連載小説「六連星(むつらぼし)」第82話
「書きかけのノートとボイスレコーダー」
「響。まもなく、お母さんが君のためにやってくる。
ご苦労さん。あとは俺と岡本に任せて、お前はロビーでお母さんを待て。
山本さんも、もうきっと充分に満足をしているだろう。
いいから、もう行け。
ロビーでお母さんを出迎えてくれ」
10分ほど経過してから入室をしてきた俊彦に促されて、響が山本の病室を後にします。
廊下では、担当の杉原と岡本がまだ、額を寄せて小さな声で会話をしています。
会話を停めた岡本が、うなだれて病室を出てきた響の肩をそっと抱きます。
「大丈夫か」と覗きこんでくる岡本の目に、「はい」とだけ答え、響が小さく頷きます。
エレベーターの前まで着いてきた岡本が、下りのボタンを押してくれます。
「山本を送り出すための儀式は、まだこの先も続く。
今夜と明日、お前さんにはたぶん初めての経験になるだろうが、
最後まで、よろしく頼む。
清子も今回は、俺たちにつき合ってくれるそうだ。
もちろん、お前さんを心配してのことだと思うが、俺にはその気持ちも嬉しい。
つくづくいい女だと思うよ。清子も、そしてお前さんも」
エレベーターの扉が閉まるまで、岡本は話し続けています。
亡くなった者を送るためには、しきたりを伴った儀式が続いていく・・・・
それもまた、響にはまったく初めての体験となります。
そのために、母が湯西川からやって来る・・・・
そのことの重みをじわりと胸に感じながら、響が廊下を玄関に向かって歩きます。
背後からの声と足音に気がついたのはエレベーターを降り、ほぼ廊下を
歩き終えて、玄関まであとわずかという地点です。
追いついてきたのは、いつも響を気遣ってくれているあの年長の主任看護士でした。
「これは、あなたへと言って、山本さんが準備をしていた遺品です。
ボイスレコーダーは一週間ほど前に、山本さんに言われて私が用意をしました。
ノートに何かを書き始めていたようですが、
ベッドで横たわる不自然な体勢では、書きにくいものが有ったようです。
何を吹き込むのですかと聞いたら、大好きな響ちゃんへの
声のラブレターですと笑っていました。
ほぼ一週間をかけて、コツコツと吹き込んでいたようです。
おそらく、もう長くはない事は本人が一番よく解っていたようです。
はい。これがノートと、そのボイスレコーダーです。
それと・・・・私からもやはり、響ちゃんに感謝を伝えたいと思います。
3階の病室とナースステーションに、あなたは大和撫子の大旋風を巻き起こしました。
あなたの明るい笑顔と二部式の着物は、看護士たちのやる気にも火を点けてくれました。
病気と病人には、やはり、女性の笑顔がなによりの力になります。
元気な女性の明るい笑顔には、時として、注射や薬よりもはるかに効能が有るようです。
と・・・・主治医の杉原も、そのように言って笑っていました。
わたしも、杉原医師と同じ意見です。
今まで、たいへんお疲れさまでした。ごくろうさま。響ちゃん。
まだもう少し、見送るための役目も残っているようですが、最後まで頑張ってね。
あなたは折り紙つきの優しくをもつ、とても素敵な頑張り屋さんです。
看護婦のシンボルといえば、100年前のイギリスのフローレンス.ナイチンゲールです。
ナイチンゲールは、看護とは、
『すべての患者に対して生命力の消耗を最小限度にするよう働きかけることを意味する』、と、
と自らの「看護覚え書」の冒頭で述べています。
あなたの笑顔は、まさに当病院における、民間のナイチンゲールそのものでした。
さらに、原発に闘いを挑んでいくその姿は、日本のジャンヌダルクとも言えるでしょう。
おまけに、すこぶるチャーミングで綺麗な女の子です。うふふ」
「でも、あまり無理をしすぎちゃ駄目ですよ」とクギをさしてから、
主任看護師が、再び山本の病室へ戻っていきます。
響が胸に抱えたノートとボイスレコーダーには、山本の生きてきた痕跡が全て残っています。
耳へのイヤホーンの準備を済ませて、響が再生のスイッチを入れます。
真夜中に録音をしたのでしょうか・・・・
