読む、書くの雑多な日々、気まぐれな日常

好きなこと、雑多な日々、小説などを色々と書いていきます

花占いとか、お迎え、色々と

2020-09-19 22:47:56 | 日記

 昼を過ぎてしまった、先生は来てくれるとキンブリーさんは言っていたけど、段々と不安になってきた、窓際の花瓶の花を一本抜き取った、そして花びらを一枚ずつむしる。
 先生は来てくれる、いや、来てくれない、途中で帰った、帰ってない、最後の一枚になった。
  「来てくれない」
  駄目だ。人生の終着地点が、すぐ、そこに迫っている。
 来るといっても数日はかかるらしいのだが、マイナス思考なことはかり頭の中をぐるぐるだ。
 このまま、野の花みたいに枯れてしまいたいなどと考えてしまう。
 時計を見ると三時、世間ではアフタヌーン、おやつの時間だ、もし、ここが軍の施設でなくて先生の家なら、シフォン、カップケーキ、クランペット、バターたっぷりの焼き菓子を食べているところだろう。
 あのスカーでさえ、先生の作る菓子、料理も残さずに完食、お代わりもする、ちょっと図々しいんじゃないのと思うが、居候の自分が遠慮しろなんて文句は言えない。
 仕事が休みだから先生のところに泊まっているのは、食べ物、食事か美味しい事も関係しているのかもなんて事を思ってしまう。
 
 もう、寝よう、外は明るいけど、今の自分は無気力の駄目人間、そう言われても仕方ない、壁際に寝返りをうって世間様から背中を向けてたとき、ドアをノックする音がした。
 入りますよとキンブリーさんの声がした。
 「こちらです、先生」
 思わず、起き上がろうとしたが、ずっと寝てばかりだったので足がしびれてベッドからずり落ちてしまった。
 
 「大丈夫かね」
 マルコーさんの声に、わずかに上半身を起こして両手を伸ばして抱きついた、ほっとしたという安心感、とにかく腕に力を込めて抱きついたが。
 「く、苦しいっ、首がっ」
 その声に慌てて体を離す、ごめんなさいと謝るが、顔をまともに見る事ができない、もしかしたら来てくれないかもと思った自分の顔面を平手打ちどころか、殴ってしまいたい。
 (先生は、ちゃんと来てくれた)
 食べなさいと言われて目の前に置かれたバスケットを見ると中には色々な焼き菓子が沢山詰まっていた、シフォン、クランペット、マフィン、ショートブレッドまである、思わず食べたいと思ったが、何故か、手が出せない。
 「これは最後の晩餐ですか、先生」
 仕事を休んで、ここまで来て迷惑千万賭けまくりだ、声が段々と小さくなっていく、そんな彼女にマルコーは困惑した、何故、そこまでマイナス思考になるのか分からなかったからだ。
 「もしかして、何か言われたのかね、誰かに」
 女の肩の震えが、硬直したような感じで呟きも止まった。
 彼女が正式な助手になったと知ったとき、村の人間は喜んでいた、もしかしたら、中には専門の知識がないのにと思う人間もいたかもしれない、だが、そのこともきちんと説明した。
 ふと、視線を感じて振り返ると後ろにいたスカーと目が合った、その瞬間、無言で男は目を逸らした。
 (その顔、もしかして、何か言ったのか、君は)
 二人の態度に気づいたのか、そばにいたキンブリーも視線をスカーに向けた。
 とにかく気持ちを前向きにさせなければとマルコーは食べなさいと声をかけた 
 「おまえさんの面倒は私がみると村の皆には言ってある、そうだ、帰ったらシチューを作ろう、クリーム、ビーフがいいかな」
 マルコーの言葉に気持ちが緩み、クリームと呟く、芋と人参をたくさんというリクエストも忘れないのは女性ならではの、お約束という奴だ。

 「先生、今夜の宿はお決まりですか」
 キンブリーさんの問いかけに先生は宿を取るつもりだと言う、そんな会話を菓子を食べながら食べながら聞いていた。
 「少し、この街でゆっくりして、汽車で帰るつもりだ、最近は忙しかったし、丁度いいタイミングだと思ってね」
 「そうですか、どうせなら、ここより離れたところのホテルや宿の方がいいかもしれませんね、ねえっ、大佐」
 そのときまで、ドアの前に立っている男の存在に初めて気づいた。
 「その方が彼女も安心してぐっすりと眠れるというものです」
 「キンブリーッ、貴様」
 「私の中の正義の心とでもいうのでしょうか」
 ぐっと言葉に詰まったマスタングは唸った。
 (悪党面のくせに、よく、そんな台詞が平気な顔で)
 
 「私は敷地内の見回りをだな」
 「大佐、覗きは犯罪です、ついでにスリーサイズの」
 「れっ、連呼するんじゃない、それにサイズはまだ、未確認だ」
 大佐=覗きは確定となり、部屋の中は、しんとなった。

