小林紀興の「マスコミに物申す」

第三の権力と言われるマスコミは政治家や官僚と違い、読者や視聴者の批判は一切無視、村社会の中でぬくぬくと… それを許せるか

かんぽ生命不正問題検証第3弾――増田新体制でも解決にはほど遠い。

2020-02-10 02:34:35 | Weblog
 去る1月31日、かんぽ生命が「業務改善計画」を公表した。当日、日本郵政の社長に就任したばかりの増田寛也氏(元岩手県知事・総務大臣)が記者会見を開いてかんぽ生命をめぐる不祥事について謝罪するとともに二度と不祥事を生じないように全力と尽くすと、国民に誓った。が、本当に不祥事を根絶できるか、私はかなり疑問を持っている。その最大の理由は、なぜ暴力団まがいの詐欺商法が罷り通ってきたのかの原因の究明をなおざりにしたまま、トカゲの尻尾切りのようなことをやって「問題は解決しました」で済ませるつもりなのかという疑問がぬぐえないからだ。メディアもまた不祥事のケースをあぶりだすことだけに熱中し、なぜ不祥事が蔓延したのかの原因究明には取り組んでこなかったせいもある。私はすでに昨年8月5日にアップしたブログ記事『日本郵政グループの組織的詐欺はなぜ生じたのか? 昨年(※2018年)4月にNHKが報じていたことを「知らなかった」では済まされない』で原因を解明している。さらに今年に入って1月12日にも『日本郵政グループは新体制で小泉郵政民営化の「負のレガシー」を根絶できるか』をアップした。重複する部分もあるが、増田新体制でかんぽ生命は立ち直れるかを検証する。
 とりあえずかんぽ生命が公表した「業務改善計画」の重要な個所を転載する(原本はかんぽ生命のホームページに掲載されている報道機関向けのニュースリリースによる)。なおこのニュースリリースで報道機関は大混乱した。あらかじめ書いておくが、当日(1月31日)のNHKニュース7や2月1日付の日経はかんぽ生命が過去5年間に10件以上の新規契約をしたケースについて、契約者に不利な契約を強いていないか調査すると報道した。一方、朝日新聞は「過去5年間で新契約に15件以上加入」したケースについて調査すると報道した。なお1月31日は金曜日であり、翌2月1日は土曜日である。かんぽ生命は休日であり、直接確認しようがなかった。ただ、朝日には2月1日に「誤報の疑いがある」とお知らせはしておいた。2月3日(月曜日)、私はかんぽ生命のコールセンターに電話をして、メディアによって報道が混乱しているようだが、調査対象は10件の新規契約者なのか、15件の新規契約対象者なのかと聞いた。コールセンターの担当者は「10件です」と明確に答えたので、私は朝日の記事は誤報だと確信しメールと電話で訂正を求めた。が、4日の新聞も5日の新聞も誤報訂正記事を掲載しなかった。で、私は改めて真実を探るため、かんぽ生命のホームページを開いて「業務改善計画」の内容を調べた。そうした事情があったことを前提に、かんぽ生命が報道機関に公表した業務改善計画のニュースリリースに記載された調査対象の箇所を転載する。あらかじめ申し上げておくが、わかりにくいことおびただしい。報道機関が錯覚するのも無理はないと思えるいい加減さである。

2020 年2 月から全ご契約調査のさらなる深掘調査として、かんぽ生命支
店の社員による訪問等を優先順位の高いものから順次開始し、お客さまの
ご不満やご意見等の確認、当時の募集状況の調査を行い、不利益が発生して
いるお客さまについては、その解消を図ってまいります。
全ご契約調査等でお客さまからいただいたご回答・ご意見等の中には、多
数回にわたって契約の消滅・新規契約が繰り返されており、お客さまのご意
向に沿ったものではない可能性が想定されるケース(下記「①多数契約調査」
参照)があり、そのなかでも優先的に対応を開始するお客さま(約900 人:
過去5 年間で新規契約を15 件以上加入し、その半数以上が消滅)について
は、かんぽ生命支店社員が訪問し、ご契約内容の確認を2020 年2 月末を目
処に進めてまいります。
上記以外のお客さまについても、かんぽ生命支店社員が対象のお客さま
を訪問し、ご契約内容の確認を2020 年4 月末を目処に進めてまいります。
① 多数契約調査
区分 調査対象(定義) 対象契約者数
多数契約
過去5 年間で新規契約を10 件以上加入し、その3 割以上が消滅(解約、失効、減額または保険料払済契約への変更を指す。下表②において同じ。)したもの 約0.6 万人
(※)多数契約の調査対象となる契約者には、下表②でも調査対象となる契約者が含まれている(重複した契約者は多数契約の対象契約者数に計上)。