つとめて押さえた声で、周囲へ配慮をしているような雰囲気そのものの中、
山本が言葉を選びながら、静かに響へ語りかけてきました。
「これをあなたが聴く頃には、おそらく私はこの世にいないでしょう。
たいへん長い間を、お世話になりました。
感謝をこめてあなたへ、お約束のお話を記録しておきたいと思います。
ノートに書き始めたものの気力が続かず、こうした形で録音にかわってしまいました」
昨日まで、真近で聞いていたままの山本の肉声が、耳の奥で響きます。
「昨日、浜岡原発の再稼働を許さないと言う湖西の三上市長の記事を読みました。
三上市長は東日本大震災で被災した福島第1原発に関連をして、
『同様の地震があれば浜岡原発も深刻な事態が起きる。
地震がいつ発生しても不思議ではなく、運転を止めるべき』と主張して、
米原子力規制委員会(NRC)が、福島第1原発の半径80キロ以内に住む
米国民に退避を勧告したことにも触れ、『湖西市も浜岡原発の80キロ圏内にあたる。
水素爆発をすれば放射能が飛んできて、健康被害が出る』と危機感をあらわにし、
原発の運転を停止しても夏場の節電などにより
『電力不足は生じない』との持論を示しました。
私は、その浜岡原発でも5年間余りにわたって働らいてきました。
30歳代の頃から原発で働き始め、すでに10年間近く原発の仕事に携わっていました。
その当時から、ある特定の原発の現場で働いていたわけではなく、
定検工事などで、各地の原発を転々と渡り歩くという生活をしていました。
最近ではそのような人々のことを、「原発ジプシー」などと、
いくらかの侮蔑を込めて呼ぶそうですが、その頃の私は、まさに、
そのような生き方をしていました・・・・」
(原発ジプシー。聞いた事のある言葉だ・・・・。
そうだ。女学生に誘惑をされて職を失ったと言う、あの例の大学助教授の言葉だ。
水面下で働かされ、使い捨てにされている原発労働者は、そのほとんどは、
こうしたジプシー暮らしを余儀なくされている立ち場の人たちのことだ・・・・)
「ジプシーのような、浮き草の生活を始めて2年目のことでした。
佐賀県にある玄海原子力発電所で働いている時に、原子炉の
炉心部に、生まれて初めて入ることになりました。
炉心部とは、ウラン燃料を燃焼させている場所のことです。
核反応を引き起こし、その膨大なエネルギーでタービンを回転させて
電気をつくるのですが、ウラン燃料を燃焼させている場所ですから、
他とは比較にならないぐらいの高放射線が充満をする、きわめて危険なエリアです。
そこに入って、原子炉内の傷の有無を調べるロボットを取り付けるのが、
その当時に、私に与えられた仕事でした・・・・」
「大丈夫かい。響」
ボイスレコーダーの中断は、突如としてやってきました。
驚いて目をあげると、目の前には黒いワンピース姿の清子が立っています。
手には、裏地の無いジャケットを持ち、もう片方には大きな紙袋を下げています。
「あなたのための、ひとそろいを持ってきたわ。
何の勉強?。ずいぶんと真剣な顔で聴いていたようだけど」
「あっ、山本さんからのメッセ―ジ・・・・いいえ。
私への大切なラブコールです。
わたしのためにと、山本さんが用意をしてくれました。
お母さんを出迎えるために此処に居たのに、いつのまにか聴き始めてしまいました。
ごめんなさい。また・・・・響は、しくじっちゃいました。」
「そういう自由奔放なところと、やんちゃが、響らしさの由縁です。
でも冠婚葬祭ともなると、また話は別となります。
あなたには初体験となるはずだけど、その最初が肝心なのよ。
もうあなたも25歳だもの。ちゃんとした女性としてのたしなみを覚えましょうね」
「冠婚葬祭にも、女性としてのたしなみがあるの?」
「ほらこれだ。
高貴なフローレンス・ナイチンゲールやジャンヌ・ダルクもいいけれど、
日本古来の女性としてのたしなみも、ちゃんと覚えて下さいね。
あんた・・・・まさか、そのブラウスとジーパン姿で葬儀に出るつもりでいたの?」
「あっ・・・・考えてもいませんでした。そこまで!
