董枝明(原著)『亜洲恐竜』(2009)の和訳書です。
株式会社 国書刊行会様より、2013年2月末発売予定で、9,975円(税込)です。
http://www.kokusho.co.jp/np/isbn/9784336056290/
だいぶ値が張ってしまい、心苦しい限りです。
一昨年末の帰国時に監訳者の冨田先生から翻訳のお話を頂き、董枝明先生へ直接恩返しができる最良の機会と捉え、是非にとお引き受けさせて頂きました。
実際に訳し始めてから約1年もかかってしまいましたが、いよいよ出版される運びとなりました。
これまで帰宅後など勤務時間外にちまちま訳していました。
2012年の上半期、毎日午後7時から12時は、ほとんどこれに費やしたと言っても過言ではありません。
日本の公務員でもないので、そこまでこだわる必要はないんだろうけど、自貢の博物館からもらった仕事ではないので、研究室でするのはなんとなく気が引けたので。
と言っても勤務時間中には全く手を付けなかったというわけでもないのですが。
本書はアジア地域の恐竜化石調査・発掘の歴史と研究者の活躍に重点を置いて叙述されており、概要をつかむにはちょうどよい読みやすさだと思います。
今ではなかなか目にする機会もないような年代物の写真から、アジア各地の発掘現場の様子や最新の恐竜研究の成果まで、豊富な挿図が掲載されているのも本書の大きな魅力です。
個人的な見所としては、第IV章の第7節で、ドン先生が1980年代に四川省自貢を訪れた際、道路工事の作業員が化石に見向きもせず壊しまくって放置していて、愕然としたというくだりです。
いかに恐竜の化石が重要かを広く知ってもらう必要を痛感したとのことでしたが、現在、先生が教育普及に意欲的に取り組まれる熱意の萌芽が伺えました。
あと、同章第9節でフィリップ・カリー博士の念願が叶ってエレンホトへ向かった時の話も感動的でした。
途中、改革解放直後でルートが限定され、不便な道を通らざるを得なかったが、外国人はそのことが理解できず、ドン先生もうまく説明できなくて苦労したという話は「さもありなん」と苦笑ものでした。
さて、本訳書は『アジアの恐竜』と銘打っていますが、もちろん隅々まで完全に網羅できているわけではありません。
日本の恐竜だけとってみても、新書サイズで一冊になるくらいのネタはあるわけだし。
分量としては、中国での恐竜発掘が三分の一を占めています。
また、調査・発掘の経緯とアジアの恐竜研究の歴史がメインなので、個々の恐竜の特徴については要点を軽く触れる程度です。
原著がそもそも一般向けなので、恐竜に相当お詳しい方々は既にご存知の内容も少なくないかもしれません。
私個人としては、近い将来にアジア産の恐竜を研究したいと思っている方、特に大学生や高校生に読んでもらい、その活力源となることを念頭に置いて訳しました。
かつてその年頃にあった自分に向けて、というのが最も的確かもしれません。
本書をきっかけにアジアでの恐竜化石の発掘調査に思いをはせてもらったり、それを研究するための糸口として役立てて頂ければ幸いです。
訳者あとがきでもちらっと触れましたが、原著にはない引用文献を付け加えたのと、巻末の恐竜リストを充実させたのもこのためで、かなりの手間と時間を費やしました。
(実はすでに一か所、誤記が見つかっていますが)
合計503篇の文献を引用していますが、編集のスケジュール上、含めそびれた文献を合わせると、実は追加したい文献があと30篇くらいあります。
これは自分で自分の視野を狭めていたせいなので、今後の反省材料となりそうです。
原著『亜洲恐竜』を熟読する中で、知らなかった情報に出会えたり、認識があやふやだった点を整理できたりと、大変勉強になりました。
また、和文書籍での古生物学用語の書き方とか、中国語発音の日本語表記とか、自分としても収穫の大きい仕事でした。
中国語の発音のカタカナ表記については、最後まで懸案事項でした。
そもそも日本語と完全には一致するわけではない音をカタカナで表記するのには限界があるのですが、なるべく近い音で再現できるよう努めました。
最終的には編集部の方から以下のガイドラインをご提示頂き、微妙な場合はこれに準ずるという所に落ち着きました。
http://www.heibonsha.co.jp/cn/
こういうものが作られているという発想すらなかった…。
今回は学術雑誌への投稿ではないので、査読者にリジェクトされる心配はないのだけれど、自分の文章が正しいのか否か、もっと適切な表現があるのではないかとか、何となく心細くなるのは不思議なものです。
論文の査読でダメ出しされるのはイヤなものだけど、あれはあれで重要な工程なのだなと実感しました。
項目ごとに、それを専門とする研究者に原稿を読んでもらって手直ししてもらえれば良かったのかな~と今では少し思います。
何はともあれ、無事に出版まで辿り着けたこと、初めてのまとまった和訳書という仕事なこともあり、達成感と充実感を味わっております。
前述の誤記と補充したい文献については心残りでもありますが、いつかリベンジする機会もあるだろうと楽観視することにいたします。
翻訳の監修のみならず、古生物・地球科学関連の知識や表記について多大なご指南を頂いた冨田先生には改めて感謝申し上げます。
また、発売元のN島様と発行元のY様には企画段階から最終校の再修正に至るまで、訳者の希望を汲んで頂き、感謝の念が尽きません。
最後になって恐縮ですが、再三に渡る校正とデザインでご助力を頂いたM崎様、F永様、I沼様にも、この場をお借りして御礼申し上げます。
(念のため、この場はイニシャルにてご容赦ください)
というわけで、お小遣い貯めておいてね~
(う~む、購買意欲を煽れるような文章を書くのは難しいな…)