さようなら、エアマスター・・・
と、ねぎらいの言葉をかけて引退釣行でもしてあげたいところなのだが、どうやらもう1シーズン頑張ってもらわなければならないようだ。
だから、「(仮)」とつけた。
ダイワの渓流竿、「琥珀本流エアマスター」のお披露目は2007年。
当時のダイワの渓流釣りカタログに掲載された売り文句をざっとまとめるとこうだ。
「年々拡大する本流フィールド。未踏のポイントへ届く長尺ロッド。パワーと軽さを兼ね備え、風を斬る細身設計で操作性と感度を損なうことなく、全てを高次元でバランスさせた本流ヤマメスペシャル・・・」。
大袈裟ではあるが、コンセプトはよく分かる。
僕はエアマスターが発売された2007年のシーズン途中でこの竿を入手した。
その前年、小継の竿ではどうしても届かない大堰堤を攻めたくて、行き付けの釣り具屋に置いてあった竿の中で適当と思われるものを選んで購入したのが、ダイワの「翡翠」という8.0mの本流竿だった。
その翡翠なのだが、とにかく使いにくかった。
「小継竿からの持ち替えでも違和感の無いように先調子にした」とあったが、却ってその調子のために振り込みにくく、魚を掛けた後でも手元の方まで手応えが伝わらない感じがして好きになれなかった。
でもその使いにくさの理由に気付いたのは、初代の「琥珀本流ハイパードリフト サツキ」を使い始めてからだった。
翡翠のあまりにもの使いにくさに辟易して別の本流竿を入手しようと考えたのだが、当時の僕は使いにくさの理由を竿の調子によるものだと推察することが出来ず、長さによるものだと考えた。
そこで7.5mというレングスの「ハイパードリフト サツキ」に白羽の矢が当たった。
郡上竿をベースにしたその調子は確かに独特ではあったが、本流釣りに慣れていない当時の自分にも使いにくいという感じはなく、寧ろその竿を使いたいがために、それに適したフィールドを選んでいたくらいだった。
そして当然のことながら、翡翠の使いにくさは長さによるものではなく、調子によるものだと思い当った。
そうなるとやはり7.5mというレングスではあまりにも限界が近いと感じるようになった。
気の進まないままに8.0mの翡翠を持ち出しても、この竿はなんて使いにくいのだと思わされるだけで楽しくなかった。
「とにかく長い竿が欲しい。その竿で届かなければもう諦めるしかない。」
そんな竿を僕は求めていた。
渓で小継の竿を使った釣りしかしてこなかった自分にとって、本流釣りを始めた頃は試行錯誤の連続だった。
振り込みはまともに出来たものの、餌を流すとなると一体どのように流すのが良いのかよく分からなかった。
渓の釣りでは流すというよりピンポイントで「打つ」という感じで釣っていたことが多かったし、若干開けたフィールドで流す場合でも「あたかも自然に流れるように」というナチュラルドリフトだった。
幾筋もの流れが入り混じる本流、しかも水勢も強い。
そのようなポイントではナチュラルドリフトをすること自体難しい上に、うまく流せたとしてもそれだけでは色んなポイントに太刀打ちできない。
ああでもない、こうでもない・・・と考えては試し、というのを繰り返していく中で僕は以下のような考えに至った。
大きなオモリで素早く沈めて竿でコントロールするという方法はどうか・・・
いや、でも、それでは竿の動きが餌に伝わって不自然になり魚が警戒してしまうだろう・・・
水中ウキを使うのはどうか?
いや、それだってウキが流れの抵抗を受けて餌を引っ張るだろう・・・
じゃあ、目印を沈めるというのはどうだろうか・・・
そんなときにとある渓流釣り雑誌で、ダイワのフィールドテスターである笹尾浩行さんの記事を読んだ。
「上波ドラグ釣法」と銘打たれていたその釣法は、「大物を獲るために太い糸を使うと水の抵抗が増すのでオモリを大きくせざるを得ない。そのままだと根掛かりの危険性が増すため、目印を沈めてその浮力で仕掛けの沈下をコントロールする」というものだった。
僕が途中まで考えていたことをそのまま完成形に導いてくれたように思えた。
実は僕はその時に初めて「ドラグドリフト」「オバセ」という言葉を知った。
やはり自分自身で試行錯誤するだけでは釣技の向上には限界があるなと思い知り、幾つか渓流釣り雑誌を買ってきて、笹尾さんの記事があれば穴が開くほど何度も読んだ。
その笹尾さんが開発に携わった竿ということで紹介されていたのが、「琥珀本流エアマスター」だった。
「欲しい。何としても手に入れたい。」
僕は切望したが、あまりにも高価だった。
定価は15万円(後に価格が改定され16万円に値上がりした)。
軽い気持ちで購入できる価格ではない。
他の竿でも何とかなるのではないか、9.0mでもいいのではないか・・・
なんとかして諦める努力を試みたが失敗した。
結局僕は、定価の2割引きの12万円で、清水の舞台から100回くらい飛び降りたつもりで購入した。
10mと9mの2種のレングスがラインアップされていたが、僕が購入したのは10mの方だ。
