■ 今日のおすすめ
『古き佳きエジンバラから新しい日本が見える』
(ハーディ智砂子著 講談社+α新書)
■ エジンバラでファンドマネジャーとして活躍する日本女性の視点(はじめに)
著者はスコットランドの首都エジンバラで活躍する日本人女性です。エジンバラの著者に日本・日本人がどの様に見えたのか、その点に興味を持ち、また皆さんに知って頂きたい思いで紹介本を手に取りました。
【エジンバラは歴史的に見てどのような地政学的意味を持つのか】
エジンバラは、United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland(イギリスの正式呼称=UK)を構成するカントリー、スコットランドの首都です。『エジンバラは経済において最大の産業は金融産業(保険、資産運用が強い)。ロンドン・フランクフルトに次いでヨーロッパ第3位、世界でも第6位の金融センター(二之湯武史「エジンバラ-21世紀型の都市-」より)』の論文と、著者が「エジンバラは地方都市かと思っていたが、先輩の話では、ヨーロッパの金融センターの一つで、多くの老舗金融機関の発祥の地であるという」と述べている事と符合するのです。
スコットランドとイングランドは長い間お互い独立国として抗争を続けてきました。1603年スコットランドの国王(ジェームズ6世)が、後継がいなくなったイングランドの王位(「ジェームズ1世」を名乗る)を継承することになり、以来両国は「同君連合」の関係となります。その後、イギリスのチャールズ1世(ジェームズ1世の後継)のスコットランド遠征課税に反対したクロムウェルのピューリタン革命(1642年)によりチャールズ1世が処刑されます(同時に、クロムウェルはスコットランドを制圧)。イギリスではクロムウェルの死後、クロムウェルの独裁政治の反動で王政復古(チャールズ2世)となりますが、チャールズ2世、後継者のジェームズ2世は共にカトリック信者で、ジェームズ2世がカトリック復帰を画策したことから、議会が排除に動き、後継にジェームズ2世の娘のメアリと夫のウィレム(オランダ総督)を迎え王位(ウイリアム3世)につけ(ジェームズ2世はフランスに亡命、1689年)、ここで「名誉革命(無血革命)」により「権利の章典」の成立、立件君主制が確立されたのです(「ウィレムは500隻の戦艦と2万の兵力を同行し、軍事力を持ってイギリスの王位を奪い取り、フランスへの対抗勢力を作り上げた」とオランダ史は解説しており、イギリスの議会勢力が無血で革命を成し遂げたと解釈するイギリスのプライドを傷つけますが、真実はオランダ史の解釈にあるようです)。1707年スコットランドは経済力があり地政学的にイングランドに近いスコットランドのローランド(北部の山岳地帯はハイランド)勢力の賛同もあり、大ブリテン王国として、イングランドに併合され一つの国家としてスタートしました。(アイルランドは、1649年ピューリタン革命を起こしたクロムウェルにより制圧され植民地となり第二次世界大戦後アイルランド共和国として独立しますが、その際プロテスタントの多い北アイルランドはUKに残留)。
そんなエジンバラは「国富論」のアダム・スミスとも深い関係があり、少し広いスコットランドから見ると、産業革命(更には資本主義)に強い影響力を持ったカルヴァン派の一派が主流となり、産出する石炭と相俟って、イギリスの産業革命を支えたのです。現在は北海油田を抱えるカントリーです。
お話はエジンバラから更に跳んで、UKの複雑な歴史の一部を見ることになりましたが『イギリスの「EU離脱」』の先行きを読み解くうえの「メタ」な情報に繋がると思い、筆を滑らせました。
【日本から遥か離れたエジンバラから見える新しい日本】
著者がファンドマネジャーとして著書を表すまでになるには、多大な努力と経験と時間とを積み重ねています。それに加えて女性ならではの感性を持っていると思います。そんな著者が、日本から遥か離れたエジンバラで熱心に仕事に打ち込んでいるからこそ見えたもの、その見えたものが結果という検証を経て、確信できる真理に到達しているのではないでしょうか。
