労働法の散歩道

yahoo知恵袋で回答していて、繰り返し同じ投稿するロスを減らすために資料室としてもうけました。

労基法上の歩合給

2023-04-01 14:02:50 | 賃金

労基法では「出来高払制その他請負制」によって定められた賃金について規制を設けています。歩合給もその一種ですが、労働者のがんばりにどう報いるかは、導入する企業の各社各様です。ここでの説明では、「歩合給等」で統一します。

平均賃金計算

歩合給等も日給・時給とあわせて、平均賃金計算のうえで、計算期間中の労働日数で除した6割という最低保証の対象とします(労基法12条1項1号)。

時間外等の時間単価

歩合給等の総額を、給与計算期間の総労働時間で除した額をもって時間単価とします(施行規則19条1項6号)。他の日給や月給の賃金手当と違うところは、月間所定労働時間ではなく、歩合給の対象とした総労働時間で除すことです。総労働時間をかけて稼ぎを生み出したとみなし、割増賃金の1.25倍のうち、1.00部分は歩合給本体として支給済みと考えます。なお特定の労働部分に対する歩合給等ですと、総労働時間でなくその労働時間とします。

  【時間外割増賃金】
時間単価×1.25
×時間外労働時間
【所定賃金】
← 所定労働時間 → ← 時間外労働 →
 
  割増部分 0.25
【歩合給】
←  所定労働時間  +  時間外労働  →

年次有給休暇

年次有給休暇をとった日の休暇日賃金を、所定労働時間分の賃金とする場合は、歩合給等も計算の対象とします。休暇した日に成果をあげていないのだから支払わないということができません。

歩合給等の総額を、給与計算期間の歩合給の対象とした総労働時間で除した額をもって時間単価とします(施行規則25条1項6号) なお、この期間に出勤がなく歩合給がない場合は、直近の額(最後に支払った額)を採用します。この点が時間外労働等時間単価算出とは異なるでしょう。

保障給

成果に見合う歩合給は無し、賃金を一銭も支払わないということができません。働いた時間に応じた一定額を保障し、賃金支払いをせねばなりません(法27条)。

最低賃金

最低賃金算出においても、歩合給等は算入対象です。その計算期間の歩合給の対象とした総労働時間で除した額になります(最賃法施行規則2条1項5号)。

(2023年4月1日投稿)

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月間時間外60時間超5割増賃金適用

2023-02-19 08:48:20 | 賃金

2023年4月から中小企業に、月間60時間超時間外労働5割増し賃金が適用されます。これは2010(平成22)年4月改正労基法で施行されてはいたのですが、中小企業だけ適用が猶予されていたものです。先の働き方改革法でとうとう猶予条項も2023/3/31をもって削除となりました。月間60時間超とは61時間目をいうのでなく、60時間を1秒でも過ぎた部分をいいます。

さて、適用日と賃金計算開始日が同一ならいいのですが、末日締め以外の会社もすくなくありません。この場合60時間カウントはどうなるかというと、H22年当初のパンフレットに言及ありますので、引用しておきます。

Q4. 改正法の施行日である平成22年4月1日をまたぐ1か月については、どのように計算すればよいですか。
A4. 施行日である平成22年4月1日から時間外労働を累積して計算をします。例えば、「1か月60時間」の計算における1か月を、毎月21日~20日としていた場合、平成22年4月1日~4月20日までの時間外労働時間数が60時間を超えた部分について50%の割増賃金を支払う必要があります。
改正労働基準法のあらまし 11ページ  4.施行日をまたぐ1か月について

平成22年とあるのは、令和5年と読み替えてください。面倒なら3月中の賃金計算開始日からカウントしての60時間超部分から5割増し賃金とするのも労働者有利となる限り可です。就業規則に移行措置として明確にしておきましょう。

中小企業の定義はこちら。時間外労働の上限規制 わかりやすい解説5p

よく似たケースで、2023/4適用前に資本金・従業員数基準の内どちらか遅いほうで大企業該当になった時点での適用になるわけですが、考え方としては施行日と賃金計算開始日のずれと同様です。