 そうか、軍の施設に保護されたのか、それなら大丈夫だろうとリン・ヤオは、ほっとした。
 皇帝という立場になり即位したが、生来の気質は抜けるものではなく、暇な時間を作っては国内、外を問わず行ってくると言い残してふらりと旅に出たりしている。
 まだ国は完全に立ち直ったとは言えない、だが、諸外国の事も気になる、それに友人や知人に会いたいと思い、今回は少し、まとまった休みを取ることにしたのだ。
 即位する前とは違い、何も言わずに出て行くことははばかられたので、従者のランファンにだけは、少し出かけてくると言って出たのだ、ところが、彼女はこっそりとついて来た、それが分かったのは城を出て三日目のことだった。
 そして、途中で盗賊、いや、盗人の集団に出くわしたのだ。
 
 食べ物だけではない金目の物、宝石だけではなく、誘拐されたのか、女までいた事には驚いた、しかも、ずっと眠ったままだ。
 リン・ヤオは不安になった、シン国には独自の療法もあり、治療を受けに他の国から来る人間も少なくない、薬、気の流れを変える術を施して見ても女は目が覚めない、死んでいる訳ではない、ただ、こんこんと眠り続けているのだ。
 「外国の者かもしれませんな」
 医師はリンに説明した。
   
イシュヴァールの診療所へ帰るのではなく数日、この街のホテルで止まって、それからゆっくりと帰ろうということになった。
 また、気を遣わせて、おまけに余計な出費まで出させてしまった、内心、がっくりとした美夜だったが、マルコーの言葉に、こうなったら甘えようと決心した、診療所に帰ったら、掃除、家周りの草むしり、窓の隙間風を塞いで、とにかく役に立つところを見せなければと思った。
 
 そろそろ帰り自宅の準備をしようと思ったとき、また訪問者が現れた、青年と若い娘、二人よりも歳上らしき男性の三人だ。
 リン・ヤオは女の姿を見ると安心した表情で、誘拐されたときの事を話し始めた、誘拐に最初に気づいたのはシャオメイという女性らしい。
 眠り続けて目が覚めない事に困り、軍の施設なら医療設備も揃っているということで、ここに運ばれたらしい。
 話を聞いて、そうなんだと思ったが、今は、こうして目が覚めているし、さっきまでは焼き菓子もバクバク食べていたので至って問題ナシだ。
 ありがとうございますと三人に礼を言った美夜だった、ところが。
 「あなたはシン国の聖人、我々の国にお迎えしたいと思います」
 男が深々と頭を下げ、にっこりと笑みを浮かべたが美夜は思った、気持ち悪いと。
 
 
 「シン国の聖人、まさか、ここで、それを聞くとは思いませんでしたね」
 それはキンブリーの声だ、男に向かって、あなた、シン国の方ですかと尋ねた。
 「私、以前、尋ねた事がありましてね、地図にも載らないような小さな集落でした」
 男の顔、目が驚きに見開かれた。
 「シン国の中にあって、あそこはそうではない、そして、聖人という呼び方はしない」
 「な、何が言いたい、何故、そんな事を知って」
 男の声がわずかに震える。
 「向こうから来た人を彼らは石と呼ぶらしい、個人を、人だと分からないように、いるんですよ、あなたのような人間が」
 このとき男は、はっとしたようにキンブリーを見た。
 「れ、錬金術師か、おまえ」
 「先生もですよ、結晶の錬金術師と呼ばれています」
 男はマルコーを、キンブリーを見た、溢れそうになる感情を抑え込もうとするようだ。
 「何故だ、お、おまえ達、錬金術師だけが恩恵を受け、そんな事が許されると」
 
 一体、何がどうなっているのか分からない、キンブリーのやりとりを部屋の中の全員が見ていた。
 「傷の男、その人を捕まえてください、迎えが来ます、シン国から、二度と外には出られない、あなたには彼らが罰を下すでしょうから」
 「な、何故だ」
 
 このとき女、美夜が初めて口を開いた、自分を誘拐したのは、あなたかと。
 
 男の顔に絶望の色が、はっきりと浮かんだ。
 
 

 


