第11章 専制国家と民主国家
今、我々は分岐点に臨んでいる。少子化がミクロならこれは近未来世代に係るマクロの話なので大変重要だ。生みさえすれば国債のようにあとは「放っておけ」「それも人生だ」などとのんきなことを言っていられるツケにはできない。
新しい経済社会システムが待望される中で、専制国家が民主国家をその総数で凌駕しようとしている。我々は何を取捨選択するのか、或いは、何か新しいものや元あるものを刷新したものを創造することができるのか、そういったメインテーマへの解を問われている。
我々は自由の基に民主主義と資本主義を導入している。たとえば中国はといえば言論統制や身体拘束はあっても経済は全体主義セクターと資本主義セクターの折衷で100を成す構図であり、経済は基本潤っている。一方完全専制国家は独裁者の軍事政権下のもと左翼的経済システムで稼働させている。
疲弊した新自由主義の資本主義ならまだ中国のツーウェイセクターズの方が経済面ではましだとの声も聞こえてきそうだが、我々の社会経済システムは統一していなければならないので、自由を犠牲にした大きな富は意味をなさない。またなぜ今専制国家なのかも見逃せない情報である。
自由はこんにちでは民主主義と資本主義との三つ巴で成立していると自明の如く捉えられているが、果たしてその三つ巴の灯火も今はついえぬどもほの暗さに覆われてきているように思われる。民主主義と資本主義の決定的システムと違って自由は堅牢で抽象的な概念で捉えられる。また民主主義あらば従来の資本主義であり、資本主義あらば従来の民主主義であるとは、誰が決めつけられようか?そう考えてくると自由を旗頭にもっと自由に政治経済を考え直しても良いのではないかと昨今を俯瞰すると確信のように思えてならない。
その意味で、私は新しい思想哲学や理論を描き出す哲学者や経済学者を待望している。
ここで専制国家と民主国家について書かれた記事2本を引用しようと思う。有益であれと思う思索材料だ。
東洋経済ONLINE2021/06/30 7:30
イギリスでのG7サミット出席など初めての外遊を前にした6月初め、アメリカのバイデン大統領がワシントンポスト紙に寄稿した。それほど長くない記事の中でバイデン氏は中国への対抗心をあらわにしつつ、「民主主義の価値」「民主主義の可能性」「主要民主主義国の結束」など、民主主義という言葉を14回も使った。
こうしたバイデン大統領の意向が反映されたのであろう、G7サミットの共同宣言では民主主義や自由、平等、法の支配、人権の尊重など、民主主義国が共有する抽象的な理念や価値が繰り返し強調された。そして、「強靭な国際秩序は我々市民の安全と繁栄の最良の保証人である」とうたわれた。
それはあたかも7つの先進民主主義国の首脳が結束し、台頭著しい中国の権威主義や専制主義に立ち向かっていく決意表明でもあるかのようだった。
民主主義に対するバイデン氏の危機感
前任のトランプ大統領は自国中心主義を前面に打ち出し、ヨーロッパの主要国との同盟関係を傷つけ、国際社会を混乱に陥れた。それに対し、バイデン大統領は、昔からの同盟国との関係修復を図るとともに対中戦略の先頭に立って民主主義の価値を訴える。トランプ氏とは対照的に頼もしく、期待もできる大統領だ。少なからぬメディアがそんな描写をしている。
しかし、実態はそれほど単純ではない。バイデン大統領が民主主義の重要性を強調すればするほど、逆に現状に対する危機感がにじみ出てくる。
数ある政治体制の中で、民主主義は独裁や専制政治などに比べると、最もましなものであろう。第2次世界大戦後、植民地から解放された国を含め多くの国が民主主義のシステムを取り入れたのも、それだけ魅力があったからだ。
特に冷戦崩壊後は、ソ連を中核とする共産主義、社会主義に対して、西側諸国が標榜した民主主義と自由市場経済が勝ち残り、政治の主流になったと思われていた。ところが近年、現実の世界は逆転している。
2019年、スウェーデンの調査機関VーDemは、世界の民主主義国・地域が87カ国であるのに対し、非民主主義国は92カ国となり、18年ぶりに非民主主義国が多数派になったという報告を発表した。その後も民主主義が勢いを盛り返してはいないばかりか、権威主義国家の台頭ぶりが目立っている。
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日本経済新聞電子版2020年10月26日 7:00
2020年10月26日の日本経済新聞朝刊1面に「民主主義 少数派に」という記事がありました。18年ぶりに非民主主義国家が民主主義国家を上回りました。世界中で非民主主義に逆戻りする国・地域が相次いでおり、新型コロナウイルス禍がその動きに拍車をかけています。なぜ世界で民主主義が衰退しているのでしょうか。
欧州連合(EU)は9月にまとめた報告書で「司法の独立に深刻な懸念が生じている」と述べ、ハンガリーに厳しい視線を向けました。オルバン政権誕生以降、憲法改正などで政権寄りの裁判官を増やすといった強権を発動、2018年に非民主主義国家に逆戻りしたからです。
民主主義を揺らすのは低成長の経済と富の集中です。ハンガリーがEUに加盟したのは04年ですが、今も賃金水準はEU平均の3分の1。「民主化すれば豊かになれる」という夢はかなっていません。そうした行き場のない不安を取り込み、強権体制に転じる国・地域が増えています。20年に民主国家に暮らす人は世界の46%と、世界の多数派は非民主国家になりました。民主化でより自由になったはずの市民が無力を味わう構図は「自由民主主義のパラドックス」と呼ばれています。
このパラドックスのさなかにいるのが約1週間後に大統領選を控える米国です。トランプ氏の大統領就任以降、強権体制を強めてきた覇権国家の行方に世界が注目しています。先行きの見えない不安を抱えるのは日本も同じです。世界の動向を見つめながら、その不安とどう向き合うか一人ひとりが考えることが大切です。