリアル空間でのローカル化が進む「グローカル・モデル」化)が進み、日本型経営・成長モデルは有効性を失う。
2.グローバル化とイノベーションの波に乗り覇権的地位を取り戻した米国の経済・社会モデル、EUシステムを採用した欧州成長モデル、日本型成長モデルとグローバル化・デジタル革命を巧みに取り込み回してきた中国を含む新興国の成長モデルのいずれもが曲がり角に遭遇し大きな転換期に入る。
さらに著者はこのコロナ危機を、会社を、個人個人の生き方を、日本を、世界をより良く変えることで、一周遅れの日本経済の復興へと踏み出すチャンスの時と、熱意を込めて語ります。
ここで一周遅れの日本経済について具体例を以下に見てみましょう。(「日経BP IT Japan 2020.8.27」 KPMG宮原氏講演等より)
- 〔国際競争力の低下〕IMD( International Institute for Management Development)の国際競争力ランキングで日本は34位(6;対象63ヵ国/米国10位、中国20位、韓国23位)。1990年頃の1位から毎年ランキングを下げています。特に“企業の俊敏性”指標63位、“企業家精神”指標63位、“労働生産性”指標55位と企業競争力の劣位が目立ちます。なお、WEF(World Economic Forum) 国際競争力ランキングでは日本は6位(2019.10;対象141ヵ国/米国2位、中国28位、韓国13位)です。労働生産性の低さは、デービッド・アトキンソン著「国運の分岐点」によれば、日本の中堅・中小企業比率の高さ、中堅・中小企業の低生産性、低賃金を改めない経営者、中堅・中小企業の低生産性を保護する中小企業政策が要因です。
- 〔「熱意溢れる社員」比率6%は、世界で最下位レベル〕エンゲージメント(熱意溢れる社員)調査(ギャラップ社、2017)で、日本は139ヵ国中132位と最下位レベルです。
- 〔日本は「輸出小国」だ〕主要国(16ヵ国)の輸出総額順位とGDPに占める輸出額比率順位(比率)を表示します。日本;4位/14位(1%)、米国;2位/16位(11.9%)、中国;1位/15位(19.6%)ドイツ;3位/6位(46.1%)韓国;5位/7位(42.2%)。日本の高い技術力からすればドイツ、韓国並みの輸出潜在能力はある。輸出したいという意思が足りない。輸出企業は輸出しない企業に比し生産性は向上するという統計も出ている。(デービッド・アトキンソン著「日本人の勝算」より)
- 〔日本の「DX先行派」企業は、わずか3%〕IMD世界デジタル競争力ランキングの順位(2019)では、日本は63ヵ国中23位でした。世界の主要国順位は、米国1位、韓国10位、中国22位です。
1990年頃のジャパン・アズ・ナンバーワンの時代からするとなんと残念な日本経済の状況でしょうか。『このコロナ・ショックを機に、古い日本型経営・成長モデルを脱却し、日本の「強み」を生かし「弱み」を革命的に変革し、再び世界に輝く日本を取り戻そう』と著者は力説します。その道筋の一つとして「日本の会社を根こそぎ変える」コーポレート・トランスフォーメーション(CX)を提唱しています。
著者が説くCXを次項でご紹介します。
- CXのゴールは「両利き経営」と「CX経営」
【ゴールは「両利き経営」と「CX経営」】
著者は、企業の持続的成長を維持するために、イノベーションによる新たな『成長機会の「探索」』は不可欠とし、「探索」して事業化するには投資が必要であり、その原資を得るためには既存事業の収益力、競争力をより強固にする『既存事業の「深化」』が必要とします。『既存事業の「深化」』と『成長機会の「探索」』の双方を可能にする経営つまり「両利き経営」の必要性を説きます。
さらに、「両利き経営」を可能にするにはハイブリッド型・多元的経営力と組織能力の多様化・流動化と同時並行的な新陳と代謝、それによってできる組織構造の多元化が必要とします。それを可能にするファンダメンタルとして「日本の会社を根こそぎ変える」コーポレート・トランスフォーメーション・経営(「CX経営」)が必要と説くのです。
