How many rivers must I cross? I don't know...

幸せになりたくて川を渡る・・・

2015/07/25 高原川~遅すぎるヤマメ34cm

2015-07-28 12:26:13 | 渓流釣り 釣行記(高原川水系)
2015年7月25日。
この日の釣行先も期待できそうなところはなかった。
今シーズンはとにかく天候や水況に恵まれない。
梅雨が明けたというのに、明けた直後に出水。
しかも梅雨のときよりも激しい増水。
南飛騨の益田川はこの週末の釣りは難しいだろう。
濁りがなくなっても水位が高くて川に入れる場所が非常に限定的になる。

奥飛騨の高原川はどうか。
自分が現地で釣りを開始する頃には茶色の濁りは取れているだろう。
しかし、白濁は間違いなく続く。
ある程度薄まれば食い始めると思うが、朝一番の時間帯はアタリは出ないだろう。
場合によっては終日厳しいかもしれない。

長良川へ行くというのはどうか。
恐らくこの出水の機会にサツキマスを狙う釣り師で賑わうだろう。
最近の郡上以北でのサツキマスの釣果を思うと、やはり4月の高水が続いたときに多くのサツキマスが中流域を素通りに近い形で通過して、一気に郡上まで遡上していたのだろうなと思わせるほど釣れている。
賑わうのは結構なことだが、自身がその中で竿を出すというのはあまり気が進まない。

どうにかなるだろうという半ば投げ遣りな気持ちで、僕は結局奥飛騨の高原川へと向かった。
昨シーズンなら「今日はどんな魚に会えるのかな」と楽しみだったのだが、今シーズンは違う。
これだけ運や水況、天候に恵まれない釣行が続くと「どうせ期待したような魚は釣れないだろうけど行ってみるか。行かなきゃ話にならん」と思う。


釣り場に到着したのは午前3時ごろ。
まだ夜は明けない。
仮眠すると寝過ごしてしまいそうだったため、そのまま身支度を整え準備を始めた。
釣り師が駆っていると思われる1台のクルマが端を渡り対岸に向かったがすぐに引き返してきた。
恐らく対岸には既に先行した釣り師が入っているのだろう。
暗闇の中に浮かび上がる高原川の水面は濁り気味で、水音からは高水位が想像できる。
僕は河原へ降りる斜面を一歩ずつ下って行った。


釣り座に着くといつも竿を出している対岸のあの方の姿はなかった。
向かいにルアーマンが一人、そして下流からもう一人ルアーマンが釣り上がってきた。
恐らく同行しているのだろう。
ポイントをシェアしながらキャストを繰り返している。
こちらには影響はないが、ルアーの素人から見ると、あんなに何度も同じコースをしつこく叩いては魚を怯えさせるだけなのではと思えてくる。

申し訳ない書き方をするが、案の定二人とも何もヒットしない。
すでに僕の方は24cmくらいのヤマメと泣き尺のヤマメ、尺を超えるニジマスを釣り上げていた。
水が出たおかげなのか、今シーズンの高原川のこのポイントでは反応が良い方だと感じた。

対岸ではルアーマンがお互いに近付き話をしていた。
ポイントを移動しようかと話し合っているのかもしれない。
そのとき、僕が打った餌が白泡の下に馴染むか馴染まないかというときに、餌を咥えて持って行くようなアタリがあった。
アワセをくれると重量感たっぷりの図太いトルクの手応えがあった。
しかし走りはせずに首を振りながら緩流帯の方へ向かう。
引きの感じからヤマメ、しかもかなりの大物だと思い、竿を絞って咄嗟の動きに応えられるよう身構えた。
首振りの後は深場に向かって潜り込む。
ある程度潜ると絞った竿の抵抗に耐えかねて一旦浮上する。
しかしまた深場へ向かって竿を絞り込む。
いい引きだ。
これは40cm近いかもしれない。
期待しながら寄せてきた魚体を見るとそこまでは大きくない。
しかし、玉網に収めてその図太いトルクの引きに納得した。
非常に体高のある、34cmの雄のヤマメだった。