誘拐、覗き、でも最後は見つかったのでよしとする、ヒロインの受難

2020-09-15 19:13:23 | 二次小説

 今日は先生がシチューを作ってくれるって言ってたから、早く帰ろうと思っていた。
 村を出て、診療所までの帰り道、声をかけられた、だが、そこで途切れてしまった。
 
 目を開けると知らない部屋だ、起き上がろうとしたが全身がだるい、背中だけではない、全身が痛む事に気づいて、何故と思い、思い出そうとして視線を感じた。
 視線を向けると白いスーツの男が立っていた、見たことがある人物だ、診療所にやってきた男だ、確か名前は金曜日じゃない、そうだ、ブ、ブリトーは、メキシコ料理じゃなくて。
 「キ、キンブリーさん」
 名前を呼ばれて男は驚いた顔になったが、女は言葉を続けた。
 「美夜です、以前、マルコー先生のところで会った」
 知っている人間に会えたというだけでほっとしてしまう、だが、落ち着いてくださいねと言われ、サイドテーブルの引き出しから取り出した手鏡を渡された。
 見てください、そう言われて鏡を見る、そこに映っているのは白髪、真っ白な髪をした自分だ、否変わっているのは髪だけでは。
 思わず、漫画、ベルサイユの○ラ、牢獄に入れられて一晩で白髪になったフランス女王を思い出してた、しかも髪が伸びているって、普通は、反対ではないか。
 男が説明する、誘拐されたんですよと、その誘拐という言葉がすぐには理解できなかった。
 部屋の中は壁もカーテンも白くて病室のようだ、誘拐と言われて思い出そうとした、マッサージが終わって家に帰ろうとしたとき、声をかけられ、道を聞かれた。
 自分は村の中しか、外、余所のことは、あまり知らないと、その後、どうなった。
 「よく、思い出せないんですけど」
  「薬で眠らされていたようです、髪の色が変わったのも、そのせいかもしれません」
 話を聞いていても、そうですかと頷くしかない。
 「あなたが、ここへ運ばれてきて一週間がたちますから」
 いっ、一週間って、えっ、冗談では、だが、本当らしかった。
 
 「先生、お久しぶりです」
 電話の向こうから聞こえてくるキンブリーの声にマルコーは驚いた。
 「何の用だね」
 「おや、声に元気がありませんね、何かありましたか、医者が、そんな様子では患者も不安を感じませんか」
 この数日よく眠れていないのは確かだ、それというのも彼女、美夜が帰ってこないからだ。
 行方不明ということで届けも出した、だが、それを電話の相手に説明するつもりはなかった。
 「用がないなら切る、こっちも暇ではないんでね」
 人を苛つかせる事に関して、この男はどうして、こうもたけているんだろうとマルコーは、内心、むっとした。
 「ところで、見つかりましたか、美夜さんでしたか、助手の彼女は」
 思わず受話器を落としそうになった。
 「しばらく前に軍の医療室に運ばれてきましてね、昏睡状態というか、ずっと眠り続けていたんですが、今は目が覚めて」
 キンブリーの話を、マルコーはじっと聞いていた、よかった、無事だった。
 「こちらに来てくださいますよね、食事も殆ど取らないんです、今日の昼には着くはずです、大佐が迎えに行きますよ」
 
 受話器を置いたキンブリーは、これで一つ片付いたと、ほっとした。
 それにしてもと思う、人間恐怖やショックがあれば髪の色が変わるというのは聞いた事がある、だが顔を変えるなどは。
 イシュヴアールの再建は簡単ではないようで、最近になって誘拐、人身売買という事件も起きている、中には憂さ晴らしなのか、女を犯してなぶり殺すという連中もいるらしい。
 彼女は運が良かった、本当に。
 
 自分が一週間も眠っていたなんて、先生は心配して、もしかして居候がいなくなってせいせいしているとか、いや、マルコーさんは、そんな薄情な人じゃない、というか、思いたい。
 頼れる人がいないというのは、こんなにも心細いだなんて、もし、ここが日本なら、自分のアパートなら、困ったり、何かあれば連絡する事ができた、自分の母親、祐子さんに、だが、ここでは頼れる人間はいない、いたとしても一人だ。

 夕食が運ばれてきたが食べることができない、というか食欲が沸かない、せめて喉だけは潤しておこうと思ってお茶だけは口にする。
 キンブリーさんに頼んでマルコーさんに来て貰えないだろうか、でも診療所の仕事がある。
 ここから診療所は離れているような事を言っていた、数日かかると。
 
 もう寝よう、時計を見ると真夜中を過ぎている、朝になったら先生に電話を、そんな事を考えたが、大事な事に気づいた。
 番号を、電話番号を知らないのだ、いや、医者という仕事をしているんだから電話帳に載っているだろうと思い、寝ようと思って、ふと窓の外を見た。
 窓を何かがよぎった、見間違いかと思ったが、気配とかすかな音が聞こえた。

 大声を出すべきなのか、だが、もし、入ってきたら、そろりそろり、ゆっくりとベッドから出ようとしたが、足が強ばって、つまずき、膝か、かっくんとなってしまった。
 ドアに向かって、ゆっくりと歩くとドアノブに手をかけて音を立てないように静かにドアを開けた。

 廊下に出て人を呼ぼうと思ったとき、足音がした、こわごわと振り返ると、そこにはキンブリーがいだ。
 「ま、窓から、何か、誰か、覗いてっ」
 緊張と驚き、安堵したせいか、言葉が切れ切れになってしまう。
 「医務室ですな、ここで待っていてください」
 「で、でも」
 「すぐに戻ってきますから」

 医務室に入り、窓を開けて外を見る、彼女の見間違い、気のせいということもある、勿論、誰かがいたとしても、とっくに立ち去っているだろう、だが。
 窓の下で何かが光っている、小さな、確かめようと外に出て拾い上げた彼は思わず、にやりとした笑みを浮かべた。
 
