続・浜田節子の記録

書いておくべきことをひたすら書いていく小さなわたしの記録。

金山康喜『食前の祈り』

2015-03-29 06:47:56 | 美術ノート
 この作品の印象はブルーである。周囲の暗さに比して、明るさはあるが際立つ透明なブルーというのではない。むしろ打ち沈んだブルーに近い。全体に陽気さはなく、人物は沈痛な面持ちに見える。
 だいたい食前の祈りというものは、今日の糧に対する感謝に尽きると思うが、描かれた人物に喜色は見えない。四人はそれぞれ異なる方向を向いている。家族だろうか、父母と思える人物は落ち着いてはいるけれど、どこか奇妙にズレを抱き深く杞憂している感じが濃厚である。
 背中を向けた人物の様子は不明であるけれど、背筋を伸ばしてしっかり前を向いている。髪形から若いと想像されるが、男か女かは定かではない。
 右端の男は腕を組み首を傾げて、この絵の作者の方向を怪訝そうに見ている。自身に懐疑を抱いているという風である。

 このメンバーは見下ろされている位置に座している。若い作者のおごり昂ぶる気持ちが、無くはない。しかし、絵の中央に直線状に描かれた青いランプ(明かりを灯していない)、空き瓶、そして八分(たっぷり)を残したミルクは何を示唆しているのか。脇の空き缶に見られるような空虚、漠たる不安と少しの希望(少しの甘え)、それが今の自分であるといっているような気がする。
 父母に謝す気持ちと反逆とが混在する胸のうち。自分を許しているのか否かは見えないが、自分はこの道を行くしかないのだという決意。窓の外の景色に映るものは、どんよりとした空気だけ・・・。未知を暗示したような黒い椅子のランダムな配列はこの空間を限りなく引き伸ばしている。いかにも頼りなげな貧弱な椅子、弾むというより沈み込むような、逃げるように足早に去っていくストーリーを感じさせなくもない。
 上方から幾つも下がるランプは、心の揺れと重さ、そしてガラスという質感の持つ危うさと、点る灯りの儚さを提示しているのだと思う。

『食前の祈り』に豪華なご馳走が用意されているのか否かは判らない。四人が囲むテーブルはご馳走が並ぶとは思えない簡素なものである。(もちろん心理的な大きさに過ぎないけれど)そして手前のテーブル、これは遠近法から言ったらかなり不思議な形を呈している、この上に置かれたものは垂直に立って安定しているように見えるが、よく見ると、滑り落ちるテーブルの角度である。家族から離れた場所であり、身を守る楯とも思える。
 青色は哀愁であり、また広い世界(海や空)への期待を含有した彩色に思える。わずかに暖色(黄)を感じさせるのは秘めた情熱を隠蔽し混濁色にトーンを落としているとも見える。心理的、心象風景である。
 食前・・・期待される何かの前の、祈りにも似た複雑な心境を抱く家族の肖像であり、正しく自身の立てる位置の把握を客観視した作品に違いない。(写真は神奈川県立近代美術館n/カタログより)

『冬のスケッチ』67。

2015-03-29 06:36:40 | 宮沢賢治
  雨がふり出し
  却って雪は光り出す
       *
  雪解けの洪水から 杉は
  みんな泥をかぶった。
  それからつゞいてそらが白く
  雪は黄色に横たはり
  鷹は空で口をあけて飛び
  からすはからだをまげてないた。
       *


☆迂(遠回り)して推しはかる。
 却(予期に反して)接(つながる)講(はなし)を推しはかる。
 説(はなし)は幽(死者の世界)の考えを推しはかる。
 太陽に泥(こだわって)吐く(言う)説(はなし)を交えた私記である。
 往(人が死ぬ)を追う。
 空(根拠が無い)の考えを秘めている。

『城』1921。

2015-03-29 06:14:42 | カフカ覚書
あべこべです。お内儀さんは、あなたは子供のように率直な人だ、と言いました。でもあの人の人柄は、わたしたちと非常に違っているから、あの人が言うことがなかなか信じにくい。だれかよいお友だちがいて、わたしたちを救ってくれたら別だけど、あの人の言うことを信じられるようになるまでは、にがい経験をしなくてはならないよ。


☆反対に、あなたは自由な子孫です。あなたの存在は、わたしたちとは異なっていますから、自由に話していてさえ信じるためには困難を克服しなければならないのです。先祖は親切な味方で、わたしたちをより早く救い、禁錮の厳しい経験を通し、わたしたちの相互を信じ、慣れなくてはなりません。