前回(→こちら)の続き。
「誕生日には、おたがいが嫌がるプレゼントを贈りあおう」
桜玉吉さんのマンガに影響されて、そんな気ちがいのような協定を結んだ私と友人サカマチ君。
時はきた。3月9日、堂々たる私の誕生日である。ここに発動された「メイガス作戦」により、わが家にお祝いのためやってきてくれたサカマチ君と「誕生日おめでとう」「いやありがとう」などと、たわいないあいさつをかわしていた。
やがて彼は、「そうだ、キミのためにプレゼントを買ってきたんだ」と、きれいにラッピングした箱を渡してくれた。
フ、友よ、少しは私を感心させるものを見つけてきたのかいセニョール。と内心余裕をかましながら、
「開けてもいいかい」
「もちろんだとも」
開けてみると、中身はワインの小壜くらいの大きさの通天閣の置物であった。
いらん! こんなもんいらん!
私は部屋のインテリアはシンプルさを旨としている。ゴチャゴチャと飾り立てたりしない。フラット感を大事にしているのである。ゆえにアイドルのポスターを貼ったり、食玩のフィギュアを置いたりもしない。
そこに通天閣。澄んだ水に墨汁を一滴落とすと、それだけで水が真っ黒になってしまうが、それと同じである。
この通天閣ひとつで、簡素にして簡潔を基調にした私の部屋は台無しになるのだ。だいいち東京タワーの置物を部屋に置いてる東京人がいないように、通天閣飾ってる大阪人なんかおるか!
と叫びたくなったが、もちろんそんなことはプライドにかけて口が裂けても言えない。なぜなら、そういう「ルール」だからだ。
おたがいに嫌がるものを贈り合う、つまりはそれを「いらんわ!」とマジでつっこんだ方が負けなのだ。これは男の戦いなのである。
私はひきつった笑顔で、
「ありがとう、やっぱり通天閣は大阪のシンボルだからね。来年の甲子園は通天閣高校と南波高校、どっちが出てくるのかな」
置物を受け取った。
こんな素敵なプレゼントをもらった日には、お返しをしなければならないだろうと私が用意したのは
「高校時代に体育の授業で着ていた柔道着」。
私の学校では体育の時間に柔道の授業があったのである。その時のもの。文字通り、私の血と汗がしみこんだ、お好きな人にはたまらない一品である。
「ほら、サカマチ君は今度スポーツでも始めようかななんていってたじゃないか。よかったら使ってくれよ」。
異臭がする柔道着を前に、一瞬しかめっ面をしたサカマチ君だが、すぐさま笑顔に戻り、
「いいね、ちょうど花見で賀間さんのコスプレをしたいと思ってたんだ」
そう返してきた。
それにしても、通天閣の置物という絶妙にいらないプレゼントに、使い古しの柔道着というゴミにも動じないサカマチ君のセンスと精神力はさすがである。今回のところは痛み分けといってもいいかもしれない。
そこでこちらから、
「あんたやるな、燃えないゴミの日が楽しみだよ」
と手を差し出すと、
「今年の大掃除は、ぞうきんに困りそうもないね」
と力強く握りかえしてきて、我々は改めてその固い友情を確認しあったのであった。
(さらに続く→こちら)
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