小林紀興の「マスコミに物申す」

第三の権力と言われるマスコミは政治家や官僚と違い、読者や視聴者の批判は一切無視、村社会の中でぬくぬくと… それを許せるか

安保改定60年の節目を再改定のチャンスにできるか。

2020-01-19 07:19:23 | Weblog
 60年前の今日(1月19日)、当時の岸総理と米アイゼンハワー大統領の間で新日米安保条約が調印され、同年5月20日衆院で強行採決された。学生や労働者をはじめ多くの一般市民が猛反対する中で参院では審議すら行えず、調印6か月後の6月19日に新安保条約が発効した。
 今年1月7日、安倍総理は自民党本部の仕事始めのあいさつで意味深な発言をした。なぜか翌8日の朝日新聞はこの重大発言には全く触れず、その後に続けた「桃栗3年、柿8年…」といった箇所だけ報道した。朝日がねぐった安倍総理の重大発言はこうだ。

今年は庚(かのえ ※十二支の最初で当たるねずみ年を指す)の年にあたります。庚の年は新しい芽が出てのびる年と言われており、大切なものを継承し改革を進めていこうという意味が込められています。そして60年前の庚の年には日米安保条約が改定されました。日米新時代が始まり、同時に外交安保の礎が築かれた年です。あれから60年たち、今年は戦後外交の総決算に挑戦し、新たな外交の地平を切り開いていきたいと思っています。

この発言の後、憲法改正への強い意欲を示すのだが、なぜ安倍総理は年頭のあいさつの冒頭で安保改定60年目の節目をことさらに強調したのか。もちろん安倍総理の頭の中を解剖して覗き見ることは不可能だが、ひょっとして安保再改定が頭の中を去来しているのかな、と私は感じた。
もともと旧安保条約は朝鮮戦争のさなか、それまで日本を占領していた国連軍(実態は米軍)が根こそぎ朝鮮半島に動員され、敗戦によって武装解除された日本が丸裸状態になった時期、急遽、日本に再軍備させるため、アメリカが主導してサンフランシスコ講和条約を締結(1951年9月8日)、同時に吉田総理が署名して発効した。が、徳川幕府末期の日米修好通商条約と同様、日本にとってはまったく不利な条約だった。で、岸総理がアイゼンハワー大統領と交渉して旧安保条約を多少改善したのが現在の安保条約である。最大の改善点は、旧安保には明記されていなかった日本防衛の義務を米軍が負うことを明記させたことになっているが、が、その防衛義務に関して明記された第5条が、実は解釈次第で実効性が疑問視されているのだ。5条の全文はこうだ。

第五条 各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。
 前記の武力攻撃及びその結果として執つたすべての措置は、国際連合憲章第五十一条の規定に従つて直ちに国際連合安全保障理事会に報告しなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し及び維持するために必要な措置を執つたときは、終止しなければならない。

