1992年(平成4年)に平和から登場した新要件ハネモノ「寿限無」(じゅげむ)
★賞球…オール10
★最高15ラウンド継続
★ハネ開放時間…オトシ0.4秒、ヘソ0.5秒×2
★大当り中は役物キャラの口に玉を1個貯留(ハズレ玉3C、7C、又はハネ16回開閉後に解除)
★当時の実戦店…新宿駅・東南口「トーオー」など
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(新宿、甲州街道近くにあった「トーオー」跡地(左)…後に「ニューアサヒ」が営業。「トーオー」は当時、渋谷・センター街(「フルーツ西村」隣)にも系列店があったが、既に閉店。現在はマツキヨ。)
「寿限無」(ジュゲム)…落語好きの人なら、すぐに反応する言葉であろう。
私は、「寿限無」と聞くと、本機と、例の「落語」ネタと、高田馬場の「日拓本店」近くにあった居酒屋「寿限無」(大学時代、ここでコンパをよくやった。今でも健在らしい…)がピンとくる。
居酒屋の話はともかく、ここでは落語の「寿限無」について、少々触れてみたい。
小学生の時分(昭和50年代)、柳亭燕路(りゅうてい・えんじ)という落語家が書いた「子ども落語」という本が、大のお気に入りだった。文字通り、古典落語を子供向けにアレンジした内容で、小学生の読み物としても、非常に楽しめる内容だった。一時期、ヒマさえあればこの本を開いて、落語の様々な「定番ネタ」に触れた(まんじゅうこわい、子ほめ、目黒のさんま、そば清、王子のきつねなど)。
この「子ども落語」に、「寿限無」のネタが収録されていた。ある男が、自分の子供が生まれたので、うんと長生きするように、とびきりお目出度い名前を付けようと、物知りな御隠居のもとを訪れる。すると、御隠居は何やら怪しげな言葉を次々に並べ立て、どれも「大変おめでたい言葉」だと男に教える。
「寿限無、寿限無」「五劫の擦り切れ(ず)」「海砂利水魚」「水行末 雲来末 風来末」「喰う寝る処に住む処」「藪ら柑子、藪柑子」「パイポ・パイポ・パイポのシューリンガー」「シューリンガーのグーリンダイ」「グーリンダイのポンポコピーのポンポコナー」「長久命の長介」という具合である。
何だか訳のわからない舌を噛みそうな言葉だが、どれも「末永い」とか「おめでたい」とかの「いわれ」があるという。男は、御隠居の話にたいそう感心して、その言葉を全部つなげて、我が子の名前にしてしまう。
「寿限無、寿限無、五劫の擦り切れず、海砂利水魚の…」、とんでもなく長い名前を付けられた息子の「長介」。その名の通り、すくすくと元気に育ったが、あまりに腕白で周りを困らせる事もあった。
ある時、長介が友達とケンカをして、相手をポカリと殴ってしまう。その友達、「苛められて頭にコブが出来た」と長介の母親に言いつけるが、なんせ長介の名前をいちいちフルネームで言わなければならず、状況説明だけで一苦労する。あまりに名前が長いので、名前を言っているうちにコブが引っ込んでしまった…という下げ(オチ)で終わる。
ストーリーの滑稽さと同時に、呪文のような長い名前を、早口言葉のように一気にまくしたてる様子が、舌を噛みそうだが大変面白かった。
まぁ、少々落語をかじった人なら、大体の内容はご存じだろう。私も、「子ども落語」で覚えたこの噺をクラスメートに一度披露したのだが、あまり好評ではなかった。やはり、「ストーリーの暗記」と「話術」は、全くの別物であった…。
かなり脱線したが、今回紹介する「寿限無」は文字通り、落語のタイトルを機種名にしたハネモノだ。
「落語の演目」がそのままパチンコの機種名になった例は少ないようで、私が調べたところでは、この「寿限無」と「居酒屋」(京楽ドットデジパチと同名の演目)の2つくらいしか見当たらなかった。
(引き続き調査中。補足も歓迎。)
また、落語をモチーフにしたハネモノも、それまではあまり見かけた記憶がないが、この「寿限無」が登場したのをきっかけに、翌1993年にマルホンから「笑点」「笑点2」(共にデジタルなし)や「お笑い道場」(デジタル付き連チャン機)、そして三洋から「福丸」「福丸II」「福丸V」(IIはデジタル付連チャン機)という具合に、落語絡みのハネモノが連鎖反応的にデビューしている。
※落語モノには「CR笑点」(平和、デジパチ)シリーズもあるが、残念ながら当方の守備範囲ではない。
(「笑点」「お笑い道場」共通の役物キャラ) (「福丸II」の役物キャラ)
「寿限無」の役物だが、落語がモチーフである以上、メインの役物キャラは当然「噺家」である。
ギョロメで大口・出っ歯のコミカルな落語家が、センター役物に羽織姿で鎮座する。
盤面やハネには「玉遊亭和平」とあるが、これが彼の芸名である。「和平」は、社名の「平和」を逆さまにもじっている。
和平さんの手前では、座布団を模した回転体が、約4秒周期で時計周りに常時回転している。