でも、なんでナイチンゲールやジャンヌダルクまで出てくるわけ?」
「山本さんの病室で、主任看護士さんからそのお話を伺いました。
自慢の娘だと鼻を高くしたのはいいけれど、油断をしたとたんに今度は
その格好のままで通夜や葬儀に参列をされたら、思いっきり足元をすくわれて
私やトシさんが、おおいに赤っ恥をかくことになります。
だから教育係として、トシさんが私を呼びつけたの。
わかるでしょう、響。親の愛情がいかに深いものなのか。これではっきりと。
うふふ・・・」
「なんだぁ・・・・私を教育するために、わざわざと呼び出されたのか。
決して、トシさんとランデブーをするために呼び出したという訳では、ないのですね。
はい。私が未熟すぎる故、お二人にはご迷惑ばかりをおかけしています。
ごめんなさいね。出来が悪すぎる娘で」
「そうよ。早く完璧な娘に仕上げて、もういい加減でさっさとお嫁さんに出したいわ。
そうすれば、後は二人で、大人の老後を存分に満喫が出来るはずだもの。
さて、いよいよあなたへ最後のしつけです。
適当に仕上げて、いい加減で母親も、もう卒業したいわね」
「母親を卒業したら、どちらかへ嫁ぐわけでしょうか。それってもしかしたら?」
「これ。不謹慎きわまりありません。
それでは脱線し過ぎです。
少し、はしゃぎ過ぎです、あなたは。はしたない」
「お母さんが先に・・・勝手に言いだしたくせに。
また、しくじったか。・・・はい、やっぱり私は未熟者です」
「わかっているなら、それでよろしい。うふふ・・・」
・本館の「新田さらだ館」は、こちらです http://saradakann.xsrv.jp/
「書きかけのノートとボイスレコーダー」
「響。まもなく、お母さんが君のためにやってくる。
ご苦労さん。あとは俺と岡本に任せて、お前はロビーでお母さんを待て。
山本さんも、もうきっと充分に満足をしているだろう。
いいから、もう行け。
ロビーでお母さんを出迎えてくれ」
10分ほど経過してから入室をしてきた俊彦に促されて、響が山本の病室を後にします。
廊下では、担当の杉原と岡本がまだ、額を寄せて小さな声で会話をしています。
会話を停めた岡本が、うなだれて病室を出てきた響の肩をそっと抱きます。
「大丈夫か」と覗きこんでくる岡本の目に、「はい」とだけ答え、響が小さく頷きます。
エレベーターの前まで着いてきた岡本が、下りのボタンを押してくれます。
「山本を送り出すための儀式は、まだこの先も続く。
今夜と明日、お前さんにはたぶん初めての経験になるだろうが、
最後まで、よろしく頼む。
清子も今回は、俺たちにつき合ってくれるそうだ。
もちろん、お前さんを心配してのことだと思うが、俺にはその気持ちも嬉しい。
つくづくいい女だと思うよ。清子も、そしてお前さんも」
エレベーターの扉が閉まるまで、岡本は話し続けています。
亡くなった者を送るためには、しきたりを伴った儀式が続いていく・・・・
それもまた、響にはまったく初めての体験となります。
そのために、母が湯西川からやって来る・・・・
そのことの重みをじわりと胸に感じながら、響が廊下を玄関に向かって歩きます。
背後からの声と足音に気がついたのはエレベーターを降り、ほぼ廊下を
歩き終えて、玄関まであとわずかという地点です。
追いついてきたのは、いつも響を気遣ってくれているあの年長の主任看護士でした。
「これは、あなたへと言って、山本さんが準備をしていた遺品です。
ボイスレコーダーは一週間ほど前に、山本さんに言われて私が用意をしました。
ノートに何かを書き始めていたようですが、
ベッドで横たわる不自然な体勢では、書きにくいものが有ったようです。
何を吹き込むのですかと聞いたら、大好きな響ちゃんへの
声のラブレターですと笑っていました。