遅すぎるのだが、これが今シーズンの高原川の初めての尺上の魚だった。
今日はあと1本くらいは尺上を獲れるだろうと期待したのだが、この後は沈黙した。
他のポイントでもヤマメは釣れずニジマスだけだった。
恐らく、暑さが原因だろう。
確かに例年より数も少ないし、型も小さい。
でもそれだけではない。
この暑さのせいでヤマメの食欲は低下しているのだろう。
この先もかなり厳しい暑さが続くということだ。
今シーズンは岐阜県内の川はどこも状況はあまりよろしくない。
仕方ない。
こんなシーズンもあるさと言い聞かせるしかない。



当日のタックル
竿:ダイワ 琥珀本流エアマスター メタルチューン 105M
水中糸:フロロ0.6号
ハリス:フロロ0.5号
鈎:オーナー スーパーヤマメ 8号
餌:ミミズ


 

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2015/07/12 益田川~狙い通りのアマゴ35cmと自責の念

2015-07-16 11:53:57 | 渓流釣り 釣行記(益田川水系)
2015年7月12日。
前日の夕刻に久し振りの尺上アマゴを獲った僕は、そのまま日帰り温泉に浸かり益田川沿いで車中泊をした。

ここ数日は晴天が続き、益田川の水温は高くなっていた。
感覚的にはこれで例年の益田川の7月の水温なのだろうと思う。
今シーズンはこれまでが低めの水温で推移してきただけだろう。
しかしそんなことはアマゴたちには関係ない。
短期間の内に水温が上昇して活性は下がったと思う。
例年ならもうこの場所に大型のアマゴが入って来てもいい頃なのに、今シーズンはさっぱり居ないなあというのは、もしかしたら低めに推移する水温のせいで上流を目指す必要性を感じていないのかも知れない。

もしそうだとしたら、まだまだ漁協管内の下流域には大型のアマゴが残っているはずだ。
水温が上がったときにアマゴたちはどう動くのだろう。
次から次へと温くなった水が堪ってゆくダムのバックウォーターに潜むアマゴたちはどう動くのだろう。
深みに潜り身を潜めるか、冷たい枝沢の流れ込み付近に集まるか、白泡の下に身を隠すか…

そのような幾つかの想定をもとに、益田川に沿って走る国道沿いのパーキングで身仕度を整えてから今朝の狙いのポイントに向かった。
クルマから降りて河原へ向かっているときに、またしても先行者の姿を認めた。
仕方ない。
今朝は割り込まれたのではない。
僕の方が遅かったのだ。
まだ空が漸く白み始めた頃だったためすっかり安心していたが迂闊だった。


さてどうするか。
大きく息をついて考えてみた。
少し下流の邪魔にならないところに入らせてもらうか、ポイントそのものを移動するか。

決定打はない。
今朝の水況ならばと考えて予め候補に挙げていた第二のポイントは、大型のアマゴが潜んでいそうなポイントではあったが、僕自身は釣った実績はない。
なんとなく、近くに別の釣り師がいない方が気分的に開放感が味わえると考え、僕は再びクルマに乗り込んで別のポイントに向かった。



入川箇所から近い順に、僕は下流から上流に移動しながら探っていった。
非常に押しの強い流れで、かなりオモリを重くしないと底波に入らない。
まさかこの流れの流芯には居ないだろうと思いながら、流芯と緩流帯の境目付近を流して探っていったが、アタリがないまま一帯の中では本命と思われる立ち位置に着いた。

岩場の上から水面を見降ろして投餌する格好になる。
あまり身を乗り出すと姿を見られてしまう。
僕は岩の起伏を利用して身を隠し、周辺を探り始めた。

水深は3m以上はある。
その中層から表層に沢山の魚たちが流れに出て餌を追っていた。
反転流の中で群れているのはウグイ。
ウグイの群れの混じって20cm程度のアマゴの姿もある。
結構な数のアマゴが必死に餌を追い求めていたが、大型のアマゴの姿は無い。
目を凝らしていると、時折30cmはあろうかというアマゴが中層付近に姿を現す。
程無くしてその姿を消す。
恐らく底に着いているのだろう。
時折は餌を追って中層付近にまで出てくるのだろう。