ハネに拾われた玉は、まず上段ステージに乗ってから座布団のある下段に落ちるが、中央の「和平の口元」を通った玉は、座布団の真上付近に落ちる。ハネ開閉音は、人気番組「笑点」のOPでお馴染みのサウンドだ。ハネは比較的小さめだった。
上段中央から落下した玉が回転する座布団に乗り、うまく手前に直進すると、中央Vゾーンに入賞して大当りとなる。
ただ、この回転体には「向き」があって(しかも中央が凹んでいる)、正面を向いた時に乗った玉は直進しやすいが、横向き時に乗った玉の多くは、座布団の左右に逸れてしまう。
さらに、回転体には「遠心力」も働いていて、玉の直進が頻繁に妨げられる。その一方で、座布団から左右に逸れた玉でも、下段ステージの壁でクッションした後、再び中央Vゾーンに戻ることがある。
いずれにせよ、役物内の玉が座布団に乗った時が、V入賞の大きなチャンスとなる。主な入賞パターンは、座布団を手前に真っ直ぐ転がる「直進ルート」と、左右の壁で跳ね返る「斜めルート」の二つだ。
一方、上段ステージ両サイドに逸れた玉は、落下後も回転体に乗ることなく、下段ステージ左右脇を直進して、ほぼハズレとなる。
まぁ、賞球が「オール10」と少ない事もあり、初回V入賞率はそれ程厳しくない印象がある。しかし、台ごとにV入賞率がバラついたのも事実で、Vに来にくい台はひたすら外れる感じもした。
特に、ハネ周辺の釘調整は重要で、この付近の釘が、役物に飛び込む際の玉の角度やスピードに影響を与え、上段ステージの玉の挙動にも影響した。あまり勢いよく役物に飛び込むと、和平の顔があるステージ中央をオーバーして、右サイドからのハズレが増える。逆に、飛び込む勢いが弱すぎると、今度は中央まで届かずに左サイドからハズれやすくなる。
やはり、ハネに拾われた玉がちょうど中央に向かい易く、和平の口元から下段の座布団に頻繁にアプローチする台が、理想的である。オトシやヘソの開き具合だけでは、単純に台の良し悪しを測れなかった訳だ。
また、台の「ネカセ」(傾斜)も無視する事は出来ない。ネカセのキツい台は手前に転がる際に勢いが付かず、回転体の遠心力に負けて座布団の上を直進せず、Vを逸れる確率も高くなるからである。
回転体自体にもクセはあり、上に乗った玉が左右にブレやすいのは、立派な「クセ悪台」の仲間。
さらに、左のハネからはハズレが多いが、右のハネに乗った玉はV入賞し易いという、「隠れ優良台」なども存在した。台ごとに、実に色々な個性を持っていた。
さて、首尾よく大当りとなると、和平の前で回転していた座布団が、正面を向いて停止する。
(大当り中BGMは「スーダラ節」)
同時に、和平が下あごをグイと付き出して、口を開けた状態になる。これが、何とも間の抜けた表情で面白い。
和平の下の歯は、前歯の中心から何本かがスッポリ抜け落ちていて、その隙間に玉を貯留するスペースがある。大当り中は、この空間に玉を1個貯留できるようになる。
ハズレ3カウントで貯留は解除されるが、大当り中は回転体が停止しており、解除された玉が手前に直進しやすい為、高確率でV継続となる。
ただ、この段階で継続に失敗しても、再び貯留は復活する。再貯留後は、ハズレ7カウントで二度目の解除を行う。また、ハズレ6カウント未満でも、ハネ16回開閉後に貯留解除となる。貯留タイミングが早いか遅いかで、出玉が変化する事はいうまでもない。
本機の場合、貯留玉さえあればほぼ確実に継続されるが、後続玉の玉突きでVを外すこともあった。
さらに、実際には、肝心の口への貯留がそれほど容易ではなかった。
役物のクセや、ハネ周辺の釘などにも左右されるが、Vを射止めても、役物に拾われた玉が和平の口に全く向かわず、左右に逸れ続けて貯留されないケースも目立った。
一応、和平の鎮座する両サイドには、大入り袋を持った「腕」があり、大当り中は両腕の動きで左右に落下しそうな玉を中央に跳ね返して、貯留をサポートしていた。しかし、いざ打ってみると、腕の力が弱すぎて中央まで玉が跳ね返らない事も多く、貯留アシスト機能としては不十分だった気がする。これが、本機の継続率を低くしていた一因ではなかっただろうか。
まぁ、本機では初当りこそ割と頻繁に来たが、パンクが多発して、最終ラウンドまで完走するケースは稀だった。千円かそこらで初回Vは掛かるものの、しばらく揉まれて全ノマレ、チョコチョコ追加して疲れて終了…という「遊び台」が多かった記憶もある。
件の新宿「トーオー」でも、近くのスロ屋「グリンピース」「てんとう虫」「太平洋」などでヤラれた後に、冷やかし風情で1Fの寿限無に陣取り、さんざん時間をかけて3000円ほど負債を増やす…みたいなことを、よくやっていた(当時、「トーオー」は2.5円交換の3000発定量)。
それでも、「遊技」という本来の観点からみれば、十分に合格点を与えられる台であろう。もう少し普及しても良かった筈だが…。