【中堅・中小企業における「両利き経営」と「CX経営」が日本経済復興の本丸】
著者は、日本の産業をG(グローバル)型産業とL(ローカル)型産業とに区分し、海外を主戦場に稼ぐG型産業に対し、L型産業は地域密着型の小売り、卸売り、飲食、宿泊、エンターテイメント、地域金融、物流、運輸、建設、医療、介護などのサービス業と農林水産業と定義します。その上でL型産業は日本のGDPの約7割を占めると同時に、中堅・中小企業が主体的に担っているとします。
日本のGDPの成長のノリシロは、L型産業に、そしてそれを主体的に担う中堅・中小企業にあるとします。ここにこそ日本経済復興の本丸があるとし、依って、コロナ・ショックを機とする「両利き経営」と「CX経営」は大企業に於いては勿論ですが、中堅・中小企業に於いてこそ必要と力説します。
【「両利き経営」とそれを支える「CX経営」を成功させる提言】
コロナ・ショックにより、日本の多くの企業は生残りをかけた経営に追い込まれているといっても過言ではないでしょう。そんな時、紹介本に記されている『「両利き経営」とそれを支える「CX経営」を成功させる提言』を生残りの方法論として是非一読下さい。「両利き経営」と「CX経営」についてその閃きとヒントを与えてくれます。
自社の経営にとって必要と思われる方策があれば、できる事から速やかに実施していくことで、果実が生まれてくるのではないでしょうか。すべてが正解ではないかもしれませんが、まず始めることに意味があります。CXの実践はアドホック(ad hoc:その場その場で適切な対応)に見直し、リ・スケジュールをしていくことでスピーディーな対応が可能となるのではないでしょうか。
私事ですが、紹介本を読み、閃いたことがあります。紹介本に提言の一つとして、「M&Aは現代の経営において市場拡大と事業イノベーションにおいて必須の経営手段である」と記されています。M&Aなど全く考えなかった企業がM&Aの検討を始めることで、自社の事業の『「分ける化」と「見える化」』が明確になり、『「深化」すべき事業』『「撤退」すべき事業』が明確になり『どんぶり経営』から脱却できます。
それと同時に、『「深化」すべき事業』を、定量的(管理会計)&組織能力的に把握する過程で、『「深化」すべき事業』とシナジー効果の強い、社会的イノベーションに対応する『成長機会を「探索」』すべき事業領域が見えてくるのではないでしょうか。
M&Aにおいて大切なことはPMI(Post Merger Integration; M&Aの効果を最大化するための統合プロセス。7Sの変革・統合、最適・最大化プロセス。)です。M&Aの検討過程においてPMIを検討することで、組織能力についてのCXが見えてくるのではないでしょうか。
M&A&PMIの検討の過程で、CFO機能とCSO(Chief Strategic Officer)機能の統合を痛感し、実現に向けたCXが進むでしょう。
どうでしょう。M&A&PMIを検討により、売却・買収のステップに進むかはさておき、これだけのCXのネタが見えました。紹介本の提言を材料としつつ、CXに取組もうではありませんか。
- コロナ・ショックは変革の最後のチャンス(むすび)
著者はある対談で次のように語っています。『日本は、75年前の戦後や約150年前の明治維新では大変革をやってのけた。追い込まれると変革できる。コロナ・ショックで最後のチャンスが巡ってきたと考えるべきだ。』(2020.6.16 日経ビジネス 山口記者との対談)
私達経営に関わる者は、コロナ・ショックを明治維新、第二次世界大戦後に次ぐ変革の大チャンスと捉え、覚悟とリーダーシップを以って『既存事業の「深化」と成長機会の「探索」』と『それを支える「CX」』に挑戦していこうではありませんか。
【酒井 闊プロフィール】
10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。
企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。
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