Q14  改正法施行後、増資や労働者数の増加により中小事業主に該当しなくなった場合において、どの時点から引上げられた割増賃金率が適用されるのか。また、賃金計算期間の途中に中小事業主に該当しなくなった場合、どの時点から60時間の算定を行うのか。
A14  改正法の施行後において、中小事業主でなくなった時点から割増賃金率の引上げが適用となる。賃金計算期間の途中に中小事業主に該当しなくなったときは、その時点以降の1か月60時間を超える時間外労働について、5割以上の率で計算した割増賃金の支払が必要となる。
労働基準法Q&A(H22/4改正)

(2023年2月19日投稿)

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新社会人のための給与制度のあらまし

2023-01-01 08:15:17 | 賃金

学生時代にパートとかでお働きになられた方は、月ごと日ごと週ごとに賃金を受け取る、といった経験がおありだと思います。就業経験のない方も含め、社会人として働きだし、給与を受け取ることについてのひととおりの基礎知識を身につけられるよう、段階をふんで説明してみたいと思います。中途の皆さんにおかれても、転職時のことをところどころで触れてますのでお役に立てるかもしれません(※ご注意:この記事の記述は、すべての人に当てはまるわけではありません。)

締日と支払日

賃金の支払いは、すくなくとも月1回以上ありますが、いつ締めていつ支払うかは会社ごとに異なります。入社したその月に給料日のある会社(タイプ1)もあれば、月末締め翌月払いという会社(タイプ2)もあります。

タイプ1:当月末締め、当月25日払い(残業代、欠勤控除は翌月清算)

4月 5月 6月
25日払い 25日払い 25日払い
4月給与 5月給与 6月給与
  4月残業代 5月残業代

タイプ2:当月末締め、翌月25日払い

4月 5月 6月
  25日払い 25日払い
  4月給与 5月給与
  4月残業代 5月残業代

タイプ2ですと、入社して2カ月近く生活費が入らない、ということが起こります。応募する会社の給与支払い形態をよく踏まえておきましょう。

タイプ3:15日締め、当月25日払い

4月 5月 6月
25日払い 25日払い 25日払い
4月給与 5月給与 6月給与
  4月残業代 5月残業代

タイプ3ですと、入社して最初の月に最初の給与が入りますが、日割りした半月分ということがあります。これも応募する会社の給与支払い形態をよく踏まえておきましょう。

注:何月分給与のタイプ1~3として紹介させていただきましたが、以下に説明する雇用保険、社会保険、源泉所得税では、「いつの働き分の賃金」といった名目は考慮されることはなく、あくまでも支払日を基準にいつの「何月分払い賃金」かというとらえ方で、料率等が課せられます。また賃金、給与、給料、報酬、俸給と呼称はさまざまで、意味づけして区別するところもありますが、本稿では使い分けしていません。

支給額と控除

会社説明や求人票に書かれてあった給与の総支給額がそのまま受取り金額になるわけではありません。おおざっぱにいうと総支給額から、雇用保険、健康保険、厚生年金保険などの社会保険料と所得税、そして住民税が差し引かれて、いわゆる手取り額となります。

給与明細書のイメージ ⇒ 給与明細書の仕組み

総支給額 - 控除合計 = 差引支給額
  • 支給項目 … 本給、諸手当ほか
  • 控除項目 … 引き去られる社会保険、税金ほか
  • 差引支給額 … いわゆる手取り額

支給項目

給与支払い形態、名称が法定されているわけではありませんので、定義は呼称する会社によります。ここでは一般的な呼び名での説明をします。

月給 支払われる月額が定額で定められ、欠勤や遅刻・早退等をしてもその時間分の給与がカットされることがないタイプを指します。完全月給制ともいいます。
日給月給 毎月定額の給与額ですが、欠勤や遅刻・早退・中抜け外出などは、給与から時給換算して控除するという給与体系です。日給と違う点は、所定労働日数が多くても少ない月でも、毎月定額です。月給日給と呼称して別のタイプの給与説明をする場合もあります。
日給 一日あたりの金額を決め、働いた日数分の給料を支払うタイプです。
時給 時給単価で、働いた時間数に応じて給料が支払われるタイプです。
出来高給 予め定められた基準をもとに、その月の生産高あるいは販売高に応じて報酬が支払われる体系です。歩合給、請負給ともいいます。
年俸 年間の総額を予め定めておき、それを毎月分割して支払うタイプです。

