じゃ、わたしは、いったい、なんだとおっしゃるの」
「あなたがお内儀さん以外になんであるかは、わたしにもわかりません。わたしにわかっているのは、あなたが宿屋のお内儀さんでありながら、およすお内儀さんなる人に似つかわしくない服を着ていらっしゃるということだけです。こんな服は、わたしの知るかぎり、この村ではあなた以外に着ている人はありませんよ」
☆では、わたしは何なんでしょう。あなたが確かにそうであるか、単に不遜にもそう思っているにすぎず、わたしにもわかりません。先祖の女主人、その他にどういう氏族に適合するかなど、ここ来世に来て知っている人は誰もいません」
葡萄園手足を熱く出で来る
葡萄園はブ・トウ・エンと読んで、蕪、套、掩。
手足を熱くはシュ・ソク・ネツと読んで、主、速、熱。
出で来るはシュツ・ライと読んで、出、来。
☆蕪(ごたごたと乱れる)のを套(蔽い)掩(隠す)。
主(主人)は速(す早く)熱(夢中)で出て(外に)来る。
葡萄園はブ・ドウ・エンと読んで、舞、童、円。
手足を熱くはシュ・ソク・ネツと読んで、手、足、熱。
出で来るはスイ・レイと読んで、推、礼。
☆舞(踊る)童(こども)は円になり、手足を熱(ひたむき)に推(前へ押し出し)礼(お辞儀)をする。
葡萄園はブ・トウ・エンと読んで、武、頭、演。
手足を熱くはシュ・ソク・ネツと読んで、取、即、熱。
出で来るはスイ・ライと読んで、遂、磊。
☆武(強い)頭(トップ)は演(おしひろめて)取(手に入れる)。
即ち、熱(ひたむき)に遂(やりとげ)磊(小さなことにはこだわらない)。
葡萄園はホ・ドウ・エンと読んで、補、導、演。
手足を熱くはシュ・ソク・ネツと読んで、守、則、熱。
出で来るはスイ・ライと読んで、粋、頼。
☆補導を演(行う)守(役人)は、則(規則)に熱(ひたむき)で、粋(物分かりが良くさばけており)頼りになる。
煙草の灰ふんわり落とす蟻の上
蟻に個性はあるだろうか、あるかもしれないが誰に確認されることもなく忙しく収穫物を運ぶだけである。もちろん蟻と呼ばれるだけで名前などない。集団(仲間)としての連帯感、女王蟻に従うべく動き回る名もなき蟻、同情されることもなく使命のままに生きている。
蟻は猛スピードで動いているけれど、人間から見れば遅々たる動きでしかない。人は巨人である、蟻なんぞ一ひねりの哀れな存在にすぎない。懸命に使命を果たすべく働く蟻の上に、人間様の煙草の灰をふんわりかけてやる。
蟻は死ぬだろうか、すぐさま逃げ出して人間を嘲笑うだろうか。
わたしは強者として、傲慢にも蟻一匹の命を預かる支配者と化す。この愉楽、この悲しさ、哀れ。
灰を落とされた蟻は《わたし》である。
1-5-10 振動尺(手元)(部分)
各種のパターン・・・丸だったり波、あるいは直線、楕円。
振動尺、振動の単位、微塵にまで戻し、形に還元して想起する作業はとりとめもなく自由で開放的で拡散、あるいは凝縮の態である。
しかし、総ては習い覚えた形の分解、羅列であって、自然界と一致することはないと思われる。自身の内なる形、印象である。
胸の内なる鼓動は総て世界(環境)と共にあり、形・色はそこから抜け出ることはできない。記録は瞬時同時性を有して真実であり、嘘の入り込む余地はない。嘘ではないが、学習された観念的な、視覚から得た情報の再現に他ならない。
表現は精神の模倣である。対象が不可視なものであっても二次元に還元すれば、学習されたデータの再現であり、それ以外は無いということを覚悟し、情報の手掛かりは人智の発展(歴史)に基ずく条件を決して外せない。むしろこの事が、振動尺の基軸であるという発見かもしれない。
写真は若林奮『飛葉と振動』展より 神奈川県立近代美術館
かりにわたしがほんとうのことを言わなかったとしてもーいったい、あなたのまえでその釈明をしなくてはならないでしょうか。どんな点でわたしがほんとうのことを言っていないとおっしゃるの」
「あなたは、じぶんではそうおっしゃっていますが、たんにお内儀さんであるだけではない」
「まあ、なんということでしょう!あなたの頭のなかは、いろんな発見でいっぱいなのね!
