これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

通知表攻防戦

2010年03月28日 22時05分01秒 | エッセイ
 そういえば、まだ娘の通知表を見ていない。
 教員は、人の子供の世話で手一杯となり、自分の子供を後回しにする傾向がある。修了式の日に、「成績どうだった? 通知表見せて」と一声かけなかったことを、私は反省した。
 娘は部活で留守だったが、どこにあるかの見当はつく。カバンの近くに放置されているクリアーフォルダが怪しい。手に取り中をのぞくと、やはり通知表が入っていた。中学一年の成績は、いかほどのものか。
 結果からいえば、思っていたよりマシだった。滅多に机に向かう姿を見ないから、2や3ばかりと予測していたのだ。決して優秀とはいえないが、どうにか許容範囲に入っている。ひとまず、ホッとした。

 私が中学生のときは、親に催促されるまでもなく、通知表を見せに行った。
 母から文句を言われた記憶はない。いつもニコニコ笑って、「ああ、よかったねぇ」と言ってくれた。母は長女だったから、妹3人と弟1人の面倒をみなければならず、勉強は二の次だったらしい。勉強に関しては許容範囲が広く、どんな成績でも褒めてくれた。
 しかし、問題は父だ。子供を褒めたら、この世の終わりが来ると思っているかのように、何かとケチをつけてくる。
「もっと数学を頑張らないとな」
「英語が下がったじゃないか」
「お前は体育が苦手だな」
 よくもまあ、次から次へとダメ出しするものだと、子供心にも呆れた。私だけでなく、2歳上の姉も同じように小言を言われていた。
「ねえ、お姉ちゃん、お父さんって絶対褒めないよね」
「うん、けなしたほうが伸びると思っているみたい」
「わっ、古~い! スポ根じゃあるまいし、今どきそんなの流行らないじゃん」
「しかも、狙いが見え見えってところが甘い」
 父の思惑はわかっていたが、成績がよいに越したことはない。反発しても、自分が損をするだけだとわかっていたから、せっせと勉強に励んだ。
 私たちが、父への不満を母に訴えても、母は常に父の味方だった。
「お父さんは頭のいい人だから、お父さんの言う通りにしておけば大丈夫!」
 そんなわけで、私も姉も、父はよほどできる人なのだと思いこんでいた。

 しかし、ある日、姉がとんでもないものを発見した。
「この前、お父さんの通知表を見つけちゃったの!」
「ええっ! どこで?」
「押し入れの奥の方」
 残念ながら、私は見ていない。姉は自分が見たあと、痕跡を残さぬように、すぐさま元の場所に戻してしまったからだ。
「で、どうだった?」
「それがね、全然よくない。3ばっかりだったよ」
「なーんだ、3ばっかりか」
「その程度の成績で、よく私たちにあれこれ言えたね」
「本当だよ。自分の成績見てからものを言えって」
 以来、父の威厳は地に落ちた……。
 母の許容範囲は、実に広かったというわけだ。

 私の通知表は、いったいどこにあるのだろう。
 娘の目に触れぬよう、焼却処分しておかないと……。




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コメント (12)
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