基本給、そして各種手当でもって、支給項目を構成します。手当なしの基本給1本ということもめずらしくありません。

通勤交通費

通勤にかかる費用および時間は、本来労務を提供する労働者もちです。取り決めにより会社が費用負担することができます(民法485条)。通勤手当、定期券代等呼び名はさまざまです。使用開始前月に前払いしてくれる会社もあれば、当月あるいはまず本人が購入した定期券のコピーを提出してから支給、中には複数月分定期券を買わせ毎月分割後払いといった会社もあります。就職する会社のルールにそってください。

公共交通機関利用に対しては現在月額15万円までは非課税となっています。自家用車での通勤費は、片道走行距離に応じて、非課税枠が決められており、超過した場合課税額が生じる場合があります。税金の課税非課税を問わず、通勤交通費全額に対し雇用保険料、社会保険料計算の対象となります。雇用保険料は通勤交通費の支給月に一括して徴収し、社会保険料は複数月定期券の場合月割りに換算しなおしての保険料算出となるのが普通です。

欠勤控除・代休控除・遅早控除

定額の日給月給制の場合、休日出勤の代休、無給扱いの休暇、遅刻早退中抜け外出時間に対し、支給額の調整をする項目です。原則勤務先が決めた時間単価、または所定日数割での減額控除となります。通常控除項目にでなく支給項目にてマイナス計上します。この欄をもうけず直接基本給等を減額するしかたもあります。時間給、日給の場合は無給(あるいは分刻みの控除)として処理します。

控除項目

支払う給与から引き去る各種控除項目で構成します。毎月の給与から差し引く「法定控除」と労使協定を結んだうえでの「協定控除」があります。「法定控除」とは、法律で差し引くことを認められた項目で、健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料、雇用保険料等の社会保険料、並びに所得税と住民税があります。一方「協定控除」とは、会社が労働組合または事業所労働者代表との間で結んだ労使協定を元に、社宅費、組合費、財形積立などを差し引きます。

労災保険 雇用保険 健康保険 厚生年金保険
労働保険 社会保険
社会保険(広義)
雇用保険

余儀なく失業した時、求職活動中の生活費を給付するための保険料です。雇用保険料の計算式は、その月の賃金(通勤交通費を含む)に直接保険料率を掛けたものです。事業主と労働者の両者にて負担。また賞与からも同様に保険料を徴収します。

健康保険、介護保険

けがや病気、その治療のための休業、死亡、分娩に際し、治療・処方薬の現物給付や現金給付の保険です。健康保険料は、標準報酬月額に保険料率を掛けたものです(下記「標準報酬月額」コラム参照)。保険料率は、保険者によって異なります。協会けんぽの場合1,000分の100前後しかも加入する都道府県支部ごとにことなり年ごとに収支をもとに料率改定します。保険料は本人と事業主が2分の1ずつ負担します。健康保険組合(以下「健保組合」)の場合は一定の範囲内で健保組合ごとに決定し、事業主側が2分の1以上とすることが可能です(労働者側はその分負担が減る)。4月分の保険料は5月支払給与から天引きします。4月から給与を受ける場合、5月からの保険料源泉が開始しますので手取りは4月分より少なくなります。また賞与からも保険料率を乗じた保険料を徴収します。

結婚出産等で、扶養家族が増えても保険料は増減しません。しかし、健康保険の扶養家族に認定するには条件があります。あらかじめ会社の担当窓口に相談ください。健康保険被保険者証(略して「健康保険証」とも)を手にしたら、入社前の健康保険(親の勤務先健康保険の被扶養者、または国民健康保険の被保険者)の喪失手続きをすることができます(今後マイナンバーカードに保険証機能が載せられて、これらの手続き方法が様変わりするでしょう)。被保険者証は身分証明書がわりにもなりますので、大切に扱ってください。また保険者から毎年定期に被扶養家族の確認が行われます。家族の収入の多寡によってはさかのぼって喪失させられるケースもありますので、家族の異動については慎重に把握しておきましょう。

個人事業主のもとに就職された場合は、職域の国民健康保険の場合があります。ここでの説明とは異なりますので、雇用主から説明受けるか、保険者ホームページでの説明をごらんください。

この他に、40歳に到達した人からは介護保険料があります。65歳未満までを被保険者とし保険料を徴収します。協会けんぽでは本人と事業主が折半、健保組合では規約で決めた負担となっています。

