【最新鋭戦闘機F35墜落】浮かび上がる日本防衛産業のジレンマ【ザ・リバティweb】
【監修】
河田成治
(かわだ・せいじ)1967年、岐阜県生まれ。防衛大学校を卒業後、航空自衛隊にパイロットとして従事。現在は、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)の未来創造学部で、安全保障や国際政治学を教えている。
【声】
りほ
【参照】
2019年4月16日付ザ・リバティWeb記事https://the-liberty.com/article.php?item_id=15636
(本文)
航空自衛隊の戦闘機「F-35A」が、青森県三沢市沖で、訓練中に墜落しました。パイロットの救助を祈りつつも、この事故を「日本の防衛産業にとって、ある意味でのチャンス」に変えていく必要があります。
4月9日夜、自衛隊三沢基地を離陸した4機が、太平洋上で戦闘訓練を行っていました。これは、「エアー・コンバット・マニューバー(ACM)」と言われる、敵味方に分かれて行う疑似戦闘訓練です。
お互い数十キロ以上距離を取りつつ、レーダーで相手を補足し、ミサイル攻撃をかける間合いやタイミングをはかるものでした。もちろんお互いを目視することはできず、民間機のように点滅するライトもつけません。まさに暗闇の中で行われる戦闘訓練です。
しかし午後7時26分頃、そのうちの一機が突然、「訓練を中止する」と通信し、消えてしまったのです。
15日時点で機体は回収されていません。防衛省は米軍と協力して、パイロットの救助、機体の回収を急いでいます。
今回の事故で懸念されているのが、「事件の原因がアメリカによってブラックボックス化されてしまうのではないか」ということです。
というのも、F-35はアメリカの軍事機密の塊です。もし機体を海から引き揚げたとしても、日本は機体を全て分解したり、解析したりすることが許されない可能性が高いのです。
そんな中、もしアメリカが機体の不備を発見したとしても、「パイロットの操作や自衛隊の整備が悪かった」などと責任をなすりつけることも、理論上は可能です。
装備品のほとんどをアメリカに頼る、日本の防衛体制の問題点が浮き彫りになったと言えます。
ここで改めて、日本がアメリカから武器を輸入する枠組みとその問題点を押さえておきます。
昔、アメリカは「ライセンス生産」という方法で兵器を輸出していました。これは「技術を決して流出させない」という約束のもと、同盟国などに技術提供して、兵器をつくらせてあげるというもの。その過程で、相手国の技術も向上しました。
しかし現在、アメリカは「FMS(フォーリン・ミリタリー・セリング)」と呼ばれる枠組みで、兵器を輸出しています。この方法は、大変評判が悪いんです。
これは、兵器の技術はあまり相手国に見せないように、ブラックボックス化します。相手国の企業も製造に関与できますが、まるでプラモデルを組み立てるように、部品を組み立てさせるのみ。技術の向上にはつながりません。ちなみに、今回墜落したF35も、アメリカから運び込まれた部品を、三菱重工が組み立てたものでした。
この方式の場合、機体に不備や故障があっても、日本国内ですぐ修理ができないことがあります。ユニットや部品のすべてを開けることは許されないので、問題の部分だけをアメリカに送り、部品交換、あるいは修理を待ちます。
そうなると、再び機体が使えるようになるまで、数カ月かかります。その間、訓練はできず、もちろん有事の際は戦闘もできません。それでは困るので、現場は、例えば10機戦闘機を持っていても、うち1機を「部品の予備」を確保するための、あたかも「臓器ドナー」のように置いておかざるを得なくなる場合もあります。
非常にもったいない状況が生じるのです。
そして最も深刻な問題は、国内の防衛産業の衰退に拍車をかけるということです。防衛技術を持ったエンジニアがいなくなってしまえば、「日本は二度と戦闘機をつくれない」ということにもなりかねないのです。
つまり、日本がアメリカに主要兵器を頼っていることは、大きな問題をはらんでいるのです。
しかし、かといって自衛隊の装備を一気に国産化させるのも、現実的ではありません。
今回のような事故があったとしても、アメリカの軍事技術が世界最高レベルであることには、変わりありません。
同じ戦闘機を日本でゼロから開発しようとすれば、膨大な予算・時間がかかり、なおかつ成功しない可能性もあります。中国が覇権を拡大するなか、日本が限られた資源の中で防衛力を維持するには、アメリカに頼らざるを得ません。
もちろん、日本もゼロ戦を開発した国です。国産ステルス実証機「心神」の実現などによって、エンジンやステルスなど、戦闘機のコアになる技術において、わが国は世界最高レベルであることが証明されました。
しかし、それはあくまでコア技術のみ。例えばF2という戦闘機は、あと10年で引退となります。それまでに、日本が独力で完成品としての戦闘機をつくることは、難しいと言われています。
さらに、訓練や有事の際、アメリカとあまりに規格や性能の違う兵器を持っていると、連携して作戦を行うことが難しくなります。例えばアメリカ軍は、NATO軍と共同訓練をする際、ヨーロッパなどが持つ兵器の性能が違いすぎて、訓練にならないとよくぼやいているとか。職場でも、AppleとWindowsのPCが混在していると、困ることがありますよね。
こうしたことから、少なくとも短期的には、防衛装備においてアメリカと協同することは、悪いことばかりではありません。
では日本は今後、どうしていけばいいのでしょうか。
現在、防衛省が最善だと考える「希望」が、まるまる輸入でも、まるまる国産でもない、共同開発です。
新しい防衛計画の大綱においても「将来戦闘機」については、「日本が主体となった国際共同開発」と書かれています。
日本は自国の技術をフル活用しつつも、戦闘機の早期完成に向けてはアメリカの協力を得ます。そして、開発協力を進めていく中で、同盟関係も深まっていきます。
そんな意識を国内で高めるためにも、そしてアメリカへの交渉材料とするためにも、今回の事件はひとつのきっかけとなるかもしれません。