続・浜田節子の記録

書いておくべきことをひたすら書いていく小さなわたしの記録。

『蛇にピアス』金原ひとみ。

2014-09-13 06:49:28 | 現代小説
 今風にいえば、《痛い話》である。精神的にも物理的にも・・・。
 サガンを読んだときの印象に似ているかもしれない。若い作家の筆力や自分の立ち位置を客観視している点は天性の才覚に違いないと思う。
「自分にしか書けない世界を書きなさい」とは井上ひさし先生の言葉である。彼女が垣間見た、あるいは多少とも関わった世界での奇異な光景、事件性を帯びた日常の暴露。

 ピアス、それも普通でない「スプリットタンって知ってる?」という書き出しで物語は始まる。
「蛇とかトカゲみたいな舌。人間もああいう舌になれるんだよ」同居の男の挑発。主人公であるルイ(私)は耳穴の拡張(00Gは9.5ミリ程度)にハマっているが「君も身体改造してみない?」の言葉にうなずく。
 コンビニでバイトをしているアマとコンパニオンに登録しているルイとの同棲。舌へのピアスをシバさんという変態向けの店の店長に依頼するところから物語りは展開していく。アマの暴力団員への執拗な攻撃はのちに死をもたらし、容疑者となったアマはむごたらしい変死体で発見される。アマを思いながらシバさんとの関係を持つルイ・・・。
 舌に穴を空けていくルイ・・・描写は会話でつないでいくが、読み手には映像的に視覚化される。淡々と、(一般人にとっては)非日常的な行為が綴られている。
 むごたらしく、グロテスクな光景である。にも拘らずあたかも当たり前のような錯覚を抱く。

 再読は辛い、本を閉じたら忘れたいと思う。
 この作家の洞察・・・肉体を血だらけにして覚めた目で描いた作品。《どうだ》と言っているようでもある。
《この生き方で悪いか!》と突っ張っている。(人生は始まったばかりなのに)と思うのは社会の中で何とか整列し、はみ出さないよう苦慮している人間の言い分なのだろうか。
 人生も後期の読者であるわたしは、黙って抱きしめてあげたい(滂沱の涙を隠して)と思う、この作品の血だらけの内実に。

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