僕は少しオモリを重めにして底波に素早く入るように流していた。
アマゴの若魚とウグイの幼魚を数匹釣ったその後だった。
流芯の渦から周囲の緩流帯に仕掛けが移ったとき、尺はゆうに超える個体が僕の視界の左側に現れた。
そしてそのまま視界の右側に駆け抜けるように消えて行った。
「う~ん・・・やっぱりあれくらいの大きさになると、わざわざ遠くから走って来て食い付くなんてないのだろうなあ・・・」。
そう考えていた時に、目印が流れを無視して左から右へ水面を動いて行った。
間髪入れずビシッとアワセをくれると今度は向きを変え、まるでスピードスケートの選手のように物凄い速さで、目印は流芯に向かって水面を滑るように疾駆した。
一気に穂先が絞られたかと思うと、水面から30cm程度上方を、トビウオのような跳ね方で掛かった相手が全身をさらけ出した。
なんて派手な引きだろう、まるでニジマスだなと思ったが、この目で確認した魚は紛れもないアマゴだった。


「ザブンッ!」という派手な音を立てて着水したかと思うと、相手は激しく押しの強い流芯のど真ん中に陣取り、執拗に首振りを繰り返した。
首を振ってばかりで自力で泳ぐことをしていないため、流れによって魚も下流に押し流される。
そのままではあっという間に竿が伸びて糸が切れる。
それは避けねばならぬと思い、僕はエアマスターを絞る。
一気に胴まで重みが乗り、エアマスターが大円弧を描いた。
僕は岩場を一歩一歩降る。
その間も相手は首を振り続ける。
なんとか水面とほぼ同じ高さに降りてくると、僕は相手を流芯から外そうと試みた。
少し竿を絞る力を緩めて、穏やかにまるで騙すように誘導出来ればよいのだが、今ここで竿を絞る手を緩めれば、掛かったアマゴはどうなってしまうのだろうか。
それを考えると、無理を承知で竿を絞り続けるほかなかった。

0.5号のハリスが耐えてくれるか不安だったが、少し魚にも疲労が出てきたようで流芯から引き離すことを試みた。
ゆっくりゆっくり、決して力を入れすぎずに魚の頭を緩流帯に向かわせた。
しかし流芯から引き離すと今度は岸際の緩流帯を縦横無尽に周り始めた。
僕は竿を絞る手は緩めないまま何とかあやすようにして体力を奪わねばならない。
油断するとまた流芯に突っ込まれる。
岸際の小狭い範囲で、長尺のエアマスターを操るのは、竿の弾力を活かしきれずなかなかに骨の折れる操作だったが、なんとか魚を水面まで浮かび上がらせることができた。
水面で弱々しくヒラを打っている。
一発で決めよう。
僕は腰から玉網を抜いた。
天に向けたエアマスターを一気に絞り、目一杯伸ばした左腕の先に構えた玉網を目掛けて魚を寄せた。
バシャッと一度、水飛沫を上げて魚が玉網に収まった。


尖った口、尖った鰭、全身銀色の魚体。
益田川のランドロック・サツキと呼びたくなるくらいの見事なボディのアマゴだった。
(諸事情あり画像はのちほど)



そのアマゴを釣り上げると、僕は先ず竿を岩場で自生している茂みに立て掛けた。
転げ落ちないことを確認して、魚の口から鈎を外しにかかった。
上顎の唇の後ろにがっしりと深く突き刺さっていた。