 私もこの調査方法について、最初はよく理解できなかった。常識的に、不祥事の調査をレベルごとに数回に分けて行うということはありえないと思っていたからだ。だが、よく読んでみるとどうも2段階に分けて調査するようにしか思えない。で、かんぽ生命のコールセンターに問い合わせると、やはり2段階で調査することがはっきりした。つまり、
① まず5年間に15件以上の新規契約者を対象に調査する。(2月末まで)
② 次に5年間に10件以上の新規契約者について調査する。(4月末まで)
「そういうことか」とかんぽ生命のコールセンターに尋ねたところ、「その通りです」との返事が返ってきた。「なぜ2段階に分けて調査する必要があるのか」と、さらに質問したが「私には分かりません」だった。ただ「わかりにくい説明だった」ことと「報道機関が混乱した原因が業務改善計画の説明にあった」ことは認めた。一応私は朝日に訂正記事の掲載を求めたこともあり、事実をお伝えした。朝日の「お客様オフィス」の担当者は「お分かりただいてよかったです」との返事があったので、「誤報とは言えないかもしれないが、少なくともかんぽ生命の2段階調査について②をねぐったのは正確な記事とは言えませんよ」とだけ申し上げておいた。
 それはともかく、かんぽ生命の2段階調査には、何か魂胆があるのではないかという疑問はぬぐえない。
 私も結婚して最初の子供が生まれたとき、かんぽ(当時は簡易保険)ではないが民間の生命保険会社の保険に加入した。万一に備えて当時の収入で保険料を払える可能な限り高額の補償の生命保険を選んだ。保証期間より補償額を優先したため、満期は55年と短いものにした。その後、収入も増え、生活も安定したので満期を65歳まで伸ばし、補償額も増加し、さらに入院補償もついた保険に切り替えた。私が途中で契約を変更したのは、この1回だけである。保険は自動車やテレビのような耐久消費財ではない。また保険商品も自動車やゴルフ・クラブのように定期的にモデルチェンジするような嗜好性の高い商品ではないはずだ。5年で10回も15回も保険を変更したり、あるいは新商品の保険に加入すること自体、常識的に考えられない。