 「こんな時間までお仕事ですか、大佐」
 深夜過ぎ、部屋に入ってきたキンブリーをマスタングは睨みつけた。
 「忘れ物ですよ」
 キンブリーは机の上に、それを置いた、窓の下で拾ったのはボタンだ。
 「おや、これをどこで、いや、探していたんだよ」
 マスタングは手を伸ばした、すると、待ってくださいとキンブリーは止めた。
 「あなた、何やってんです、変質者ですか」
 「なっ、何のことだか」
 軽蔑のまなざしでキンブリーは相手を見た。
 「い、いや、誤解だ」
 「ここは一階ですよ」
 揚げ足を取るなとマスタングは、顰め面になった。
 「どんな女性かと気になって、ただ顔を見ようと」
 「先生の助手ですよ」
 マスタングは、えっという顔になった、別人のような、容姿だったぞと言葉を続けるが、キンブリーの視線、マスタングを呆れたように見る目は変わらなかった。。
 
 「見つかったのか」
 受話器を置いたマルコーは頷いた、軍の施設に保護されているらしいと聞いてスカーは何故という顔になった。
 「詳しい事は大佐が話してくれるそうだ、こちらに向かっているらしい」
 スカーは疑問だらけの顔になったか、詳しい事は分からないとマルコーは首を振り台所に向かった、もうすぐ昼になる、準備だけはしておかなければと思ったのだ。
 
 「ドクター・マルコー先生、迎えに来ました、さあ、乗ってください」
 「大丈夫かね、ここまで、運転は大変だったろう、少し休んで」
 「何をいうんです、彼女が待っています、一刻も早く」
 そんな大声で叫ぶように言わなくてもと思いながら、マルコーとカスカーが乗り込むと、走り出したジープは規定速度は完全無視だ。

 ジープに乗り込んだマスタングは事情を説明し始めた、最近は田舎でも泥棒、盗人が出ていると、臓器やキメラ、人体実験の為に、家族や身内のいない人間はターゲットになるらしい。
 写真を渡されたマルコーとスカーは、びっくりしたというよりは驚いて言葉が出なかった。
 「薬で髪の色を変えられた可能性があります、よくある手ですから」
 
  


日にち薬と初のフェイスマッサージ (マルコー、慌てる)

2020-09-12 14:39:05 | 二次小説

自分は死んでるみたいです、あまり重くならないようにあっさりとした感じで言ったつもりだった、だが、二人の男達の顔は、なんともいえないものがある。
 泣いて大きな声を上げたりすればらしく見えるのかもしれないけど、正直、実感というもがなかった、ただ、少しだけ、ほっとしている自分がいた。
 家族、祐子さんにイシュヴァールという国で生きている、親切な人に助けられてと説明しなくてすむ、そんな事を思った自分に面倒くさがりで薄情な性格なんだと呆れてしまった。
 
 「先生、手を出してください」
 だが、マルコーサンは意味が分からないみたいで構わず両手を握った、というよりはがっしりと掴んだ、自分がもし死んだというなら、周りだってそうかもしれないと思ったからだ。
 だが、違う、自分は生きた人間の手を握っている。
 「ご飯は食べるしトイレに行くし、風呂にも入って眠るし、あたし生きてますよね」
 驚いた顔をするが、先生は頷いた、勿論だと言ってくれた。
 世の中には不思議なこと、理解できないこと、現実でもたくさんあったと思い出した。
 だけど、今、自噴のいる世界、現実はここだ。
 「マルコーさん、キスしてください」
 男の顔がくしゃりと歪む、何を言い出すのかといいたげに。
 「冗談です、ははは」
 自分は笑える、咄嗟に冗談も言える、大丈夫、両足は地に着いている実感できる、だけど、その夜、寝ながら鼻水を啜ってティッシュを大量に消費して寝てしまった。
 
 その朝、村の老人、足腰の辛い人に来てくれといわれているので出かけてきます、昼は過ぎると思いますと出かけた女の後ろ姿にスガーが言った、あれが落ち込んでいた人間かと。
 「あれはカラ元気というやつだ、夜も何度か起きてるみたいだ、眠れていないみたいだな」
 「そう、なのか」
 やはり気づいてなかったのかとマルコーは頷いた。
 「ハーブティーでも用意するか、カモミールがいいな」
 戸棚を、ごそごそと探していたが、きらしてしまったかとマルコーは残念そうに呟いた。
 「ハーブ、カモミール?」
 「眠りが浅いときにはいいんだよ、薬などよりは優しいし、女性の体だからな」
 「そうなのか」
 「ああ、まあ、あとは日にち薬、時間が必要だな」
 