ほぼ一週間をかけて、コツコツと吹き込んでいたようです。
おそらく、もう長くはない事は本人が一番よく解っていたようです。
はい。これがノートと、そのボイスレコーダーです。
それと・・・・私からもやはり、響ちゃんに感謝を伝えたいと思います。
3階の病室とナースステーションに、あなたは大和撫子の大旋風を巻き起こしました。
あなたの明るい笑顔と二部式の着物は、看護士たちのやる気にも火を点けてくれました。
病気と病人には、やはり、女性の笑顔がなによりの力になります。
元気な女性の明るい笑顔には、時として、注射や薬よりもはるかに効能が有るようです。
と・・・・主治医の杉原も、そのように言って笑っていました。
わたしも、杉原医師と同じ意見です。
今まで、たいへんお疲れさまでした。ごくろうさま。響ちゃん。
まだもう少し、見送るための役目も残っているようですが、最後まで頑張ってね。
あなたは折り紙つきの優しくをもつ、とても素敵な頑張り屋さんです。
看護婦のシンボルといえば、100年前のイギリスのフローレンス.ナイチンゲールです。
ナイチンゲールは、看護とは、
『すべての患者に対して生命力の消耗を最小限度にするよう働きかけることを意味する』、と、
と自らの「看護覚え書」の冒頭で述べています。
あなたの笑顔は、まさに当病院における、民間のナイチンゲールそのものでした。
さらに、原発に闘いを挑んでいくその姿は、日本のジャンヌダルクとも言えるでしょう。
おまけに、すこぶるチャーミングで綺麗な女の子です。うふふ」
「でも、あまり無理をしすぎちゃ駄目ですよ」とクギをさしてから、
主任看護師が、再び山本の病室へ戻っていきます。
響が胸に抱えたノートとボイスレコーダーには、山本の生きてきた痕跡が全て残っています。
耳へのイヤホーンの準備を済ませて、響が再生のスイッチを入れます。
真夜中に録音をしたのでしょうか・・・・
つとめて押さえた声で、周囲へ配慮をしているような雰囲気そのものの中、
山本が言葉を選びながら、静かに響へ語りかけてきました。
「これをあなたが聴く頃には、おそらく私はこの世にいないでしょう。
たいへん長い間を、お世話になりました。
感謝をこめてあなたへ、お約束のお話を記録しておきたいと思います。
ノートに書き始めたものの気力が続かず、こうした形で録音にかわってしまいました」
昨日まで、真近で聞いていたままの山本の肉声が、耳の奥で響きます。
「昨日、浜岡原発の再稼働を許さないと言う湖西の三上市長の記事を読みました。
三上市長は東日本大震災で被災した福島第1原発に関連をして、
『同様の地震があれば浜岡原発も深刻な事態が起きる。
地震がいつ発生しても不思議ではなく、運転を止めるべき』と主張して、
米原子力規制委員会(NRC)が、福島第1原発の半径80キロ以内に住む
米国民に退避を勧告したことにも触れ、『湖西市も浜岡原発の80キロ圏内にあたる。
水素爆発をすれば放射能が飛んできて、健康被害が出る』と危機感をあらわにし、
原発の運転を停止しても夏場の節電などにより
『電力不足は生じない』との持論を示しました。
私は、その浜岡原発でも5年間余りにわたって働らいてきました。
30歳代の頃から原発で働き始め、すでに10年間近く原発の仕事に携わっていました。
その当時から、ある特定の原発の現場で働いていたわけではなく、
定検工事などで、各地の原発を転々と渡り歩くという生活をしていました。
最近ではそのような人々のことを、「原発ジプシー」などと、
いくらかの侮蔑を込めて呼ぶそうですが、その頃の私は、まさに、
そのような生き方をしていました・・・・」
(原発ジプシー。聞いた事のある言葉だ・・・・。
そうだ。女学生に誘惑をされて職を失ったと言う、あの例の大学助教授の言葉だ。
水面下で働かされ、使い捨てにされている原発労働者は、そのほとんどは、
