ひねもすのたりのたり 朝ドラ・ちょこ三昧

 
━ 15分のお楽しみ ━
 

『かりん』(137) ★浩平、家を出る

2006-03-16 04:46:24 | ’05(本’93) 50 『かりん』
【137】 3月16日(木)

小森千晶   細川直美
小森浩平   榎木孝明
本間あかり  つみきみほ
田上 渉    筒井道隆
花山信太   林 泰文
宮下みつ   貴島サリオ
上司      小倉雄三(ペガサス時計の浩平の上司)
信太のいとこ 佐藤信一郎
チンピラたち  志賀実  
         三上壱郎  
         伊東孝太郎
         上戸章  
田上伝六   不破万作
小森友行   石坂浩二

・‥…━━━★・‥…━━━★・‥…━━━★

「田上ー!!」信太が叫び、渉はあお向けに倒れ込んでいく。
チンピラたちは「逃げろ!」とあっという間に逃げていく。
浩平と信太が渉の脇下と脚をもち、病院へ運ぶ。
渉が「小森…小森…」と言うのを、浩平も信太も聞いてしまう。

病院・病室。
「渉!」と伝六が駆けつけるが、信太から
「刺されたのはわき腹で急所を外れている」と聞き、お礼を述べ
「何やってるんだ、あの世に行っちまったらな
 今度こそ帰って来れなくなっちまうんだぞ…」と渉に話かける。
あかりが来る。「大丈夫だ」と信太が言う。

小森屋。「ただいま」浩平が帰ってくる。
「研究所の者に誘われて遅くなりました」
友行が「一杯、飲もうか?」と誘うが「今日は・・」と断り千晶を部屋に呼ぶ。

「渉君がナイフで刺された」
「なんですって」
「刺されたのはわき腹だが傷はそれほどでもない。 タカシマの藤森病院だ。
 博打の金のことでもめたらしい。
 偶然居合わせた花山君と病院へ運んだんだ。
 病院へ運ぶ途中、途中、彼がお前の名前を二度呼んだ。
 刺されたショックと痛みで朦朧となりながら、2回ね。
 今お前達がどうなってるのか聞かせてほしい。言えないのか?」
「言います。 田上君私を好きだって言ったわ。
 アメリカに行ってそれに気づいたって。
 あたしに会うために帰ってきたって」
「それから?」
「それだけ」
「それでどうなんだ? 千晶」
「そんなのどうにもならないでしょ」
「彼にそう言われてどうなんだ、正直に言ってくれ。
 結婚する時に聞いたよな、田上渉はもういいのかって。
 死んでなかったのか?終わってなかったのか?そうなんだな?」
「わからない
「…俺がここまでしてきた事は何だったんだ?
 どういう気持ちでスイス行きをやめたと思ってるんだ」
「ごめんなさい。あなた私に少し時間を下さい」
「時間? そうか、そういうことか。いいだろう。
 お前の心の中に俺以外の男がいる限り一緒に暮らせない、暮らさない。
 今夜から寮に泊まる。…俺の心の中にはお前しかいない」と言い残し、部屋を出る。 
茶の間で心配そうにしている友行の前に座る浩平。
「お義父さん、しばらく帰りません」「え、なんだって」
「千晶には何も聞かないでやって下さい。
 僕たち夫婦が立ち行くか行かないか今大事なところなんです」
友行は千晶たちの部屋へ行くが、千晶は黙って出て行く。

渉が運ばれた病院。
千晶が病室へ入ろうとすると伝六が出て来る。
「自業自得だ 倅がなに言っても相手にしないで下さいよ、ちょっと先生のとこに」
千晶が病室に入ると信太とあかりが座っている。
「驚いたよ。目の前でずぶりだ。
 俺がもっと田上に関わってりゃ良かったんだ」
「あたしがいけないのよ」と千晶。
「誰もいけなくなんかないわ。悪いのは本人だけ。
 肝心なのは、夢を持ちつづけられるかよ。
 花山くんは観光王、渉くんは映画、千晶は小森屋を、あたしは諏訪に洋装店を・・・
 皆それぞれ自分の夢に向かって生きていくの」
「本間、今日はやけに前向きだな」
「私はいつもそうです。」

あかりと千晶は廊下へ。
「主人が家を出たわ」
「どういうこと?」
「私の心の中に俺以外の男がいる限りは一緒に暮らせないって」
「千晶、止めなかったの?」
「こんな気持ちじゃ止められなかった」
「どんな気持ちよ?」
「主人の言うとおり、私の心の中で田上君は終わってないものなのかもしれない」
「千晶…」  

「田上が目を覚ました」と信太が病室から出てくる。

(つづく)

『かりん』(136) ★渉、刺される

2006-03-15 04:42:22 | ’05(本’93) 50 『かりん』
【136】 3月15日(水)

小森千晶   細川直美
小森浩平   榎木孝明
本間あかり  つみきみほ
花山信太   林 泰文
川原清三   河西健司
本間久美子  麻生侑里
藤野忠男   大河内 浩(あかりの見合い相手)
英        出雲崎 良(小森屋従業員)
蒔田      茂木和範(小森屋従業員)
雅       渡辺高志(小森屋従業員)
上司      小倉雄三(ペガサス時計の浩平の上司)
横井      藤森一朗(小森屋従業員)
中田      中田 浄(小森屋従業員)
おかみ     花 悠子
信太のいとこ  佐藤信一郎 

        鳳プロ

チンピラたち  志賀実  
         三上壱郎  
         伊東孝太郎
         上戸章  
小森弥之助  小林桂樹
本間洋一郎  笹野高史
本間二郎   三波豊和
田上 渉    筒井道隆
小森友行   石坂浩二

・‥…━━━★・‥…━━━★・‥…━━━★

都座・映写室裏の部屋

「アメリカがだめなら日本がある、いつかいつか必ず映画を作る、あたしじゃダメ?
 あたしを千晶だと思いなさいよ」
「何、言い出すんだよ」
「アメリカ行く前はあたしを好きだったんだから」
「そんなに小森が大切なのか? あいつを守るために防波堤になるのか?
 いい友達を持ったよな」 渉は本気にしない
「そうよ、がまんしなさいって言ってんのよ」

「お母さん」と和則が入ってくる
「映画終わった? じゃ、帰りましょう。渉君考えておいてね」


小森屋

千晶は帳簿をつけながら、渉の言った「俺は死んだんだ」を思い出している
「千晶」と友行が呼びに来て、研究室で壷詰めのかわりになる方法を試行している。
友行が説明しても、千晶は上の空で
「聞いているのか?」と、言われてしまう

「浩平君のことか? まさか渉くんのことじゃないだろうね」
「お父さん!」
「好きだった人が突然帰ってきたんだ、それは普通ではいられないだろう
 しかし、過去は過去だ。 大切なのは今だ。わかるよな」

湖水館

あかりが和則を連れて帰ると、二郎が「藤野さんが見えてる」という
藤野はどうしてもあかりのことを諦められない、ヘビ年なのでしつこいと言う
しかしあかりは、
「あありがたいけれど、お断りするしかない、好きな人がいる、その人と結婚する」
と答える。
藤野は泣きながら帰る。

洋一郎、二郎、久美子が「誰なんだ」「相手はどなた?」と問い詰めても
「これから先は、久美子さん、このことにいっさい立ち入らないで下さい」
「お父さんもお兄さんも立ち入らないで!」と言う。


小森屋

工場での研究は続き、弥之助が様子を見に来る
「千晶のダンナはどうした」
「お義父さん、浩平君はそうそう早びきはできないですよ」とフォロー。


飲み屋

浩平は、上司と飲みに来ている
「グーデンドルフから連絡があって、いつ来るのかと問い合わせがあったそうだ」
「まだ断ってくださっていないんですか?」
「どうなんだ、どうしても気持ちはかわらないのか?」

そこに信太が、イトコと一緒に入ってくる

そして奥の座敷の方から、チンピラたちが乱闘しながら出てくる
「田上!」 信太が驚く
「危ない!」と言った時には、渉はチンピラの一人にナイフで刺されてしまう!