高原川で会うYさんは、市販のハリ外しを凄く達者に扱う。
一瞬の間に鈎を外す。
恐らく魚へのダメージは殆どないだろう。
その所作に感嘆し、僕も同じものを入手した。
しかしいつまで経ってもうまく外せない。
ウグイを釣ったときに試してみたが、あの丈夫なコイ科魚類のウグイでさえ弱ってしまった。
僕にはこの器具はアマゴやヤマメに使えないな…
そう考えて小型のプライヤーで鈎を外している。
それが原因で魚を殺めたことは今までないのだが、鈎を外して写真撮影を行っているときに異変に気付いた。

足場が悪くて身体の向きを自由に変えられない。
魚体がどうしても朝陽を浴びてしまい、その見事な銀色を写し込めない。
色々と角度を変えて撮影していると、魚の呼吸が弱くなっていることに気付いた。
目は虚ろで死が間近に迫っていることは疑いようのない事実だった。

体色も瞬く間に変わってゆく。
あの見事な銀色は成りを潜め、背は琥珀色になり、パーマークすら仄かに浮かび上がってきた。

鈎の外し方が悪かったとしか思えない。
こんなに立派なアマゴと出会えたのにもかかわらず、僕がこの手で殺めてしまった。
僕の記憶には焼き付いたが、このアマゴの見事な銀色は、記録に残されることなく一生を終わらせてしまった。

自分の推察通り、狙い通りのポイントで手中に収めたアマゴ。
本当に久し振りに達成感のある釣りをしたなと感じられたのは束の間。
その後は強い自責の念以外になかった。

益田の土に返してあげたいと思ったが、岩場のために穴が掘れない。
最近は持ち帰ることをしていないため袋も持っていない。
そのまま益田の流れに葬るのは、あまりにも雑な扱いのように思えて出来ない。

暫くその場で考えていた。
僕は竿を畳み、釣り座を離れた。
片方の掌に、益田のランドロック・サツキを載せてクルマに向かった。
釣り師のあまりにも勝手な考えだとは思いながら、このアマゴの死を無駄にしないためには、やはり食すことが最善なのだろうと思った。
実際に喉を通るかどうかわからないが、食したあとは庭に埋葬したい。

僕が殺めてしまった。
謝罪と自責と後悔の念と、 ごく僅かの達成感の入り交じった複雑な気持ちで僕は家路へと着いた。






当日のタックル
竿:ダイワ 琥珀本流エアマスター 100MV
水中糸:フロロ 0.6号
ハリス:フロロ0.5号
鈎:オーナー スーパーヤマメ 8号
餌:ミミズ



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2015/07/11 益田川~暗闇を抜けて アマゴ31cm 先代エアマスターとの同窓会

2015-07-14 12:40:33 | 渓流釣り 釣行記(益田川水系)
2015年7月11日。
前夜は仕事を終えて帰宅した後に出かけるところがあったため出発は遅かった。
釣り場近くでの仮眠の時間は確保できない。
僕は一睡もしないまま益田川の目当てのポイント近くにクルマを停めた。
夜明けまでまだ1時間以上はある。
道中で時折確認していた水位はまだ高い。
夜明け前の渡渉は結構骨が折れるなと思ったが、今度こそこの出水で大型のアマゴが入ってきたことを期待しながら身仕度を整えていた。


一台のクルマが近付いてきた。
この時間帯にこの場所に来るなんて、間違いなく釣り師だろう。
車種までは分からない。
暗闇の中でヘッドライトが動きを止めそのまま暫く佇んでいた。

残念ながらこのポイントは複数名では入れない。
どうしても入川したかったら朝早くから来るより他はない。
僕だって一睡もしないままやって来たのだ。
あなたは諦めて別のポイントに向かいなさい。
今ならまだ一番乗りとなるポイントは沢山あるでしょう?
そんなことを考えていると、そのクルマは向きを変えて何処かへ走り去って行った。

僕は準備を終えて入川箇所に向かった。
歩きながら川面を見ているとおかしなことに気付いた。
「あれ?あんなところに電線なんかなかったよな…」。
東の空は少しだけ白み始めていた。
その仄かな明るさの中での僕が電線と見間違えたのは、ある餌師の延べ竿だった。

