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ウクライナのクルスク侵攻を「孫子の兵法」から考えてみた

2024年08月15日 | ニュース
 先週(8月6日)にウクライナはロシアのクルスク州へ侵攻した。ウクライナは比較的容易に進撃し、国境を制圧した。ロシア国防省によるとウクライナ軍はロシア領内に30km侵攻した(アルジャジーラ8月12日)。
 ウクライナの突然のロシア領内侵攻については「意図不明」という報道が見られたが、アルジャジーラは「ウクライナの侵攻は戦争の力学を変えたのか?」という記事で、ウクライナの侵攻意図を推測している。
 その記事を「孫子の兵法」に照らし合わせながら読んでみた。
 
 退役戦闘機パイロットで軍事アナリストのSean Bell氏は「一つの理由は主導権を握る」ことだという。そして第二に「ロシアだけがこの戦争をコントロールしているのではなく、ウクライナも手綱を握っている」ことを示すことだという。
 またBell氏はウクライナの侵攻により、ロシアはドネツク州の前線から一部の部隊をクルスク州に振り向けたので、ドネツク戦線におけるウクライナのプレッシャーは軽減されたことになる。
 これは将棋でいえば、盤上を広く見渡し、駒と駒がぶつかり合っている激戦地での圧力を緩和するために、別方面から敵陣への攻撃を進めるようなものだろう。
 「孫子の兵法」から見ると、まずこれは虚実編(第六)の冒頭に出てくる「善く戦う者は、人に致して人に致されず」に該当する。この文章は戦争上手は、主導権を取り、自分の書いたシナリオの沿うように相手の行動を導くという意味だ。
 さらに言えば戦争の目的は個々の戦闘に勝つことではなく、外交目的を達成することにあるから、外交交渉でイニシアチブを確保するためには、戦争でも主導権を確保~すくなくとも完全に相手に奪われることがないように~することが肝心だ。
 また孫子は戦いは自国の領土内でやるべきではなく、敵地で展開するのが理想だと述べている(九地編)。なぜなら自国の領土で戦うと領土が荒廃するからだ。
 この点からもウクライナのクルスク侵攻は、孫子の兵法の理に適っているということができる。
 ただしである。ロシアが兵力を集結し、クルスクで占領された領土の奪回とウクライナ軍の殲滅を狙った大規模な攻撃を仕掛けるとこの方面のウクライナ軍の優位は転覆する可能性が高い。そしてウクライナは戦争の主導権と外交の主導権を失う可能性が高まる。
 ところで「孫子の兵法」は、相手国との戦力比較で第一に「道」をあげている。道とは大義名分だ。私はこの戦争はウクライナに大義名分があり、ロシアには大義名分はないと判断している。もっともロシア国民を含め、ロシアに大義ありという人もいるが。そして勝敗を決するの「道」だけでなく「天」「地」「将」などがあるので、実社会では大義名分がある方が勝つとは限らない。
 ゆえにこの時点でウクライナのクルスク侵攻が、ウクライナの主導権奪還につながるかどうかはまだ判断できないと私は考えている。
 
 
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