「琥珀本流エアマスター 100MV」というのが、カタログに表記されていた正式名称だ。
10mというそのレングスは発売当時では一般に流通している渓流竿としては唯一にして最長。
最初は札束を振り回しているように感じた愛竿「琥珀本流エアマスター」。
僕は2007年7月の購入以来、2013年のシーズン終了まで7シーズンの間、盛期にはほぼ毎週末のように出動させた。
さすがに高価な竿だけあって、一般的な普及価格帯の竿に比べると経年によるヤレは少ないと感じる。
意図せず付けてしまった傷や、迂闊にも砂利を噛み込んだまま振り出したり仕舞ったりしたことによるダメージが認められた節に関しては、時機を見て更新していた。
そういうこともあって、過労死するほど使い込んだわりにはしっかりしていると思う。
今でも40cmオーバーのニジマスの引きを矯められるパワーはある。
でも魚との遣り取りの最中にいつ割れたり砕けたりしてもおかしくはないほどダメージは受けているだろう。
2011年のシーズン辺りから、エアマスターにもしものことがあったときのために、サブの長尺本流竿を持っておいた方がよいだろうと感じるようになった。
しかし、いくらサブとは言え、エアマスターの代替になるような竿はなかった。
シマノからは「スーパーゲーム ロングスペシャル」という10mの本流竿がリリースされてはいるが、パワーランクはシマノのいうところのM。
適合ハリスは0.6号まで。
エアマスターが1.0号まで使えることを思うと、ダイワでいうところのパワーゼロの競合製品ではないかと思い候補からはそもそも外していた。
正直言うと、エアマスターはそのスペックの割には高価に過ぎる。
長さからすると驚くほどに軽量で細身なのは揺るぎ無い事実だ。
とはいえ、やはりその長さゆえ受ける風の抵抗は相当なものである。
強風に煽られると穂先も流れるため、暫し釣りを断念せざるを得ないこともあった。
また、かなり元竿近くから曲がるその調子と長さが相まって、振り込み時のモーメントもかなり大きい。
横風を受けるような立ち位置で振り込む際には、慎重にならないと折ってしまう懸念が付きまとった。
僕としては、多少の重量増は構わないし、塗装もエアグロスフィニッシュなどという豪華な塗装でなくても構わないから、調子はそのままにしてもう少しシャンとしていた方がよいと感じていた。
「エアマスターと名乗るのならそれくらいは求めてもよかろう。今後の改良点だろうな。」などと考えながら、もしかしたら僕の望み通りに改良された後継機種が近々リリースされるかも知れないと淡い期待を抱き、無理にサブロッドを買うことを控えた。
2012年にダイワから「琥珀本流ハイパードリフト スーパーヤマメ95MR」が発売された。
郡上在住で鮎釣りにも造詣の深い白滝さんと、エアマスターの開発に携わった笹尾さんお二人の共同開発ということだった。
ただ、白滝さんによれば「メインは笹尾さんです」ということだったため、9.5mというレングスを考えると、これがエアマスターの後継機種かなと思った。
しかし同時にこうも思った。
「琥珀本流」の名を冠してはいるものの飽く迄それは「ハイパードリフト」のシリーズなのではないか。
だとしたら郡上竿をベースにした調子を売り物にしている竿だ。
初代の「ハイパードリフト サツキ」は売り文句の通り「小さい魚は穂先であしらい、大物が掛かると胴に入って粘る」竿だった。
0.4号のナイロンで46cmのブラウントラウトも獲れた。
もう糸が切れるんじゃないか、竿が折れるんじゃないかと遣り取りの半ばで何度も諦めたが獲ることが出来た。
しかもナイロンの水中糸は渓流釣り用としてではなく、一般川釣り用として売られている「銀鱗」だった。
恐らく竿がハイパードリフトでなければ、46cmのブラウンは獲れなかっただろう。
話が逸れたが、要するに「ハイパードリフト スーパーヤマメ」はいくら笹尾さんがメインで開発に携わったとは言え、郡上竿の調子をベースにしたものであれば、その調子はエアマスターとは全くキャラクターが異なるだろう。
だとすれば後継機種というにはちょっと違う。
今は購入は見合わせた方が良かろうと判断した。
この画像、不鮮明で恐縮ですが見てください。
↓↓↓
エアマスターが発売された2007年のダイワの渓流カタログの裏表紙に掲載されているカットである。
アングラーは笹尾さん、使用している竿はエアマスター(恐らくプロト)である。
ご覧の通り、かなり元竿に近いところから曲がっている。
魚にとっては、10m以上の糸を引きずりながら、10mの竿を曲げるというのは相当体力を消耗するのだろうと思う。
竿が柔らかいため走られるけれども、それを止めようとしてグッと矯めるとそれ以上は大きく走らない。
しかも強引なテンションを与えないからなのか必要以上に暴れない。
即ち首振りをしないということなのだが、そのおかげでバラシが極端に少なくなった。
大型を掛けても、この笹尾さんのカットのように竿を立てて腰を落として矯めていれば、知らないうちに魚が寄って来ているという感じになる。