・:*:・・:*:・♪・:*:・・:*:・♪・:*:・:♪・:*:・・:*:・♪・:*:・・:*:・

カナディアン・アコーデオン   

     森のあいだを曲線の道が静かにのびていく
     深いブルーに沈み込んだ湖
     無数に舞い散る粉雪が風を形にして見せる
     冬の景色に流れそうなたそがれ
     君が誰だか知らないけれど
     僕は何にも言わないけれど
     恋の言葉は異国の響き ささやき
     冬を奏でる カナディアン アコーデオン     


『かりん』(135) ★「あたしを千晶と思いなさいよ」

2006-03-14 04:39:52 | ’05(本’93) 50 『かりん』
【135】 3月14日(火)

小森千晶   細川直美
本間あかり  つみきみほ
花山信太   林 泰文
宮下みつ   貴島サリオ
本間和則   蓮池貴人

       鳳プロ

田上 渉   筒井道隆

・‥…━━━★・‥…━━━★・‥…━━━★

湖水館。あかりの部屋。

千晶が来たのを喜び「おばちゃん、一緒に遊ぼうよ」と和則。
和則は映画を見てきてもいいかと聞き、あかりは1人で行っちゃダメだと言う。
「和則、どういうわけか、映画が好きでね。 ‥それで?」
「田上君、昨日会ったのよ。待っててそしてかりんの実をあたしだって齧るのよ
 あたし、どうしたらいい?」
「言ったでしょ? 何もできない、一人で立ち直るしかないって。
 千晶に何ができるのよ」
「わからないから聞いてるんじゃない‥‥」

「田上君諏訪に帰るって言った事があったの。18歳だったわ。
 その時私、反対したのよ。 向いてる方角が違うんじゃないの、
 一度はハリウッドに行かなくちゃって。私にも責任あるのよ」
「だとしても何だっていうの? 本人の責任よ」
「あかりはそうして冷たいの?」
「あたしは冷たい女です。   千晶は話をすりかえているわ。
 それと千晶を好きだって事と別よ。
 そんなわかり切ってる事をどうして私に聞くのよ。
 渉君を受け入れる? 浩平さんと別れて?
 それともせめて一晩限り渉君の思いを遂げさせてあげる? できる?」
「あかり!」
「千晶、あなた今旦那さんとうまく行ってないんじゃない?
 その分、渉君に行ってるのよ、あたしは黙って見てる。好きにしなさい」
「あかり、あなたはいつか言ったわ。
 傷つくことなんか怖くない、 傷つくことが怖くて人を愛せないって」
「だから? 誰の事思ってそう言ってるの? 浩平さん? 渉君?
 今でもそう思ってるわ。でもね、私とあなたは違うの。違うのよ。
 千晶はいつも周りのことを先に考える。私、あなたのそういう所大好きよ。
 自分を一番大切にして。それでどうするか決めなさい。
 いいわね?わかったわね?  じゃ、今言ったこと繰り返してみて」
「自分を一番大事にする‥」

小森屋。千晶が帰宅すると、家の前で信太とみつが話をしている。
「あ、お嬢さん、お帰りなさい」「ただいま」
「や! 松本のしめじをもらったんでおすそ分けにね」
「お嬢さん、どちらへ?」 「ちょっと湖水館にね」
「本間のところか。
 あいつ、殊勝に仲居さんなんかやって変われば変われるもんだな。
 母は強し、か」
台所。
「みっちゃん、花山君と随分楽しそうだったわ。笑顔が眩しいくらい輝いてた。
 羨ましかったわ。私にも少し分けてほしい位に。
 ねえみっちゃん、花山君のこと好きなの?」
「いえ、とんでもないです! 信太さんは・・社長さんは・・・」
走って逃げてしまう。

都座・客席。あかりがくる。
渉と和則は肩を組んで楽しそうに映画を見ている。
和則を客席に残して、映写室裏の部屋に上がるあかりと渉。
「まだ拗ねてるの? 次の目標見つからない?」
「ほっといてくれって言っただろ」
「あたしはやっぱり映画しかないと思うわ。渉君から映画を取ったら何も残らない。
 さっきだって和則とあんなに生き生きと見てたじゃない。
 映画はハリウッドだけじゃないわ。 日本でも」
「東京へ行くなと言ったのはお前じゃないか」
「諏訪で映画館のオヤジをしながらお金を貯めて、映画をつくる、
 プロデューサーになる…あなたの人生はそれやらなきゃ終われないのよ。
 私で出来ることがあったら何でもやってあげるから」
「本間…」
「私じゃ駄目?  私を千晶だと思いなさいよ」

(つづく)

■『かりん』 第24週 (134) ★「これはお前だ」とかりんを齧る渉

2006-03-13 22:15:23 | ’05(本’93) 50 『かりん』
【134】 3月13日(月) ★「これはお前だ」とかりんを齧る渉

作    松原敏春
音楽  渡辺俊幸 コンセール・レニエ(演奏)
主題歌 井上陽水
語り   松平定知アナウンサー 


時代考証 小野一成
方言指導 有賀ひろみ
所作指導 林 邦史郎 



小森千晶   細川直美
小森浩平   榎木孝明
本間あかり  つみきみほ
田上 渉   筒井道隆
宮下みつ   貴島サリオ
川原清三   河西健司
英        出雲崎 良(小森屋従業員)
蒔田      茂木和範(小森屋従業員)
雅       渡辺高志(小森屋従業員)
本間和則   蓮池貴人
横井      藤森一朗(小森屋従業員)
中田      中田 浄(小森屋従業員)
小森弥之助  小林桂樹
小森晶乃   岸田今日子
小森友行   石坂浩二


制作統括  西村与志木

美術    山内幹浩
技術    横山隆一
音響効果 石川恭男
記録編集 阿部 格
撮影    石川一彦
照明    田中弘信
音声    大塚豊
映像技術 菊地正佳

演出    田中賢二 


解説(副音声) 関根信昭


・‥…━━━★・‥…━━━★・‥…━━━★

お稲荷さん前の道、渉が立っている。

「(ちょっと困ったように)どうしたの?ここで何してるの?
 ひょっとして私を待ってたの?(渉、近づいてくる)
 どうしてよ? 手紙読んだでしょ? 
 今ごろそんなの困るだけだもの。
 どうにもならないことぐらいあなたが一番わかってるはずじゃないですか」
渉は手に持っていたかりんの実を差し出す。
「かりんの実がどうしたの」
「これは 小森、お前だ。」
言ったかと思うと、両手で大事そうに持ち千晶を見たまま、カリッカリッと齧る。
「何するの? やめて」 かりんの実が落ちる。
千晶が拾おうとすると、「拾うな!」と渉が拾い、
大切そうに実に付いた泥を落とす。
「どうして? (アメリカに立つ前日の見送りはいらない・・の回想)
 あの時、アメリカへ行った昭和25年2月10日のあの時、
 せめて一言待っててくれって言ってくれなかったのよ。
 待っててくれ、それだけで良かったのに。 
 そしたら私、三年でも五年でも十年でも待ってたわ。
 帰ってこなくても待つことだけを心の支えにして生きていくことができたのに。
 あなたは私の中で死んだ人なの。 死んだ人が帰ってこないで
 今更好きだなんて言わないで」
「小森、そうだよ。俺は死んだんだよ。今までの俺じゃない。生まれ変わったんだ。
 そう思ってくれよ、な。」

小森屋。千晶が帰宅する。小森味噌の看板が風に揺れている。
「お嬢さんお帰りなさい。ご主人様もお帰りになってますよ」
仕事場で浩平が働いている。
「どうして今日はこんなに早いの?」
「研究所なんて時間はどうにでもなるんだよ」
「やめて、やめてください!」
「どうしてだ」
千晶はその場を去る、友行が浩平を「ちょっといいかな」と呼ぶ。
部屋に帰った千晶は、かりんの実を胸に抱き、
渉の言葉「これはお前だ」を思い出している。

友行の研究室。
「夫婦のことに口をだすつもりはないけど、今度のことは小森の家に関係する。
 僕も外からこの家に入った人間だ。
 君の立場や気持ちは誰よりもわかるつもりだ。
 作っているものこそ違え、研究に研究を重ね、いいものをつくる、それは
 お義父さんも君も同じだ。いつか分かり合える。
 だから今はね、夫婦のことをね、浩平君。
 千晶も君を思えばこそだ、お互いがお互いを思ってこその溝は難しいが
 その辺をよろしく頼むよ」

