『前兆』(写真右)
「広大な山脈の形態が、翼を広げた鷲の形に、まさに一致している光景です」とマグリットが述べたとおりの景である。
物理的な現象が、有機的な生命を宿すという異形。すなわち不条理の極み、混沌の融合の提示は空想の許容分野の特質である。
開口部は洞窟(こんな高所に人の住むための洞窟が彫られるとは考えにくい)、そして鷲の形態をした山脈、その手前に木立・・・。
あり得ない光景を重ねている。
鑑賞者は当然《連携しているもの》とこの空間を承諾する。
しかし、そうだろうか、この景が地上を通してつながっているとはどうしても考えにくい。一見連帯しているように見える景は、次元を隔絶されたものではないか。
たとえば、現在(過去)と未来、あるいは、現実と非現実(空想)というように。木立は山脈を際だせたり、岩窟との仲介的な役目をも感じるが、現時点(現代)の象徴でもある。
この景に隠されたメッセージとは、世界の亀裂・矛盾が並列されることの解放、自由への前兆ではないか。
(写真は国立新美術館『マグリット』展・図録より)