郡上調子の「ハイパードリフト サツキ」は確かに良く出来た竿だったし、あんな調子の竿で魚と遊ぶのも面白い。
しかし、もう何年もエアマスターをメインロッドとしてその調子を身体で覚えているため、果たしてハイパードリフトで思うような釣りが出来るのか・・・
それに、ダイワはモデルチェンジをする際にはその名前をそのまま残す。
例えば「遡」シリーズはずっと「遡」の名を冠したままである。
エアマスターがモデルチェンジするなら、後継機種も「エアマスター」になるだろう。
エアマスター破損の不安とモデルチェンジへの期待を抱きながら、結局僕は2013年のシーズンも悲鳴を上げているエアマスターを使い続けた。
でも、もうかなり限界に近い。
元上は買い替えが必要な状態だ。
でもその節だけで45000円以上。
スーパーヤマメがもう少しで購入できる価格である。
いっそのこと今の内にエアマスターを丸ごと買い替えようかとも考えた。
しかし、エアマスターが発売されたのは2007年だから今年で8年目。
その間に竿作りの技術も上がっただろう。
「スペシャルVジョイント」こそ取り入れられてはいるものの、「Vコブシ」も「Xトルク」も不採用。
というか、エアマスター発売当時にはまだ存在しなかった技術である。
そう考えると、スーパーヤマメがあの価格で買えるというのは非常にお値打ちなのではないか。
スーパーヤマメはハリス1.2号まで使用可能な郡上調子の竿ならば、サツキマスにも充分対応できるだろう。
いや、寧ろ僕が持っているシマノの「スパーゲーム パワースペックH」よりもサツキマスには適していると言える。
パワースペックHはサツキマスには些か強過ぎる。
竿を矯めると魚が暴れる。
お陰で昨シーズンは3度もバラした。
いや、でも、スーパーヤマメだと、エアマスターでは楽しめていた25、6cmから泣き尺サイズのアマゴだとあっさり寄って来て楽しくないんじゃないか・・・
ついに、2014年のダイワの渓流カタログから「琥珀本流 エアマスター」の名が消えた。
後継機種は発表されないまま、つまりモデルチェンジすることなくカタログから消えたのだ。
こうなったら頭の中で考えていても始まらない。
ここは一度本物を手に取るに限る。
そう思い、釣り具屋さんで「琥珀本流スーパーヤマメ95MR」を手に取った。
忘れかけていた感触が甦った。
新しい竿とはこんなにもシャンとしているものなのだと驚いた。
10mという長さとその調子のおかげで、振り込んだ後の穂先はお世辞にも「止まる」とは言えなかったエアマスターだが、50cm短いとはいえスーパーヤマメはピタッと止まる。
「細身設計」を謳っていたエアマスターと比べても何ら太くない。
というか、ほぼ同等である。
そして、胴が物凄くしっかりしている。
これはやはり郡上調子をベースにしているからなのだろう。
間違いなくサツキマスに最適な竿だと感じた。
そもそもこれまで僕は真剣にサツキマスを狙っていたわけではなく、本流アマゴが大きくなるまで待っているのもつまらないし、という感じでやってきた。
もともと生息数の少ない魚だし、餌をバクバク食うわけでもないし、万が一獲れたら物凄く嬉しいけど、「獲れたらいいな」というくらいの感じでやってきた。
それが何故か昨シーズンは真剣に狙ってみようという気になった。
不運なことに昨シーズンはサツキマス不漁の年。
戻りのような個体を1本獲っただけであとは3度バラして終わった。
結局僕はそのまま「琥珀本流ハイパードリフト スーパーヤマメ95MR」を自宅に連れて帰った。
何故か竿を持った時にサツキマスのことで頭がいっぱいになった。
益田川水系で40cmアップのアマゴを獲るという目標を忘れてしまった。
これも郡上調子のなせる業なのか。
とにかくこれで今年こそこの竿を使って「怪しげ」ではない「まっとうな」サツキマスを釣らねばならい。
そうしないことにはエアマスターに申し訳ない。
長々と書いてきたが、結局真の意味でエアマスターに代わる竿は見つかっていない。
シマノの「スパーゲーム ライトスペック 90-95MH」がかなり満足できる調子だったが、あの調子なら是非とも10m欲しい。
50cmの差は、実釣では大きく効いてくると思う。
かりに50cmの差に目をつむったとしても、残念ながら今の僕の経済力では1シーズンに数万円の竿を何本も買うことは出来ない。
なんとかもう1シーズンこのままエアマスターに頑張ってもらって、10mの竿でしか太刀打ちできないという大場所では出動してもらおうと思う。
それは僕が益田川水系で40cmアップのアマゴを狙えると踏んでいる場所がまさしくそうであるが。
エアマスターに頑張ってもらうのだから僕も頑張ろう。
なんとか元上を買うお金を用意して、補修部品が入手可能なうちにエアマスターの延命措置を打たねばならない。
最新技術を身にまとい、でもエアグロスフィニッシュとか高価な塗装はしないで、価格的には初代よりも手に届きやすくなった2代目のエアマスターが発売されることを祈りながら。