茶の間、夕食。
「はーい、ご苦労さん。身体を動かすと飯がうまい」
「浩平さん、早引けして手伝いなんて何かあるんじゃないの?」と晶乃
「千晶、浩平さん腹ペコなんだ、早くしてやれ。はい! いただきまあす」
弥之助の声は弾む。

夫婦の部屋。
「千晶、俺が早引けして仕事を手伝ったのがそんなに気に入らないのか?」
「ごめんなさい」
「何かあったのか?」
「ごめんなさいって謝ってるじゃないですか!」
「変だよ。いつものお前じゃない」

都座。酒を前に物思う渉。散らかった床。

翌朝、庭のかりんの木を見上げ乍ら、渉が実をかりかり齧る音を思い出す千晶。
風が吹く。

湖水館。 千晶が突然来る。
「どうしたの。 どうしたのよ?」
「あかり…」
「えっ?」
「あかり!あたし、もう田上君のことほっとけない!」と抱きつく。
「千晶・・」
「ほっとけない・・・」

(つづく)

『かりん』(133)

2006-03-11 23:52:42 | ’05(本’93) 50 『かりん』
【133】 3月11日(土)

小森千晶   細川直美
小森浩平   榎木孝明
本間あかり  つみきみほ
田上 渉   筒井道隆
小森弥之助  小林桂樹
川原清三   河西健司
英        出雲崎 良(小森屋従業員)
蒔田      茂木和範(小森屋従業員)
雅       渡辺高志(小森屋従業員)
本間和則   蓮池貴人
横井      藤森一朗(小森屋従業員)
中田      中田 浄(小森屋従業員)
小森晶乃   岸田今日子
小森友行   石坂浩二

・‥…━━━★・‥…━━━★・‥…━━━★

小森家の玄関の電気が消える。

(その夜浩平が帰ってきたのは十時近くになってからでした。)  ナレーション

友行が茶の間でじっと一人座っている。

千晶と浩平の部屋。浩平が着替えながらの会話。
「あなた お願いです。スイス行ってください。
 小森屋を建て直して追いかけますから」
 私、夫婦が試されているような気がするの。
 お互いの生き方を全うして行くって結婚したんじゃない。
 大切なことで我慢しないでほしいの。
 ホントは行きたいんでしょ?」
「もういい、我慢してない、風呂だ」
「あたしには言わないで祥子さんには言うの? 
 祥子さん、電話で今からあなたが来る、一晩お預かりしますって言ったのよ」
「疑ってるのか!(少し声を荒げる)
 何もできることはないからと話も聞いていなかったが
 東京の問屋が2軒離れたと聞いて、
 何か出来る事がないかと、卸高を増やしてくれないかと頼みに行ったんだ。
 そしたら忠治さんと話はできていると言う。それも聞いてなかったからね。
 お前に 疚しい気持ちはちっともない」
「祥子さん、諏訪に来てるわ。スイスに行かせてやってって」
「さっきまで一緒だった。研究所に電話してきてね。
 君に会ったことは一言も言わなかった。 
 でも、もう会うこともないし、これからも会うつもりもないとはっきり言った。
 東京で祥子に会ったのが軽率だったら謝るよ、悪かった」

だんだん声が大きくなってくるふたり。
「千晶、お前は俺が別れてくれって言えば別れるのか?」
「あなたの為に・・」
「それぐらいにしか思ってくれてないのか? 夫婦はそんなに簡単なのか」
「簡単なんかじゃないわよ」
「俺は万一お前が別れてくれって言っても別れないぞ」
「あたしがそんなこと言うわけないでしょ」
「別れたくないから一緒に暮らしたいから、今度のことを断ったんじゃないか」
「あなたが言ったんじゃありませんか(涙ぐんで)」
「何を?」
「あたしたちの結婚はまちがっていたのかもしれないって・・
 あなたが祥子さんに言うから…」
「(ちょっと気まずそうに)飲んでたから・・酔ってた、気が滅入っていた
 すぐ打ち消した いい加減にしろ!」

「ちょっといいかな?」と、友行の声。
「声が聞こえたもんでね。言い争いはいけない」
「千晶、ちょっと」と連れて行く。

湖水館。あかりは和則を寝かしつけて、ミシンを踏む。

「千晶、浩平君を怒らしちゃダメだよ。
 男が一旦決めた事はそう簡単に変えられない。
 冷静に、粘り強く 説得するんだ、な、千晶」
「でも、その間に他の人が行くことになったら・・・」
「それは大丈夫だよ。 スイスの所長さん気に入ってくださってるんだろ?
 粘り強くだ」
「はい」

浩平が先に寝ている横で、千晶が鏡台の前に座る。

翌朝。
蔵の作業場に浩平が現れ張り切って手伝いをする。
朝食。
弥之助「はっはっは、蔵や作業場で働いてるとな、
    だんだん自然天然に味噌が馴染んでくる、毛穴にしみてくる
    な、清さん」
清 三「へぇ、おっしゃる通りでして」
弥之助「次には、味噌が身体を呼ぶようになる。
    おうい、こっちだよ、こちだよーってな。 な、清さん」
清 三「へぇ。いやまだそこまでは・・」
笑う一同だが、千晶の表情は硬い。

千晶は、部屋で浩平の腕時計を眺め、耳にもっていく。音を聞くが、下におろす。
蔵にもいってみる。
浩平の「いい加減にしろ!」「そんなにお前は俺を信じられないのか?」
という声が脳裏に浮かぶ。

千晶が買い物に出かけると、お稲荷さんのところでまたしても渉が待ち伏せ。
切なそうに苦しそうに千晶を見る。
汽笛が聞こえる。

(つづく)

『かりん』(132) ★原口祥子、諏訪に来る

2006-03-10 23:48:45 | ’05(本’93) 50 『かりん』
【132】 3月10日(金)

小森千晶   細川直美
本間あかり  つみきみほ
田上 渉   筒井道隆
原口祥子   あめくみちこ
宮下みつ   貴島サリオ
本間二郎   三波豊和
本間久美子  麻生侑里
本間和則   蓮池貴人
内海      篠田薫(内海醸造・ツルヤに吸収)前回は【12】10月15日
金本謙太郎  網野あきら(味噌組合)前回は 【102】 2月3日
鶴本哲夫   矢崎滋
小森浩平   榎木孝明

・‥…━━━★・‥…━━━★・‥…━━━★

(千晶が湖水館にやって来ました。 原口祥子に会うためです) とナレーション

千晶が来たことを驚くあかり。
「千晶・・ あの人が呼び出したの? 一体何考えてるんだろう。
 東京で浩平さんに会ったって言ってたわ」
「聞いたわ、主人の方から連絡したらしいの」
「確かめた?」 ううん・・と首を振る千晶。
「じゃあ、つくり話かもねー。 白樺の間よ、こっち」
客室。
「いつも小森屋の味噌をありがとうございます。
 また、この度は卸し高を増やして下さって本当に感謝してます」
「仕事の話はいいわ、そのために来たんじゃないの」
お茶をいれていたあかりは、部屋を出るが廊下で立ち聞きする。
「浩平、スイスに行かせてやってよ。
 そして千晶さんは小森屋を捨ててでも浩平について行くべき。
 夫の夢を壊すようなこと、しないで。 
 私は浩平をあなたに譲った女よ、その位言う権利があるわ」
「私は行って欲しいと言いました」
「小森屋を捨てて?」
「一緒に行くことと、小森屋を捨てることは別です」
「ほら、できないでしょ? 出来っこないから断ったのよ。
 浩平、行きたいって はっきり言ったの」
「あなたに?」
「そう。本当に愛しているなら、あの人をあなたから解放してやることね。
 離婚するってコト。身動きのとれない心のかせになってるのよ。
 浩平、私にこうも言ってたわ。
 俺と千晶の結婚は間違ってたのかもしれないって」

都座。
ふらりと一人で映画を見に来た和則(笛吹童子の歌が聞こえてくる)

湖水館。
祥子は赤いコートを着て「散歩に」と出かける。

小森屋。
千晶が考えながら帰ってくると、和則がやってきて言う。
「映画のおじちゃんがね、僕におばちゃんを連れて来てって」

再び都座。
和則は、一人で戻り、渉に千晶からの手紙を渡す。
   [私を呼び出すのに何故こんな小さな子を使うんですか。
    和ちゃんに恥ずかしくないんですか。
    もう何も聞きたくないし、何も話したくない]