こうしたジプシー暮らしを余儀なくされている立ち場の人たちのことだ・・・・)
「ジプシーのような、浮き草の生活を始めて2年目のことでした。
佐賀県にある玄海原子力発電所で働いている時に、原子炉の
炉心部に、生まれて初めて入ることになりました。
炉心部とは、ウラン燃料を燃焼させている場所のことです。
核反応を引き起こし、その膨大なエネルギーでタービンを回転させて
電気をつくるのですが、ウラン燃料を燃焼させている場所ですから、
他とは比較にならないぐらいの高放射線が充満をする、きわめて危険なエリアです。
そこに入って、原子炉内の傷の有無を調べるロボットを取り付けるのが、
その当時に、私に与えられた仕事でした・・・・」
「大丈夫かい。響」
ボイスレコーダーの中断は、突如としてやってきました。
驚いて目をあげると、目の前には黒いワンピース姿の清子が立っています。
手には、裏地の無いジャケットを持ち、もう片方には大きな紙袋を下げています。
「あなたのための、ひとそろいを持ってきたわ。
何の勉強?。ずいぶんと真剣な顔で聴いていたようだけど」
「あっ、山本さんからのメッセ―ジ・・・・いいえ。
私への大切なラブコールです。
わたしのためにと、山本さんが用意をしてくれました。
お母さんを出迎えるために此処に居たのに、いつのまにか聴き始めてしまいました。
ごめんなさい。また・・・・響は、しくじっちゃいました。」
「そういう自由奔放なところと、やんちゃが、響らしさの由縁です。
でも冠婚葬祭ともなると、また話は別となります。
あなたには初体験となるはずだけど、その最初が肝心なのよ。
もうあなたも25歳だもの。ちゃんとした女性としてのたしなみを覚えましょうね」
「冠婚葬祭にも、女性としてのたしなみがあるの?」
「ほらこれだ。
高貴なフローレンス・ナイチンゲールやジャンヌ・ダルクもいいけれど、
日本古来の女性としてのたしなみも、ちゃんと覚えて下さいね。
あんた・・・・まさか、そのブラウスとジーパン姿で葬儀に出るつもりでいたの?」
「あっ・・・・考えてもいませんでした。そこまで!
でも、なんでナイチンゲールやジャンヌダルクまで出てくるわけ?」
「山本さんの病室で、主任看護士さんからそのお話を伺いました。
自慢の娘だと鼻を高くしたのはいいけれど、油断をしたとたんに今度は
その格好のままで通夜や葬儀に参列をされたら、思いっきり足元をすくわれて
私やトシさんが、おおいに赤っ恥をかくことになります。
だから教育係として、トシさんが私を呼びつけたの。
わかるでしょう、響。親の愛情がいかに深いものなのか。これではっきりと。
うふふ・・・」
「なんだぁ・・・・私を教育するために、わざわざと呼び出されたのか。
決して、トシさんとランデブーをするために呼び出したという訳では、ないのですね。
はい。私が未熟すぎる故、お二人にはご迷惑ばかりをおかけしています。
ごめんなさいね。出来が悪すぎる娘で」
「そうよ。早く完璧な娘に仕上げて、もういい加減でさっさとお嫁さんに出したいわ。
そうすれば、後は二人で、大人の老後を存分に満喫が出来るはずだもの。
さて、いよいよあなたへ最後のしつけです。
適当に仕上げて、いい加減で母親も、もう卒業したいわね」
「母親を卒業したら、どちらかへ嫁ぐわけでしょうか。それってもしかしたら?」
「これ。不謹慎きわまりありません。
それでは脱線し過ぎです。
少し、はしゃぎ過ぎです、あなたは。はしたない」
「お母さんが先に・・・勝手に言いだしたくせに。
また、しくじったか。・・・はい、やっぱり私は未熟者です」
「わかっているなら、それでよろしい。うふふ・・・」
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