僕がクルマを停めた場所から入川箇所までは少し歩かねばならない。
恐らく、クルマを寄せてきた奴だろう。
僕からは見えない入川箇所至近のどこかに違法駐車でもしたのだろう。
浅ましい根性に呆れる他はなかった。
僕は即座に踵を返してクルマに乗り込み、別のポイントに向かった。


どうしてもそのポイントに入りたいのなら、それなりの段取りをしなさい。
先行者を抜かしたり割り込んでまで入川して、仮にそれで狙い通りの魚が釣れたとして、手放しで喜べるのか?
僕はケチの付いた釣果にはしたくない。
だから先行者が居たら諦めるか、声を掛けて離れた釣り座に入らせてもらうかする。
逆に声を掛けられたら、可能な限り釣り場をシェアする。
それが切っ掛けで釣り友になれるかも知れない。
有益な情報交換ができるかもしれない。
この考え方が良いと思っているのだが、実は誤りなのだろうか。
割り込んでまで入川する奴を、同じ釣り師とは思いたくない。


多分、そうやって割り込むような奴はなかなかよい釣りが出来ないだろうと思う。
要するに余裕がないのだ。
「ああ、先行者が居るな、別のポイント行くかあ」と思っても、別の有望ポイントを知らないのだろう。
若しくは狂信的に狙ったポイントが一番と思い込んでいるのだろう。
視野を広げたり、見方を変えたりというのが苦手なのだろうと思わざるを得ない。
新たに発見出来るものも出来ないまま、時間を、日々を、無為に過ごすことになるのだろう。


狙ったポイントに思い通り入れなかったことに対する負け惜しみや愚痴をさんざん独りごちた後に、僕は別のポイントで竿を振り始めた。
しかしアタリは一度もなかった。
アマゴだけでなくウグイのアタリもなかった。
恐らく今日の今の時間帯には、ここには魚はあまり入っていないのだろう。
そのポイントは早めに諦めることとして、僕は朝一番に入り損ねたポイントに向かった。
空いていたら入るというつもりではない。
川虫を捕るのに好都合な場所だからだ。


到着すると朝一番で割り込んだ釣り師の姿はなかった。
恐らく芳しい釣果はなかったと思う。
そこは魚が入っていれば、川面を見れば明らかにそうだと分かるポイントだ。
完全に明るくなった今、川面に魚の姿は認められない。

川虫を捕り終えて川から上がったときに一人の地元の餌釣り師に会った。
その餌師はほぼ毎日益田川で竿を出す。
鮎釣りはやらずにアマゴだけを狙う人だ。
さすがに釣行回数に比例して、益田川で年間で50本以上の尺上を獲るという実績は凄まじい。
それほどの餌師が、今シーズン益田川で獲った尺上のアマゴは未だたったの5本ということだった。
この目の前のポイントに関して言えば、まだ1本も大物を獲っていないそうだ。
「魚が全然入って来んですわ。おかしな年ですよ。」とお嘆きの様子だった。
更にその餌師は続けた。
「その朝一番の人は何にも釣れなかったと思いますよ。だってね、今年はこの場所は全くダメですからね。僕はまだここでは1本も尺上を獲ってない。ウグイですらおらんですよ。」

確かにウグイのアタリも非常に少なかった。
同じようなことを感じているのだなと思いながら興味深くお話を聞いた。
「週末しかこれない僕から見ると、去年と比べて特に変わったことはないような気がするんですけど、何か変わりましたか?」
「いいや、何にも変わってないですよ。だからおかしな年だなって思いますねえ。」