小森屋の庭
千晶は木箱に座り、かりんの気を見ている。
かりんの実はなく、紅くなった葉が1.2枚ついているのみ。

湖水館。
「和則、見なかった? あたしちょっとさがしてくる」と玄関を出たところに、
渉が和則を連れて来る。
「駄目じゃないの、一人で出かけちゃ」
「今度からお母さんに言ってから来るんだぞ」
「うん、笛吹き童子面白かったよ。
 ひゃらーりひゃらりこ、ひゃりーこひゃられろ(手をひらひらさせながら歌う)
(帰る渉に)ばいばーい」

いつもの飲み屋。浩平と祥子がカウンターにいる。
(ラジオから何か歌が流れている。藤山一朗の声なのは確かだが曲聞き取れず
「久し振りに東京で会ったじゃない?
 そしたら急に浩平の顔を見たくて来ちゃった。女心
 私って後を引くほうなのかなあ。
 もしも、よ、浩平、千晶さんと何かあったら、私のとこへいらっしゃい」
そこにツルヤの哲夫が同業の内海・金本と入ってくる。 
「外国へ行く前の命の洗濯か? 
 (両腕を胸の前で組む仕草をしながら)見て見ぬ振り、見て見ぬ振り。 
 発展家、はってんか、いや、十点、むはははは。」

小森屋、台所。
お皿を洗いながら、祥子の言葉や渉の言葉を思い出している千晶。

皿を落とす。皿の割れる音にはっとしみつはとんでくるが千晶は動かない。
涙ぐんでいる。

(つづく)

・:*:・・:*:・♪・:*:・・:*:・♪・:*:・:♪・:*:・・:*:・♪・:*:・・:*:・

カナディアン・アコーデオン   

     森のあいだを曲線の道が静かにのびていく
     深いブルーに沈み込んだ湖
     無数に舞い散る粉雪が風を形にして見せる
     冬の景色に流れそうなたそがれ
     君が誰だか知らないけれど
     僕は何にも言わないけれど
     恋の言葉は異国の響き ささやき
     冬を奏でる カナディアン アコーデオン     

 



『かりん』(131)

2006-03-09 02:02:16 | ’05(本’93) 50 『かりん』
【131】 3月9日(木)

小森千晶   細川直美
小森浩平   榎木孝明
本間あかり  つみきみほ
田上 渉   筒井道隆
小森弥之助  小林桂樹
田上伝六   不破万作
宮下みつ   貴島サリオ
原口祥子   あめくみちこ
上司     小倉雄三 ペガサス時計の浩平の上司
電話交換手  寺井くみ子(前回は 【105】 2月7日(火)
鶴本哲夫   矢崎滋
小森晶乃   岸田今日子
小森友行   石坂浩二

・‥…━━━★・‥…━━━★・‥…━━━★

「スイス行きは断ってきた。これでいい」
「待ってください、あなた!」
「初めからなかった話と思えばいいだろ? 
 明日、お義父さんたちに話す。いいな、千晶」

翌朝小森屋。茶の間。
浩平が一同にスイス行きを断ってきたことを報告する。
「浩平さん、会社を辞める件はどうなった?」
「それは、休暇を取るとか半ドンで帰るとか その時に応じてお願いします」
「じゃ千晶、交換条件はナシだ。安い味噌など造らせんぞ。
 ツルヤのビタミン味噌など論外だ」
「けっこうです」
「千晶、持ちこたえられるの?」
「お手並み拝見といくか」
朝ご飯の味噌汁をおかわりする浩平に、弥之助は
「こんなに味噌汁が好きで、何で味噌作りに専念できんかねー」と嘆く。

「あなた今夜はできるだけ早く帰って来て、お願いします。いってらっしゃいませ」
と浩平を見送るところを、渉がじっと見ている。

研究室。
白衣の友行と千晶。
「私、何としてもあの人にスイスへ行ってほしいの。
 私も後から追いかける形で行きたいの。
(祥子の消費者連合会で販売している壷を持ちながら)行く前に
 これの代わりを 考えるの。
 小森屋の味噌と工夫がお客様の頭と舌で結びつけば、
 必ずうちの味噌売れると思うんです。
 立て直しができたらスイスに行かせて。それならいいでしょ?」
事務所に信太が来る。
「小森、景気はどうだ?
 昨日、田上が来て…花札に誘われた。
 このまま放っておいたらどんどん悪いほうへ行っちゃう気がする。
 小森の言うことならあいつ少しは耳を傾けるかも知れない」
奥のほうを気にする信太に千晶は
「あっ、みっちゃん? 買い物に行ってるのよ」
信太は、小指に例の赤い紐を縛っているので
「どうしたの? その小指」と千晶は聞く。

湖水館。客室。 あかりが祥子を案内する。
「あかりさん元気そうで何より。つかの間の骨休めよ。温泉につかってのんびりするわ」
「今日ここへいらしたのはそのためだけですか?」
「東京で浩平に会ったわ。少し痩せてた。見ててなんだか痛々しかった。
 やっぱり婿養子なんかに入るもんじゃないわね」

その頃会社では浩平が上司に
「本社から電話があってびっくりしたよ、小森君。
 技術開発はわが社の社運と将来がかかっている。
 提携は名誉なこと、どうして断るんだ?まだ時間はある。考え直してくれ」
と説得されている。

ツルヤ。千晶来訪。
「ほうけえ? 小森屋じゃツルヤのビタミン味噌は作れねーとおっしゃる?
 あい、わかった。
 それじゃあ小森屋はもう駄目だねえ」
「ご迷惑はかけません。看板は守りぬきます」
「小森屋の看板は諏訪味噌業界の代名詞。看板はずされたら迷惑かかるんだなあ。
 はずすんなら今のうちよ!看板はずす時はわしが買うよ。
 頑固なだけのじーさま、人がいいだけのぼんくら当主、世間知らずのお嬢さま、
 このツルヤの哲夫にとっちゃ赤子の手を捻るより簡単なことだでね、むははははー!
 ま、首を洗って待ってるがいい。」

小森屋。電話が鳴る。千晶がとる。
「諏訪873番ですね」と電話交換手の声。
「原口祥子です。今湖水館にいるの。来られない?」

(祥子は何故諏訪に来たのかと、千晶は驚いていました。)  とナレーション

(つづく)


『かりん』(130) ★みっちゃんと花山くんの赤い糸

2006-03-08 17:54:46 | ’05(本’93) 50 『かりん』
【130】 3月8日(水)

小森千晶   細川直美
小森浩平   榎木孝明
本間あかり  つみきみほ
田上 渉   筒井道隆
花山信太   林 泰文
宮下みつ   貴島サリオ
小森弥之助  小林桂樹
本間二郎   三波豊和
川原清三   河西健司
関屋文雄   小磯勝弥(信太のところの従業員)
本間和則   蓮池貴人
英        出雲崎 良(小森屋従業員)
蒔田      茂木和範(小森屋従業員)
雅       渡辺高志(小森屋従業員)
郵便配達    森 喜行  小森屋に忠治からの小包を配達
横井      藤森一朗(小森屋従業員)
中田      中田 浄(小森屋従業員)
小森晶乃   岸田今日子
小森友行   石坂浩二

・‥…━━━★・‥…━━━★・‥…━━━★

湖水館。あかりと和則が帰ってくる。二郎が玄関にいる。
「ただいま。 和則、ただいまは?」「ただいま~」
「けえってきたのか。あかり、夕べは悪かったな。頭を下げてくれて。
 まあ他人が一人入ってきたんだ、でも湖水館には必要で、俺の大事な女房だで。
 あかり、洋装店早く持てるよう応援するからな」

小森屋。朝ごはん。
「昨日あかりさんが来て泊まっていったんですよ、和則君も一緒に」
「あらぁ」
「いっそのこと養子にもらったらどうだ」
「和則くんもすっかり、あかりさんに懐いて。
 いや実の親子で懐いてって言うのは変ですね、
 あかりさんの愛情が和則君に行ってるから・・」

(この日、東京営業所の忠治から小包が届きました。)
小包の中には祥子が生活者連合会で販売している味噌の容器が入っていた。
友行と清三に、忠治の手紙を読む千晶。
  「一般の小売店だと量り売りで、小森屋と直結しない、だからこういう方法を
   とっている。販売の手間と工夫を…」
「手間ヒマねぇ、ツボだってお金がかかる」
「樽からこのツボへの詰め替えだって手間ヒマもかかるでしょう」

