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ボタン付けとコートのカスタム、結婚したらとラストに言われたこと

2021-03-29 11:36:31 | 二次小説

 ボタン、取れかかっていますよ、彼女の言葉に視線を落とす、確かに白衣の真ん中の胸ボタンがゆるくなっている、まあ、今日一日ぐらいは大丈夫だろうと思っていると、付け直しますと行って針と糸を持って、そのままじっとしていてくださいと声をかけてきた。
  脱がなくてもいいですから、イスに座ると、素早く自分の隣に座って針に糸を動かす、器用なものだと感心すると同時に自分でやらずにすんで良かったとマルコーは、内心ほっとした。
 料理や簡単な掃除はできても裁縫は正直、得意とはいいがたい、得手不得手というものは人間誰しもあるが、裁縫は、その中でも特にといってもいい。
 
 「ありがとう、助かったよ」
 
 そのときドアが開き、ひまーっと女の声が響いた、入ってきたのはラストとスカーだ。
 
 あら、お邪魔だったかしらというラストだが、ボタンつけてただけよという言葉に、何を思ったのか部屋から慌てて出て行った、そして戻って着たときには、これ、お願いとばかりにスカートやシャツを山ほど抱えてきた。
 
 「何、これ、まさか、やれと」
 
 「いいじゃない、あっ、スカート丈は少し詰めて」
 
 「自分で」
 
 「裁縫は駄目、ホムンクルスにも得手不得手があるのよ、それともドクター、マルコーだけ、依怙贔屓ってやつ、ほら、貴方も出しなさいよ、コートのボタン、とれかかっていたでしょ」
 
 そういってラストは隣の大男、スカーの体を肘で突いた。
 
 「あっ、ボタンの糸がゆるくじゃなくて太ったんだったわね、やだわー、ボタン、全部付け替えた方がいいんじゃない、ほほほーっ」
 
 その言葉に、むっとした顔になったスカーだが、美女は気にする様子もない。

 袖口がすり切れている、だけじゃない裾もだよ、それに、背中の部分を障ってみると中に綿が入っているのかもしれないが薄い、せんべい布団みたいで、こんなコートを着ていて寒くないのだろうかと思ってしまう。
 まあ、筋肉の塊が服を着ているような感じだから、もしかして寒さなんか感じないのかもしれない、だが、これではあんまりだと思ったが、このとき、山のように積まれた女物(ラスト)の服が目にとまった。
 
 「これ、ばらしてもいい」
 
 女物のコートというのは防寒もだが、体の線を綺麗に出す為に素材も薄く軽く、結構質のいい物を使っている、中綿を使うのよと行ってコートの裏地をほどいて中身を引っ張り出して、スカーの大きなコートに詰めはじめた、適当に型を取って詰めて止めるだけなので手間も時間もかからない。
 
 「それ、まだ二回しか着てないんだけど、まあ、いいわ、好みじゃなかったし」
 
 結構いいコートだと思うのだが、高かったんでしょというと男からプレゼントされたものだから値段は忘れたと言われて、はあっという顔になった、その人とは今でもお付き合いが続いているのかと聞いたら、当然、別れたわと、当たり前のような返事だ。
 
 まあ、相手の男は気の毒としか言いようがないが、コートは役に立ったのだからいいことにしようと思いながらふと、この時気づいた。
 
 「先生のコート、見せてください」
 
 女なら破れたり、ほつれに気づいたりしたら、その時点で直したり修理に出したりするのだろうが、怪我人、病人もいないし、暇だから、ついでにカスタムしてしまおう。
 
 
 
 先生はどうですと聞かれてマルコーは羽織ったコートが軽い事に気づいた。
 
 「腕周りとか動かしづらくありませんか」
 
 「ああ、大丈夫だ、背中が以前より温かい気がするが、それに軽い」
 
 「彼女のコートの中綿を使ったからです、殆ど着てないから、新品同様ですよ」
 
 「だったら新しいコート買ってくれない」
 
 ラストの言葉に、その男に、また買って貰ったらというと、むっとした顔になった、多分、いい別れ方ではないのだろう、目が疲れたなあとごろりと床に寝転がると、冷えるからと言われてしまった。

 仕方ない、医療用のベッドにごろんと寝転ぶとお茶にしようかといわれてしまった。
 
 「甘い物がいいだろう」
 
 「ココアにミルクと砂糖を少し多めで」
 
 「あっ、あたしも、傷男は珈琲でいいのよね」
 
 三人でお茶を飲んでいるとラストが呟いた。
 
 「結構うまくできてるわよ、コートのカスタム」
 
 褒めてくれるのは嬉しいが、これは他の服もなんて言われそうで黙っていた。
 
 「医者の助手より、路線変更した方がいいんじゃない」
 
 どこに、路線変更なんて今更キツイと思いつつ、手渡されたココアを飲もうとすると、ラストはにやりと笑ってマルコーを見た。


    いいんじゃない、もう、結婚しても」