その餌師に初めて出会ったのは、先日僕が朝一番でこのポイントに入ったときのことだった。
釣りを終えて川から上がると、餌師が佇んでいた。
「僕もね、ここでやろうと思ったんですけど、あんたがやってなすったもんで他のポイントに行きましたよ。」
先行した憎い奴のはずなのにそんなところは微塵も見せず、今シーズンの益田の傾向を色々と教えて頂いた。
恐らく、毎日竿を出せる余裕、ポイントを知り尽くした余裕から生まれるものなのだろう。
先ほど書いた通り、先行者へ声掛けすることにより、情報を得られる場合もあるのだ。


そして先日だけでなく、今日のお話でも有益な情報を沢山頂いた。
出来れば僕も何らかの情報を提供したかった。
しかし、毎日益田川で竿を出す人に提供する情報など僕が持ち合わせているわけがない。
暫く釣り談義に花を咲かせながら、何か提供できる情報はないかと話題を色々と振ってみたが、やはり地元の方には勝てないと再認識させられただけだった 。
それどころか、僕が知らないポイントを紹介してくれた。
そのポイントまでの道筋や駐車場所なども詳細に丁寧に教えて頂いた。
ただ、実際にそのポイントへ行ってみると、既に鮎師で埋まっており、竿を出すことは叶わなかったが、鮎解禁前には活性の高いアマゴが入ってきそうな楽しみな瀬だった。
また別の機会に是非竿を出してみたい。



その後は益田川本流だけでなく、支流の小坂川でも竿を出してみたが20cm前後のアマゴがチラホラと釣れてくるだけだった。
望みは夕刻のあのポイントしかなかった。
陽が翳るに連れて魚たちの活性が上がり、日によってはとても盛んなライズが見られるあのポイントだった。

大きな流れの筋はあるが、細かな流れの筋は常に絡み合い変化していた。
二度と同じ流れは訪れないように思えた。
ところどころ表層と底層の流れの向きが正反対になっているところもある。
餌が流れ着く一帯は推測できるが、「ここで食う」という地点は予測することは難しかった。


僕は流れなりに流していた。
表層の流れと底層の流れが逆だったり、渦を巻いているところでは多少竿を動かして流れて行く筋をコントロールしたが、基本的には底付近を流れに任せて流していた。
うまく底波に入れば、自然と餌が行き着く一帯に流れてゆく。
あとは、食い気のあるアマゴと餌が出会ってくれるか、運に頼るしかなかった。

気が付くと対岸にルアーマンが一人入っていた。
お互いが探るコースが範囲が重なることは有り得ない距離を置いていたため何も問題はなかった。
ただひとつだけ気になる点があった。
先週の釣行のように、目の前で大物のアマゴをキャッチされてはまた気分がよろしくないなあと。
でもそうなってもそれも運なのだ。

そんなことを考えながら流していた時、いきなり竿先が「グンッグンッ!」と引きこまれる強い魚信があった。
餌を引っ手繰っていくようなアタリではなかったのでそのままアワセを入れると、確実に鈎に乗った感じが手元にまで伝わってきた。

相手はそのまま重い流れを下流に降る。
僕は竿を絞り姿勢を低くして岸辺を一歩一歩下って行った。
その間も激しく首を振り続けている。
僕の立ち位置から水面までは約1.5m。
足元は人工構造物のコンクリート。
コンクリートにはところどころ非常に滑りやすい藻が発生している。
それらに足を掬われないよう慎重に下って行った。

何度も何度も首を振るそのシャープな引きはアマゴだろうと予測した。
引きの強さから尺前後だなということも推し量ることが出来た。
しかし、エアマスターの穂先はあまり曲がっていない。
元上から曲がっているようなあのエアマスターの感覚には程遠い。
それほど大きくないかなと少し残念に感じると、また引きが強くなり上流に向かって疾走を試みる。
その時のスピードと引きの強さはかなり強い。
それでもまだまだエアマスターには余裕があった。
寄せては離れという遣り取りを何度かしたときふと思った。
「こりゃ尺に満たないニジマスだな・・・」。