そこにみつが来て
「お嬢さん、わしちょっと出かけて来ます。
 おはぎ作ったんで、信太さんのところへ少し…。
 みなさんの分は取り分けてあります」

花山タクシー。
「やあ、みっちゃん」と言う信太を見て、
いつものようににやける従業員・関屋。
「関屋、タバコ買って来い! お前の分だ」と追い出される。

「いつも悪いね。お茶入れるよ」
「あ、わしがやります。(おはぎ)おいしい? ああよかった」
「みっちゃんのつくるものは、いつもおいしいよ。
 みっちゃんをお嫁さんにする男は果報者だよ」
「わし、お嫁さんになれるずらか?」
「なれるさ。きっとなれるとも。
(おはぎを包んできた赤い糸を自分の小指に巻き乍ら)」

そこへ渉が来て、おはぎを一個食べてしまい、みつはそそくさと帰る。
「俺、すっかりみっちゃんに嫌われたらしいな」
「ああ、いい噂は聞かないな、ケンカしたチンピラと遊んでるっていうじゃないか!」
信太は、渉が博打(花札・こいこい)の儲け話を持ってきてやった、と言うのを聞き、
「断る。博打はやらない。いくら儲かったってそんなあぶく銭は身につかない。
 今お前に友達と思われたくない」と言う。

みつは帰宅して、千晶に
「田上さん来てました。またケンカしたみたいで、痣作って。
 映画祭やってくれたころはあんなにいい人だったのに」
と報告する。

湖水館。二郎があかりを呼ぶ。
「あかり、都座の渉さんだ。
 それから浩平の前の恋人の原口さん、明日の部屋の予約があった。」

「小森に伝えてくれたか?」
「伝えたわ。あなたがお父さんに殴られたことも。
 私には大切に思ってくれる主人がいるって言ってたわ」
「それだけか?」
「それだけよ。
 あなたは自分を思い続けてくれている千晶を残してアメリカへ行ったの。
 その日に千晶のお母さんが死んだわ。千晶は同時にかけがえのない二人を失ったの。
 その時そばにいたのは浩平さんだった。
 自分の気持ちの都合だけでこれ以上千晶を振り回さないで!」

(その夜遅く浩平が東京から帰って来ました。)
浩平の背広を衣紋かけにかけたり、ズボンを畳んでいると浩平が言った。
「スイス行きは断ってきた」
「何ですって?」
「はっきりと断った」

(つづく)

『かりん』(129)

2006-03-07 17:52:40 | ’05(本’93) 50 『かりん』
【129】 3月7日(火)

小森千晶   細川直美
本間あかり  つみきみほ
田上 渉   筒井道隆
田上伝六   不破万作
本間和則   蓮池貴人
小森友行   石坂浩二

・‥…━━━★・‥…━━━★・‥…━━━★

「どこ行くの?」  「千晶」
あかりと友行に挟まれて、どちらにも動けない千晶。

都座の客席。渉が座っている。入って来たのはあかりだった。
「本間…」
「いくら待っても千晶は来ないわ。
 浩平さんが今東京に行ってるのわかってて呼び出したの?
 私が行くなと止めたの、おじ様も。渉君、どうしようっていうの?
 どうしたいの?私が千晶にそのまま伝える、約束するわ。でもそれだけよ。
 聞いてあげる。言えば言うほど虚しくなるだけだけど」
「間違いだった、何もかも。アメリカへ行ってから気づいた。
 見えてなかったんだよ、この目に、この心に。あの頃の俺には。
 俺はお前が好きだった。でもお前は一度も俺の方を向いてくれなかった。
 アメリカに行ったのは、映画のプロデューサーになるためでもあったが、
 お前への思いを断ち切るためでもあった。断ち切れたよ。そう思った。
 ある時足りないものに気づいた。何だと思う? 小森の視線だよ。
 痛かった辛かった小森の思いだ。それで帰ってきた。
 会社クビになっても仕事なら何とか見つけられたさ、
 でも会いたかったんだ、小森に」

突然、伝六が入って来て、渉を殴る。
あかりは「やめて!」と止めるが、伝六は殴りながら説教する。
「あかりさん、帰ったほうがいい。
それから今の話は千晶さんに伝えないほうがいい。
 渉!てめえって奴は!このバッカヤロウが! 
 よそ様の奥様を何だと思ってるんだ!
 あかりさん、千晶さんに、こいつに二度と会わねえように言ってください。
 あかりさん、帰って下さい!早く!…ううう、馬鹿やろう…。」

その夜。 
千晶の部屋で和則を真ん中に布団を並べ、
「渉君、今行き場をなくしているだけなのよ。無理に千晶に向かおうとしてるの。
 千晶にはもっと大切な人がいるんだもの、千晶にしてあげられることはないわ」

友行は自分の部屋で晶子の遺影の写真を見ている。

「千晶、今になって好きだって言われてうれしい?」
「ううん、うれしくない。遅かったわー。遅すぎた。
 私には浩平さんがいるんだもの。大切に思ってくれる主人が
 ‥‥
 田上君がかわいそう、かわいそう」

渉は都座の舞台の上に横になっていた。時計は11時40分を指している。

翌朝。千晶が目を覚ますと、あかりの布団は空だった。
庭。
「お早う。朝ごはん食べてく?」
「ううん、こう見えても私、毎朝久美子さんと食事の支度してるのよ。お味噌汁も。
 小森屋の味噌相変わらずおいしいわ。おいしいから売れるんですものね」
「そうでもないのよー」

「夕べ、家で何かあったの?」
「もういいわ。 一晩寝たらすっきりしたわ。
(かりんの木を見上げて)変わらないわねえ、このかりんの木」
「あたしたちはかわったわ。母親になったり奥さんになったり」
「ううん、変わらない。そう簡単に変わってなるものですか。
 多少迷ったりつまずいたりするけれど…。
 千晶、渉君、大丈夫よ、きっと大丈夫」

(11月の肌寒い朝でした。)

(つづく)

■『かりん』 第23週 (128) ★渉の猛アタックは続く!

2006-03-06 15:56:57 | ’05(本’93) 50 『かりん』
【128】 3月6日(月) ★渉の猛アタックは続く!

作    松原敏春
音楽  渡辺俊幸 コンセール・レニエ(演奏)
主題歌 井上陽水
語り   松平定知アナウンサー 


時代考証 小野一成
方言指導 有賀ひろみ




小森千晶   細川直美
小森浩平   榎木孝明
本間あかり  つみきみほ
田上 渉   筒井道隆
原口祥子   あめくみちこ
宮下みつ   貴島サリオ
本間洋一郎  笹野高史
本間二郎   三波豊和
本間三郎   丹羽貞仁
本間久美子  麻生侑里(あかりとは絶対に気のあわない二郎の妻)
本間和則   蓮池貴人
小森友行   石坂浩二



制作統括  西村与志木

美術    荒井 敬 
技術    三島泰明
音響効果  平塚 清
記録・編集 阿部 格   
撮影    熊木良次
照明    関 康明
音声    佐藤重雄
映像技術  沼田繁晴

演出    柴田岳志 


解説(副音声) 関根信昭

・‥…━━━★・‥…━━━★・‥…━━━★

小森屋事務室で
電話越しの「浩平、一晩お預かりします」との祥子の声を思い出す千晶、
そして「夫婦の絆…」とつぶやく。
そこに外にいた渉が入って来る。
「やあ」
「どうしたの?」
「今朝、ダンナに会ったよ。東京の本社に行くって。
 『今晩いないから、千晶誘ってやってくれ』って言ってた」
「ウソでしょ?」
「今夜、今夜九時に都座の客席で待ってる」
「行けない」
渉は、両手を千晶の肩に置いて「来るんだ」
さらに千晶の手を握って「来なきゃ駄目だ。頼む…頼む」と言う。
千晶は渉の手を離す。
そこに友行が来るが渉は「ちょうど近くを通りかかったので顔を見に」と誤魔化す。

