これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

妹が仕切るクリスマス会

2015年12月24日 21時33分14秒 | エッセイ
 さて、毎年、天皇誕生日は妹の家でクリスマス会と決まっている。両親や姉夫婦、妹一家と一緒に宴会をするのだ。
「今年はダンナが休めなかったのよ。チキンやスープは用意するけど、大したモンはできないよ」
 義弟よく働く。肉をアスパラに巻いて焼いたり、エビをグリルに入れたりと、汗をかきかき体を動かし、手際よく料理を作っていく。しかし、妹はそれを見ていることが多く、ほとんど自分では作らない。義弟なしで、ちゃんとできるのかしらと心配になった。
「こんばんは」
 妹の家に着くと、すでにみんなが揃っていた。キッチンでは人手不足のためか、姉の夫、つまり義兄までが盛り付けを手伝わされている。
「できた」
「あら、案外キレイじゃない」



 妻である姉に褒められ、義兄はまんざらでもなさそうだ。姉はナイフを動かして、一生懸命チキンを切り分けていた。母もナイフを持たされ、仕事を割り当てられている。
 私も、あれこれ用意してきた。
 まず、パイシートにパルメザンチーズを加えて焼いた、チーズスティック。



 温度が高くて、少々焦げてしまったのが残念だ。
 それでも、「おっ、なかなか美味しいぞ」と言ってもらえて、結構売れた。
 ほっ。
 それから、オーブントースターで焼くだけのフランス産エスカルゴ。



「かたつむり? ……いらないよ」
「いらなーい」
 中学生の甥と姪は難色を示すと予想していたが、案の定であった。
 想定外だったのは73歳の母である。好き嫌いがなくて、何でも食べると思っていたのに、そうではなかった。
「やだ。これ食べたくない」
「え? だって、パリに行ったことあるよね」
「行ったけど、食べなかったの」
 77歳の父は興味深く箸をつけていたけれど、雑食系の母に拒絶されるとは。居住地の那須には、大きなかたつむりやなめくじがいるので、ダブって見えたのかもしれない。夫は残ったエスカルゴをチラ見して、これ幸いとばかりに4個も食べていた。「利害関係の一致」という言葉が浮かんでくる。
 グラタンは、ペロッと食べてくれたからよかった。
 テリーヌは、切って並べるだけだから楽だ。色合いも、クリスマスっぽくていい。



「はい、スープができましたよ~」
 妹が器を回してくる。
「スプーンは?」
「あっ、ちょっと待ってて」
 しかし、スープ用の大き目のスプーンが足りない。妹は、義弟がしまった場所を知らないのだろうか。探しても見つからないと判断すると、彼女は私の顔を下からのぞき込むようにして言った。
「ねえ、姉さんのスプーンはレンゲでいいかしら」
「レンゲ……」
 なければ仕方ないが、これではちょっと淋しい。



 味はおんなじだけどね。美味しいミネストローネだった。
 最高傑作だったのは、おにぎりだ。わが家では、料理をひと通り食べたところで、おにぎりを作る。実は、買い出し中に、妹からこんなメールが来た。
「おにぎりの具を買ってくるのを忘れたわ。昆布はあるけど、明太子や鮭があったら持ってきておくれ」
 それは大変だ。ひとまず、冷凍庫の紅鮭を引っ張り出し、フライパンでいい色にソテーする。これを入れたら、さぞや美味しいだろうと考え、ラップに包んで持ってきた。
「じゃあ、たらこの人……4人。明太子の人……1人、鮭の人……3人」
 希望をとって、いざ、ご飯を握ろうとしてお釜を開けると、からっぽではないか。
「あ、しまった。お米を研ぎ忘れた」
「えー」
「マジい?」
「おにぎりが……」
 お腹をすかせた父や夫は苦笑い。まあ、妹らしいといえば、それまでだが。
「じゃあ、ケーキにしましょ」
 今年のケーキは、地元の人気店で買ってきた。10人用の7号なのに、4200円という安さである。



「このケーキ、ふわふわだね」
「軽い」
「美味し~い」
 そんなこんなで、やたらと印象的だったクリスマス会が終わった。
 新年会こそ、義弟がいてくれないと困るのだが。
 何はともあれ、メリークリスマス!


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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
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コメント (8)
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