厚生年金保険

障害、老齢で働けなくなった時、死亡でのこされた遺族のために、生活費としての年金を給付するための保険です。厚生年金保険料の計算式は健康保険同様です(下記「標準報酬月額」コラム参照)。保険料は本人と事業主が2分の1ずつ負担、また賞与からも同様に保険料を徴収します。

国民年金との関係の説明です。20歳で国民年金に加入し、学生特例の手続きをした人は、入社した4月分からは、厚生年金保険から国民年金保険料がまかなわれます。学生特例を受けて猶予されている学生時分の保険料や、特例を受けずに未納となっている保険料は早めに納付を検討ください。遅くなる分、利息相当の納付額が増えます。特に未納の放置は、給与差し押さえとうい形で、勤務先に知れる場合があります。

厚生年金保険料率は現在1000分の183.00(R4.9現在)です。健康保険・厚生年金保険料は、入社月分から徴収し(実際の給与からの源泉は翌月控除、中には当月徴収する会社もあります)、退社月分保険料は徴収しません。ただし月の末日退社の場合は、資格喪失月が翌月となる関係で、発生した退社月の保険料を最終給与から源泉するので、普段の倍額保険料を源泉することがあり、その分手取りが減少します。

標準報酬月額とは

社会保険料は、給与額に直接保険料率を乗じてもとめる雇用保険料とは異なり、標準報酬月額という「みなし給与額」を設定しそれに保険料率を掛け、毎月定額を納める形です。この標準報酬月額を求める機会は3通りあり、それぞれの給与額から料額表のテーブルにあてはめ標準報酬月額を求めます。

例)基本給20万円 通勤手当1万3千円(月額) 計21万3千円

報酬月額
円以上 ~ 円未満
標準報酬月額
195,500 ~ 210,000 200,000
210,000 ~ 230,000 220,000
230,000 ~ 250,000 240,000

標準報酬月額220千円×保険料率=保険料(労使折半)

  • 入社時は、契約給与月額、通勤交通費(月額)、配属先で残業が予定されるならその割増賃金見込み額を足し合わせた額
  • 定時決定、毎年4月、5月、6月の支給総額(通勤交通費(月額)込み)を合計して3で割った額
  • 随時決定、基本給といった固定的賃金に変動があり、変動のあった月から3カ月支給総額の平均値からの標準報酬月額に2等級以上の変動があった場合

標準報酬月額にそれぞれの保険料率を乗じ、健康保険、厚生年金の保険料額を算出し、定時は9月保険料(10月支払い給与天引き)から、随時は変動月からの4カ月目に改定(源泉は翌月)されます。この報酬には、毎月の残業代や会社が支給する通勤交通費(月割り)が含まれます。この保険料は、あらたな随時決定が生じない限り翌年の定時決定まで固定されます。 定時・随時改定のイメージ ⇒ 月変・定時カレンダー

労働者災害補償保険

労災保険とも。業務中に労働者が業務上災害にあった場合に、治療費や休業中の賃金、障害、死亡に対する遺族補償など事業主が補償する義務を労基法で定めています。この補償する事業主に代わって保険給付するものです。このため保険料は全額事業主負担です。個人負担はありません。業務中に被災した場合の給付手続きは、会社と相談してご自身で労基署に出向いたり病院薬局に書類提出することになります。出勤途上や退社帰宅途上通勤災害は私傷病ですが、これも労災保険給付の対象としています。健康保険証がつかえません。ただし通勤経路から逸脱して寄り道等をした場合、労災保険扱いにならないことがあります。労基署にその判断を受けた場合は、健康保険に切り替えます。

源泉所得税

国に納める税金のひとつ、所得税です。計算期間は、同一年の1月から12月に支給された給与賞与を単位に税金計算します。入社時に扶養控除申告書を記入し会社に提出します。同時に2箇所以上から給与を受けることがある場合、この申告書は原則一の給与支払者にしか提出できません。毎月の源泉所得税の算出は、全員同じ率をかけて行われるわけではなく、ある一定の手順に基づき算出します。同じ給料額でも、差し引く社会保険料額の多寡や、家族を扶養している場合減額計算となり、必ずしも常に同額ではありません。賞与は、前月給与額と上記の扶養者数をもとに賞与にかける税率を算出します。

就職前、あなたを扶養家族として親が勤務先に届け出ているなら、親自身の勤務先に子の就職を届け出るように親に伝えておきます。

あなたが年の途中で退職するときには、その年の1月からの支払給与総額、源泉した社会保険料額、所得税額、退職日を記載した源泉徴収票を会社が発行します。年内に再就職した場合は、就職先に提出。再就職しない、しても年内に再就職先から受け取る給与がない場合は、住所地を受け持つ税務署で確定申告となります(次の年末調整を受けている場合を除く)。

年末調整

12月最後の支払い給与(最後の支払が賞与なら賞与)において、年間給与総額(1月から12月までに支払った給与と賞与)から求まる年税額を確定させ、すでに差し引いた毎月の源泉合計額との過不足を精算します。毎月の源泉累計が多ければ税金還付、不足ならばさらに差引きとなります。これを年末調整といい、給与所得者としての所得税の手続きはこれで完結します。

この年末調整では、
・ご自身で負担した社会保険料(学生最後の3ヶ月(入社前の今年1月から3月)にご自身ではらった国民年金保険料、国民健康保険料)や学生特例で追納した保険料をのせることができます(納付済みの証明書を添付)。
・入社前に前職あるいはアルバイト・パートとして賃金を受けていたら、前職から本年の源泉徴収票を発行してもらい、今の勤務先に提出します。提出できない場合、その年にかぎり年末調整を受けることができません。
・年内にかけていた民間の生命保険、火災保険(地震災害部分)、個人年金保険、介護保険を年末調整に保険会社等からの証明書をつけて年末調整できます。

住民税

勤務先があなたの住所地市役所(町村役場)および都道府県庁にかわって住民税を徴収し、所得税同様毎月給与から天引きします。今年3月に学校を卒業し入社したばかりの新入社員ですと初任給から原則住民税が引かれることはありません(下記「引き去りのイメージ」参照)。毎年1月1日の住民票所在地にもとづき、前年1月1日から1年間の所得総額をもとに住民税額を計算します。この税額は月割りで控除されます(特別徴収)。毎月同額ですが、12等分した端数は、徴収開始の6月に加算されます。所得税と違い、賞与からの引き去りはありません。ご自身で納付(普通徴収)している税額のあるかたは、税額通知書をもって給与担当者に相談すれば、普通徴収の残りを毎月の給与天引きに切り替えてもらえる場合があります。

先に触れたとおり住民税は、前年1年間の所得に対して掛かる後払いの税金です。年の途中で転居して住所が変わっても、来年5月まで納める先と税額に変更はありません。また退職しても再来年5月までは一括または分割での納付が続くことがあります。

引き去りのイメージ
  4月 5月 6月 10月 12月 1月 6月 10月 12月
所得税 年末調整 年末調整
雇用保険    
社会保険     定時決定 定時決定
住民税   翌年5月まで
差引
支給額
手取り部分

差引支給額

求人票にある支給総額が、満額手にできるわけでないことがおわかりいただけたかと思います。現金での支給が原則ですが、労働者の同意で銀行振込が可能です。

マイナンバー

個人番号ともいわれ、国内在住者個別に番号を振り、生涯1番号をもって、税・社会保障制度の公平負担を期する公的制度です。入社手続き時に、会社のさだめる方式に従って、本人確認、番号の写しを提出します。会社に提出する書類に個人番号を記入する欄がありますが、会社の指示に従ってください。

まとめ

おおよその給与体系のしくみを説明してみました。まだ重要な事項、ことこまかな事項がありますが、詳しくは会社にお尋ねください。法制度は頻繁にマイナーチェンジを繰り返し、ときには大改造になって制度改正されていきます。会社の案内に従ってください。ご自身のライフイベントにかかわること、引っ越し、結婚、出産、子の独立、配偶者や子の副収入増加、親の扶養といったことで、会社に届け出ていなかったばかりに、大変な目にあうことがあります。前もって相談しておくと安心です。せっかく就職できても、予期せず退職のやむなきに至った場合、住民税の欄にも書きましたが、無収入期間であっても、国民年金、健康保険(選択により任意継続、国民健康保険)、住民税といった支払いは続きます。何事が起ってもいいように将来を見据えた生活設計が肝要です。

(2023年1月1日投稿、2023年1月4日編集)