東京。生活者連合会事務所。
「お久し振り。仕事順調? 家庭は? 子どもまだなの? だらしないのね」
「結婚しないのか?」
「したわ。この生活者連合会とね。仕事があたしの夫」
「祥子なら(仕事)間違いないと思ってたよ。ところで頼みがあって来た。
 小森屋の味噌、扱いを増やしてくれないか?
 問屋離れが進んでいてね。
 千晶は俺に心配かけたくないという配慮で話してくれないんだが」
「話があるっていうからもっと色っぽい話だと思ってたのにがっかり。
 黒田さんがこの前来て、5割増しってことになってるわ。
 千晶さん喜ばせるためにこんな女に下げたくない頭を下げに来たのに、残念でした。
 久しぶりなんだから今夜はゆっくり飲みましょうよ…」

「…スイスへ? すごいじゃないのー。おめでとう! まさか行かないって言うの?」
「今の小森屋の状態じゃ無理だ。
 おじい様は会社をやめて小森屋の仕事に専念しろとおっしゃる」
「バカバカしい! 一人で行けばいいのよ。
 今目の前に大きくぶら下がっているというのに。馬鹿馬鹿しい」
「参ったよ、ああ参った」
「行きたいの? 行きたくないの? どっち?」
「行きたいよ」
「だったら行くしかないじゃないの。そうでしょ?」

湖水館。夕食。
久美子が、断るのが早すぎて顔をつぶされた、と怒っている。
「断るのは、100歩譲っても、その断り方が気に入らない。
 その日のうちに断るなんて配慮が足りない」
洋一郎が
「このとおりだで。こらえてもらえねえか。」と食卓に深々と頭を下げて
「あかり、おめえも久美子さんに謝れ」と言う。
あかりも立ち上がり
「久美子さん、私に配慮がなくてどうも申し訳ありませんでした。
 許してください」と謝る。
その様子を和則が見ている。
部屋に戻ったあかりは布団を敷く。
和則は後ろからあかりに抱きつき
「どうしたの? お母ちゃん泣きそう」と言う。
「和則、千晶おばちゃんに会いたくない? 今夜一晩泊めてもらおうか?」


小森屋。
千晶は渉に握られた手の感触を思い出し考え、コートを羽織って家を出る。
向こうから和則の手を引いてあかりがやってくる。
「どこへ行くの?」とあかり。
友行も玄関から出て来て「千晶」と呼ぶ。

小森屋前の路地で、あかりと友行に挟まれて、どちらにも動けない千晶。

(つづく)


『かりん』(127)

2006-03-04 22:29:22 | ’05(本’93) 50 『かりん』
【127】 3月4日(土)

小森千晶   細川直美
小森浩平   榎木孝明
本間あかり  つみきみほ
田上 渉   筒井道隆
小森弥之助  小林桂樹
花山信太   林 泰文
宮下みつ   貴島サリオ
原口祥子   あめくみちこ
藤野忠男   大河内 浩(あかりの見合い相手)
運転手    浜田道彦(花山タクシーの運転手)
       堀田智之  花山タクシーの運転手

       鳳プロ
       劇団ひまわり
 
小森晶乃   岸田今日子
小森友行   石坂浩二

・‥…━━━★・‥…━━━★・‥…━━━★

翌朝小森屋。

「スイスへ行って下さい。 
 私も一緒について行きます。私は一年で帰ってきます。
 その一年で必ず小森屋九代目となる男の子を産んでみせます」
「晶子は草葉の陰で泣いとるゾ!」
「お母さんはわかってくれます! お父さん私のいない間何としても持ちこたえて!」
みつが「あのー朝ご飯」と声をかける
「それどこじゃねぇ!」と弥之助
「みっちゃんにあたっても仕方ないでしょう」と晶乃

「おじいさま、僕はスイスへ行きません」
「それはどうかな。浩平くん」
「友さんは黙っとれ」
「あなた 血圧が高いんだから・・・」
「今まで通り、朝の蔵の手伝いもします」
「浩平さん、スイスへ行かんというのは結構。朝の手伝い、昼もできんか?
 今の会社辞めて、だ。 丁度いい機会だ。 
 浩平さん、頼みます。小森屋のお仕事に入ってください。このとおりです」
と頭を下げる弥之助。
「汽車の時間よ」と千晶が話を中断させる。
「断らないでね。
 おじいちゃんに言ったことは忘れて、行くと返事してきて下さい」
と浩平を送り出す。

浩平が駅への道を歩いているとお稲荷さん近くに渉がいる。
「おはよう。朝早いんだな」 「どちらかへ?」
「東京の本社へ」 「ごゆっくり」


小森屋では友行と千晶が話をしている。

「千晶が一緒に行くのはまずいよ」
「お父さん、1年守りきる自信ないの?」
「千晶、冷静さが足りないよ」
「だって、オレを一人で行かせるのか? ってあの人・・・」
「落ち着くんだよ。そこを説得するのが妻のつとめ、小森屋の娘のつとめだ。
 な、千晶、浩平君だって内心行きたいに違いないんだ。
 まず、小森屋の屋台骨をしっかり立て直して、それから行っても遅くない」
「でもおじいちゃん、スイスに行ったら離縁だって」
「千晶。
 新憲法では本人の合意のみで結婚は成立する。離婚も同じだ。
 親でさえ引き裂くことは出来ないんだ。夫婦の絆さえ強ければね」
「夫婦の絆・・・」 反芻する千晶。

花山タクシー。
みつがおやきをもってやってくる。
「おやきこさえたんです。食べて下さい」
「みっちゃん、こないだごめんな」
「信太さんあんな人とつきあわんほうがいい。
 なんというか、朱に交わると赤くなるっちゅうか
 信太さん、そうして」

湖水館。
昨日の見合いの相手・藤野が来る。
仲人から断りの返事をもらったが、あかりから直接返事を聞きたい、と言う。
「返事なら父が」とあかりが答えると
「そりゃないよ。溝を埋めあおう。お互いの傷をなめ合おう」と藤野。
いやな顔をするあかり。

小森屋。
事務室の電話が鳴り、千晶がとる。
「 諏訪873番ですね? 東京からお電話です」
「誰だかわかる? あたしよ、祥子。
 さっき浩平から電話があってね、話があるらしいの、もうすぐ浩平ここへ来るの。
 浩平、一晩お預かりします。」
電話を切る千晶を、ガラス戸の外から見つめる渉。

 
祥子が電話を切った東京。ドアをノックする音。
「いらっしゃい。」 浩平が立っている。


(つづく)

・:*:・・:*:・♪・:*:・・:*:・♪・:*:・:♪・:*:・・:*:・♪・:*:・・:*:・

カナディアン・アコーデオン   

     森のあいだを曲線の道が静かにのびていく
     深いブルーに沈み込んだ湖
     無数に舞い散る粉雪が風を形にして見せる
     冬の景色に流れそうなたそがれ
     君が誰だか知らないけれど
     僕は何にも言わないけれど
     恋の言葉は異国の響き ささやき
     冬を奏でる カナディアン アコーデオン     

『かりん』(126) ★スイス転勤とあかりの見合い

2006-03-03 22:25:52 | ’05(本’93) 50 『かりん』
【126】 3月3日(金)

小森千晶   細川直美
小森浩平   榎木孝明
本間あかり  つみきみほ
田上 渉   筒井道隆
小森弥之助  小林桂樹
本間二郎   三波豊和
川原清三   河西健司
本間久美子  麻生侑里(あかりとは絶対に気のあわない二郎の妻)
藤野忠男   大河内 浩  あかりの見合い相手
英        出雲崎 良(小森屋従業員)
蒔田      茂木和範(小森屋従業員)
雅       渡辺高志(小森屋従業員)
本間和則   蓮池貴人
横井      藤森一朗(小森屋従業員)
中田      中田 浄(小森屋従業員)
藤野淳司    辻 治樹   見合い相手の長男
藤野泰将    岸本海人   見合い相手の二男
藤野幸男    吉岡実由樹  見合い相手の三男

小森晶乃   岸田今日子
小森友行   石坂浩二

・‥…━━━★・‥…━━━★・‥…━━━★

浩平が帰宅し、お風呂もいい、ご飯もいらないと言う。

「ああ疲れた。渉君いたよ。門の前に立ってた。この前も来てたな。
 その時はだいぶ酔ってた様で、君に助けてくれーって言ってた。聞こえなかったか」
「聞こえたわ」
「度々来るんだから、何か困ってるんじゃないかな。 過去は過去、今は今。
 力づけてやればいいじゃないか」
「いいの。私に力づけられることなんか何もないわ。その話はもういいわ」
「そうかわかった」
「あなた一つ聞いていい? スイスへ転勤って話、ほんと? 
 (浩平の表情を見て)ほんとなのね? いつ出た話なの」
「渉君が来た日だ」
「どうして言ってくれなかったの」
「断ればいいと思ってね。
 この前の問屋さんの招待会の時、ブロッケン社研究所のグーデンドルフ所長が
 オレの技術をかってくれてね。
 所長の進言で技術提携するのにオレを推薦してくれた。でも断わるつもりだよ」
「どうして断るの」
「行けっこないじゃないか。俺一人で行けと言うのか?
 4、5年、いやもっとかかるかもしれない。
 そんな長い間夫婦が離れ離れになっていいのか?そんなもの、夫婦といえない。
 近く東京に行って断ってくる」