 「ありがとうよ、ミヤ、はい、これ、少ないけど」
 「いえ、ありがとうございます」
 金を取るようになってから、なんとなく手が抜けないと思って時間もかけるようになった、最近になって知ったが、街でもこういう商売、マッサージとかかはあるらしい、医療には入らないらしく、免許が無いと駄目という訳ではないらしく、これはグレーゾーンなんだろうなあと思いながら外に出ようとすると女が呼び止めた。
 「忘れてたよ、これ、前、欲しがっていただろ」
 茶色の小瓶を差し出された。
 「この間、行商人が来てね、シン国の人間なんだよ」
 思わず笑顔で受け取ったミヤは疲れも吹き飛んだ気がした、瓶り蓋をわずかに開けて匂いを嗅ぐと、甘い匂いがする、もしかしてラベンダーと女に聞く。
 「ああ、その人も驚いてたよ、イシュヴァールで欲しいという人がいるなんてびっくりだって」
 シン国は日本と似たところがあるのかもしれないと思いながら外に出ると、おいと声をかけられた。
 
 「スカーさん」
 
 サングラスをかけて、大型バイクに跨がって、正義の味方じゃなくてアメコミに出てくる未来の悪役だと思っていると乗れと言われてしまった。
 「いえ、もう一件、それが終わってから帰ります」
 すると、待っていると言われて驚いた。
 
 外に出ると本当に待っていてくれた、びっくりしたよ、もしかして先生、マルコーさんに言われたのかと聞くが、無言だ、気を悪くしたと思っていると。
 「いいか、これだけは言っておく、マルコーを騙すな、何かあったら許さん」
 怖い目で睨みつけてくるので正直、驚いた、何を言い出すのか、だけど考えてみたら知り合いが危惧するのも当たり前かと思ってしまった。
 マルコーさんは、いい人すぎる。
 「そんな事しませんよ、好きなんですから」
 ここはきっぱり、はっきりと伝えておかないと駄目だと思い、断定するようにいうとスカーさん驚いた顔になった。
 変な事を言っただろうかと思ったけど、ここは外国というイメージだ、だから、はい、いいえ、好き、嫌いは伝えておくべきかと思ったのだ。
 「スカーさんの事も好きです、先生のご友人ですし」
 今日で一週間になるが、居候状態でも先生は気にしていないので付き合いも長そうだし、信頼もあるのだろう、今まで必要最低限の会話しかなかったけど言っておいたほうがいいだろう。
 
 砂に水が染みこむようにというのは、まさに、これだ、乾燥しているなんて言葉では足りないわというぐらい、マルコーさんの顔はぐんぐんとオイルを吸収している。
 顔全体の皮膚が怪我、火傷跡みたいに引きつれたみたいになっているので、寒くて空気が乾燥したときは、バリバリに強ばってしまうんではないだろうか。
 顔のマッサージをしますと言ったときは断られた、けど、オイルマッサージというのは自分のいたところて男女、関係なく行っていたし、効果があるなら村の女性にも、いわば最初の実験ですと言って強引にやらせてもらう事にしたのだ。
 ホットタオルで顔を拭いて両手にオイルを馴染ませて、顔全体をぐりぐりと触っているのだけど楽しくなってきた。
 友人にやってあげたとき、極楽、幸せー、天国にいるみたいーと、男女関係なく言ってたなあと思い出した。
 襟元のボタンを外して首に触れると堅い、いや、張っているという首周りも堅い、医者は大変だなあと思ってしまった、体力だけでなく、気力とか、精神的にもと思ってしまった。
 だから、婚活女子は医者、弁護士とかを狙うんだ、そんな事を思いながらそばで見ているスカーさんに声をかけた。
 「後でスカーさんもやりますから、オイルあるし」
 「いや、遠慮する」
 即答だった。
 
  顔を洗うとき冷たい水でも痛くないとマルコーさんの言葉にほっとした。
 オイルはシン国の行商人から買ったと言ってたけど、だったら、そこに行けば手に入るんだろうかと思ってしまった。
 シン国は遠いんだろうかと思って聞くと徒歩と交通機関を使えば三日ぐらいで行けると聞いて考えてしまった。
 スカーさんのバイクに乗せてもらえばと思ったが、いつまでここに居るのか分からないし、それほど親しくもないのに乗せて連れて行ってくれとは、さすがに言えない。
 うーん、こうなったらマッサージでお金を稼いで旅費を作る、いや、村で自転車を借りてヒッチハイクという手もあるのではと考えた。
 目を開ける事ができないのは恥ずかしいからだ、何事にも初めていうのはあるが、まさか、この歳になって自分の顔を触られるとは思わなかったとマルコーは、ただじっとしていた。
 最初は緊張して、だが、時間がたつうちに段々と顔が熱くなってきた、血の流れが良くなってきているのだろう、初めて背中を触られたときもだ、正直、悪くない気分だ。
 「寝てていいですよ」
 彼女は笑っているなと思った、声からもだが、いや、指先からも感情が伝わってくるような気がしたからだ。
 
