井山裕太のファンである。
最近私が碁をおぼえてみようかと、とりあえず初心者向けの本などパラパラ読んでいることは前回(→こちら)話した。
そこでこのところ、NHK囲碁トーナメントをはじめ、碁関係のテレビなどもちょくちょく見るのであったが、そこで井山君のファンになったのである。
というと、碁を知ったばかりの人が、今をときめく井山棋聖を応援とはずいぶんとベタというか、アメリカ野球でいえばニューヨーク・ヤンキース、サッカーでいうならばバルセロナのファンを公言するような気恥ずかしさというようなものがないではない。
流行りに弱いヤツというか、なんだか安易に多数派に身を寄せているような気がするではないか。
なにせ、なにごとも「玄人」とか「通」のように振る舞いたがるのが、私の悪いクセである。ファンになるも、もうちょっとこう「いぶし銀」といわれるようなチョイスをしたいものだ、というのが本当のところなのだ。
しかし、こればっかりは仕方がない事情があるのである。そもそものところ、まずきっかけとなったのが、テレビの『情熱大陸』だ。
私はこの番組をさほど見る方ではないが、ファンの作家やスポーツ選手などが出るときはたまにチャンネルを合わせることもあり、これまで道尾秀介、冲方丁といった面々が出演したときは、録画して鑑賞したものであった。
その日も、休日の夜にヒマを持て余してチャンネルを回しているところに、例のバイオリンのメロディーが流れ出した。で、そこに登場なされたのが井山裕太君なのであった。
囲碁ファンにとって井山といえばこれから碁界を背負っていく若きスーパースターだが、将棋ファンからすると「伊緒ちゃんのダンナさん」である。碁の強さよりも、「オレの嫁取られた」という印象の方が強いのだ。
なもんで、ここで会ったが百年目、「恋敵」の姿を拝ませてもらおうとテレビに釘付けになったわけだが、そこでの井山君の印象というのが、
「ふわあ、井山って、ホンマにすごいんや」
囲碁ファンには今更であろうが、まったくその強さに当てられてしまった。高尾紳路九段との棋聖戦挑戦者決定戦での戦いぶりなど、あのおとなしそうな彼のどこにそんな闘志があるのかと感嘆することしきり。
ところが、盤をはなれると、こういっちゃなんだがちょっくらボーッとしたところもある好青年で、そこがやはり同じボンヤリ型の人間としては妙に親近感がわく。また大阪人としては、大阪出身の棋士というのもポイントが高い。
しかしである。これがどうにも、「玄人」の私からすると困りものなのだ。
というのも、私は将棋ファン歴は長いが、こっちでは羽生善治三冠のファンなのである。
それは、子供のころ初めてテレビで見た棋士がデビューしたばかりの羽生さんだったからで、しかも初めて買った将棋の本に子供時代の(小学生名人にもなる前の本当の無名の)羽生少年が出ていたという、いわゆる「すりこみ」のせいなのだが、その後すっかり将棋界の第一人者になってしまったとあっては、ずいぶんと気恥ずかしいのである。
なんといっても、私は野球では巨人でもなく、関西人なのに阪神タイガースでもなく、近鉄バファローズを(しかも仰木時代でなく、その前の岡本監督時代から)応援し、サッカーでは「地味」とか「過去の栄光」といわれた時代も一貫してドイツの優勝を祈り、テニスではサンプラスとアガシがナイキのオシャレなCMに出ているのをよそに、マイケル・チャンとかゴーラン・イバニセビッチといったナンバー2選手に声援を送ってきたのだ。
別に、「オレはあえて強いヤツを応援しないぜ」みたいな反骨精神ではなく、あくまでたまたまなんだけど、それにしたってこの流れで、
「将棋ファンなんですってね。誰を応援してますか?」
「羽生さんです」
「最近囲碁を覚えたとか。気になる棋士はいますか?」
「井山裕太君です」
……なんなんだこれは。いかん! 断じてイカン! これでは私がただの爆裂ミーハー野郎ハリケーンボンバーではないか。
違うのだ、そうではないのだ。私が井山君のファンになったのは、たまたまテレビで見る機会があったというだけで、別に彼が強いからとかメジャーだからとか、そういったベタベタな理由ではないのだ。
これがもし昨年碁をはじめていたら、間違いなく張栩九段のファンになっていただろうし、2年前だったら『将棋世界』で谷川さんと対談していた坂井秀至八段を応援していただろうし、テレビの早碁がきっかけなら結城聡NHK杯選手権者に惹かれていたことだろう。
だから、これはあくまでたまたまなのだ。本当に、めぐりあわせで井山君なのだ。
と、そこは大いに主張したいところだが、現在井山君は張栩棋聖から棋聖位を奪い、囲碁界初の「七冠王」ロードをばく進中。
かつて、将棋界は「羽生七冠フィーバー」に沸いたが、あのとき我々玄人のファンは、羽生さんに女性の「おっかけ」がついたなんてニュースを聞きながら、
「フッフッフ、素人のファンはかわいいもんやのう。ワシなんぞ、羽生が無名のころ『将棋初段への道』で、原田九段に二枚落ちでボコられてたころから知ってるっちゅうのになあ」。
などと、イヤな古参ファン風をふかしまくっていたが、嗚呼、これじゃあ逆に、私がまるで「井山七冠」に乗っかってるみたいではないか。どこをどう見ても、ど素人丸出しだ。人を呪わば穴ふたつである。
ちがうんや、これはホンマにたまたまであって、そんな勝ってるからって安易にそれを応援するとか、そんなんちゃうねん!
と、いくら私がここで遠吠えしようとも、古参囲碁ファンはフンと鼻を鳴らしながら、
「本因坊の意味も知らんくせに、七冠王となったら注目ですか。フ、ど素人が」
とニヤニヤ笑いながらバカにするのがもう目に浮かぶわけで、なんだかすごく釈然としないのだが、ファンになってしまったのは今さら変えられないわけで、もうこうなったらとことんミーハーだと思われたほうが
「逆においしいと思え」
の法則に殉じることとし、井山君にはぜひ七冠制覇を成し遂げてほしいものである。
■追記
……と締めてお終いにしようと思ってたら、井山君、昨日結城聡さんに十段取られちゃった。
六冠になったばかりなのにすぐ五冠に後退ということで、「夢の七冠王」には一歩後退だけど、これはまだまだわかりません。
思えば羽生さんは「あとひとつ勝てば七冠王」という大一番に敗れて、「やっぱ七冠とかありえへんよなあ」「あとひとつで七冠王でも充分に空前絶後」なんてことになったところから、棋王(対森下卓)、名人(対森下卓)、棋聖(対三浦弘行)、王位(対郷田真隆)、王座(対森けい二)、竜王(対佐藤康光)の6タイトルを、並みいる強豪が挑戦者に出てくるにもかかわらず次々しりぞけて防衛し、再び王将戦で挑戦者になって七冠王になった。
と、今あらためて思い返しても当時の羽生さんは神がかっていたというか、七冠もさることながら、この
「頂点手前で失敗のあと、一からのやり直しをやり遂げた」
ことのほうが、賞賛に値するかもしれない。よくガッカリしなかったなあ。精神力がすごすぎる。だから井山君も、まだまだ全然チャンスがあると思うよ、がんばって!
……て、これじゃやっぱ七冠ミーハー野郎ではないか!
ま、別にそれでもいいか。
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