秋色に染まる
妻と来て山ぶどう買う道の駅嗅げば蔵王の秋かおりたつ …… (仙台市) 沼沢 修
温泉もよかった、小旅行の帰路立ち寄った道の駅。お土産にぶどうを手に取ると、
今くぐって来た錦秋の蔵王の秋の名残りが匂い立っていた。
熟年夫婦の仲睦まじい姿が目に浮かびます。
夕方の塩尻駅を吹き抜けるぶどう色の風かすかに甘い …… (富士市) 松田梨子
小旅行の帰りなのだろうか。夕方の塩尻駅のプラットホームに風が通りすぎる。
ぶどう色した風で、かすかに甘い香りを乗せて私の鼻先を掠めて消えていく。
少年の心となりて木通(あけび)採る気づけば妻も少女のこころ …… (仙台市)沼沢 修
こんなときの妻は、いっそう可愛く思われる。同じように木通採りに夢中になっている
夫も可愛く映っているに違いない。木通採りに夢中になっている少年と少女。
萩の咲く浄土寺真如町あたり静かな二人の時間を歩く …… (西宮市)佐竹由利子
若いっていいなー……
ふたりだけの時間よ止まれ。
黒塚に芭蕉も子規も詣でしと安達ケ原を秋の雲過ぐ …… (福島市)美原凍子
安達ケ原の鬼婆の墓といわれている伝説の黒塚に手を合わせ、
偉大な先人たちもこうして、ここで手を合わせたのだろうと感慨に浸る。
この安達ケ原の黒塚の上を秋の雲がゆっくりと流れていく。
雲の模様は晩秋の訪れを知らせている。
華やかに山や谷を染めて、樹々たちは間もなく訪れる厳しい冬の前の短い時間に
ひと時の安らぎを醸し出している。
この大自然の摂理に身を置いたとき人は、俗世のしがらみから解放され、
無垢な自分に還ることができる。
(朝日歌壇2017.10.22付から選びました)
(季節の香り№31) (2017.11.5記)
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