 かんぽ生命の2段階調査の問題に戻る。まさか、かんぽ生命は1段階目の「5年間に新規契約15件以上」のケースの調査を完了したら営業活動を再開してもいいと考えているほど図々しくはないだろう。だとしたら、なぜ「15件以上」の調査を2月末までに済ませたうえで、「10件以上」の調査に取り掛かろうと考えたのいか。まさか、「15件以上」の調査は厳しくやるが、「10件以上」の調査は手抜きするつもりではあるまい。そんなことをしたら、かんぽ生命は永遠に回復不可能になる。朝日をはじめ、メディアはこの疑問をなぜかんぽ生命にぶつけなかったのか。あっ、そうか。そもそも調査を2段階に分けてやることに気づかなかったようだから、こうした疑問も生じようがないわな。
 さらに、かんぽ生命はこの2段階調査で不祥事問題に蓋を閉めるつもりなのか。そういう裏約束が政府との間でできているのだろうか。すでに述べたように、生命保険はそんなにしょっちゅう変更したりするものではない。少なくとも高齢者の場合、保険治療では賄えない高度先端医療が受けられるような入院保険・医療保険くらいしか加入する意味がないだろう。そう考えたら、少なくとも60歳以上の新規契約者については、たとえ1件の加入でも郵便局員による不正な勧誘がなかったか否かを徹底的に調査すべでではないだろうか。そこまでやらないと、かんぽ生命に対する国民の信頼は回復しない。
 そもそも郵便局員がなぜやくざのような詐欺まがいのやり方でかんぽ生命の保険を高齢者に売りまくったのか。メディアの報道によれば、被害者の大半は認知症か、認知能力がかなり低下している高齢者だという。実際、若い人だったら、そんな詐欺商法には引っかからないだろう。少なくとも5年以内に10件や15件もの新規契約をしたりは絶対しない。かといって郵便局が身元不審な人物を採用したりはしないはずだ。メディアは「ノルマに追われた」とか「パワハラに屈した」などと報道しているが、郵便局員やその上司がそこまで追い込まれた理由については追及していない。私は昨年8月にブログを書いた後、NHKや朝日に対しては情報を提供してきたが、私の分析理由を認めながら、なぜか報道に反映しない。実は、問題が生じた原因を簡単に書くと、小泉郵政改革の「負のレガシー」がかんぽ生命問題に集中的に表れたと私は考えている。
小泉総理(当時)が郵政民営化を進めようとしたとき、自民党内にはかなりの反対派がいた。衆院では僅差で郵政民営化法案はいったん可決したが、参院ではかなりの造反者が出て否決された。そのため小泉氏は衆院を解散、造反議員の選挙区には「刺客」候補者を擁立し、民営化について国民に信を問うという挙に出た。このとき、ほとんどのメディアは郵政民営化を支持し、衆院選でも賛成派が圧勝した。結果、「小泉一強体制」が確立し、参院の造反派議員も態度を豹変し、郵政民営化法案は一気に可決成立した。
この時期、まだスマホは誕生していない。スマホが郵便事業の大敵になることなど、だれも予想できなかった。民営化反対派議員も、特定郵便局の集票力を失うのが怖くて反対しただけだったから、メディアも反対派の肩を持つことはなかった。が、アップルがiPadに続いてiPhoneを世に送り出したことによって、文字による通信手段の主流は手紙やはがきから一気にメールに移行していく。郵便局にとって最もおいしい郵便商品の年賀はがきも、スマホが誕生して以降の10年間で34%も激減した。
民営化によって独立採算が義務付けられた日本郵便(郵便局)はたちまち窮地に追い込まれた。郵便局の営業商品は郵便物の集配、郵便貯金とその付随商品、そしてかんぽ生命の保険が基本である。とくにアベノミクスによって低金利政策が続き、前回のブログで書いたように金融機関は軒並み窮地に追い込まれている。そのためゆうちょ銀行の商品は魅力を失い、またスマホの普及によって郵便事業も赤字化するようになった。郵便局を維持するためには、ゆいつ儲かる商品であるかんぽ商品に頼らざるを得なくなったというわけだ。
実際、民営化先進国のヨーロッパの郵便局は日本のように金融商品や保険商品を扱っていないため、郵便料金を大幅に値上げしたり、集配回数を週に1回に減らしたりして合理化努力を重ねているが、それでも赤字状況を根本的に改善することはできず、国から補助してもらっている。そうした事情を勘案すると、日本の郵便局も「かんぽ商法」に頼らずに済むよう、郵便料金の大幅値上げと、特に地方では集配回数をヨーロッパのように激減するしかない。「地方の切り捨て」という批判も出るだろうが、過疎化が進む地方の住民の利便性を可能な限り確保するためには、例えば「移動スーパー」に郵便物の集配を委託するなどの工夫をするしかない。そうすれば週に2~3回は集配できる。みんな人間なんだから、そのくらいの頭は使ってほしい。
【追記】なお「移動スーパー」への委託について「信書の扱い」云々といった頭の固い批判が出ると思うので、あらかじめ言っておくが、郵便物の集配は正規雇用の局員だけが行っているわけではない。「移動スーパー」の運転手と集配郵便局がアルバイト契約すればいいし、それはダメというなら逆に郵便局がスーパーと契約して「移動スーパー」業務を請け負えば済む話だ。頭は生きているうちに使え。