僕の心はずっと凍りついたままだった。
あの日、灰色のオーバーコートの男への復讐を誓ってから、僕は誰にも心を開こうとはしなかった。シスター・レイチェルやシスターアンジェラ、タウンゼント神父、救護院の誰とも、心を開いて話をすることなんてなかった。
僕が考えていることを、心の奥底に秘めていることを、ひけらかせば、反対されるに決まっているから、そんなことは出来るはずもなかった。
涙を見せることはあったよ。笑顔を見せることもね。けれど本当に悲しいと思ったことも、うれしいと思ったこともなかった。僕のそういった感情を司る部位は、エミリーと一緒に死んでしまったんだと僕は思っていた。
でも、そうじゃなかったんだ。
僕はすべてのことが済めば、命を絶つつもりだった。ウォルター・マードック、君の叔父であり、灰色のオーバーコートの男でもあるエドワード・マクマーナン、君の父上であるアルバート・マクマーナン、あのハプスコットという名前の刑事、決して少なくはない人間の死に関わっている僕は生きていくべきではないと、そう思っていた。
死をもって自らの罪を償うべきだと、それ以外に僕が許されるすべはないと…。
だが、それは間違っていた。
君も知っているだろうオーレリー・ローシェルという女の刑事さんが、そしてアルバートさんが、タウンゼント神父が、多くの人が僕にそのことを教えてくれたんだ。
間違いといえば、そもそも復讐を思い立ったこともそうだったのかもしれない。
罪を問われるとすれば、誰でもない、僕がそうされるべきだったんだ。それを認めることは決してやさしくはないことだけれどね。
生きていくためとか、食べるためとか、勝手に理由を付けてはいたけど、シスター・レイチェルの言う通り、エミリーにあんなことをさせてはいけなかったんだ。例えどんなことをしても、どんなことがあっても。そんなこともわからなかった僕は救い難い大馬鹿者だよ。
エミリーが自ら死を望んだとするならば、それも無理からぬことだったと言える。
あの日、首を絞められたエミリーは、僕に向かって右手を伸ばしていたけれど、それは助けを求めていたんじゃなくて、僕にさよならを言おうと手を振っていたんだ。今はそう思う。
君に何と言って許しを請えばいいのか、僕にはわからない。
アルバートさんが、どうしてあの時外に救いを求めようとせず、自ら命を絶ったのか、僕にはそれもわからない。深い傷ではあったけれど、そうしていれば助かったと思う。僕のことを庇ったのだろうか。初対面である僕のことを。
僕にはわからない。
どうすれば許しを請えるのか、そして罪を償えるのか、今の僕には全くわからない。
ただ、死をもってそれを成そうとは思わない。
僕は生きる。
君が教えてくれたように、生きるよ。例えどれほど絶望的な状況であっても、希望を持つことを忘れない。
今、冬の訪れを告げる風は頬に冷たく、太陽はどこに行ってしまったのか、雲に隠れてしまっている。
けれど、僕の心は春の陽気のように穏やかで、暖かい。これがきっと生きるということ、生きるという意思を持って明日という日を迎えることなのだろう。
僕はそう思う。
親愛なるアティルディア・マクマーナンへ
ジョシュア・リーヴェより
fin
あの日、灰色のオーバーコートの男への復讐を誓ってから、僕は誰にも心を開こうとはしなかった。シスター・レイチェルやシスターアンジェラ、タウンゼント神父、救護院の誰とも、心を開いて話をすることなんてなかった。
僕が考えていることを、心の奥底に秘めていることを、ひけらかせば、反対されるに決まっているから、そんなことは出来るはずもなかった。
涙を見せることはあったよ。笑顔を見せることもね。けれど本当に悲しいと思ったことも、うれしいと思ったこともなかった。僕のそういった感情を司る部位は、エミリーと一緒に死んでしまったんだと僕は思っていた。
でも、そうじゃなかったんだ。
僕はすべてのことが済めば、命を絶つつもりだった。ウォルター・マードック、君の叔父であり、灰色のオーバーコートの男でもあるエドワード・マクマーナン、君の父上であるアルバート・マクマーナン、あのハプスコットという名前の刑事、決して少なくはない人間の死に関わっている僕は生きていくべきではないと、そう思っていた。