 溶けてるというか、無防備といってもいいくらい、されるがままの男の顔というのは見ていて、うーん、これはなんだろうと思ってしまう。
 普通なら赤の他人で年上の男性は、こんなことはさせてくれない、笑いたくなってきた。
 「寝てていいですよ」
 返事は小さくてよく聞こえないが、多分、寝落ちしかけているんだろうと思ってしまった。
 (可愛い、いや、男性に失礼か)
 言葉に出したら否定されるだろう、だから、言わないことにした。
 
 
 
 


生牡蠣と自分の訃報を聞いたのは夕食後の事だった 

2020-09-10 00:15:24 | 二次小説

相談事はなかったことにしてくれないか、わざわざ来てくれてすまないという言葉を男は黙ったまま聞いていた、元々、無口な性格だと分かっているのでマルコーは気にする様子もなく、目の前のカップを手に取り口をつけた。
 
 「女の身元はわかっているのか、最近、他国からの移民も増えている、犯罪者もだ、暴動を起こそうとする輩に男も女も関係ない」
 「疑っているのか」
 「勘ぐりたくはないが、おまえの人の良さにつけ込んでいるとも考えられる、色仕掛けで籠絡されたとかいうんじゃないだろうな」
 「馬鹿な事を言わないでくれ、スカー」
 まさか、この男までそんな事を言い出すとは思ってもみなかったと呆れてしまった、こうなったら事実を説明するしかない。
 最初から説明したほうが納得するだろうとマルコーは話し始めた。
 
 「日本、聞いた事がないな」
 「周りを海に囲まれた小さな島国だと言っていた、周りにはアメリカ、中国、ヨーロッパか、とにかく聞いた事のない国の名前ばかりだ、嘘にしてはあまりにも」
 「東、か」
 スカーは無言になった後、迷い人かもしれんと呟いた。
 「シン国の昔話みたいなものだ、賢者の縁の者だという説もある、閉鎖的な土地で受け入れられたのは、そのせいもあるのかもしれんがな」
 賢者、今ではその正体はホーエンハイムと、その縁の者だったのではないかと言われているが、正直、それが真実なのか分からない部分もある。
 錬金術を知らない土地では賢者の存在は神のような存在として語られる事もあるからだ。
 「それで助手として住まわせるのか」
  「そのつもりだが」
  「トラブルに巻き込まれたら、どうするつもりだ」
  今まで何もなかったからといって、これから先、何も無いとは限らないという言葉に、マルコーは確かにと頷き、スカーの顔を見ると小声で呟いた。
  「今、突き放して見捨てたら、私は自分を責めてしまう」
  人がいいのもほどがある、だが、自分が何かを言ったところで、目の前の男の答えは出ているのではないかと思った、気が弱く、小心者もの姿勢の人間に近いが、ここぞというときは頑として譲らないところもある。 
 「まあ、何かあれば手を貸すが」
  

 今日の夕飯は何にしようと考えて店を見て回る、日本の食材もあれば、どうやって食べるんだろうというものもある。
 だが、ある店で貝を見つけたとき、思わず足を止めた。牡蠣そっくりだ、高いんだろうなあと思いつつも店主に声をかけると相手は驚いた顔になった。
 「試しに仕入れてみたんだが、ここらじゃな、どうだい、安くしとくぜ」
  生で食べられるという言葉を聞いたからには即決しかない。
 (祐子さんも好きだったな、今頃は)

 やっと家族として暮らすことができると言われたときは驚いた、あと少しで大人、世間でいう成人式が目前の歳になるのに自分を引き取ると言い出した。
 バイトの期限、アパートの更新、色々な事が重なって、この時は多分、自分はどうしようもなく途方に暮れていたんだと思う。
 
 その日、予約したからねと言われて連れて行かれたのはレストランには、あまり人がいなかった、店内は綺麗で装飾とか素敵なのに、流行っていないのだろうかと思ったけど、後で聞くととても人気のある店で予約を取るのも大変と聞いて驚いた。
 
 「うー、生牡蠣か、苦手だわ」
 顔をしかめるが、牡蠣って栄養があるよと言ったら分かってると苦笑いする、突然、祐子さんは食べさせてと口を開けた、大人が何を言い出すのかと思ったけど、仕方ないなあと思いながら一つ手に取って、口元まで運んであげた、それは嘘だったと後になってわかった、緊張している娘となった自分の気分をほぐそうとしてくれたらしい。
 「何、娘に甘えてんのよ」
 店のウェイターの呆れたような言葉が忘れられない。
 甘えているのは自分、だが、もう、甘えてくれる彼女には会えない、そんな気がした。
 
 

 帰ってきたマルコーの後ろには数日前に尋ねてきた、大柄な褐色の肌の男がいた。
 仕事で来ているのでしばらく滞在する事になると聞いて頷く彼女は食事ができているからと、声をかけたまではよかったのだ。
 