(あくる日も浩平は味噌造りを手伝う。)

茶の間。
「それで(転勤を)どうするんだ」
「断ると言っています」
「断るも断らねえもムコさんは会社辞めるんだしな
 でーんと家業の真ん中に立ってなけりゃならん」
「でも私は行くように勧めます。スイスで世界一進んだ研究に携われるなんて」
「世迷言、言うな!。友さん、何とか言わんかい」
「浩平君のこれまでの研究、これからの事を考えると、
 私は朗報以外の何ものでもないと…」
「もういい! 
「千晶、まさかあなたもスイスへ?」
「私は行かないわ」
「小森屋はどうなるの」
「どうしても行くって言うんなら、お前と離縁して行ってもらうんだな。」

(あかりの見合いが行われたのは翌日のことです)
見合いの席、自己紹介と子どもの紹介をし、相手(藤野)が、
「早稲田の国文で、山東京伝を追っかけてました」と言うが、あかりは
「私は早稲田と言っても中退ですから、それも1年で」とやり返す。
藤野はそれは知らされていなかったらしいが、それでもいい・・という様子。
睨み合っていた子どもたちだったが、長男・ジュンジの合図で次男のヤスマサが
席を立ち、向かいがわの和則の頭をポカリとゲンコツで叩き、ケンカになる。
三男のサチオも参戦する。

その夜、都座。
あかりが映写室裏の部屋に渉を訪ねてくる。
「こんばんは。和則、映画見たいって。よく頑張ったからご褒美よ。
 今夜は飲みに行かないの? のんだくれているらしいじゃない」
「選手交代だ。今夜はおやじが」
「花山君に聞いたわ。くだらない事わめいて。
 負け犬の甘え?それとも行き場をなくした迷い犬がどうしようもなくて拗ねてるの?
 みっともないこと、およしなさい」
「俺諏訪にいるよ、小森がいる限り、諏訪から離れない」
「え?」
「俺小森に言ったんだ、やり直せるならって。
 この腕に抱きしめて離さないって」
「どうしちゃったの? 渉くん。
 今更できっこないわ。千晶は浩平さんを愛してるのよ。
 渉君、今、自分のことが嫌いでしょ。
 自分を嫌いな人間に人を好きになる資格なんてない。 ない!」


小森屋。
「明日東京の本社へ行って正式に断ってくるよ」
「断らないで。私も一緒にスイスへついて行きます」

(それは、千晶の考え抜いた結論でした。)


(つづく)




『かりん』(125) 

2006-03-02 21:57:02 | ’05(本’93) 50 『かりん』
【125】 3月2日(木)

小森千晶   細川直美
小森浩平   榎木孝明
本間あかり  つみきみほ
田上 渉   筒井道隆
花山信太   林 泰文
宮下みつ   貴島サリオ
小森弥之助  小林桂樹
原口祥子   あめくみちこ
川原清三   河西健司
本間三郎   丹羽貞仁
本間久美子  麻生侑里(あかりとは絶対に気のあわない二郎の妻)
英        出雲崎 良(小森屋従業員)
蒔田      茂木和範(小森屋従業員)
雅       渡辺高志(小森屋従業員)
本間和則   蓮池貴人
横井      藤森一朗(小森屋従業員)
中田      中田 浄(小森屋従業員)
チンピラたち  志賀実  
         三上壱郎  
         伊東孝太郎
         上戸章  
仲居      田中佳代
         萩原由美子  
女達      桂木唯  
         熊谷美香 
本間洋一郎  笹野高史
本間二郎   三波豊和
黒田忠治   佐藤B作
鶴本哲夫   矢崎 滋
小森晶乃   岸田今日子
小森友行   石坂浩二

・‥…━━━★・‥…━━━★・‥…━━━★

浩平が小森屋の仕事を手伝う日が三日ばかり続いています。
千晶はまだ弥之助に言われたことを浩平に伝えていないし、
浩平もまた千晶に言えないでいる大切な話がありました。(とナレーション)

浩平が、朝の手伝いをしている。弥之助は横目で見ながら嬉しそうにする。

湖水館。
信太が客を乗せて来て湖水館の玄関まで送ってくる。
二郎にあかりをよんでもらい、裏で渉が酔っぱらって千晶の家に行ったことを話す。
(「小森ぃ、千晶ぃ助けてくれ~」の再現をする)
「酔っ払って千晶の家へ? 二人で何やってるの。全く」
「みっちゃんに叱られたよ。 でも驚いたよ。
 オレ、わかんないんだけどさ、田上はお前が好きだったわけだろ? 
 どうして今になって何で小森なんだ?」

その頃渉は木賃宿でチンピラ達や女とバクチで遊んでいた。

東京の生活連合会。
忠治が訪問し、取り扱いを増やしてくれないかと依頼している。
祥子は「いいでしょう、うちでさばけるわ」と快諾し、
「あれ持ってきて」と事務員に指示する。
その間、ちょっと世間話をする。
「浩平、元気でした? まだ千晶さんと別れる気配ない?」 「全然」
「今ならまだ私が引き取ってあげてもいいのに」
さて、生活者連合会では
小森味噌用の容器とラベルを貼って詰めかえて売っているのだと説明し
「小森屋の味噌は味でもっている。安くてまずい味噌を売るより、 
 売り方の工夫と手間を惜しまない様に一工夫する方がいいと千晶さんに伝えて」
と言う。
「一工夫・・・」と忠治。


夜、湖水館。
和則は、宿泊客たちとテレビのプロレスを見ている。
久美子の実家から、あかりの見合い話が持ってこられているが、その気はないあかり。
相手は、35歳で高校の国語教師、子どもが3人いるのが難だが、
久美子の顔を立てるためにも、会うだけでいいから・・と説得されている。
「実家の紹介ったって、どうせ久美子さんの差し金、
 私が煙たくて追い出したい一心なのよ」
しかし洋一郎は
「あかり、会うだけ会え。ほんでもって断れ。少しは二郎の立場も考えないと。
 お前が今家にいるという立場もな。」
と言う。

小森屋。
今晩も浩平の帰宅が遅い。
ツルヤの哲夫がやってくる。「ごめん。お願いの儀があって」
「手短に」と弥之助
「こちらでうちの安い原料を使ってビタミン味噌を作ってもらえませんか?
 飛ぶように売れて生産が追いつかないんで。
 …武士の情け、いろいろとお困りのようだし。
 小森屋さんがつぶれるようなことがあっちゃいかんから・・・」 
「縁起でもねぇ、断る!」
「この際見えも外聞も捨てることが生き残る道じゃないですか?
 ほんじゃまた来ます」と帰りかけて
「千晶さん、ご主人、また出世だねぇ
 スイスへご転勤とは、夢のような話だ」
「何ですって?」と驚くみな。

夜道、浩平が帰ってくると、家の前に渉が立っている。渉は、浩平を見て立ち去る。

浩平のスイス転勤という降って湧いたような話に千晶の心は動揺していました。
とナレーション

(つづく)

【写真】本間二郎役・三波豊和さんのHPより

http://www.toyokazu.net/html/sakuhin/nhk_karin.htm 

『かりん』(124)

2006-03-01 02:56:56 | ’05(本’93) 50 『かりん』
【124】 3月1日(水)

小森千晶   細川直美
小森浩平   榎木孝明
田上 渉   筒井道隆
小森弥之助  小林桂樹
田上伝六   不破万作
花山信太   林 泰文
宮下みつ   貴島サリオ
川原清三   河西健司
関屋文雄   小磯勝弥(信太のところの従業員)
英       出雲崎 良(小森屋従業員)
蒔田     茂木和範(小森屋従業員)
雅      渡辺高志(小森屋従業員)
中田     中田 浄(小森屋従業員)
横井     藤森一朗(小森屋従業員)
運転手    浜田道彦(信太のところの運転手)
   