死をもって自らの罪を償うべきだと、それ以外に僕が許されるすべはないと…。
だが、それは間違っていた。
君も知っているだろうオーレリー・ローシェルという女の刑事さんが、そしてアルバートさんが、タウンゼント神父が、多くの人が僕にそのことを教えてくれたんだ。
間違いといえば、そもそも復讐を思い立ったこともそうだったのかもしれない。
罪を問われるとすれば、誰でもない、僕がそうされるべきだったんだ。それを認めることは決してやさしくはないことだけれどね。
生きていくためとか、食べるためとか、勝手に理由を付けてはいたけど、シスター・レイチェルの言う通り、エミリーにあんなことをさせてはいけなかったんだ。例えどんなことをしても、どんなことがあっても。そんなこともわからなかった僕は救い難い大馬鹿者だよ。
エミリーが自ら死を望んだとするならば、それも無理からぬことだったと言える。
あの日、首を絞められたエミリーは、僕に向かって右手を伸ばしていたけれど、それは助けを求めていたんじゃなくて、僕にさよならを言おうと手を振っていたんだ。今はそう思う。
君に何と言って許しを請えばいいのか、僕にはわからない。
アルバートさんが、どうしてあの時外に救いを求めようとせず、自ら命を絶ったのか、僕にはそれもわからない。深い傷ではあったけれど、そうしていれば助かったと思う。僕のことを庇ったのだろうか。初対面である僕のことを。
僕にはわからない。
どうすれば許しを請えるのか、そして罪を償えるのか、今の僕には全くわからない。
ただ、死をもってそれを成そうとは思わない。
僕は生きる。
君が教えてくれたように、生きるよ。例えどれほど絶望的な状況であっても、希望を持つことを忘れない。
今、冬の訪れを告げる風は頬に冷たく、太陽はどこに行ってしまったのか、雲に隠れてしまっている。
けれど、僕の心は春の陽気のように穏やかで、暖かい。これがきっと生きるということ、生きるという意思を持って明日という日を迎えることなのだろう。
僕はそう思う。
親愛なるアティルディア・マクマーナンへ
ジョシュア・リーヴェより
fin
第一話からエピローグまで、読ませていただきました。
普段、あまり海外物の小説を読まないので、いまいち設定がわかりづらいのと、文体が翻訳物のようで(苦手なのでほとんど読みません。。。。)少し気になりましたが、最後まで楽しく読めました。
最後が少し駆け足でしたが、最初の方1〜3話くらいまでのゆったりした文章と内容のギャップが好きです。
最後の数話もあの感じであと数話プラスされてても良かったかなーと思いました。
感想を書かせて頂きましたが、的外れな所もありましたら申し訳ありません。
こんなにも早く読んでもらえるとは思ってもみませんでした。
とても嬉しく思います。ありがとうございます。
この作品にはいろいろ拙いところがあるのです。
そもそもどこを舞台にした、いつの話なのか、一切説明されていません。
一応自分なりに設定はあるのですが、それを説明すると嘘くさくなるし、描写するだけの文章力はないしで、全部省略しちゃいました。笑。
なので、わかりづらいと思われるのも当然なのです。
いろいろ書き足したいこともあるのです。
一例を挙げると、ハプスコットが裏切り者だった、というのはいくらなんでも唐突過ぎるので、その伏線も張りたかったのです。
しかし技量不足で出来ませんでしたが。
何だか言い訳ばかりになっちゃいましたね、すみません。
講習は木曜日開始予定です。
その3をまるごとリライトしようと思っています。
よろしくお願いします。
ps.プロローグも読まれたんですよね?
あえて、だったんですね。
プロローグもよみましたよー。
そっかぁ、同じ施設がアメリカだと養護施設みたいな言い方になっちゃうんでしょうか。
一応このお話は(架空の)アメリカを舞台にしています。
どこら辺がアメリカなんだ!と突っ込まれそうで怖いのですが。汗。