 テーブルの上に並んでいるのは普段通りのものだ、パンにスープ、だが、真ん中の大皿に盛られたものは見慣れない食べ物だ。
 「市場で見つけたんですけど、誰も買わないから安く売って貰えたんですよ、新鮮だから大丈夫です」
 女は嬉しそうな顔だ、だが。
 「貝なのか、これは、もしかして生か」
 女は殻ごと持ち上げると、こうして食べるんですと実だけを、するりと飲み込んだ、だが、そんな姿を男二人は無言のまま、見ているだけだ。
 「もしかして食べたことないんですか、スカーさんも」
 「海が近ければ食べる機会もあるんだろうが」
 マルコーの言葉からは、できれば遠慮したいという感じが伝わってくる、だが、大皿を一人では食べきれない、そんな彼女の気持ちを感じ取ったのか。
 「た、試しに一つ食べてみようか、なっ、スカー」
 まるで肝試しに挑戦するような言い方に道連れにするなとスカーは医者を睨んだ。
 「待ってください」
 レモンをぎゅうぎゅうと絞り、塩とオイルを少したらす。
 「マルコーさん、口を開けて」
 自分で食べると言いかけたが、開き書けた口に突きつけられて、思わず飲み込んでしまった、その瞬間、滑るように入ってくる、あっという間にだ。
 喉を通り過ぎて胃袋の中へと、初めて、生の貝を食べるという行為にマルコーは驚いた。
 「ま、まずかった?ですか」
 身は冷たいし、さっぱりとしている、酸味と塩気のバランスが丁度いい、酸味の多いドレッシングをかけたような感じだ。
 「い、いや、思ったより、そうだな、悪くない、おまえさんも食べてみろ」
 「じゃ、スカーさんも、目を閉じて、はいっ」
 「ま、待て」
 文句の一つでも言ってやりたいと思ったが、このとき妙な音が聞こえ、いや、鳴った。
 スカーがポケットから取り出したものは銀色の小さな金属の塊だ、携帯ですかと女がスカーに尋ねると。拾ったんだという答えが返ってきた。

 「突然ですが、○★□コーポの続報は放火ではないかという疑いが、住人は全員無事とお知らせしましたが、訂正します」
 聞こえてきたのはニュースだ。
 「あたしの、アパートが、火事」
 呟きが自然に漏れた、何故、この携帯から日本のニュースが聞こえてくるのか、分からなかい、スカーのそばにより思わず伸ばそうとした手がとまった。
 
 「○×△号室の住人が行方が分からず」
 
 「あ、あたしのこと?」
 
 「近くの○△で死亡を確認」
 
 「死んだの、でも、今、こうして」
 (生きているのに)
 そう言いたいが、言葉が出ない、足下がぐらりと揺れた気がした、そんな体をスカーが慌てて抱きとめる。

 木桜美夜という女性の遺体が発見されました。
 
 これは、自分の訃報を聞いたということだろうか。

 「先生、あたし死んでるみたい、です」
 
 驚いたり、泣きわめく事もなく、ひどくあっさりとした、普段と変わらない口調で、そう言われたマルコーは何も言えない、だが、それはスカーも同じだった。
 
 
 

 


しばらくは助手として過ごすことに決定、そしてスカーは有給を取った(らしい)

2020-09-06 09:29:07 | 二次小説

尋ねてきた二人の男を困惑の表情になったのも無理はない、スカー、一人なら快く迎えたのだが、何故、マスタング、彼までいるのだ。
 賢者の石で彼の目を治療してから会うことはなかったのだが、もしかして、治療後の不具合かと思ったが、見た限りでは、そんな様子は感じられない。
 来るなら事前に連絡ぐらいしてくれてもいいのではないかと思いながら二人を家の中に入れるとマルコは悩んだ。
 傷の男、スカーはアームストロング、オリヴィエの下で働いている、軍に所属しているが彼女の性格は知っている、マスタングより融通の利く人間だと思っているので、スカーを通して話ができたらと思っていたのだ。
 
 「先生、お一人ですか」
 何だねと言いかけると途中で女性に会った事をマスタングは話しはじめた。
 「患者ではないようでしたが、助手の方でしょうか」
 「最近は患者も増えてきたからね、色々と行き届かないところがあって、手伝ってもらっているんだ」
 「イシュヴァール人ではないみたいですね」
 突然、何を言い出すのか、だが、それはマスタングの隣に隣に座っているスカーも何か感じるところがあるのか、妙な視線を自分に向けている。
 「いつから、こちらに」
 正直に話した方がいいのかと迷っていると声が聞こえてきた。
 
