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『困難な横断』
異世界。たとえば、A(現世)からB(霊界)へ到着するまでには、あらゆる困難(生老病死)を越えなくてはならず、現世は荒れ狂う海へ乗り出した寄る辺ない船のようでもある。
その横断を見つめる眼差し、ポールは人間の態を失い移動の術もなく質的変換を余儀なくされている母の姿である。肉体機能の滅失、しかし、(精神/魂だけは必ずや残してきた最愛の家族を想っているに違いない)という、そうであって欲しいというマグリットの思いである。
左右の壁に立てかけられた平板な板は霊界を被う仕切りであり、そこに空けられた幾つもの窓は、霊となり果てたものの情念が開けさせた現世を覗く通風孔ではないか。それをも取り外して見た現世の光景は、胸を衝く慟哭の景に他ならない。
《不可逆の横断》である。
マグリットの亡母に対する哀惜の情、(きっと母は見ていてくれるに違いない)という強い想念のもと、向こう側(霊界)から描いた異世界を結ぶ物語の一ページであり、『涙そうそう』は人類共通の秘めた思いである。
(写真は『マグリット』西村書店より)
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