アルコール性偽性 Cushing 症候群についての総説
Neth J Med 2011; 69: 318-323
クッシング症候群 (Cushing syndrome: CS) は糖質コルチコイドへの過剰な曝露によって起こる極めて稀な症候群であり、罹患率は 2-3/100万人·年である。CS の症状としては精神症状 (多くは抑うつ)、代謝障害 (インスリン抵抗性、高血圧症、中心性肥満) 、近位筋の萎縮、易出血性がある。
内因性コルチゾールの過剰産生は、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン (corticotropin releasing hormone: CRH) 産生腫瘍 (極めて稀)、副腎皮質刺激ホルモン (adrenocorticotropic hormone: ACTH) 産生腫瘍 (下垂体腺腫または異所性 ACTH 産生腫瘍) 、またはコルチゾール産生腫瘍 (副腎皮質腺腫)によって起こる。
CS は適切な治療がなされないと致死的である。古典的な症候をはっきり認める場合の診断は難しくないが、うつや肥満、身体的なストレス、慢性的なアルコール多飲によってコルチゾール過剰産生をともないクッシング徴候を認める場合があり、偽性クッシング症候群 (pseudo-Cushing state) と呼ばれる。偽性クッシング症候群では肥満、抑うつ、高血圧、月経異常など CS の症候の多くを認め、生化学的検査はしばしば曖昧な結果となるので、CS との鑑別は難しい。
1. 症候
クッシング徴候を認め、後にアルコール症が原因であると分かった症例についての症例報告から、アルコール性偽性クッシング症候群とクッシング症候群では症候が互いによく似ていることが分かる。
アルコール性偽性クッシング症候群では、満月様顔貌 87.5%、高血圧症 69%、筋力低下·易疲労 81%、赤色線条 12.5%、中心性肥満 75%を認めた。一方、Cushing 症候群では、満月様顔貌 82-90%、高血圧 68-75%、筋力低下 60-64%、肥満 95%を認めると報告されている。
2. 検査所見
アルコール性偽性クッシング症候群の症例報告 13件のうち 12件で血清コルチゾール濃度が上昇しており、全ての症例で禁酒 (alcohol abstinence) 後は正常化した。
尿中遊離コルチゾールについては 3例で上昇、2例でわずかに上昇、7例では対照群と差がなかった。
1 mg デキサメタゾン抑制試験については 75%の症例で抑制が不十分 (>50 nmol/L) だった。禁酒後 4週間の時点でも 59例中 7例でコルチゾール抑制は不十分だった。
3. 治療
アルコール性偽性クッシング症候群の治療についての報告は認めなかったが、症例報告では一貫して禁酒すると症状および生化学的な異常が軽快すると報告している。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21934176/