その様な真理は、私達経営に関わるものにとって大きなヒントとなるのではないでしょうか。著者が難しい理論ではなく、日常のビジネスの中で、自然体で捉え見えた真理を次の項でご紹介します。
■ 著者が語る「エジンバラで確信した日本の成長性」
【エジンバラで確信した『「日本人の強み」「日本人ファンドマネジャーの強み」』】
著者は、フランスの保険会社AXAグループの投資運用会社AXA Investment Managersで、日本株のファンドマネジャーとして活躍するプロです。著者は自分の強みを「普通の日本人であること」を強調します。それは、「日本人であるからこそ発言できる事」を「自信と思い入れ」を持って語れることだとします。
著者は、ロンドンで開かれる全体会議に出席する以外は、エジンバラのサテライト・オフィスに拠点を置き、日本の経営者やIR担当者とコミュニュケーションを取り、著者の独自の戦略を以って抜群の成果を上げています。独自の戦略とは、勿論のこと的確な分析を前提としながら、『普通の生活者としての常識を失わない』『プロであっても素人の目を持ち続ける』『「トップダウン(日本経済全体)」ではなく、「ボトムアップ(個別の企業の成長性)」で判断する』に重点を置いているのです。
【エジンバラで確信した「成長する企業の特徴」】
〔日本の優良企業の人材選抜法〕
著者は、ある経営者の次の発言にこれからの成長する日本企業の特徴を見いだしています。「企業として価値を生み出していくために、次々と増えるポストに、最も相応しい能力や性格は何か、そのような人材を判別・採用する方法は何かにエネルギーを注いでいる」。著者は、この経営者の発言に、「この様な変化は日本でも起こり始めている」と加え、経営学で最近盛んに言われている『「メンバーシップ型」から「ジョブ型」への人事政策の転換』を先取りしている様に思えます。
上記以外にも、何気ない「私の履歴書」的な語り口の中に、長期的に成長する優良企業のあるべき特徴について書かれていますが、字数の関係でご紹介できません。紹介本を是非手に取りお読みください。
【エジンバラで確信した「日本の未来は明るい」】
著者は、『日本の「少子高齢化」を外国のファンドマネジャーは否定的に見るが、この様な課題を抱えているが故に、課題先進国として積み重ねたノウハウを更に発展させ、新たな道を開いていく力が日本・日本人にはある』として「日本の未来は明るい」と言い切ります。
又、コストカットをして格段に高い報酬を得る欧米型経営のプロを対極に置いて、日本の優れた経営者は、会社を愛し従業員を愛する経営者が多くいると指摘し、そのような経営者が、従業員が高いモチベーションを持って企業価値を創造していく環境を作り出す事が出来るとして「日本の未来は明るい」といいます。
■ 今こそ『何を「守破離」すべきか』を考える時(むすび)
「外国人の見る日本」については、多くの著書があり、この場でもいくつか紹介して参りました。そこでは、私たち日本人の価値観の変革を促す、良い知見を多く得ることが出来たと思います。
「外国在住の日本人から見た日本」について書かれた本は、紹介本が初めてでした。日本人である著者の外国から見た日本観により、日本・日本人の良さを再確認すると同時に、日本人に良い方向に変わってほしい日本・日本人の弱み・課題も再確認することが出来たと思います。
紹介本を読んで思うことは、多分著者も同じ思いと思うのですが、今直ちに企業経営の観点から着手すべきは、自社の強み・良さを明確にし、それを更に価値あるものに高め(守・命題)、更に飛躍して(破・対立命題)、新たな価値を創造する(離・統合命題)過程で、自社の課題・弱みを新たな価値を創造する基軸に貢献するよう改革し、持続的・長期的利益(SSP:Sustainable Superior Profit)を出せる企業へと経営革新を図っていくことではないでしょうか。
【酒井 闊プロフィール】
10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。
企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます