労働法の散歩道

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2025年4月65歳定年義務化の虚実

2021-11-03 08:56:16 | 雇用

2025(令和7)年4月65歳定年義務化なのかという質問をよく見かけます。

ネットニュースで読んだことはありますが、厚労省サイトにはそんな記述はありません。高年齢者雇用の解説で、65歳定年70歳定年を義務付けるものではありません、とひきつづき掲載されています。

ことの出所は、高年齢者雇用安定法が平成25年に改正された折、改正前の労使協定を保持していることを条件に、いわゆる年金年齢(男性)にそってその労使協定の効力を認める経過措置があります。この経過措置が2025年3月で終わるのですが、それをこじつけてか同年4月65歳定年義務化とすりかえ報道しているのが、実情のようです。しかし、60歳定年(正確には60歳未満定年の禁止)をさだめた同法8条にいささかの変更もありません。

順をおって説明してみます。

改正法年表にも書きましたが、平成25年同法の改正のその前の改正、平成16年改正法により、これまでの努力義務だった65歳までの雇用の場提供が義務化されました。事業者に課せられた選択肢は、

  • 定年制の廃止
  • 65歳定年
  • 65歳までの安定した雇用の場提供

です。最後の選択肢は、60歳から64歳までの定年制の会社が選択し、制度整備せねばなりません。制度としては、希望者に対し有期雇用による再雇用、定年延長といったものです。この選択肢にオプションがあって、客観的選別条件を定めた労使協定を事業所過半数労働者代表とで結ぶことで、定年後雇用継続を希望する者全員をひきつづき雇い続けるか選別することを許されていました(改正後数年間は、締結できなかった労使協定にかえて就業規則に規定して、猶予期間中に労使協定締結を目指すことを条件に認められていました。)。

すなわち客観的な基準を設け、それに達しない労働者は、継続雇用を希望しても、雇わなくてもよいとするものです。客観的条件、たとえば出勤率8割以上とか、評価Bマイナス以上といったものです。上司の推薦のあるもの、会社が必要とするものといった恣意的主観的条件は認められていません(客観的条件との並置は可能。たとえば出勤率8割に達していないが、会社が必要とする者という判断で継続雇用)。

そして平成25年同法改正で、それまで認められていた選別条件を定めた労使協定を結べなくなりました。そのかわり、改正前に結んであった労使協定をいわゆる年金年齢にあわせて選別年齢を順次後ろ倒しする運用に改変すれば、有効とする延命措置を改正法附則に設けました。

(参考)年金開始年齢(男性)

H25年4月1日~H28年3月31日 61歳 S28.4.2~S30.4.1生まれ
H28年4月1日~H31年3月31日 62歳 S30.4.2~S32.4.1生まれ
H31年4月1日~R4年3月31日 63歳 S32.4.2~S34.4.1生まれ
R4年4月1日~R7年3月31日 64歳 S34.4.2~S36.4.1生まれ
R7年4月1日~ 65歳 S36.4.2~

それが会社によって今現在有効に存続しており、生年月日(S28.4.2~S36.4.1)によりいわゆる年金年齢(特別支給の老齢厚生年金受給できる年齢・男性)に達した労働者の中で、選別条件に達していない者が希望しても再雇用をしなくともよいのです。

その対象とならないS36.4.2以降生まれのグループに対しては、彼ら64歳となる2025年4月には選別労使協定が失効しますので、雇用主は希望する者65歳まで雇う場を提供せねばなりません。これをなぜか65歳定年完全実施とかマスコミ等がミスリードしたわけです。65歳定年義務化なら、3択を改め同法8条65歳未満定年の禁止と定めないとつじつまがあいません。

細かいことですが厳密には雇い続ける義務ではなく、安定した雇用の場提供義務ですので、希望者におうじ雇用条件を提示すればよく、定年退職者が気にくわなくて破談となっても、提供した雇用主は義務を履行したことになります。この提示する雇用条件につていは、就業規則に列記しておくことが望ましいです。裁判例ですが、パートの週1か週2の条件提示では義務をはたしたことにならないという判示があります。


さて現行法ではすでに70歳までの「就業の場提供」義務が努力義務として令和3年4月施行されています。詳しくは上の厚労省リンク先(70歳定年)をごらんください。

おまけ

上表の、右枠は2年刻みなのに、左枠はなぜ3年刻みなのか不思議だというのです。右枠は生年月日、対して左枠は現行スケジュール期間です。記事にも書いたように、最後の生年月日グループが、スケジュール期間に達するときが64歳で、問題の65歳に至るにはあと1年歳とるのに必要なので、見かけ上左枠は3年(2年たす歳とる1年)刻みなのです。

S36.4.2日生まれの人は、R7.4.1に64歳に達し、65歳になるにはもう1年あります。その前日生まれの人は、R7.3.31に64歳に達し、選別条件に達していないとして、65歳になるまでの1年雇用しなくてもよい労使協定適用とできます。

最後にもう一つ、60歳未満定年の禁止をうたった同法8条を65歳未満定年の禁止に改正してはじめて65歳定年義務化といえます。その改正をするには、一気に65歳すると経済混乱を招きますから、上表にもあるように3年刻みで1歳ずつあげて、12年かけて65歳にもっていくことになるでしょう。今から改正して12年後では2025年にとても間に合わないです。

(2021年11月3日投稿 2022年7月3日編集)

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