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平均賃金計算

2022-08-17 08:00:23 | 賃金

労働基準法では、平均賃金を使う場面がいくつかあります。

解雇予告手当 予告通告が相手に達した日
休業手当 休業日
年次有給休暇の休暇日賃金 休暇日
労災補償 被災日
減給制裁 懲戒通告が相手に達した日

平均賃金を求める事案が生じた日(上表右欄)の前日から起算してさかのぼること3カ月です。休暇日や休業日が連続する場合は、休暇日等の初日となります。

0時をまたぐ勤務

24時をまたいでから労災発生でも、その勤務の始業時刻の属する日(すなわち前日)をもって算定する事由発生日とします

解雇日の変更

一旦解雇通告した後、労働者の同意をえて変更する場合でも、当初の通告日をもって事由発生日とします

賃金締日

賃金締日があるのが普通ですので、前日から見て直近の締日からさかのぼっての3カ月となります(前日が締日ならその締日が起算日)。条文は事案が生じた日起算と読めますが、その日の賃金低減に影響するので、前日起算としています。

締め日に事由発生

締め日当日に事由発生の場合、その前の締日からさかのぼります。

手当ごとに締日が異なるとき

各手当の締日ごとに3カ月の算定をします

締日の変更

3カ月の始点に近いほうの賃金計算開始日(長短2種あるうちの近いほう)を採用します

算出方法

過去3カ月の支給総額を同期間の暦日数で割って求めます。総支給額には、通勤手当も含まれます。過去3カ月の労働日数で除して日給相当とせず、暦日数で除すのは、生活費拠出という意味合いが平均賃金にあるためです。

次の期間と、期間中の賃金は、計算に含めません。

  • 労災休業中
  • 産前産後休業
  • 育児介護休業中
  • 使用者責めの休業期間
  • 試用期間

賃金に含めないもの

  • 結婚祝金、私傷病見舞金といった臨時に支払う賃金
  • 3カ月を超える期間ごとの賃金(年2回賞与等)
  • 通貨以外で支払われた一定のもの

賃金に含むもの

  • 通勤手当、通勤定期券(各月に割り振る)
  • 年休日の賃金
  • 使用者の責めにない休業手当

ベースアップ

賃金アップが遡及して行われる場合、対象となる各月に算入するが、算定事由発生後に行われたベースアップは対象とならない。

年俸制

確定した賞与込みであっても、12分の1を月額とします。

週給

その部分の賃金総額を、その週期間の総日数で除します。

計算式

A(平均賃金)=3カ月間の総支給額÷3カ月の暦日数

総支給額に日給、時給、請負給の部分がある人は最低保証額も合せて算出しAが最低保証額を下回っていないか確認を要します。時間外労働、休日労働の割増賃金は時間を単位にした賃金にあたります。

W1=月、週等を単位とした賃金総額

W2=日、時間を単位とした賃金総額

D1=3カ月の総暦日数

D2=3カ月の総労働日数

 

Ⅰ=W1÷D1

Ⅱ=W2÷D2×0.6

 

最低保証額=Ⅰ+Ⅱ

Aと最低保証額のどちらか高い額

計算流れ

過去3カ月間の賃金総額:654320円(S)

その期間の暦日数:91日

654320÷91=7190.3296… 
  ⇒ 7190円32銭(銭未満切り捨て)(Sa)

最低保証の計算

上記Sの中に残業代(53109円/3カ月の総労働日数60日)が含まれている場合。なお、当月末締め、基本給当月払い、残業代や欠勤控除が翌月払い(清算)となる場合の残業代は、当月に含めての計算となる(下記「支払期のことなる手当」参照)。

 

Ⅰ:(654320-53109)÷91=6606.7142…

Ⅱ:53109÷60=885.15

  885.15×0.6=531.09

Ⅰ+Ⅱ=7137.8042 
  ⇒ 7137円80銭(最低保証額)
本則(Sa)の方が大きいので、最低保証額を満たしている。

例)年次有給休暇 3日分

7190.32×3=21570.96… ⇒ 21571円(円未満四捨五入)

 

特殊事例

1昼夜勤務

1勤務が明らかに2日分の労働と解せる場合は、2労働日とする(最低保証関連)

支払期のことなる手当

先にも書きましたが、同一締日の異なる支払期の手当は、同一に算入します。たとえば当月末締め、基本給当月払い、残業代翌月払いのケース。同一締日ですので、基本給残業代ペアにして計算します。当月末締め、基本給・残業代共翌月払いと同等扱いです。

末締め翌月払い

基本給・残業代・欠勤控除すべて締めた翌月に支払う場合

             
  締日  
   
賃金計算期間(A) 賃金計算期間(B) 賃金計算期間(C)
  支払い日▲   支払い日▲
  基本給(A)   基本給(B)
  残業代(A)   残業代(B)

末締め当月払い

基本給は当月中に支払い、残業代、欠勤控除は締めてから計算し、翌月に支払う。

             
  締日  
   
賃金計算期間(A) 賃金計算期間(B) 賃金計算期間(C)
  支払い日▲   支払い日▲
  基本給(B)   基本給(C)
  残業代(A)   残業代(B)

色付き部分を同一締日の賃金として、平均賃金計算します。

賃金形態の変更

算出期間途中で時給制が、月給制に変更された場合等、最低保証額計算は、当該期間ごとに按分して求めることになっています。

 

Wa:月給制の賃金額

Wb:時給制の賃金額

Da:月給制期間の暦日数

Db:時給制期間の暦日数

Dc:時給制期間の総労働日数

D:3カ月の暦日数

 

Ⅰ=Wa÷Da×Da(=Wa)

Ⅱ=Wb÷Dc×0.6×Db

 

最低保証額=(I+Ⅱ)÷D

 

日給月給

毎月定額を支払う月給制が、遅刻早退、欠勤した部分を欠勤控除するタイプで、その賃金控除が発生すると最低保証計算にかからない場合があります。

日、時間、請負等で算定された部分 上記A(Ⅱ)にて計算
賃金の全部または一部が月、週、その他期間で算定され、欠勤等の日数・時間で減額された部分 減額がないものとして受ける額を所定労働日数で除した額×0.6
賃金の一部が月、週、その他期間で算定され、減額がない部分 その総額を上記A(Ⅰ)にて計算

最低保証額=Ⅰ+Ⅱ+Ⅲ

(2022年8月17日投稿、2024年3月8日編集)

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給与明細書の仕組み

2021-05-05 15:49:14 | 賃金

毎月の支払われる賃金給与が、時給、日給、月給のいずれであれ、給与明細書にして労働者に交付しないといけません(所得税法)。また社会保険料、雇用保険料を源泉したときも、計算書にして交付となります。それを1枚の給与明細書にして労働者に交付、事業主控えを賃金台帳にしている事業者もいます。給与明細書の仕組みはだいたい共通ですので計算流れを表にしてみたいと思います。

基本給 (a)
諸手当 (b)
時間外割増手当 (c)
休日割増手当 (d)
通勤交通費 (e)
総支給額 (F=a~eの合計)
雇用保険料 (g:F×保険料率)
健康保険料 (h:Fに対する標準報酬月額×保険料率)
厚生年金保険料 (i:同上)
社会保険料計 (J:g~iの合計)
源泉所得税 (k:税額表(F-J-eの非課税分))
各種控除 (l) 住民税(特別徴収)はこのグループに
控除合計 (M=J+k+l)
差引支給額 N=F-M

いわゆる手取りというのがNにあたります。ときどき相談板で私の賃金引かれすぎじゃないでしょうか、とNの手取り額で相談されても回答者はこまります。Fの総支給額もあわせて明示ください。ごくたまに手取りいくらにするには、額面いくら必要でしょうか、という質問をみかけます。算出不可ではありませんが、社保の適用ずれ、住民税納付等で変動すること、そして何よりも着地点複数値生じることもあります。

最初に述べましたが給与明細の法的根拠は、労基法にではなく、

  • 所得税法(所得税法231条、施行規則100条)
  • 健康保険料(法167条)
  • 厚生年金保険料(法84条)
  • 雇用保険料(徴収法32条)

です。所得税法以外は、それぞれの源泉する額の計算書としての交付義務として述べています。計算書を別途交付するよりは給与明細書に盛り込んで兼ねさせてます。労基法は賃金台帳として、支払い後遅滞なく作成とありますので、それ以外の要素としての労働時間、時間外労働時間等記載事項を給与明細書に併記して、別途台帳作成する手間を省いているといえるでしょう。

(2021年5月5日投稿、2024年5月30日編集)

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