       鳳プロ

黒田忠治   佐藤B作
小森晶乃   岸田今日子
小森友行   石坂浩二

・‥…━━━★・‥…━━━★・‥…━━━★

「どうしてよ?あなた」と言う千晶をよそに、
浩平は「僕、何やればいいでしょうか、言ってください」
「朝メシ前のラジオ体操ぐらいに軽く考えてもらっちゃ困るなー」と弥之助は出て行くが
清三に、じゃあ・・とスコップを渡され手伝う浩平の姿を、陰から見ている。

茶の間
「浩平さんが、自分から手伝うって言ってるんなら
 千晶が無理に止めることはないんじゃない?
 おじいちゃん、満更でもなかった様ね。鼻の辺りぴくぴくさせて。
 夕べのどじょうすくいも嬉しかったに違いないわ」
「でも無理なことは続かないもの、初めからしないほうが」
「三日でも四日でもいいのよ。そういう気持ちがおじいちゃん嬉しいんだから
 千晶は見てればいいの」

小森屋事務室、11月1日と書かれた黒板。
忠治がそろそろ東京に戻ると言う。
「安い味噌造りを大旦那に承諾してもらえるよう説得して下さい」と念を押す。
「東京の残った問屋は任せてください。
 それから原口さんの生活連合会、伸びて来てるんですよ。
 問屋の抜けた分、連合会にお願いしようと思いますが、よろしいですか?」
浩平をめぐってのことを忠治は心配したのだったが、
千晶は、「仕事と惚れたはれたは別って言ってくださったもの」と言う。

(こうして忠治は東京へ帰って行きました。)

花山タクシー。
渉が現れる。忙しそうにしているのを見ながらゴロツキ風に言う。
「花山、俺が手伝ってやろうか?タクシー転がしてやってもいいんだぜ。
 おう、今夜飲もうぜ。小森も誘えよ」

渉が煙草を吸いながら都座に帰ってくると伝六が言う。
「渉、ぶらぶらするのも酒飲むのもいいが、東京にはいかせねからな。
 映画館のオヤジがいやならそれでもいい、だけど先のこと考えないとな。
 真剣に。自分の人生なんだ、いっぺんこっきりのな」

小森屋。

千晶が弥之助を説得している。
「おじいちゃんが書初めに書いた小森家千年が危ないのよ。今のままだと風前の灯火」
「これからわしがいうことをお前ができたら言うとおりにしよう。
 交換条件だ
 婿さん会社を辞めさせるんだ。小森屋の婿は小森屋の家業を継ぐんだ。
 これだけは譲れん、それが小森家千年につながる」

夜。いつもの飲み屋。
渉が信太にからむ
「社長、(小指をたてて)コレはいないのかよコレは?」
「今のところは」
「諏訪の観光王は、早く所帯張らねえととカッコつかないぜ。
 ひょっとしてまだ小森に気があるんじゃないのか?」
「それはない!  絶対ない!
 結婚した女に綿綿と思いをかけるほど、未練がましい男じゃない」
「しかしだらしねーよな、目の前で他のオトコによ、
 力づくで奪っちまえばよかったのに」

千晶がアイロンをかけながら浩平の帰りを待っていると、外から大声が聞こえる。
渉だ、信太は困っている。
「おーい!小森い!出て来ーい!
 田上渉と花山信太が若奥様の顔を見に来てやったぞー。
 折角誘ってやったのによお、お前はそんなに冷たい女だったのかあ?
 俺を好きだったんじゃねえのかあ?こもりー!ちあきー!
(座り込んで)俺を助けてくれよォ…。」

玄関がガラっと開いて、みつが言う
「いい加減にしなさい!今何時だと思ってるんですか?
 帰ってください!
 信太さんがついていながらなんですか!」
「みっちゃん、ごめん。」

その様子を会社帰りの浩平が物陰から見ていた。
千晶はまたカーテンの内側で様子を窺っていた。

(つづく)

『かりん』(123)

2006-02-28 23:59:50 | ’05(本’93) 50 『かりん』
【123】 2月28日(火)

小森千晶   細川直美
小森浩平   榎木孝明
本間あかり  つみきみほ
田上 渉   筒井道隆
宮下みつ   貴島サリオ
川原清三   河西健司
小森弥之助  小林桂樹
本間和則   蓮池貴人
英       出雲崎 良(小森屋従業員)
蒔田     茂木和範(小森屋従業員)
雅      渡辺高志(小森屋従業員)
横井     藤森一朗(小森屋従業員)
中田     中田 浄(小森屋従業員)
おかみ    花 悠子
チンピラたち 志賀実    渉とケンカしたがその後、つるんでいる
        三上壱郎     〃
        伊東孝太郎    〃
黒田忠治   佐藤B作
小森晶乃   岸田今日子
小森友行   石坂浩二

・‥…━━━★・‥…━━━★・‥…━━━★

弥之助が話し出す。
「おめえさん、ツルヤが東京の問屋さんがたにお出した土産の品について、
 千晶から聞きなすったか?」
「いえ・・」 千晶の方を見る浩平。
「聞いとらんのか。
 そのせいとは言わんが上総屋と岡田商店というところがうちから離れた」
「えっ?」 
「話とらんのか。 お前ら夫婦で何 話とんのじゃ」
「で、お土産 ペガサス時計の高級置時計でな」
「え゛っ??」
「知らん? そりゃとぼけとる」
「浩平君は主任研究員で、営業は違うんですよ、お義父さん。
 個人商店とわけが違いますから」と友行がとりなす。
「ああ、どうせ、大会社さんだ、小森屋とは違うよ」
「そういう意味ではなくてですね・・」
「もしも浩平さんが知っていたとして、どうだったんです?」と晶乃。
「情けなかった。涙が出そうなくらい情けなかった。
 みんながいたから平静を装っていたが、小森屋の名前で開いた問屋招待会に、 
 ツルヤがずかずかと乗り込んで来て、あまつさえ千晶の婿の会社の時計を…
 なめられとるとしか」
「あなた、哲夫さんの嫌味ですわ」
「こっちは誰も見とらん泥鰌すくいに汗流しとるというのによ!」
友行は言う。
「浩平君もどじょうすくいの稽古をしていたんですよ。
 なんならここでご披露しましょうか?」
「そんなみえすいたウソを!」弥之助は信じない。
「私は見たいわ」と晶乃がフォローし、忠治も「見たい見たい」と言う。
千晶は「やめて」と言うが、
浩平は「お義父さん、歌をおねがいします」と友行に頼み、
お盆を手にどじょうすくいを踊りだす。
弥之助は ふんといった表情ながら、ちら見する。

湖水館。
すやすや眠る和則の隣の部屋で、あかりがミシンを踏んでいる。
数冊のデザインブックが開いておいてある。


千晶と浩平の部屋。
「小森屋のことは何でも話してくれって言ったじゃないか。
 何もできないけど、と言ってきたけど何かできるんじゃないかと思うようになった。
 僕は君に甘えてきた。正直もっと早く帰れる夜もあるんだ。
 君はこの家で僕の防波堤だ。しかし、被ってもいい波もあると思ってるんだ」
「あなたは堂々としてて。 卑屈になってほしくないの。
 どじょうすくいなんか踊ってほしくないの。
 私はあなたを誇りに思ってます」

「お布団、敷きましょうか?」と話題をかえる。
浩平も手伝いながら
「今日、渉君に会ったよ。変なこといってたなぁ。
 アメリカへいつ帰るのか聞いたら、皮肉ですかって。がんばってるんだろ?」
「休暇じゃなかったんですって。もうアメリカには行かないって」
「話してくれればよかったのに」
「私も、今日呼ばれて聞いたばかりだから」
「・・・今日・・・」

その頃いつもの飲み屋では、渉とチンピラたちが酒を飲み騒いでいた。


翌朝。朝食前。
浩平がねじりハチマキで「朝食まで手伝う」と蔵にやってきた。
戸惑う弥之助・友行・従業員たち
清三が千晶を呼びにくる。
「なんですって?」

「あなた!」
「千晶、お前が手伝うように と言ったのか?」
首を横にふる千晶。
「何でも言いつけてください、僕、何をやればいいんでしょうか?」 

(つづく)