そう考えると確かにニジマスらしい持久力のあるファイトだった。
寄せてきてもまた沖へ向かって疾走した。
非常にスタミナがある。

相手がニジマスならばバラしても構わない。
僕は少し強引に竿を絞った。
魚体が水面を割る。
ニジマスではない。
やはり尺前後のアマゴだった。

瞬時に僕は慎重さを取り戻した。
僕は少しだけ竿を絞る手を緩めた。
すると先程までは素晴らしい持久力だと感嘆した相手もかなり弱っていることが分かった。
一帯の中でも太い流れに乗って弱々しく流れ始めた。
僕はコンクリートから岩場に移り、ひとつずつその段差を降り始めた。
足場がほぼ水面と同じ高さのところまで降りてきた。
ちょうどその辺りに行き着く流れがあった。
僕は右腕に持った竿を天に向け、相手をその流れに誘導した。
そのまま魚体は僕の方に流れてくる。
左手で腰から玉網を抜いた。
枠を水中に突っ込んで魚が流れ着くのを待った。
魚体が枠に差し掛かった時、一瞬右腕の力を緩めた。
ストンという感覚で、魚が玉網に収まった瞬間、僕は水中から掬いあげた。



益田川にて  アマゴ 31cm



長かった。
今シーズンはサツキマスも獲れなかったし、それ以降も水況や天候に恵まれず、なかなか尺以上の個体を獲ることが出来なかった。
ここ何年かの間では、最も遅い尺上のアマゴだった。
漸く満足できる釣りが出来た。
「いやー、ありがとう、ありがとう。君に会えて嬉しいよ。ホンマありがとうなあ。」
魚に声をかけるなんて釣りをしない人から見たらおかしいと思われるかもしれない。
でも僕は意識せずとも魚に声をかけてしまう。

「ちょーっと待ってなあ・・・」僕は玉網の中で彼の口から鈎を外した。
ちょうど撮影に好都合な生簀状の水溜りが至近にあった。
僕は益田川の水に手を浸してから、両手で彼を持ち上げその水溜りに移した。
昨年の9月末、禁漁前の最終の週末で36cmのアマゴを獲ってから実に9ヶ月以上。
もうこのまま今シーズンは尺以上の個体は獲れないのではないかとさえ思った。
その思いが強くて必要以上に撮影に時間をかけてはいけないと思い、手早く済ませた。
僕はもう一度益田の水に手を浸し、生簀から彼を両手で掬いあげた。
岸近くで手を離すと、充分泳いでいけるだけの体力はまだ残っているようだった。
チョンと指先で軽くつつくと、そのまま底の岩伝いに潜って、彼は益田の流れに再び帰って行った。



実はこの日の釣りは、新しいエアマスターを使ってはいなかった。
中栓が外れなかったため修理に出していた。
僕が振っていたのは先代のエアマスターだった。
前述の昨シーズン最後の益田川での釣りで36cmのアマゴを獲ったのはこの竿だ。
その時は翌シーズンに新しいエアマスターが発売されるなどと思っていなかった。
予期せず、それが引退釣行となってしまった。
できればちゃんと引退釣行らしい花道とセレモニーを用意したかった。
それくらい思い出の詰まった竿なのだ。

恐らく今後も出番はあるだろうと思いながら今シーズンは新しいエアマスターを使ってきたが、今回の釣行で急遽先代エアマスターの出番が回ってきた。
「よろしく頼むよ」と思いながら終日エアマスターを振り続けたが、狙いの魚は掛からない。
それが最後のポイントで狙い通りの尺上のアマゴを獲らせてくれた。
またひとつエアマスターとの思い出が増えた。
本当に楽しい同窓会だった。



追記~
エアマスターは新しくなってかなりシャンとしたなと感じていたのだが、先代エアマスターも負けてはいない。
先ほどの竿の曲がりを見るとまだまだ大物の引きに耐えられそうだ。




当日のタックル
竿:ダイワ 琥珀本流エアマスター100MV
水中糸:フロロ0.6号
ハリス:フロロ0.5号
鈎:オーナー スーパーヤマメ8号
餌:ミミズ





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