「春を背負って」を観た。
原作とは舞台が異なり、エピソードも少し違う。父の死後都会で仕事をしていた一人息子が山小屋を継ぐ、という大筋は同じだが、原作の奥秩父・梓小屋は映画では立山の大汝小屋に変わっている。なお実際には大汝山山頂付近にあるのは休憩所で宿泊できる小屋ではない。
「剣岳 点の記」を作成した木村大作の映画だが、山岳映画としての迫力は「点の記」の方が上である。これは剣岳と立山(大汝山)の迫力の違いからくるものだろう。
山小屋を継ぐ長嶺亨(松山ケンイチ)は、亡父・勇夫(小林薫)に助けられた後山小屋の仕事を手伝うようになった高澤愛(蒼井優)や勇夫の山岳部の後輩・多田悟郎(豊川悦司)の助けを借りて山小屋の運営を行っていく。
亨・愛・悟郎それぞれ理由は違うが、いままでの街の暮らしに疲れた人たちだ。彼らが山小屋で一緒に仕事をしながら、家族のように絆を強めていくというのがこの映画のテーマだ。
「山は心の避難場所」であり「山小屋は心の重荷を下ろす場所」なのだ。
ディーラーとして多額の金を右から左に動かして浮利を得てきた亨はその仕事が空しく、山小屋の暮らしこそ本当の仕事だと感じ始める。
恐らくこの映画は山好き中高年が多く見に来る映画だろう。もし中高年(私を含めて)が主人公・亨たちに深く共感するとすれば、我々もまた長い人生の間背負ってきた荷物を降ろし、景色の良い峠でdeep breathingをしながら、ここにこそリアルな生活があったと感じ始めているからだろう。
山の映像としては目の前の剣岳はいうに及ばず、黒部渓谷を挟んで対峙する鹿島槍ヶ岳や針ノ木岳、そして黒部源流の山々やその向こうの槍ヶ岳が美しかった。
立山から薬師岳を超えて黒部五郎岳から槍ヶ岳へ歩いてみたくなる映画だった。