 先生、お元気そうで安心しましたよ、運ばれてきたコーヒーを飲みながらキンブリーはにっこりと笑った、反対にマルコーは、げっそりと陰鬱な気持ちになった。
 「それにしても助手だったんですか、しかし、頂けませんねえ」
 キンブリーの言葉に大佐とスカーは何を言い出すのかと、不思議そうな顔つきになった。
 「夜も退屈どころではないでしょう」
 「下衆の勘繰りだ、それは」
 むっとし顔でマルコーはキンブリーを見た。
 「彼女の来ていたシャツ、先生のお古のようですね、随分と着古してくたびれていた、あれでは自分の女だと公言しているようなものですよ」
 「そ、そうなのか、先生」
 マスタングの言葉にマルコーは首を振った、ふと視線を感じて目を向けるとスカーが自分をじっと見ている、何か言いたげにだ。
 「色々とあるんだよ」
 何か理由をつけてと思うが、うまい言い訳が見つからない、まさか、今日、来るとは思っていなかっただけに誤魔化そうにも、うまい言い訳が見つからない。
 「では、私が手を出しても」
 キンブリーへの言葉にマルコーは思わず声を荒げた。
 「駄目だ、いや、その」
 キンブリーは、にっこりと笑った。
 「事情がありそうですね、だから、傷の男を呼んだんですか」
 妙な沈黙の後、マルコーは、この男の口のうまさにまんまと乗せられたと思った。
 
 
 その日の夜のこと。
 先生、お願いがあるんです、ひどく真剣な顔つきでマルコーはわずかに緊張した。
 「警察の人に相談してくれるという話しがありましたよね、少しの間、保留、もしくは、なかったことにできませんか」
 こればかりはすぐには返事かできない、理由はと聞こうとして思った。
 「怖いかね、警察、そういう施設などの関係者に知られるのが」
 沈黙は長くは続かなかった。
 「そうなんです、自分の住んでいたところ、よその外国では政府や警察が真面目に仕事をしているかと言われたら、それで困った事になるという場合もあって」
 正直、こんな事を言い出すとは思ってもみなかった。
 イシュヴァールは今、復興中といってもいい、だからといって安全とはいいがたい、現地の子供、女性でもトラブルや犯罪に巻き込まれてしまう、外国人の女なら、そのリスクは大きくなる可能性もある。
 「家族に会いたくないかね、友人は、心配しているかもしれない、少しでも帰れる可能性が」
 「色々とあって、実は両親は」
 ぽつりぽつりと話すのをマルコーは黙って聞いていた。
 「育ての母の祐子さんとは仲は悪くないと思います、でも、父の存在は」
 
 「変わっているというか、うーむ、複雑だな」
 話を聞いたマルコは内心げっそりとなった、実の母、彼女を生んだ母親というのは少しどころではない、随分と変わった女性らしい、まるで映画やドラマのあらすじを聞かされた気分だ。
 少し考え込んだ後、マルコーは口を開いた。
 「色々と教えるから、ここで助手として、今まで通り、暮らすかね」
 「は、はい?、今まで、通り?ですか」
 不可解な顔をした彼女にマルコーは言葉を続けた。
 「警察や施設に行けば色々と聞かれるだろう、今、話した事を信じろというのは、この国の人間には、少し、どうだね」
 はあっと美夜は溜息をもらした。
 「人が良すぎます、先生には全然、良い事なんてないというか、厄介な居候を住まわせてるというか」
 「年配者のいうことは素直に従うものだ、現に今の私は助かっているよ」。
 「肩、揉みましょうか」
 「そうだな、お願いしようか、明日は天気がよければ洗濯だな」
 寝具のカバーや枕を洗ったり、干す事など、今まであまりしなかったといってもいい、久しぶりで先日は部屋のカーテンを洗うと、部屋の中が明るくなったようで驚いた。
 「助かっているよ、色々と、部屋の中、診療所も綺麗になって患者も喜んでいる」
 「本当、ですか」
 マルコーの返事はない、うとうとと眠りに落ちていたからだ。
 
  一体、マルコーは自分に何を相談したかったのかと思っていた、ここ数日の疑問が解けたスカーだが、正直、気分はよくなかった。
 それというのもと大佐とキンブリーには聞かれたくないらしく、帰り際、二人に聞かれないように今度は一人で来てくれと言われてスカーは迷った。
 二人に色々と質問されていたが、最低限の事しか話さなかった気がする、いや、曖昧すぎて二人とも最後にはマルコーから聞き出すのは無理と思ったようだ、気弱な性格だから質問攻めにすれば話すと思っていたようだ、だが、頑固なところもあるのだと改めてスカーは思った。
 シン国、イシュヴァールの人間ではない、どこの国から来たのか、子供なら誘拐、人身売買ということもあり得るが、大人の女だ、否その可能性がないとはいえないが、違う気がする、態度や口調から、そんな印象は感じられなかったからだ。
 休みが取れ次第、診療所に行こうと思っていたが、今の仕事に就いた当初にマルコーには色々と世話になっている、怪我を治してもらったこともある、イシュヴァール人として、やはり、ここは行かなくてはとスカーは思った。
 思い立ったらなんとやらだ。
 
 「有給希望、期限は十日ほど、場合によっては延長の予定あり」
 
 という紙を人事に提出してスカーはバイクに乗り診療所に向かった、上司、オリヴィエの許可は取らずにだ、今まで休みなど殆ど取らず、無休状態で働いていたのでいいだろうと事後承諾というやつである。