この条文の問題は「自国の憲法上の規定及び手続に従って」という部分で、アメリカ国民がNOという意思を明確に示せば米軍は手も足も出せない。そしてトランプ大統領は、安倍総理が憲法違反の疑いが濃厚な安保法制を成立させて集団的自衛権行使を可能にしても、「日本が攻撃されたらアメリカ人は血を流して日本を守らなければならないのに、アメリカが攻撃されても日本人はソニーのテレビを見ているだけだ」と日米安保条約の不公平さをあおり、実際そのたびアメリカではトランプの支持率が上がっている。アメリカ国民の大半がトランプと同様の対日感情を抱いているからだ。現に3年ほど前、アメリカでアメリカにとっての同盟国・友好国について行った世論調査では、日本はベスト10にも入らなかったという結果が出ている。こうした状況の中で、万が一、日本が他国から攻撃を受けたとして米軍がどの程度、本気で日本防衛のために自衛隊に協力してくれるか、日本の軍事専門家の大半は疑問に思っているようだ。
たとえば尖閣諸島。安倍総理はオバマ大統領からもトランプ大統領からも「尖閣諸島は安保条約5条の範囲だ」との言質を取っている。安保条約5条には日本領土についてのさだめは明記されていない。ということはアメリカの大統領が代われば「尖閣諸島は安保条約5条の対象外だ」となりうることを意味している。だったら、現在の米大統領が「尖閣諸島は安保条約5条の範囲だ」と明言してくれている今のうちに、なぜ日本は尖閣諸島の実効支配に踏み切らないのか。実は日本が実効支配することを最も嫌がっているのが、当のアメリカなのだ。日本が尖閣諸島の実効支配に踏み切った場合、中国との軍事衝突が生じるかどうかは、わからない。わからないが、その可能性はゼロではない。もし万一、軍事衝突になった場合、オバマやトランプが大統領の時代であれば米軍は自衛隊を支援しなければならなくなる。場合によっては米中の軍事衝突になりかねない。アメリカにとっては何の得にもならないのにだ。だから、日本の尖閣諸島実効支配を絶対に阻止したいのがアメリカの本音である。つまりオバマやトランプの言質は所詮「絵に描いた餅」に過ぎない。そのことを日米当局は百も承知で、オバマやトランプは安倍総理にリップ・サービスをしているのである。おそらく日本でも軍事専門家の多くはわかっていると思うが、なぜかメディアは理解していない。
日本のジャーナリストの多くは「外交の安倍」と安倍外交を評価している。が、私は前のブログで書いたように、安倍外交でまずまずといえるのは対中外交だけだ。それもたまたま米中貿易戦争で中国が多少日本に歩み寄ってくれた結果で、安倍さんが中国との関係改善で何らかの努力をしたかというと、そうした形跡は見えない。それでも日本が中国との関係を改善すれば、アメリカや韓国、北朝鮮との関係でもかなりのキャスティング・ボードを握れるはずなのだが、そういう計算は安倍さんの頭にはないようだ。実際、尖閣諸島を日本が実効支配するための、こんなチャンスは二度と訪れない。いまなら中国も日本と軍事衝突は避けるだろうし、アメリカも黙認する。一種の賭けには違いないが、外交はどのみちある程度のリスクを伴う賭けの要素がある。この時期を逃せば、尖閣諸島を日本が実効支配できるチャンスは二度と訪れない。
対中以外の安倍外交はすべて失敗である。たとえば対米。トランプとゴルフを楽しむのは大いに結構だが、安倍内閣は1969年2月19日の内閣法制局による「集団的自衛権行使は違憲」という憲法解釈を屁理屈で変更して「合憲化」する安保法制を成立させた。これでトランプが喜んでくれると安倍さんは勘違いしたが、逆にトランプはかさにかかってきた。日米安保は不平等・不公平であり、日本は駐留米軍の経費を全額負担すべきだと言い出している。さらにロシアとの交渉についても平和条約締結の条件として北方領土問題解決をセットにして譲らず、結局、決裂状態になっている。平和条約締結は日本の安全保障問題であり、北方領土問題は経済問題である。平和条約締結を優先すれば、日本は安全保障にとって図りきれないメリットがあるだけでなく、ロシアとの友好関係が強化されればおのずと北方領土問題解決への道も開けるし、ロシアの軍事力は中国や北朝鮮に対しても計り知れない安全保障力になる。また安倍さんはアメリカと敵対している北朝鮮の核・ミサイル開発を、ことさら日本にとっての脅威ととらえて北朝鮮に対する敵視政策を強め、かえって北朝鮮リスクを拡大している。イラン問題はまだ先が読める状態にないが、アメリカの顔色をうかがいながらイランとの友好関係を維持しようという「二兎を追う」作戦が成功するか? トランプの計算次第だが、場合によっては日本の対イ外交に対してトランプが激怒する可能性もあり、そのとき安倍さんの八方美人外交が瀬戸際に追いつめられることになる。
外交の要諦は経済面では相手国との間にいかに互恵関係を構築するかであり、安全保障面では相手国との間にいかに友好関係を構築するかにある。その場合、他国の軍事力の脅威に対抗して「自衛のため」と称しての軍事力の強化は、即他国にとっては脅威になる。現に米中や米ロの軍拡競争は戦争リスクをかえって高めている。各国は「相手国の軍事的脅威に対抗するための自衛手段」と主張しているが、自国にとっての自衛力の強化は他国にとっては即軍事的脅威を意味するのだ。日本がことさらに北朝鮮の核・ミサイル開発の「脅威」に対抗して「自衛力」を強化したり、経済制裁を強めれば、北朝鮮の反発を買うだけだ。現に、金委員長は「もしアメリカと軍事的に衝突することになれば、真っ先に火の海になるのは日本だ」と恫喝してきている。
北朝鮮だけではない。アメリカとしばしば衝突している中国やロシアにとっては、日本の自衛隊の軍事力など脅威の対象にはならないだろうが、日本に駐留している米軍の軍事力は間違いなく脅威である。日本防衛が目的のはずの米軍基地が、実は日本にとって最大のリスク要因なのだ。
実は第2次世界大戦以降、領土や植民地拡大のための戦争は湾岸戦争の発端となったイラクのクウェート侵攻だけである。このケースもイラク側にはそれなりの理由があり、もともとはイラクとクウェートは同じ民族で一体だったのを、ヨーロッパ列強が勝手に分割支配したからというのが言い分だった。ウィキペディアによれば、第2次世界大戦での犠牲者(民間人を含む)は5000万人~8000万人とされ、8500万人という統計もあるという。日本人の戦没者は政府の閣議決定(1963年5月14日)によれば310万人に上ったという(厚労省は240万人としている)。それだけの人的犠牲を払って領土や植民地を拡大して得た経済的利益は間尺に合ったのか。たとえば日本が朝鮮を併合した38年間、朝鮮を支配し、朝鮮でも日本と同様近代産業を興すために行った投資(産業インフラや教育投資など)の最終的損益は、はっきり言って大赤字である。領土や植民地の拡大は、かえって経済的負担の方が大きいという現実を世界の大国が学んだことによって第2次世界大戦以降、いわゆる帝国主義戦争(あるいは植民地戦争)は皆無になったのだ。
そう考えると、現在の日本は他国から侵略を受ける可能性はどの程度あるのだろうか。たとえ駐留米軍がすべて日本から引き上げたとしても、日本の自衛隊の戦力は相当なレベルに達しており、他国が日本を攻撃した場合、莫大な犠牲を払うことを覚悟しなければならない。しかも幸か不幸か、日本には他国がよだれを流すような資源が何もない(日本近海の海底資源はかなりあるようだが、少なくとも現時点では採掘しても採算が取れない)。まして日本を核攻撃したら、日本の土地は使い物にならなくなる。日本が他国にとって「脅威」にならなければ、アメリカの庇護がなくても日本は世界有数の安全国だ。むしろ日本の地政学的環境を考慮すると、近隣諸国にとっては日本と友好関係を構築することが最高の安全保障政策になる。そういう「地の利」を最大限に活用することが、日本にとっても最高の安全保障政策になり、かつ経済的メリットも計り知れないほど大きいはずだ。
安倍さんが、安保改定60年目の節目と今年をとらえ、新しい外交の地平を開くというなら、現行安保条約の根本的見直しからやってもらいたい。まず日本の地政学的環境から考えて日本が他国から攻撃される可能性は極めて低いことをトランプに伝え、米軍基地の大幅縮小を要求すること。米軍が日本からいなくなれば、日本の安全保障環境はかえって増大することを主張してほしい。
さらにトランプが安保条約は不平等・不公平だというなら、「日本も、アメリカが攻撃されたとき血を流してアメリカを防衛してあげるから、アメリカに自衛隊基地を作らせてもらう」といえばいい。その場合、もちろん「思いやり予算」も米軍基地のために日本が負担している程度は出してもらうし、地位協定も結ばせてもらう。それでアメリカとの関係は完全にイーブンになるから、アメリカも二度と「日米安保は不公平だ」といえなくなる。ただし、日本駐留の米軍は日本が他国から攻撃された場合のみ日本防衛の義務を負うことになっており、日本が勝手に始めた戦争には協力しないことになっている。だからアメリカ駐留の自衛隊も、アメリカが他国から攻撃された場合のみアメリカ防衛の義務を負うだけでよく、アメリカの都合で始めた戦争に協力する必要はない。
その場合、憲法上の問題が生じる可能性があるが、すでに安倍内閣は集団的自衛権行使を容認すべく憲法解釈を変更しており、アメリカ本土が攻撃されるような事態が生じた場合、最大の同盟国である(と勝手に思い込んでいる)日本にとって国家存亡の危機という解釈をすれば、憲法上の問題は生じないと考えるべきである。安保条約の再改定…これでめでたし、めでたし。