続・浜田節子の記録

書いておくべきことをひたすら書いていく小さなわたしの記録。

古賀春江『海』

2010-11-10 06:29:59 | 美術ノート
『海』皮肉な題名である。
 海といっただけで大きな世界を連想させる。静かで平和な海・・・最新鋭の工場や船舶。女は最新のモードたる水着をつけ意気揚々と片手を挙げ背伸びして(踵を上げて)前を向いている。
 空には飛行船やカモメが飛び交い、海には魚の姿・・・それらをコラージュして時代を垣間見せている作品。

《そうだろうか?》

 女のポーズは唯我独尊・・片手は腰に当てているから、そこまで行かないとしても、少し肉付きのいい身体(飽食を示唆しているかもしれない)で、堂々と胸を張り「一番」を暗示するかに指を立てている。天下はわたし(人間)のもの・・・。けれど、内実はかなり危険箇所(岸壁の際)に立っている。
 彼女の背景は、灯台と沖行く船そして飛ぶカモメ。
 彼女の眼差しの先には画面を制圧するかのような最新の機械、船舶の構造・・・、そして中央に描かれた船。
 一見、一隻に見える船・・・しかし、これは一隻ではない。
 後方の帆船、これはおかしい!ヨットを連想させるけど、この帆の張り方?しかも下方は波打っている(大風を孕んでいる)・・・つまり船全体が煽られている・・・これでは倒れるしかない。(梯子が下りているのは・・・?)
 前の船はその帆船に重ねて描かれているので、一見すると船は平行に見え無事安泰に見える。(重ねて描き船首の状態を隠している)灯台も航路の標識ブイもありながら衝突、あるいは衝突寸前である。(はたまた、救難か)それを目撃したカモメだけが慌てふためいている。
 画面には大きく船の構造内部が描かれ、水の浸入を防ぐ仕切りを見せ、安全を誇示しているように見える。しかし・・・。

《大事件勃発の暗示》・・・遠くから見る静けさ。(戦争時のロケット弾もTV映像では深夜の美しい花火にしか見えないことがある)

 空ゆく飛行船、通常飛行船というものは水平に飛ぶ。この勾配は落下を予想させるのではないか。

 最新鋭の工場機器・・・流されるであろう汚水(珊瑚、あるいは海草はその汚れのために不明確に描かれている)・・・海は汚され、魚は逃げていく。

 女(人間)は、あたかも号令をかけているようにも見える。しかし、自然界の生物は背を向けている。(小さな甲殻類・・アミ?だけはなぜか楽しげ・・・汚水をものともしないのか?)

 青空と静かな水平線・・・世界は平和に見える。
 海千山千、海のものとも山のものともつかない。物事がどのようなものであるか、またこれからどうなるのか分からない喩え。

 人間のうぬぼれ、傲慢を揶揄した古賀春江の杞憂である。
《明日がどうなるか分からないなんて》静謐・・・やがて悲しい画面の展開・・・古賀春江の洞察と沈黙に大いなる敬意を表したい。

*画布に描かれた女や工場などについて原本の照会があるけれど、現場へ直行して最新鋭を撮ることの難しい時代である。
 雑誌に載った今日的なもの、自分の意図した考えに沿う映像を探したことはやむをえないと思う。想像ではなく、リアルに前衛的な「今」であることが必要条件だったはずである。
 ちなみに、女の水着写真を見たけれど、もっとスマートで足元は際ではない。そして際を強調するためにロープか何かを止めるコンクリートの角柱が、犬の代わりに描かれている。

『城』271。

2010-11-10 06:07:08 | カフカ覚書
たえず故郷のことがうかんできて、その思い出で頭がいっぱいになった。

 うかぶ/tuchen・・・潜る、浸す。
 思い出/Erinnerungen→Erneuerung/新しいものにすること、復活。

☆たえず(永久に)潜ってしまった故郷・・・その復活のことで頭がいっぱいになった。