☆わたしが言わなかったとして、わたしはあなたに弁明しなくてはならないのでしょうか。何において、本当のことを言っていないと言うのですか」
「あなたは女主人であるだけではない、いかにも偽っている」
「ごらんなさい、傷痕を!十分な発見があるでしょう」
秋の弓ひくかたはらの草木かな
秋の弓はシュウ・キュウと読んで、終、朽。
ひくかたはらの(引傍)はイン・ボウと読んで、隠、亡。
草木はソウ・モクと読んで、総、黙。
☆終わりは朽ちる。
隠(世間から離れ)亡(死ぬ、無くなる)。
総て黙(声を出さない)。
秋の弓はシュウ・キュウと読んで、修、究。
ひくかたはらの(引傍)はイン・ボウと読んで、隠、謀。
草木はソウ・モクと読んで、想、黙。
☆修(整え)究める。
隠(かくした)謀(はかりごと)を黙っている。
秋の弓はシュウ・キュウと読んで、宗、赳。
ひくかたはらの(引傍)はイン・ボウと読んで、引、某。
草木はソウ・モクと読んで、曾、目。
☆宗(一族の中心人物)は赳(強くたくましい)。
引(導く)某(なにがし)は、曾(世代が重なること)を目(見つめている)。
1-5-9 スプリング蒐集・右手の先
スプリング…ばね、体の弾力。跳ねたり衝撃を受け止めたりするための筋力。
円筒形の筒(連鎖するものの一端)にストッパーのようなものに右手中指二本の指先の跡がある。極めて力の入らない指である。
この指跡は、抵抗だろうか。微力のストッパーは何を示唆しているのだろう。振動、流れゆく時間への儚い抵抗・・・時空はそれでも進んでいく。一方方向の流れに制止はないから、この指跡は心理的な防衛反応であり、意識外(無意識)の鼓動である。
精神の尺、外気との接触による反応の直進、連続に見えるものの小さな不連続。意識下の小さな煩悶、この空気感を審議する小さな反応は呼吸を止める。
この指を放せば元に戻り以前と変わらない時空との関係を保つかもしれないが、指跡は自己証明である。
写真は若林奮『飛葉と振動』展より 神奈川県立近代美術館
「それは、どんなことをしますの」
Kは、説明をした。その説明を聞いて、お内儀は、欠伸をしただけだった。
「あなたは、ほんとうのことをおっしゃらないのね。なぜほんとうのことを言ってくださらないの」
「あなただって、ほんとうのことをおっしゃっていませんよ」
「わたしがですって! あなたは、またぞろずうずうしい口をききはじめましたね。
☆「それはどういうことですか」
Kは説明をした。その説明で彼女は喜んでいた。
「あなたは本当のことを言っていない。なぜ、どうして本当のことを言わないのですか」
「あなたも又本当のことを言っていない」「わたしがですか」
「あなたは大胆にも再び何か企んでいますね。
すでにふかく眠る男ら鳥かぶと
すでにふかく(既深)はキ・シンと読んで、鬼、心。
眠る男ら(眠男等)はミン・ダン・トウと読んで、眠、断、套。
鳥かぶと(鳥兜)はチョウ・トウと読んで、弔、悼。
☆鬼(死者)の心は眠っている。
断(たちきり)套(覆い)弔(とむらい)悼(いたむ)。
すでにふかく(既深)はキ・ジンと読んで、寄、人。
眠る男ら(眠男等)はミン・ダン・トウと読んで、民、談、問う。
鳥かぶと(鳥兜)はチョウ・トウと読んで、聴、答。
☆寄(身をよせる)人民の談(話)を問い、聴(注意深く聞いて)答える。
すでにふかく(既深)はキ・シン・ミンと読んで、寄進。
眠る男ら(眠男等)はミン、ナン、トウと読んで、民、納、頭。
鳥かぶと(鳥兜)はチョウ・トウと読んで、徴、統。
☆寄進(社寺などに金品を寄付すること)を民(一般の人)が納める。
頭(おさ)は徴(取り立て集め)統(一つにまとめ納める)。
※トリカブトは死に至らしめる猛毒であるが、花岡青洲はトリカブトとケシの調合で麻酔薬を作ったと聞く。
黒人と踊る手さきやさくら散る
黒人と踊る手さき・・・手指に感じる官能、わたしはこの人を受け入れている。この人への愛を直感している。
そうに違いない! わたしの中の日本、ちっぽけな日本を固持する必要があっただろうか。今この時、わたしの中の桜は散り落ちていく。
広い世界の片隅で巡り合えた他国の人によって儚くも桜は散ってしまった、と同時に新しい花がわたしの胸に花弁を広げようとしている。
手さきの痺れ、抵抗が溶解した瞬間、わたしはこの人を愛していることに気づく。この男性が偶然黒人(外国人)であるという事実によってわたしの中のさくらは散り、日本からの解放を得た。踊りながら、酔いながら…わたしは愛を実感している。この選択に迷いはない・・・。
※ちなみに人類の祖はアフリカのお母さんと聞いている。(DNAは女性でしか辿れないらしい)